七話 偏見
彼は観念したのか。
ただ、黙々とテーブルの上の料理を食べていた。
「ねぇ?何か話さないの?」
「美味しいですね…」
「そうね…サーロインなんて…久しぶりねって…そうじゃないでしょ!」
「えっ…」
「えっ…て…折角、一緒に食事をしているんだから、もっと楽しまなくちゃ」
「と…言いますと?」
「会話をするとか?」
「無理です…」
「即答過ぎるでしょ…別に女子向けの話をしろって分けじゃなくて…当たり障りのない話でいいんだし…」
彼は食事をしている手を止めた。
「いいお天気ですね…」
「…そうね…明日は雨がって…もう!当たり障りが無さすぎるし、もう少し女の子受けする話は出来ないの?」
「えっ…当たり障りがない話とかいったの、アーサさんの方ですし…もう少し女の子受けする話とか言っても…ミラノコレクションのオートクチュールがどうとか?プレタポルテがどうとかって話は出来ませんよ…芸能人の噂話とか勘弁して欲しいし…」
淡々とした口調で彼がこたえた。
「…そんな話、私も無理よって、何処をどう考えたら、ミラノコレクションになるわけ?…オートクチュールって…そんな服一般人には雲の上の話よ…案外、面白い事言うのね」
「えっ?女の人って洋服の話とか、話題のお店とか芸能ネタで会話する生き物でしょ?」
「大分偏った考え方してない?女に偏見持ってるでしょ?」
「偏見なんてそんな…」
「まぁ、いいわ…異性との会話術に長けていたら、それはそれで何だか怖いし…話が出来たら席替えするみたいな幼稚な事もしないでしょうし…まぁ、だいたい男の人の頭の中って、いろんな意味で子供よね…夢ばかり追い掛けて…」
「アーサさん、男に偏見持っていませんか?」
「持っているわよ」
「はっきり、いいますね…」
「だいたい、女々しいって言葉があるでしょ、あれって女の人に対して使わないじゃない?」
「まぁ、女々しい女ってあまり言いませんが…」
「でしょ…ついでに言うと、女の人に対して男勝りって言葉があったりして…案外、女の人の方が勝ち気なんじゃないかなぁ…」
「…はぁ…」
「あっ…ごめんなさい…はじめて会った人に話す内容じゃないわね…」
「いえ…僕としては嬉しいですが…憧れのアーサさんとこう…何て言うかデートしてる感じで…」
「えっ…」
つい、私は驚きの声をあげてしまった。
「どうしました?」
「貴方、今何て言った?」
「デートしてる感じって言ったんですけど…あっ、すいません、僕とアーサさんとじゃ不釣り合いですよね…」
「……………」
私はふと考えた。
デート…いやいや、その前に、異性と一緒に食事をしたのは、凄く久しぶりだった事を、突然思い出した。
何故か緊張感みたいなものが、身体中を駆け巡った。
「アーサさん?」
彼の声が遥か遠くから聞こえた気がした。




