八話 二人の関係
「アーサさん?どうかしましたか?」
「えっ?…あっ、何でもない」
素っ気ない返事をして、その場をやり過ごした。
「そうですか…」
何かいいたげな彼からは、それ以上の言葉はなかった。
突然知り合った男女に共通の話題なんてものがあるはずもない。
私は仕方無く沈黙という拷問を受けるしかなかった。
そんな二人は遠目で見れば静かな会食をするぎこちないカップルでしかなかった。
早苗は厨房からカウンター越しに、二人の様子を見ていた。
「あんなに緊張している先輩見るの初めて…」
「月島さん!…星宮さん」
厨房の奥から早苗を呼ぶ男性の声がした。
「店長!星宮で呼ぶの止めてくれます!」
早苗は男性を睨み返した。
「月島さん!仕事しろ!し・ご・と」
男性は食洗機の隣に山になっている食器を指差した。
一向に動こうとしない早苗に業を煮やした男性は、半ば呆れとも諦めともつかない表情で彼女を見ていた。
早苗の方はと言えば、そんな店長の顔など一度も見ることなく、まるで、パパラッチのように、アーサ達の方をじっと見ていた。
「先輩…」
「先輩って誰が?」
「てってててて店長いつからそこに?」
「ついさっき…」
「仕事は?」
「月島さんの労働態度を指導するのも私の仕事の一つなんですけど…」
「私の仕事に問題でも?」
「月島さん…いくら暇な時間帯だからって、あからさまに、サボるのはどうかと思うんだよね…」
「で、私に皿を何とかしろと?」
「いや、それは今俺が終わらせた。」
「えっ…」
早苗が振り向くと苦笑いしている店長と綺麗に拭き終わり片付けられた白い皿が目に入った。
「流石、店長…労働者の鑑!」
「あのなぁ…一応、時給を払っているんだからさぁ…何かしらやることがあるでしょ?」
「今は…それどころでは…」
「何?今、この状態で仕事以外に大事なことがあるとでも?」
「…ある…あるの…先輩が…気になって…」
早苗は客席の方に眼をやった。
釣られて、店長も客席に眼を向けた。
「結構、綺麗な人だね…」
「ですよね…」
「「あの人」」
と二人が声を揃えると、 早苗は、男を指差して、店長は、女を指差した。
そして二人して慌てて違う方を指差した。
「知美(早苗)はあーいうのが好みなのか?」
「淳史(店長)さんこそ先輩のような人が好みとは知りませんでした…しかも、殿方の方まで指差して…まさかの両刀使いですか?前々から言おうと思っていましたが、あなたのその異常な食欲と性欲には私ついていけそうにありません!来月の結納は無かった事に…」
早苗は店長に刺さるような視線を送った。




