五十四話 好きのつづき
「座ろうか…」
「そうね…」
「パフェ溶けちゃったね」
「そうね」
「勿体無いから…食べようか…」
「そうねって…それ私のだけど…、」
わたしは戸惑いと嬉しさと期待と不安とほんの僅かな劣情をいだいた。
感情は大きな揺らぎと変化を繰り返した
一人の男のたった一言にまさか、自分がここまで心を動かされるとか、正直、想定外だった。
嬉しさより混乱の方が大きかった。
なにより、気の小さい彼から告白される事は無いだろうと思っていたし…そもそも、彼との関係は興味本意で付き合う程度だと思っていたし…
あれっ…何か一言足りないような…
「ねぇ…それだけ…?」
「ふぇ?」
「ふぇっじゃないわよ…やだ…ちょっと…」私は続きを言おうとした、言おうとして躊躇した。
説明するのも面倒だし…一応大人の彼の自尊心を傷つけそうなので、そっと人差し指で…
「うん…美味しい」
「…」
ガタッ
無言のまま彼は驚いた様子で身体を後ろに仰け反らせる。
レストランのガラス衝突の件は、記憶していないのだろうか…
彼は見事に椅子と一緒に床に向かって倒れそうになった。
私は咄嗟に彼の身体を助けようと手を伸ばしたが、間に合わず結果一緒に倒れ込んだ。
「む……」
「う……」
二人して、声なら無い声をあげようとした。
でも、お互いの唇が塞ぎあっていた。
私は彼の上に覆い被さるようにして倒れこみ…しかも…接吻のおまけ付きで…
一瞬の事に状況の把握が一呼吸遅れた。カウンターの奥の方から人の気配がしたような気がしたけど…きっと気のせい…多分、気のせい…ママが目撃していないことを、私は願った。
とりあえず、先程お預けになっていたキスが、思いの外早く実現できた事に満足した私は、なにも起きなかったかのように、彼の手をひいた。
彼の手は柔らかく、でも骨太で…そんな彼の手の感触になぜか私は納得してしまった。
「イテテ…いきなり何を…」
「鼻の頭にクリームついてたから…」
「だからって…」
「いいじゃない別に…」
「怪我はない…」
「あるわけ無いでしょ!貴方こそ大丈夫?これで二回目よ…あんまり頭ばかり打ち過ぎて私の事忘れそうで怖いわ…」
「えっ?」
「冗談よ冗談…でも半分は本気かもね」
結局、私は…彼からいちばん知りたい事を聞けなかった。
私は…彼の何なのかしら




