八十四話 不格好
「あっ!服持って来るの忘れちゃった…」
早苗は困ったように苦笑した…でも、どこか楽しそうにしていた。
他人の不幸は蜜の味…
思わず皮肉と言うか、憎まれ口のような言葉が出そうになる。
でも、黙っていることも出来なかった。
「早苗…なんだか楽しそうね…」
「?…楽しいですか?…嬉しくはありますけど…」
わたしの想像していた事と少し違う言葉が彼女の口からこぼれた。
「…嬉しい…?」
「だって、先輩とまた会えたんですよ、こんな事言うと不謹慎かもしれませんけど…会いたいなぁって、思っていたら…会えたんですよ、嬉しくて、嬉しくて…先輩にお礼がしたくて…今、少しだけお返しが出来て…もう本当に、怖いくらいに嬉しくて幸せなんですよ…あれ?…やだ…」
早苗の瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「あれ?…止まらない…」
早苗は笑いながら泣いていた。
わたしは思わず彼女の抱きしめいた。
ベッドの上で片腕に点滴をしている状態で、ぎこちない、不格好な姿勢で…美しくもない、穢れた躰…で、今できる最良の事を…その先に幸せが有るかどうかなんてわからないけれど…
「早苗…ありがとう」
自然とでた感謝の言葉…きっと、嘘や偽りのない真実の言葉、今言う言葉かどうかなんて…どうだっていい、わたしが彼女に今伝えたい、ただそれだけだった。
「突然どうしたんですか?…こんなことされたら、…変に勘違いしちゃいそうです…」
「勘違いしちゃいそう…?どんな?」
「意地悪しないでください…本気になったら大変ですよ…」
「そうね…大変ね」
「そうですよ…結婚する前に離婚届を届けにいかなくちゃ」
「何それ?…凄く大変ね!」
思わず二人で笑ってしまった。




