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十二話 接近

「痛!」

「いでしょうね…大丈夫?」

「そんなに強く打つかっていないので…」

「そう、良かった…じゃ、割れていないわね…ガラス…」

「あの…」

「なにか?」

「普通は人間の方を気にするのでは…」

「…自分からガラスに激突した人を、心配しろと…?」

「できれば…」

「見るからに平気そうなのに…この場合、ガラスを割った損害賠償の方が高くつきそうじゃない…」

「はぁ…」

彼は元気のない声を発していた…。

この時、私はあまりやさしい言葉をかけづらかったのだと思う。

初対面の異性に馴れ馴れしくするのは、変に誤解を招くのではないかと…考えていたのだろう…それとも…

それとも、私自身が彼を意識し始めた事に対する警戒心…この場合は臆病になっていたのかも知れないけど…

とにかく、彼と心の距離をとろうとしていたのだと…思う。

「ガラスは割れてなさそうね…ついでに貴方の頭見せてもらおうかしら…」

そう言って私は彼の頭を覗きこんだ…。

何の気なしに行った自分の行動に矛盾を感じ思わず笑ってしまった。

「ふふ…大丈夫そうね…」

「ありがとうございますって…いくら何でも笑わなくても…」

「ふふっ、ごめんなさい…別に貴方の事を笑っているわけではないのよ」

「この状態で僕の頭以外に笑う要素が確認できませんが…」

彼が冷たい視線で私を見た。

「いい大人がガラスに激突って何処かのコメディーみたいな話だけど…違うから、絶対違うからね」

咄嗟に否定するが信じてもらえる筈もなく…

「すごく嘘っぽい…」

「めんどくさいわねぇ…私が違うって言ったら違うの!」

「違うんですか…」

「違うの!ただ私が貴方に興味が湧いただけ…って、あっ勘違いしないでよ!ちょっと、可愛らしいから、ち…」

私は珍獣と言いかけて、言葉を濁した。

自分自身で好きになりかけている異性を珍獣と呼ぶことを躊躇ってしまったのだ…

だって、そうだろう其なりに顔立ちが整っている彼を珍獣では、失礼だし…あぁ…案外、顔が整っていて…好みかも…

そう思ったら…また鼓動が速くなって…

「ち…なんですか?」

「近くで見ていい…」

「へっ?」

そんな間抜けな声を発した彼の唇に、私は右手の人差し指を当て、彼の顔をじっと見た。

彼は驚きながらも私の指が唇に触れていているのを暗に私が静かにしてほしいと言っていると思ったのだろう…息もせずただ瞳だけがせわしなく動いていた。

私の方はと言えば…ただ彼の唇に自分の唇が重なるのを恐れて、自分の指を彼の唇に乗せて必死に我慢していた。

「案外、いい顔立ちしてるのね…ご免なさい最近、近眼になってしまって…」

私は実際近眼ではあったが、今はコンタクトレンズしているので良く見える…そして私は彼の顔立ちをしっかりと脳裏に焼き付けた。

でも、こんなことをしたら、接吻はしなくても私が彼を意識していることがわかってしまうわけだけど…私は何故かそこまで考えずにいた。


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