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67話 駆け込み依頼



 ミライが仲間に加わってから数日後、建築家のオルクから新居が完成したとの連絡が入り、早速見に行く事にした。




「お前達、どうだ。これが頼まれていた家だ」



 ここはギルドの裏手にある空き地、少し前まで町の復興資材の置き場として活用していた場所だ。無事に復興作業が終わり、世話になったルナ達の為にとギルドが無料で貸してくれた。その場所で、オルクを含めて数人の建築家たちが共同で作業を進めていた。


 新築の家はルナが希望した通り入り口が2つあり、外の外壁もロックゴーレムの素材を使ったブロックを使っていたので頑丈そうだった。


 早速中に入ってみる。そこには綺麗なテーブルや椅子などがすでに備え付けられており、希望していたベットやお風呂もイメージ通りの物が出来ていた。



「最高の仕上がりよ!」


「でも私達は内装品まで頼んではいませんよ?」



 僕達はお風呂とベットは作ってもらうように頼んでいたが、テーブルなどの家具は頼んではいなかった。家を建てるのにお金を使い過ぎたので、家具は少し小さいが元の家の物を移そうと考えていたのだ。



「それらは全部ワシらからのお礼じゃ」


「お礼……ですか?」



 オルクのお礼という言葉の意味が分からず、ルナ達は首を傾げて何かあったかと思いだそうとしている。



「ハハハ、分からんか。あれだけの事をしても、お前達にとっては当たり前程度の内容だったらしいな。……それらは復興作業を手伝ってくれた事に対する、ワシらからのお礼じゃ」


「でもあれは依頼を受けただけで……」


「確かにルナ達が木材運搬の依頼はギルド発行の仕事を受けたに過ぎないだろう。だが、木材加工などは全部無料奉仕でやってくれた事。そのおかげで作業が格段に速くなったのは、ここにいるメンバーだけではなく、復興作業に従事していた者達全員一致の事実だ。だから何も言わずに受け取ってほしい」



 そう言ったオルクを含めた建築家の面々は、静かに頷いてこっちを見ている。ここまで言われて断るのは失礼な話なので、素直にお礼を言って受け取る事にした。



「それでお前達はどうするんだ?たしかこの家は移動用に使うと言っておったよな」


「ええ、必要な物を買い揃えたら、キャルビに向かおうと思います。そしてゆくゆくは王都に行ってみようと考えています」


「そうか、寂しくなるな」


「たまに帰って来るから、そんなに気にしないでいいわよ。私達の本拠点はあくまでこの町なんだからね」



 この町には贔屓にしている武器屋と防具屋がある。なので今住んでいる家に転移の魔導具を置いていく予定にしているので、頻繁に帰って来る事は可能だ。ただ、今までのように転移を依頼に使用する事が出来なくはなるが、今回の復興作業の手伝いで反省したので、今後この魔導具に頼るのをやめる事にした。



 新居も手に入れ、必要な家具や食料などを仕入れたのでアリサ達に町を出ていく事を告げ、その足で冒険者ギルドにも顔を出した。




「リーザさん。こんにちは」


「あら、ルナちゃん達は今日はお休みですか?」

 


 今はお昼前の時間。冒険者ギルドは他に人がほとんどおらず、リーザも書類の整理などをしていた。



「今日は皆に挨拶をして回っているのよ。新居が完成したからね」


「え!?ついに完成したんですか。おめでとうございます。……そうですか、ついに旅立つ時が来ましたか」



 リーザには色々話していたので、すぐに状況を理解して少し寂しそうな表情をしていた。



「……安心するの。転移の魔導具を家に置いて行くから、たまに帰ってくるの」


「なら緊急時には家に書き置きでもしておけば、ギルドに顔を出してくれますね。もちろんそれ以外でも帰って来た時は、顔を出してほしいですけど」


「私もリーザさんとお話がしたいですから、帰って来た時は必ず顔を出しますよ」


「ありがとうございます。たしかキャルビに向かうんでしたよね?」


「ええ、その予定だけ……」



 そんな話をしていると、ギルドの扉を勢いよく開かれたその音で中断させられた。



「お願いだ!俺の村を救ってくれ!」



 扉を開ける音にビックリした僕達は、入って来た男を見る。男は切羽詰まった様子でギルド内を見回し、受付のリーザを見付けて近寄って来たので場所を開ける。



「こんにちは、冒険者ギルドに何か依頼ですか?」


「頼む。俺の、俺の村を助けてくれ」


「少し落ち着いてください。まずは状況を出来るだけ詳しく説明してください」



 依頼を乗せる以上、冒険者と依頼者の両方の為にも出来るだけ詳しい情報を集め、適した冒険者を派遣できるようにする義務がある。なのでまずは落ち着かせて、冷静に話が出来るようにする必要があった。



「俺達はここから西に行った所にあるイシスの町から来たんだ。周囲が砂漠に囲まれている町は今、唯一のオアシスが魔物に占領されて飲み水にも困っている。さらに最近は町にまで襲って来て被害が出ているんだ……」


「でも町にも魔物に対する防衛力はあるはずですよね?」



 この世界は魔物が徘徊している。なので村ならまだしも、町となるとそれなりの兵士を用意して魔物に対して防衛しているはずなのだ。それに砂漠の町イシスは小さいながらも迷宮がある町なので、辺境であっても国から多少の支援もある。



「ああ、今までは魔物が襲って来ても何とか撃退出来たんだ。だが………」



 ここまで話したが、なにやら言い難そうになって言い淀んでいる。だが助けが必要なのは変えられない事実なので、続きを話す。



「……デザートワームが現れたんだ……」


「デザートワームですか!?あの砂漠の大喰らいが動き出したんですか!?」



 どうやらその魔物の存在はリーザも知っているようで、席を立ち上がって驚いていた。



「ああ、アイツがオアシスを解放しようと出た町の兵士達を喰らい尽し、防衛力は落ちた。残った戦力でどうにか町を守っているが、いつアイツが動き出すかと怖くてオアシスの解放はもちろん、水を汲みに行く事も出来ないんだ……」


「そう、ですか……。それで依頼料はどれぐらい用意出来そうですか?」



 リーザの表情が優れない。僕達には分からないが、相当危険な魔物のようだ。



「町長がかき集めた金額は、デザートワームの討伐で1000万ゼニー。これが限界らしい……」


「1000万ゼニー……。結論から申し上げますと、その金額では冒険者が集まらないと思います」


「頼む!このギルドの力で何とか人を集めてくれないか!」


「とりあえずギルドマスターを呼んできますが、あまり期待しないでくださいね」



 そう言ってリーザは暗い表情のまま2階に上がっていった。



「ねえ、デザートワームって何なの?」



 2人のシリアスな展開に危機感を理解出来ない僕達を代表して、ゼロが男に質問した。



「デザートワームってのは巨大なミミズのような魔物で、普段は砂の中で眠っているんだが腹を空かすと目を覚まして何でも喰い尽す魔物だ………って、なんで子供がギルドにいるんだ?今は子供に構っている暇はないんだ!お前達みたいな子供は大人しく家に帰って親に甘えていろ!」


「……既婚者の女性に向かって子供なんて、失礼な奴なの」



 カナは怒りを言葉に出したが、その声は男に聞こえていなかった。



「もういいわよ。こんな失礼な奴はほかって帰りましょう」



 ゼロもあまりいい気分ではなかったようで、さっさと帰ろうとして立ちあがる。



「ちょっと待ってください!貴女達にも聞いて行ってほしいのです」



 扉に向かって歩き始めていた僕達を、2階からリーザが大声を出して呼び止めた。どうやら話声が聞こえていたようで、慌てた様子で駆け付けたようだ。



「なんでよ。こいつは私達を子供扱いしたの。子供は大人しく家に帰るわ」


「ちょっと目を離した隙に……貴方も余裕がないのは分かりますが、機嫌を悪くさせて良い相手と駄目な相手を見極めてください!」


「何なんだよ。このギルドでは冒険者の子供を世話しているのか?」



 あくまで子供言う事をやめようとしない男を見て、何も言わずに扉の方に振り向く。



「だからちょっと待ってくださいよ!」



 リーザは走って階段を下りてきて、颯をルナから奪い取って止めに入る。このメンバーが颯を取られてそのまま帰る事が出来る訳がなく、何事かとリーザに視線が集まる。



(おぅ…リーザの胸の感触が背中に……)



 奪い取った颯を落とさないように、リーザは大事に胸のところで抱きかかえている。その時に感じる背中の感触に、僕の鼻の下は伸びていた。



「……ハヤテを狙うというなら、例えリーザでも命の保証は出来ないの」



 表情は変わらないが、カナは明らかに殺気をだしてリーザを睨む。カナから見て僕を誘惑しているように見えたのだ。



「私は別にハヤテさんを狙ったりしていません。だから落ち着いて話を聞いてください!」


「…分かったわよ。今は我慢してあげるから、そいつをこっちに返しなさい」



 諦めたようにため息を吐いて、ゼロはここにとどまる事を約束してあげた。そして無事に颯はルナの下に返されたが……



「ハヤテさん、ずいぶん気持ちが良さそうでしたね」


「……他の女に浮気するなら、覚悟するの」


「あんたは相変わらずね」


「ハヤテお兄ちゃん、いやらしいです」



 僕は他の人の目がこっちを向いていない事を確認すると、こっそり影に隠れ、人化して皆の前に姿を現す。


 そして僕はすぐに彼女達に土下座をして平謝りをする。







「それでお前の依頼内容は分かったが……ハヤテだったか、お前はなんで土下座しているんだ?」



 2階から下りてきたルドルは男から細かい依頼内容を確認していたが、その間ずっと土下座をしていた僕が気になっていた。



「いえ、これは家族の問題なので、ギルドマスターは気にしないでいいです」


「そうか?……さて、話は戻すが、1000万ゼニーでデザートワームの討伐を引き受けてくれる冒険者はまずいない。これは何処の町のギルドでも一緒だろうが、奴を倒すのに必要な冒険者は数十人は必要だろう。つまり1人当たりの報酬は数十万ゼニーまで下がると言う事だ。命懸けの依頼を数十万ゼニーで引き受けてくれる冒険者がいると思うか?」


「無茶を言っているのは分かっています。ですがすでに他の冒険者にも依頼をし、失敗を繰り返しているのでお金がないんです」


「なるほど、ずいぶん依頼料が少ないと思ったらそう言う事か」



 ルドルは納得した表情で頷いていた。しかしこの金額で冒険者達に命を掛けてくれとは言える訳もなく、どうしようもないのも事実なのだ。


 ただ1つの例外を除いて、だが。



「……あのー1000万ゼニーで引き受けてくれる冒険者がまずいないって事は、少しは心当たりがあるって事ですよね?」


「まあ…そうだが…」



 ルドルはチラリとこちらを見る。



「ならその方達を教えてください!俺が直接交渉をしてきます!」


「……そうは言ってもなー……お前が行ってもきっと引き受けてはくれないと思うぞ」


「そうですよね。その人達にとって依頼人である貴方の印象はかなり悪くなっていますからね……」



 リーザもルドルの言う心当たりが誰なのか分かっているようで、こちらをチラリと見た。



「どうしてですか!俺はこの町に来てまだ何もしていませんよ」


「そう思うならまあいい。俺達はここで少し待っていてやる。だからこの町の住人に一番強いチームはどこのだれかを聞いて戻って来い。そうすれば交渉の手伝いはしてやる」



 余裕がない依頼人に対してこの仕打ちはないと普段なら思うだろうが、知らなかったとはいえ、交渉相手のチームを子供扱いしてしまったのだから、その怒りを少しでも納める為にも苦労してもらわないと話にならないと考えたのだ。

 それともう1つ。この場でルナ達が最強のチームですと言っても、間違いなく信じてはくれないだろうと思ったのだ。


 男は慌ててギルドから跳び出し、情報を集めに向かった。



「そういう訳だから、お前達は少しここに残ってくれ」


「何がそういう訳よ。話に聞くかぎりじゃ、数十人の冒険者が必要とするような相手でしょ?そんな魔物相手に、私達だけ挑ませようなんてちょっと無責任なんじゃない?」


「普通ならそうでしょうが、貴女達は普通の枠からかなり離れていますからね」


「それにさっきも言ったが、1000万ゼニー程度では数十人の冒険者がデザートワームの討伐に乗り出す事はない。引き受けられるとするなら、少数精鋭のチームに頼むしか望みはないんだよ。もちろんあいつがお前達に依頼を引き受けさせれたら、の話になるがな」


「……あれは私達を子供扱いしたの。そんな奴の依頼を受ける必要はないの」


「だからあいつを町中走らせて苦労させている。……それでなんとか怒りを納めてくれないか?」



 カナは少し納得がいっていないようだったが、何も言わずに席に着いた。ルナ達も順に席についたが、僕は今も土下座をしたままだ。







「………ギルドマスター……町中で聞いた話は本当なんですか?その……彼女達がこの町で一番強いチームって話は……」



 1時間ほど待っただろうか、ようやく帰ってきた男は顔色が悪い状態でルドルに問いかけた。



「お前が誰に聞いて回ったかは知らんが、町中にはそれらしい装備の冒険者の連中もいただろう。そいつらからも話は聞いたんだろ?」


「はい。全身を赤い装備でかためた冒険者にも聞きました。自分達はよくてナンバー2だと、一番はダントツでチーム幼女達の集いだって……」



 男はここに来てようやくリーザの言っていた言葉の意味を理解した。機嫌を悪くさせて良い相手と悪い相手……確かに自分は一番依頼の成功に近いメンバーを子供扱いして、怒らせて帰らせる所までいかせてしまったのだ。最後にギルドマスターと受付の子が苦い表情をしていた通り、この町に来て早々判断を誤った。



「先程は……子供扱いをしてしまい、すみませんでした。もしデザートワームを倒せるとしたら、貴女達しかいないと言われました。どうかお願いです!俺の町を救ってください!」



 だからと言ってそう簡単に諦める訳にはいかない。自分が交渉を成功させないと、町が滅んでしまうかもしれないのだから。


 男は土下座をする。もちろんその隣では僕も土下座の最中だ。



「なあ、一先ず依頼を受けてはくれないか?どうせお前達以外にはこの依頼は受けてくれないだろうし、見に行って駄目そうだったら止めても良いという条件でどうだ?」


「確かにそれなら危険は少なそうだけど……」


「お願いします!」



 ルドルの言葉に乗り、男はもう一度頭を下げて懇願する。



「なら夫に聞いてみてください。もし了承を得られたのなら、私は反対しません」


「……ハヤテがやるって言うのなら、反対しないの」


「まあ、そいつが言うなら……ね」


「ハヤテお兄ちゃんの為なら私も戦います」


(そう言ってくれるのは嬉しいな)


「ならそのハヤテって人を紹介してくれ!」



 男は藁にもすがる思いで新たな条件に跳び付いた。



「ハヤテさんは……その……隣にいる方です」



 男の必死な問いかけに、リーザは少し困った表情をして颯の方に手を伸ばす。



「はじめまして、僕がハヤテです」


「あ、はじめまして………って!?貴方はさっきからずっと土下座している人ですよね?なんで彼女達が支持する人が、彼女達に頭を下げているんですか!」



 ずっと土下座をしている颯の事は目に入っていた。だからこそ、この人が彼女達に信用されているようには見えなかったのだ。



「それで依頼の話ですが、ギルドマスターが言った条件なら受けても構いませんよ。ついでにイシスの迷宮にも興味があるし」


「本当ですか!?本当に依頼を受けてくれるんですか!」


「ええ、彼女達に危険があると判断したら、最悪は逃げるかもしれませんが……」


「それでも構いません!ここのギルドマスターも倒せる可能性が高いみたいな話をしていましたし、お願いします!」


「それでは早速出発しましょう。出来るだけ急いだ方が良さそうですし」



 僕達は依頼を受ける事を決めた。ただその話を聞いていたルドルとリーザは、微妙な表情をしている。なにしろ2人共土下座をしたまま会話をしていたので、とても締まらない光景だった。




「そう言う訳だから、この依頼を受ける事にした。リーザはアリサ達に目的地が変わったと伝えておいてくれ。それと、そろそろ僕の事を許してください。お願いします」



 頭を上げてリーザに頼み事をした後、僕はもう一度頭を下げてルナ達に謝る。ルナ達は仕方がないと言うような表情で許してくれた。


 その様子を見て依頼人は不安そうな顔をしていたのは当然の事だった。






 






 





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