十九話 小さな紙
「お会計は合計で5480円になります♪」
早苗の明るい声が店内に響き渡り…
厨房では男二人がその様子を盗き見ながら、ひそひそ話をしていた。
「随分と大きな声ですね…」
「きっと、あれだろ…ホントは、根掘り葉掘り色々と聞きたいけど、そういうわけにはいかず、とりあえず、目の前の仕事に全力で実行している感じだろ…知美らしい…と言えばそうかもしれんが…あれじゃ客が逃げそうだ…」
「うわっ…飛びっきりの営業スマイル…お客さん財布握ったまま固まっていますよ…」
「勢いでご一緒にフライドポテトいかがですか?とか言いそうだぞ…」
「そのまま二人して固まってますよ…」
「あの笑顔は俺のものだっ…」
「店長…言ってて恥ずかしくないですか?てっ言うか…月島さんの笑顔って何時から店長専用になったんですか?」
「いつだっていいだろ…知美の笑顔は俺のもんだ!」
「知美の笑顔は俺のものだっ、なんて…イテッ…足踏まないで下さいよ!」
「あっ?悪ぃ…片方だけじゃバランスが悪いだろうから…もう片方も踏んでやろうか?」
「勘弁してくださいよ…月島さんの事になるとむきになるんだから…」
「むきになってなんかいないぞ!ただ知美の事になると体が勝手に動くだけだ!」
「はぁ…そうですか…」
「何だ、その切なそうな目は…?」
「何でもないです…」
「まぁ…心から人を好きになったことのない者には一生わからんだろうよ」
「はいはい…そういうことにしておきます」
「おっ!知美が客に何か渡してるぞ…」
「店長に愛想つきて、乗り換え…うっ…」
そう言いかけた彼のミゾオチに店長の肘がはいっていた。
「これ、先輩に渡してください。」
そう言って、早苗は財布を持ったまま固まっている客に一枚の紙を差し出した。




