二十六話 撮影の後で
「お疲れさまでした」
「演技良かったよ」
「俺のテクですよ」
「そんなはずあるか!」
「まぁ、いいんじゃない?そういうことにしておけば…」
「ほら、やっぱそうじゃん」
「嘘くさ」
「えっ、嘘ですけど…あれっ、言いませんでしたか?」
「やっぱり…」
「そ、そ、そんな…」
「お前がテクニシャンなんて十年早いんだよ…十年」
「じゃ…私お先にです」
「おつかれ」
「飲み行かないの?」
「居酒屋だとゆっくりできなくって…」
「カクテルバーは…」
「面白いこと言うわね…そういうのは彼女と行くものよ…」
「それじゃ、彼女になって下さい」
「誰の?」
「俺の!」
「本気なの?」
「それじゃ…」
「ごめんなさい…先約があるの…それに私、彼氏作らない主義だから」
「え〜」
「一人の男に束縛されたくないの、お疲れさまでした」
私はスタジオの外に出た。
皆はマイクロバスに乗り込んでいた。
「アーサ!コッチコッチ」
「ごめん!今日は一人で帰るから…」
「相変わらずの我が儘さだね♪」
「お疲れさま」
「撮影後なんだから無理しないでよ!」
「了解!じゃ一週間後ね」
「ジャケット撮影楽しみにしてるわ」
「パッケージと中身が別人と間違えられてまた苦情が来ないように程ほどにしてよね」
「いいの!私は静止画の方が映えるの!」
「じゃね」
撮影スタッフや出演者達と別れ私は一人スタジオから少し離れたコインパーキングに向かった。
AVの撮影の後は、スタッフも出演者も一緒にマイクロバスに乗り込んで、新宿辺りで解散というのがお決まりのコースなんだけど…何故か借りているスタジオが私の住んでいる所に近かった。
もっとも、売れっ子はマネージャーが家からスタジオまで直接送り迎えしてくれる…
私の場合…売れっ子でもないから、バスに乗るのが普通なんだけど…それだと家まで遠回りになってしまう。
それで、我が儘を言って、一人で帰っているわけなんだけど…早苗が現役のときは、時々彼女が私の車に乗ってくるときもあった…お互いプライベートは深入りしないことにしていたので、家までは知らないのだけれど、私の住んであるアパートの近くだとか言っていたような…
そう…この後早苗に会うことになっていた…
撮影はそれこそ、十分刻みのタイトスケジュールで着たり脱いだり、着替えたり…早朝から夜まで、丸二日分の体力を一日で消費してしまうような忙しさで…
本当なら、車の運転も避けてタクシーに乗って家に帰って即、就寝するのが良いのかも知れないけど…体の疲労はそれでとれるかも知れないけど…精神的疲労はそういう事では、とれるはずもなく…
私の場合、就寝より気分転換の方が必要に感じた。
何て言うかアーサと聡美の間の自分みたいなものでいる時間が私にとってとても大切で必要な事なんだと、私は感じていた。




