七十一話 抱き締められて
「さわらないでよ…」
私は、小さく拒絶した。
彼の腕が私の体からゆっくりと離れていく。
こんなはずじゃなかった…
そんな言葉がわたしの頭の中を流れていく。
「でも…」
彼はそれだけを言って、わたしの身体に手をまわしてきた。
また、拒絶の言葉を言おうとした。
でも…出てきた言葉はそれではなかった。
「痛い…痛いから」
彼はわたしの事を強く抱き締めてきた。
「好きなんだ…アーサさん…ごめん、好きで、ごめん、でも、好きで…」
そう言われながら、わたしは彼に強く抱き締められた。
「ずるいよ…そんなにきつくされたら…」
彼の独占欲が、わたしを狂わせていく…
このまま彼に抱かれて、全てを受け入れて、この人のモノになってしまっても良いと思えてしまう…
「ごめん…」
そう言いながら彼は少しだけ抱き締める力を弱めた。
「謝らないでよ…悲しくなるから…謝らないでよ…好きな人にそんな風に言われたくない…」
わたしは目を閉じて、空に向かって呟いていた。
「ご…」
そう言いかけて彼は言葉を飲み込んだ。
「僕と…いや俺とつきあってほしい…ダメかな…」
「ダメだったら…こんなところで羽交い締めにされてないし…」
「えっ!」
「痴漢…って叫ばれた方がいい?」
「あっ…ごめん」
「だから、謝らないの、もっと自信をって痛いよ…痛い…」
わたしは再び彼に強く抱き締められた。
彼への抗議は言葉とは裏腹に甘く切なくどこか色のある響きになっていた。




