三十九話 不思議な紙
「ふっ、ふふ…」
早苗は余りの可笑しさに笑い声を漏らしていた。
控え目に笑うその姿は、愛猫の寝顔でも思い出したかのような、穏やかな笑顔だった。
私はそんな彼女に少しなんとも言えない、苛立ちの様なものを感じた。
つい棘のある言葉を吐き出しそうになって、慌てて息を飲み込んで…ゆっくり吐き出した。
「ふっ…そんなに可笑しかったの…彼?」
「あっ、えっ!ごめんなさい…」
「何で早苗が謝る訳…」
「先輩…眼が…」
「眼が…何よ」
「怖いんですけど…」
「えっ…やだっ…気のせいよ、気のせい!」
「ですよね…」
「そうよ、だいたい、彼が私のバイト先に来ないで、早苗の所に来たことなんて、何とも思ってないのよ…」
「そうですよね」
「そうよ…百歩譲って早苗が彼の愛らしい姿を見て、羨ましいとか思ってたとしても、私に会いに来なかったことなんて、別に何とも思ってませんから…」
「先輩…妬いてます…」
「別に私は…妬いてなんか…何よその冷ややかな眼は…面倒臭いとか思ってるでしょ?」
「はい…」
「はいって…随分と正直に言ってくれるじゃない…私の事恋愛素人とか思っているんでしょ!」
「はぁ…先輩…何をそんなにイラついているんですか?」
「別に私は…イラついてなんか…」
「正直、イラつく気持ちもわかりますけど…その手紙、私宛じゃなくて、先輩宛なんですから…先輩にって…正直、私、貰いたくなかったです…他のお客様を待たせる訳にはいきませんから…預かりましたけど…私だって…先輩に直接渡したらっていいかけましたよ…でも、言えなかったんです!私に渡す彼の手が震えてましたから…」
「えっ?」
早苗の最後の言葉が何故か心の奥に響いた。
「何て言うか…イッパイイッパイって感じで…私、それを見たら、何も言えなくなってしまって…」
早苗は静かに眼を閉じた。
「そう…」
私は、指先をラブレターの端にそっと触れる。
そして、カウンターの上をゆっくり滑らせた。
光沢のあるその紙は、何の抵抗もなくスルリと滑る。
それには、それこそ意志でもあるのか…私の目の前にあるのが、あたかも当たり前の様に…
「えっ…何これ…」
私はつい、その普通じゃない紙の感触に違和感を感じて言葉を溢した。
「先輩?どうしたんですか?」
「何だか…この紙…普通じゃない…」
「えっ?」
「だってほら…凄くスベスベしてるし…」
私の言葉に、早苗はじっとラブレターを覗きこんだ。
「ほんと…不思議な紙ですね…」
「でしょ…あっ…でも、触ったら駄目よ…」
早苗は触ろうとして伸ばした手を引っ込めた。




