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七十四話 エレベーター

エレベーター事故を連想させる表記があります

ご注意下さい


「508号室になります。」

何処と無く紳士的な初老のコンシェルジュに鍵を渡された。

「…………………………………」

普通こういう場合、男性にルームキーを渡すと思っていたので、びっくりしながらも、何とか鍵を受けとる事ができた。

「ごゆっくり…」

「あ、ありがと…」

私はコンシェルジュに笑みを向けられ、思わず愛想笑いをしてしまった。

彼はそんな私たちのやり取りを、少し困ったような顔をしながら、無言のままただ見ていた。

フロント脇のエレベーターに乗り込み静かに扉が閉まる。

木目調のパネル、大きな鏡、ワインレッドの絨毯、天井の白色灯が眩しい…

ドアの上に表示された数字は五階を目指して数を増やしいく。

そして、わたしの鼓動も階が上がるごとにはやくなっていく。

気が付けば、開かれていた両手を親指をし舞い込むように握っていた。

期待と不安と希望と欲望と…種々な思いがぐちゃぐちゃに混ざり合いながら私の思考を麻痺させていった。

ただ、怖いという感情だけは不思議と現れなかった。

ふと、彼の顔が気になる…だけど…顔を向けることが出来なかった。


「アーサさん、着きましたよ」

彼にそう言われて、エレベーターの扉が開かれていることに気付いた。

慌てて降りようかと思ったのだけれども、平静を装うとゆっくりと歩き出した。

すると、エレベーターの扉に手を当てて、扉が閉まるのを彼が防いでくれている事に気がついて、慌てて降りようとして、つまずいてしまった。

「おっと」

倒れそうになった私の体を彼が支えようと手を伸ばした。

でも、それは扉が閉まらないように押さえてくれていた手を離すことになった訳で…

静かに閉まるエレベーターの扉に二人して、挟まれてしまった。

それはアクシデントのはずなのだけれど、何故かエレベーターにお節介をやかれた気分になってしまった。

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