二十一話 抱擁
「先輩」
私は声のする方に顔を向けると、早苗が足早に近づいてくるのが見えた。
「早苗?…あなた仕事は?」
「仕事より最優先課題があるんです!」
「えっ…何?」
「先輩の連絡先教えてください!」
「教えるも何も早苗知ってるじゃない…」
「えっ?…えっ?」
「えっ?じゃないわよ…メアド変えてないから…」
「えっ…そうなんですか?」
「そうよ」
「だって…あれガラケイで…」
「そうよガラケイもまだ使ってるの」
「そうだったんですか…」
「なに…もしかしてメアド教えにわざわざ仕事投げ出して来たわけ?」
「だって…先輩大分古い携帯だったし…私仕事変えて…きっとアドレスとかもう変えちゃったと思って…」
「昔のままだから…それよりいいの?」
「何がですか?」
「仕事に戻らなくて…」
「心配には及びません!淳史さんが何とかしてくれます!」
「淳史さん?…てっ誰?」
「この店の店長で…あっ、先輩、わたし結婚するんです…店長と」
「えっ…そっ、そうなの?」
「そうなんです!とっても優しい人なんです」
「それは、おめでとう…で、きちんと話したのって、言うか…その状態でわたしなんかといいの…もうコッチの世界には関わりたく無いんじゃないの?」
「仕事はもうしないと思います…でも…私にとってはいつまでも先輩は先輩なんです…それに淳史さんは私の前の仕事の事も知ってるし…」
「えっ?すごいじゃない!早苗良かったわね!」
「はい!わたし…わたし…」
「早苗?」
私は自然と早苗の事を抱き締めていた。
ドアノブに手をかけたまま店長は、ガラス越しとは言え目の前で美女が二人抱き合っている光景をただ見ていた…




