八十話 気が付いたら
「……えっ」
気が付いたら、わたしはベットの上にいた。
わたしは眠っていたらしい…ビジネスホテルとはいえ、折角のお泊まりを不意にしてしまった。
異性と一夜を共にしたのに…
というか、わたしに手をださなかったんだ…
あれっ?そもそも、いつ寝たんだっけ?
そしてわたしは左腕に違和感を感じた。
チリチリとした弱く継続的な痛みが気になり、視線を
そちらに動かせば、腕にチューブが刺さっていた。
「えっ?」
わたしはゆっくりと起き上がり、周りを見回した。
どうやら、何処かの病室らしかった。
「…はぁ…倒れちゃった…んだ…ケンジさんに悪いことしちゃった…」
わたしは天井を見つめながら、そんな事を呟いていた。
無理をしたつもりはなかった。
異性と一夜をともにすることも、今更驚くような事じゃなかった。
そのはずだったのに、…
わたしが純情乙女なはずもないし…汚れた身体のはずなのに…強がるつもりは無いけれど…弱いつもりはなかったのに…
「何をやってもダメなのかしら…何だかバカみたいね…わたし…」
そんな言葉が不意にこぼれ落ちた。
不思議と身体が軽くなるのを感じながら、溜め息にも似た深呼吸を一つ、天井に向かって息を吹き掛けてやった。
コンコン
静かな病室にドアをノックする音が響いた。
「…は…い…」
「荒川さん…体調はいかがですか?」
わたしと同じぐらい年頃の女性の看護師が入ってきた。
その後ろには、白髪の年老いた医師が立っていた。
二人は、ゆっくりと病室入り、わたしの診察をすると、点滴が終わるまで安静にしているように言って、部屋を出ていった。
また、わたしは一人きりになった。
わたしは点滴が静かに一滴一滴と落ちていく様子を、じっと眺めていた。
バン
「先輩!」
「早苗?!」
「先輩!先輩!…先輩…」
突然、早苗が病室を訪れてきた。
彼女は、走り出しそうな素振りを見せながらも、必死になってゆっくり歩いていた。
上半身と下半身の動きがおかしな事になっていた。
「早苗…動きが…」
つい、わたしは小さく笑ってしまった。
「先輩…笑っ…っていうか、心配したんですから、人の気持ちも知らないで、笑わないで下さい!」
「ごめんなさい…でも、動きが変だから、片足スリッパだし」
「へっ、あっ、やだ…」
早苗の左足には、怪獣の足を形採ったモフモフのスリッパがあった。
彼女は相当慌てて此処まで来てくれたのだろう。
申し訳ない気持ちと同時に嬉しさで心がけいっぱいになった。




