48/93
四十八話 瞳
考えれば考えるほど、感じれば感じるほど、私の欲しいものは遠退いていくように感じた。
隣には、まだ、恋人にも友達にすらなっていない彼がいる。
私は彼に気づかれない程度に、様子を見ていた。
「あっ、それ残して置いたのに!」
彼が私の温存していた苺を食べようとしていたので、つい声が出てしまった…。
「えっ」
苺を摘まんでいる彼の手が止まった。
苺は、私の口の少し先にあった…
私は小鳥が餌をついばむ様に素早く苺を自分の唇で奪い取った。
彼の指先が私の鼻の頭に軽く触れた。
「うわっ」
彼の驚いた顔が可愛らしく思えて…思わず笑みがこぼれた…
ただ…紅く艶のある唇で赤く熟れた苺をくわえた私の笑みは彼にどう見えたのかは…あまり想像したくないような…でも、期待したいような…
再度彼を見てみたら…私の顔を見つめる二つの瞳があった。
彼の虹彩に鏡の様に写る私の顔は…恋する乙女のように少し熱を帯びていた。
少し恥ずかしくなって、私は静かに瞳を閉じた。




