六十五話 車内にて
だいぶお待たせしたした
不定期投稿ですが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします
私は彼と話がしたかった。
でも、何を話して良いのかわからなかった。
彼の事を何でも知りたかった。
それこそ、いろんな事を根掘り葉掘り聞いてくる近所のおばちゃんみたいに…
彼の年齢やどんな仕事をしているのとか、趣味や好きな食べ物とか…
全部知りたかった。
彼のDNAの塩基配列まで知りたいくらいに…
心の奥底まで覗きたかった。
彼は今、何を感じ、何を考えているのか…
知ったところで、それにどれ程の意味や価値が有るのかなんて、わからない…
ただ、知りたくて仕方がない…
でも、なんて話せばいいの…
ふと、彼を見れば、彼の視線はフロントガラスの向こう側にあった。
隣に座っている私の方を見る気配はなく…
声をかけられる事もなく…
車内に響くロードノイズ…
その音をBGMにするにはあまりに切なくて…
二人の間には、このままホテルに連れ込まれて、生産性の無い生殖行為でもする男女のような…割り切った冷めた空気が流れているようだった。
車がゆっくりと減速していく、赤信号が煌々と行く手を遮る。
彼は小さく息を吐くと、私の方を見る事なく、口を開いた。
「アーサさん…」
そう言って、彼の言葉が途切れる。
彼は下唇を軽く噛んだ。
気のせいか喉仏の辺りが小刻みに震えたように見えた。
「少し話してもいいですか?」




