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八十六話 名刺
本年もよろしくお願いいたします
「もし、嫌じゃなかったら少しお話をしてもいいですか?」
彼は無表情でわたしに告げた。
わたしは何とも言えない不安を感じ固まりそうになった。
それでも、何とか言葉を絞り出した。
「えぇ」
と言いながら小さく頷くのが精一杯だった。
彼は身なりを整える様な素振りをした後、パイプ椅子にゆっくりと腰を下ろした。
「健二…阿部健二っていいます…」
そう言って、彼がズボンのポケットからシワだらけの名刺を出し、わたしに手渡した。
「どうも…」
そこには、フォトグラファーの文字が小さく書いてあり、阿部健二の文字が角ばった書体で印刷してあった。
シワだらけの名刺に整えられた書体が不思議感じだった。
「フリーのカメラマンをしています…今更自己紹介も変ですけどね…」
「ほんと…今更ですよね…キスまでしといて…」
「は…ははは…すいません…言ったつもりでいたものですから…自分の事ちゃんと荒川さんに伝えたのかって言われて…月島さんに怒られてしまって…先輩は流されやすいから、こっちでちゃんとしてなくちゃダメよって…これも月島さんからの受け売りですが…」
「まったく、早苗ったら…自分自身が段取り無視の癖して…」




