十六話 気持ち
一通り食事が済み、彼との時間が終る。
私の書いたサインのお礼…
まぁ、お礼と言うより、ナンパに近いかも知れないけれど…
久しぶりの異性との食事…
仕事で体を重ねる事はあっても、それ以外にこんなに間近で、男の人と一緒に過ごしたのは学生生活以来だったかもしれない…
ただ、何気ないデート…AV女優になった時に、私が諦めてしまったもの…
それは、きっと純粋な男女の恋愛かもしれない…
AV女優をはじめて感じる様になった異性への拒絶感…
体目当てで近づいてくる男性に対する…嫌悪感…何となく感じる…下心、でも…それは、自分自身に対する劣等感を男性に投影させていただけなのかもしれないし…
女優としての私と、本当は臆病で…怖がりで…心をさらけ出す事が出来ない自分…
AV女優になって私は何か大切なものを何処かに置き去りにしてしまったのかもしれない。
でも…今それに気が付いたとしても、今さらどうする事も出来ない、…過去の自分が目の前にいたら私はなんて声をかけるだろうか…お金や時間よりもっと大切なものがあると、強く言いきれるだろうか…
今だって…この食事だって…無料な訳ではない。
世の中生きていれば、必ずお金はついて回る…
それに、お金自体に別に悪や正義が有るわけでもないし…
他の人より、少しだけど贅沢がしたかっただけ…
それ自体、別に悪いことではない…と今も思う。
それにAV女優の仕事自体、嫌いと言うわけでもない…
周りの人から見たら低俗な事かも知れないけれど…私にとっては生きている実感というか証しみたいなもので…今の自分を晒す事で得られる…存在証明みたいなもの…な・の・か・も…
でも、仕事で男性との交わりを重ねれば重ねるほど、心は遠退いていくような…
そう、自分の心をただ無邪気に表に出して、そのままの私をそのままの形のままに受け止めてくれるような、そんな異性を私は求めていたのかもしれない。
彼がそんな存在な訳…ないよね…
でも、何故か…安らぎというか、居心地のよさを彼に感じ始めていた…
私の仕事の事を知っていても軽蔑するわけでもなく、下心を出すわけでもなく、普通の女の人に接する様に…てっ言うか、まるで私の事をアイドルでも見ているかのような視線で私を見る彼に、私は好意以上のものを抱き始めていた…




