↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/93

三十九話 不思議な紙

「ふっ、ふふ…」

早苗は余りの可笑しさに笑い声を漏らしていた。

控え目に笑うその姿は、愛猫の寝顔でも思い出したかのような、穏やかな笑顔だった。

私はそんな彼女に少しなんとも言えない、苛立ちの様なものを感じた。

つい棘のある言葉を吐き出しそうになって、慌てて息を飲み込んで…ゆっくり吐き出した。

「ふっ…そんなに可笑しかったの…彼?」

「あっ、えっ!ごめんなさい…」

「何で早苗が謝る訳…」

「先輩…眼が…」

「眼が…何よ」

「怖いんですけど…」

「えっ…やだっ…気のせいよ、気のせい!」

「ですよね…」

「そうよ、だいたい、彼が私のバイト先に来ないで、早苗の所に来たことなんて、何とも思ってないのよ…」

「そうですよね」

「そうよ…百歩譲って早苗が彼の愛らしい姿を見て、羨ましいとか思ってたとしても、私に会いに来なかったことなんて、別に何とも思ってませんから…」

「先輩…妬いてます…」

「別に私は…妬いてなんか…何よその冷ややかな眼は…面倒臭いとか思ってるでしょ?」

「はい…」

「はいって…随分と正直に言ってくれるじゃない…私の事恋愛素人とか思っているんでしょ!」

「はぁ…先輩…何をそんなにイラついているんですか?」

「別に私は…イラついてなんか…」

「正直、イラつく気持ちもわかりますけど…その手紙、私宛じゃなくて、先輩宛なんですから…先輩にって…正直、私、貰いたくなかったです…他のお客様を待たせる訳にはいきませんから…預かりましたけど…私だって…先輩に直接渡したらっていいかけましたよ…でも、言えなかったんです!私に渡す彼の手が震えてましたから…」

「えっ?」

早苗の最後の言葉が何故か心の奥に響いた。

「何て言うか…イッパイイッパイって感じで…私、それを見たら、何も言えなくなってしまって…」

早苗は静かに眼を閉じた。

「そう…」

私は、指先をラブレターの端にそっと触れる。

そして、カウンターの上をゆっくり滑らせた。

光沢のあるその紙は、何の抵抗もなくスルリと滑る。

それには、それこそ意志でもあるのか…私の目の前にあるのが、あたかも当たり前の様に…

「えっ…何これ…」

私はつい、その普通じゃない紙の感触に違和感を感じて言葉を溢した。

「先輩?どうしたんですか?」

「何だか…この紙…普通じゃない…」

「えっ?」

「だってほら…凄くスベスベしてるし…」

私の言葉に、早苗はじっとラブレターを覗きこんだ。

「ほんと…不思議な紙ですね…」

「でしょ…あっ…でも、触ったら駄目よ…」

早苗は触ろうとして伸ばした手を引っ込めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。