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七十七話 胸元
「アーサさん…ホントにいいんですか?」
「何が…?」
「だから、その…一緒の部屋で…」
彼の言葉の意味するものは、少なからず理解しているつもりだった。
でなければ、自分のいつもより速い鼓動の意味を…少し渇き気味の喉の理由を他に求めなくてはならないから…
なに今更言っているの?と、言いかけて…喉の奥に何かが引っ掛かってるような違和感を覚えた。
「いただきます」
わたしは彼に買って貰った、ミネラルウォーターを勢い良く飲み込んだ。
口元からこぼれた水は首筋から胸へと流れ落ちる。
それでも、構わず一気に飲み干すと、胸元をだらしなく濡らした。
涎を垂らした赤ん坊のようなはしたない姿になった。
彼の視線は私の胸元と自動販売機の間を行ったり来たりしているように見えた。
「一気に飲んだら、溢しちゃった…誰かに見られたら恥ずかしいから…部屋行こう?」
「えっ、あっ、うん…」
「うへっ、服が胸に張り付いて、気持ち悪い…これ持ってくれる?」
わたしは強引に彼に鍵を渡して、片手で服の胸元を持ち上げ、もう片方の腕でそれを覆うように隠した。
「恥ずかしいから…早く行こう…」
少しわざとらしく、伏し目がちに恥ずかしがって見せると、彼はわたしの前に立った。
「アーサさんには敵わないなぁ…」
そう言って彼はわたしを庇うようにして歩き始めた。




