六十一話 息を吹きかけて
彼の話を聞きながら、私は早苗の事を思い出していた。
彼女はまだ駆け出しで、何かに怯えるように、泣きそうになりながら、撮影をしていたようだった。
撮影前に彼女が私の事を憧れていると言われたときは、この業界内で中程度の人気しかない私に何故?とか、思いながらも素直に嬉しかった。
撮影の合間の休憩時間に私は芝生に座り空を見上げてため息をついていた。
少しくたびれた白亜の洋館を舞台にした作品だったと思う。
次のシーンで水着を着なくてはならなかった私は、水着の上にトレンチコートを着込んでいた。
早春の風がやけに冷たかった。
「大空さん、隣に座ってもいいですか?」
少し疲れた顔に笑顔をのせて早苗が声をかけてきた。
「どうぞ」
私は出来るだけ柔らかな声で彼女にこたえた。
彼女は静かに私の隣に座り込むと、人差し指で芝生をいじりながら、小さなため息を一つついた。
私は彼女の顔を覗き込むようにしながら微笑んで出来るだけ優しく声をかけた。
「少しは慣れた?」
ちょっと単刀直入過ぎたかな?と思いながら彼女の様子をうかがった。
「…」
彼女は黙ったまま、考え事をしているように見えた。
「あの…これって…仕事ですよね?」
芝生に視線を向けたまま小さな声で早苗がそんなことを言ってきた。
彼女の問いにどう言って良いか分からなかったけど、何かに悩んでいるのは明らかだった。
先輩としてアドバイス的な言葉でも言えば良かったのかも知れないけれど…
この仕事は考え方が人それぞれで、自分の考えが正解というわけでもない事は理解していた。
それこそ他人に言えない事情がある人や、プロダクションに半ば騙された形で始めた人や、ただ収入が良いからやっている人…なかには、自分が綺麗なうちに形に残したいなどと考えている人もいるみたいだった。
「私はそれなりに好きでやってるから…そうね、仕事って言えば仕事だけど…私はどうだろう…まぁ、仕事よね…出演料もらってるし…」
どう答えて良いか分からないまま私は答えを探すように、そうこたえた。
「なんだか…違っちゃったなぁ…」
ぼやく様に彼女は呟いた。
「違うって…?」
「もっと、充実しているモノだと…」
「それって、自分の感じ方じゃないの?」
「そういうものですかね…でも…それだけじゃない気が…」
「う~ん、星宮さんだっけ?それはもしかすると嫌悪感かもね…」
「嫌悪感ですか…」
「やってる事がやっている事だから…嫌悪感を知らず知らずに持ってしまう人が多いらしいのよ…それで嫌悪感をためこんで…そういう事じゃないの?」
「……」
彼女は顔を上げ空に向かって息を吹きかけた。




