八十五話
コンコン
「はい?」
ドアをノックする音に気付いて、わたしはドアの方に顔を向けた。
コンビニの袋を片手にもって彼がたっていた。
「気分はどう?」
「…大丈夫です…迷惑かけて…」
「無理をさせてしまって…仕事の後って凄く疲れるから無理させちゃダメって言われて…気づけなくて…ごめん!」
「えっ?あっ?早苗から聞いたんですか?」
「早苗、さんて言うんだ…月島さん」
「あっ…いえ知美よ、知美…早苗って誰だったかしら?」
「…アーサさん?」
「ほんとに彼女は知美よ!月島知美、私はつい早苗ってよんでしまうけど…あっ…」
わたしはつい口をすべらせてしまい言葉を濁した。
早苗ってつい呼んでしまう彼女には、月島知美と言う本当の名前がある。
わたしはつい早苗って呼んでしまうけど、星宮早苗は、AV女優の時の仮の名前でしかない…
誰がどう考えたって呼んで欲しくない名前のはずだ。
わたしの安易な考えがもしかすると、彼女を傷つけてしまうかも知れない事に、今更ながら気づいた。
「大丈夫ですよ…一通りは聞いていますから…」
「そう…ですか…でも、彼女の事軽蔑…」
わたしがそう言いかけてた時、彼はわたしの話を遮るように話し出した。
「やさしくて強い人ですね彼女…」
「はい…やさしい娘です…早、知美は」
「彼女が言ってましたよ…私には、特別な名前があるんだって、一番大切な人に呼んでもらえる大事な名前があるんだって…なんて名前か教えてもらえませんでしたが…その人になら、その人からは、特別な名前で呼んで欲しいんだって…」
「そうなんですか…」
「そう言えば、彼女に同じような事を言われました…下心があるんじゃないか…軽蔑しているんじゃないか…そして…ただやるだけの関係を求めているんじゃないかって、貴女の事を彼女、姉の様たっているようでした…」
わたしの脳裏に早苗のわたしを先輩と呼ぶ声と人懐っこい笑顔が不意に浮かんでいた。




