二十三話 温もり
「あれが…婚約者です」
私は早苗の言葉の意味を一瞬考えて慌てて彼女から離れた。
いくら私と早苗が親密な間柄だとしても、大きな通りに面したファミレスの入口前で抱き合っていたら…妖しい間柄だと思われてしまうし…まして婚約者がそれを見たらどんな想像をされて…私は周りを見回した…『大丈夫!百合は咲いていない!大丈夫!お花畑もない!あるのはアスファルトと銀杏の街路樹だけ!』とりあえず、愛想笑いを振り撒いてその場を誤魔化そうとしたのだけれど…そのタイミングが悪かったのか、早苗は私の顔を凝視して…
「先輩!いくら先輩でも私の淳史さんに色仕掛けしないでください!」
「へっ?早苗?私は別にそういうわけでは…なくて…」
「もし、そうじゃなくても…淳史さんウブだから勘違いしちゃいます…もっと、キリッとした顔つきで…」
「…こうかしら…?」
「あっ…そっちもダメです…何だか出来る女と言うか…格好良すぎて…」気が付けば、早苗は目を輝かせ…ガラス越しの大男も私の顔をじっと見ていた…
「ちょっと…早苗!そんな目で私を見ないでよ…勘違いされちゃうじゃない!」
そう言って、後ろに半歩後退した私に、有ろう事か彼女は一歩前進して、見事に私たちの距離は無くなって…今度は彼女が私に抱きついてきた。
「先輩!会いたかったです」
「何よ突然…」
「整形して仕事変えて生まれ変わった気持ちで…頑張ったんです…でも…とても不安で…皆優しいけど…何処かで…軽蔑されてるかもって……私頑張ったんですよ…いつか大好きだった先輩に自信を持って、また会える様にって…」
「そうなの?」
「だって…先輩は私の憧れだから…私が前の仕事をするきっかけって、先輩を見たからなんですよ」
「えっ…てっ言うか…はじめて聞くし…私…なんか、早苗に悪いことでもした?」
「いえ…逆です…感謝しるんですよ」
「それは…光栄な事なんだけど…早苗…此処で抱き合うのは、ちょっと…ねっ…」
「嫌です!だいたい…最初に抱きついてきたの先輩なんですから…先輩がお店に入ってきた時から、抱きつきたかったの私の方なんですから…私にだって…少しくらい抱きつかせてくれたっていいじゃないですか!」
「彼氏の前だし、通りから丸見えだし…」
「最初に抱きついてきた先輩に…なに言われたって説得力皆無です!」
そう言って彼女は私の体に抱きついたまま… 静かになった。
「早苗…」
私の胸元に彼女は顔を押し当てていた。
彼女の温もりが伝わってきた。




