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六十七話 ドアノブ
すいません。だいぶお待たせしたした
「何?ジッと此方なんか見て…まさか、女の抱きかた知らないとか言わないでよ?」
「あの…降りないんですか?」
「だから?何で私が降りなくちゃならないわけ?」
「僕に気を使っているとか?」
「何で私が貴方に気を使わなくちゃならないわけ…」
少しづつ言葉のやり取りが、狂いはじめる。
お互いに平静を装えば装うほど、何かが崩れていくように感じる。
軽く握りしめた手の中に熱のある粘性の汗がじわりと染みでる。
それ以上言葉が続かなかった。
車内が空気が急に居心地が悪く息苦しくなる。
地上に打ち上げられたスワンボートのように行き場を失っていく…
これ以上此処に居ても何も変わらないように感じた。
そこから逃げ出したくなって、私はドアに手を伸ばす。
ドアレバーの冷たい感触が、指に伝わってくる。
今、ドアを開けたら、また、ひとりぼっち…になる…窓の向こう側に広がる薄墨色の風景が、自分自身の近い未来を暗示しているように思えた。
一瞬、車から降りようかと思ったその手が怯えるように動きを止める。
「…また…一人なの…?」
私は小さく呟いた。




