七十五話 手を握りたくて
「大丈夫ですか?」
「あ…ちょっと…」
何か言おうとして、何も思い付かなくて、言葉が尻切れになって、…
恥ずかしくて、そんな恥ずかしさを気付かれたくなくて、ただ彼を焦らせようかと、彼の羞恥心に触れるような言葉を咄嗟に紡いでいた。
「ちょっと…気が早くない?ここベットじゃないし……」
「ゴメン…そんなつもりは…」
彼は慌てて起き出し、そして、懲りずにまた私に手を差し伸べてくれた。
私は無言で彼の手に自分の手を重ねた。
私の手を握る彼の手は、貧弱に思えるその容姿から想像するよりも、骨太で硬くて…男の人のそれだった。
彼の意外な男らしさに、ドキッと心臓が跳ねた。
そして、彼の手を握り返していた。
私が立ち上がると、彼が手を離そうとしたのたので思わず、彼の手を握ってしまった。
「アーサさん?」
不思議そうに彼が私の顔を覗きこんだ。
彼は私の事を変な女だと思ったかも知れなかった。
でも、それよりも彼から差し伸べられた手を、その感触をもっと感じていたかった。
「つ、」
私は繋いだまま、連れていってと言いかけて、言葉を濁した。
何故だか急に気恥ずかしくなっていた。
ただ、それでもこの手を離したくなくて、言い訳を急いで探した。
「疲れ…仕事疲れよね?きっと、ちょっとふらついちゃったみたいなの…部屋まで連れていって…」
少し甘えるような仕草で恥ずかしさを隠すようにして手を握ったまま彼にそう告げた。




