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64話 告白

「おはようございます。田中さん、起きてますか?」



 魔導具作りの依頼をしに北の森に住む、魔導技師の田中に会いに朝早く来た。流石に周りが暗い内から訪ねるのは非常識という事で、森の中で時間つぶし兼ミライの護衛に相応しそうな魔物がいないか探したが、成果は出なかった。



「なんじゃ?こんな朝早くから何のようじゃ」



 返事が返って来たので、遠慮なく家の中に入り込む。突然の訪問の理由に心当たりがない田中は首を傾げていたので、事の経緯を説明する。


 作ってほしい魔導具は2つ。ミライの角を隠す魔道具と護衛用の魔物を目立たないように連れていける物だ。



「なるほど、つまりその魔族の娘っ子の為に魔導具を作れと言うのじゃな。だがなぜワシがそんなのを作らねばならぬ」



 やはりそう来たかと全員が思った。この田中は自分の欲求…魔法少女に関する事以外には、とことん非協力的なのだ。



「あんたを探しまわっていた神を倒したわ。これで隠れないで生活出来るから報酬代わりにならない?」



 僕が倒したベルフレアは、田中を連れ戻そうとこの世界に来た神だった。日本に帰りたがらない田中はその神から逃げ続けていたのだが、その心配がなくなり自由に動けるようになるので感謝されていると思ったのだ。



「元々奴がワシを見付る事は不可能じゃったから、とくに問題はなかったからのぅ」



 しかし彼にとって神の存在は空気だった。



「でもあの神のせいでリーザが死にそうな目にあったのよ。あんたの与えた魔導具に目をつけられてね」


「なんじゃと!?……そうか、なら確かにお前達には助けられたと言えるのぅ」



 自分の事には無関心だった田中も、リーザの事となると驚き、確かな感謝の気持ちを表に出す。



「なら!」

「じゃが、作ってやるのは1つだけじゃ。それ以上はワシのプライドが許さん!」



 頼んだ魔導具を作ってくれると喜んだ僕達だったが、田中の1つのみという言葉に固まってしまう。だがだからと言って、今後のミライの事を考えると両方ほしい。なので僕は田中に近づき、耳打ちするようにある提案を出す。



「……なるほどのぅ。その条件なら魔導具作りを引き受けよう」


「ありがとう。そう言ってくれて助かるよ」



 そうして早速田中は魔導具作りを始める。 



「いったい何て言って説得したのよ?」



 ゼロは僕が交渉を成功させたのを見て、感心していた。そして何を言ったかを聞いて来たが、それについては後で分かるとだけ言って言葉を濁す。








 そうして暫く待ってると、田中は少し疲れた様子で帰って来た。



「流石に今回は疲れたのぅ。一度にこんなに魔導具を作ったのは久しぶりじゃ」


「悪かったね。それで頼んでいた物の成果は?」


「もちろんバッチリ出来ておるぞ」



 田中は僕達の目の前に2つの魔導具を置く。1つはイヤリングのような形で、もう1つはブレスレットのような物だった。



「イヤリングは角を周りから見えなくするだけの魔導具で、消費MPは1時間で10程度だ。もちろんお主からの供給だがのぅ」



 珍しく消費MPがまともな魔導具に、僕達は驚いてしまった。だがよく考えてみると、魔法使いではないMPの少ない新人冒険者が装備すれば、MPが回復が追い付かないので呪われた装備だ。しかし今までの魔導具の影響か、誰もがこれを普通に見てしまうから錯覚とは怖い。



「そしてこれがモンスターブレスレット。10個の珠に1体づつ魔物が住めるようになっておる。この中にいる魔物には少しだが回復効果があるが腹などは空かん。快適な環境になっており、外の情報も入るようになっておるから装備者の意思も通じるようになってのじゃ」


「それは凄いな……」


「魔物の出し入れに毎回MP10使用し、一体住ませるのに1時間にMP100の維持費が掛かる。もちろん維持費の方はお主が負担する事になっておるがのぅ」


「つまり10体入れば1時間で1000のMPが消費されるのか……効果の割に消費量が少ないと見ていいのか微妙なところだな」



 だが綺麗なピンク色の魔導具を手にとって、ミライは嬉しそうにしていたので、これぐらいの消費は気にしない事にした。そして僕が「これはミライの為の装備だから、遠慮なく着けていいよ」と言うと、少し遠慮がちに装備する。


 イヤリングを装備すると、すぐさま見た目に変化が現れた。本人は分かっていないようだが、周りにいる僕達にはミライの角がスーと見えなくなっていったのだ。しかも角が生えていた部分は、見ている者が違和感がまったく感じさせないほど、自然に髪が生えているようになっている。


 相変わらず細かい所まで気が効く魔導具だった。



 そしてブレスレットの方も装備したが、今は魔物がいないので効果の程は分からない。





「さて、これでお主からの依頼は終了じゃな。では早速報酬を貰おうかのぅ」



 満足そうにしているミライを見て、仕事は終了したと確認したので報酬を要求してきた。そんな田中は、年甲斐もなく目をキラキラ光らせて何かに期待している。



「分かってるよ。ゼロ、ちょっとこっちに来てくれないか」


「?。いったい何なの」



 僕に呼ばれる理由が思い付かないゼロは、不思議そうな表情のまま歩いてくる。



「あ、ちょっとこっちを向いて」



 まるっきり意味が分かっていないゼロの立つ向きまで細かく指示をし、僕は覚悟を決める。



「ゼロ……すまない!」



 いきなり謝った僕に「 へ? 」と言って、何故と疑問が浮かんだようだが、すぐに理由を把握する事になった。



 僕は収納の腕輪から未使用の変身の魔導具を取り出し、ゼロの手に見せないように握らせて魔力を流す。



「ちょ!?これってまさか!?」



 ゼロも状況を理解した。足元に見た事がある魔法陣が浮かび上がり、服が消え始める。すぐに魔導具を手放そうとしたが、すでに手遅れ。変身は無事に終了した。













「さて……あんた達、ちゃんと分かるように私に説明して頂戴ね」


「はい……」



 颯と田中は今、顔を掴まれて持ち上げられている。ゼロは田中よりも身長が低いのだが、わざわざ宙に浮いてまで持ち上げていたのだ。声は普段と変わらない感じだが、顔に喰い込んでいる指の圧迫力から怒りの度合いがかなり高い。


 彼女の変身後の姿はルナ達とは違い、上は半袖ヘソ出しの着物、下は膝上までのズボンのような着物とでも言うのか、上下お揃いの朱色に金の刺繍が所々に施されていた。










「……つまり報酬として私を売った訳ね」



 理由を話している途中で田中は気を失ってしまったので、床に放置されている。僕は圧迫されている顔の痛みに耐えながら、田中との間に交わされた約束を説明した。しかしゼロの言うとおり、報酬として恥ずかしい思いをさせたのだから売ったとも言える。いや、むしろそうとしか言いようがなかった。



「ぼ、僕は…………ごめん……」



 死霊術で蘇ったゼロは、僕の魔力と質が同じになったので変身の魔導具を使う事が可能になった。だから切り札として魔導具の登録を終わらせておいた方が良いと考えていたので、どうせならと思ってしまったのだ。しかしそこにゼロの羞恥心は計算に入れていなかった。

 田中に正面から見られなければいいとだけ思い、後ろを向かせた程度のフォローしかしていない……。


 ただならない雰囲気にミライはオロオロして颯とゼロを見ている。



「大丈夫ですよ。ゼロさんは照れてるだけです」


「……そう、恥ずかしさ5、嬉しさ3、怒りが2ってところなの」


「ちょっとあんた達!好き勝手な事を言わないの!私はこいつに……」



 そんな2人の会話に、ゼロが声を荒げて文句を言いだす。



「はいはい、そうですね。でも皆さん体験していることですし、ゼロさんの服はマシな部類では?」


「そんな事ないわ!これはかなり恥ずかしいのよ」


「?。別にそこまで恥ずかしい所はなさそうですが?」


「………ない…のよ」


「はい?」



 ルナの服に関する問いかけに、ゼロは聞きとり難い小声で答える。



「………はいて…ない…のよ」


「……よく聞き取れないの」


「だからこの服の中には下着がないのよ!」



 カナにも聞こえないと言われ、ゼロは半分自棄になって声をだす。2人もそれについてはどう言えばいいのか悩んで、何も言えなくなってしまう。



「それは当然じゃろう。着物を着るときは下着は着けんものじゃ」



 その理由はいつの間にかに復活していた製作者によって明らかになる。もちろん悪びれる様子は少しも見えない。相変わらず田中の知識は変に偏りがあった。



「そんな理由で………」



 呆れた……ただその感情だけがゼロの中に溢れて、深いため息を吐く。すでに目的は達成された事なので、さっさと変身を解こうとカナに目隠しの壁を出してもらうように頼む。頷いて了承してくれたカナだったが、何故かすぐに壁を出さずに颯の所に行き、抱きかかえた状態でゼロの前に戻ってきた。



「……どういうつもり?」



 その行動の意味が分からず、半目で僕を睨みながら問う。僕は何も言えない。仲間を……信頼されていた仲間を売るような事をしたのだ。何も言う事はせず、ただ罵倒だろうとなんだろうと言われる覚悟をしていた。



「……もちろんハヤテに見てもらう為なの」


「だからその理由を聞いているんだけど」


「……ハヤテは人の本心に鈍感な所がある、きっとゼロが本気で怒っていると思っているの」


「私は本気で……」

「このままじゃ、ハヤテはゼロに負い目を感じ続けるの!。……それでもいいの?」


「っ~~~~~~!」



 珍しく強い口調で言うカナは一歩も引かなかった。ただゼロの顔を真っ直ぐ見て、問いかける。ルナも遠くで見ているだけで、止めようとはしない。



「いいんだ。僕がゼロの事を考えないで、軽率な事をしたのが悪い。だからこれ以上ゼロを苦しめないでくれ……」



 本気で悪いと感じ暗い表情でそう言うと、カナは僕の顔を両手で挟むように持ち、ゼロの方に向ける。



「……ゼロ」


「分かったわよ!……ハヤテ!今回は急に変な事をされたから怒っているだけだから、今後は事前に相談しなさいよ!」


「ゼロ?」



 ゼロは顔を真っ赤にしてそっぽを向きながらそう言う。その意味をよく理解出来なかった。



「……ゼロはハヤテに裸を見られた事を怒っているんじゃないの。ただ事前に話がなく、心の準備が出来なかった事で恥ずかしく怒っているだけ……だからしっかりゼロを見てあげるの」



 それだけを告げると、カナは田中には見えないようにシャドーウォールを張る。それを合図にゼロは変身を解き、元の服装に戻る。ただ顔は相変わらず真っ赤のままだ。



「ルナお姉ちゃんもカナお姉ちゃんも、ハヤテお兄ちゃんに裸を見られても平気なのですか?」


「もちろんハヤテさんに見られるのは平気ですよ。だって私は彼の妻ですし」


「……私はまだ少し恥ずかしいです」



 昨日裸を見られた事を思い出し、ミライは少し顔を赤くしてそう呟く。



「今はそれで良いと思います。ハヤテさんの事をもっと知り、それで心から信用出来ると感じれば自然とそういう感情になりますから」


「そう、なんだ」



 ミライはいまだ顔を真っ赤にしているゼロを見ながら、ルナの言葉を忘れないようにしようと決めた。




「ゼロ……」


「これ以上何も言わないで!私だって恥ずかしいんだから、あんたの顔をまともに見られないのよ!……でもさっき言った事、事前に相談してほしいって話だけは覚えておいてね。私もあんたの仲間なんだし、ミライの為なら……恥ずかしいけど、少しぐらいなら体を張るわよ」


「……妻じゃなく、仲間って言ったのはゼロの照れなの」


「カナ!?」



 ゼロはカナの口をふさぐ為に走り寄って来た。カナはすぐに僕を下に置き、反転して逃げだしていく。







「ゼロさんも正直になりきれませんね」


「でも本当にゼロは怒っていないのか?もしかしたら愛想を尽かして……」


「……ハヤテさん。今のゼロさんを見ても、そう言いきれますか?」



 僕はカナを追いかけているゼロを見る。その顔には時折笑顔が見え、2人の素早さの差を考えればすぐに捕まえる事が出来るはずなのに、それが出来ないのはこの場に居ずらいので逃げているだけなのだ。



「私達はもう家族なのです。もう少し自分の欲を私達に相談してくれても、誰も愛想なんか尽かせません。むしろ相談してくれて嬉しいぐらいです」


「僕は皆に遠慮していたのかな……」


「ふふ、そうですよ。もうすぐ新居も完成しますし、一家の主として堂々と私達を率いてくださいね」



 そう言ってルナは笑顔で優しく見つめてくれた。



「もういいわ!用事も済んだ事だし、さっさと帰りましょう!」



 ようやくカナを捕まえたゼロが戻ってきた。


 そこで僕は彼女たちの気持ちに応えるべく、自分の気持ちを言葉にする。



「ルナ、カナ、ゼロ、聞いてくれ。僕は必ず人間になる魔導具を見付けて見せる!君達に負い目を感じさせない僕になる。だから……」



 僕はこの後の言葉を本当に言っていいのか悩み、口が動かない。1分、10分、それとも数秒なのか……自分の体感ではもの凄く長い時間に感じてしまう沈黙を、ルナ達は真剣な顔で何も言わず待っていてくれる。



「僕はまだ弱くて臆病でこんな体の半端者だけど、ぼ、僕と……け、け、結婚して、今後の人生を一緒に歩んでくれ!」



 言った、言った。言ってしまった。 ルナ達の気持ちを冗談として聞き流し、例え本気だとしてもこの姿の自分には応える資格がないと言い聞かせ、押し殺し続けた僕の気持ち……。だがもう逃げない!ハッキリとした言葉にして、思いを伝える。二度と離れたくない、離したくない、この気持ちを伝えたが答えを聞くのが怖い……もし僕の勘違いだったらと思うと、まともに顔を上げる事も出来ない。


 沈黙が続くと不安はどんどん膨らんでいく。今後の関係が壊れるかも、という考えが浮かぶと足が震えてしまう。


 どれぐらいの時間、沈黙が続いたのだろう。もう自分の心臓の音しか聞こえない。しかし、そんな僕の心境とは別にルナ達は……



「やっとハヤテさんから告白してくれて、私は嬉しいです」



 ルナは優しく微笑んでいる。



「……私も前から言ってるの。ハヤテを夫として一生尽くすと」



 カナも当然とばかりに頷いてくれる。



「せっかく人間として生活しているんだから、結婚ぐらいしてみたいわね。……だから今回はハヤテで我慢してあげるわ」



 ゼロは耳まで真っ赤にして、そっぽを向きながら返事をしてくれた。



「わ、私も、ハヤテお兄ちゃんのお嫁さんになります。……だから、私にも告白してください」



 ミライも顔を赤くして僕の前に立つ。



「ミライ……君は僕と出会ったばっかりじゃないか。結婚相手はそんな簡単に決めては……」

「時間は関係ありません!私を始めて人として扱ってくれて、優しく手を差し伸べてくれたハヤテお兄ちゃんだからこそ、結婚したいと思ったのです」



 出会った時から子供として見ていたオドオドした態度のミライは影を潜め、真剣な顔でしっかりと僕を見つめる彼女に本気を感じ、嘘や誤魔化しは失礼にあたると思った。



「……分かった。こんな僕だけど、今後一緒に歩んでくれるかい?」


「喜んで!」



 僕の告白に、ミライは満面の笑みで答えてくれる。もちろんミライだけではなく、ルナ達も幸せそうに微笑んでくれていた。それにつられて僕も嬉し涙を流しながら微笑んだ。





「……お互いの気持ちが確認出来た所で、家に帰ったら早速子作りをするの」


「カナ、ごめん。それは僕が本当の意味で人化が出来るようになってからにしてほしい。君達は今の僕でも良いときっと言ってくれると思うけど、これはケジメなんだ。男として、元人間としてこのままの姿に甘えたくはないんだ。……本当にごめん」



 カナが子供を欲しがっている事は知っている。だからそれに待ったを掛けた僕は、頭を下げて謝る。



「……ハヤテ、頭を上げるの。すぐに子作りが出来ないのは残念だけど、今は気持ちを聞けただけで幸せなの。……それに今じゃないだけで、子作りしてくれると言ってくれたから気長に待つの」



 きっとガッカリさせただろうなと思ったが、カナの表情には暗さが少しもなかった。



「ふふ、カナちゃんは気が早いですね。それにこれからミライちゃんの護衛も探しに迷宮に行く必要があります。あと、リーザさんやお姉ちゃん達に無事に帰って来たと報告しないと、きっと心配していますから」


「それにミライの服も買いに行かないとね。……その無理をしている服を見ると、悲しくなるから…」



 その言葉に全員の視線がミライの胸に集まる。それに気付いた彼女は、恥ずかしそうに腕で隠した。








「それじゃあ、いろいろ世話になったわね」


「なに、ワシも自由に動けるようになった事だし、お礼の言葉はいらぬ。今後は直接サポート出来る魔法少女でも探しに旅に出るのも良いからのう」



 田中は今後の事を考えて楽しそうに話してくれる。その瞳はとても高齢の老人とは思えないほど、未来への希望に溢れていた。




 そしてお礼の言葉を終えた一行は、転移の魔導具を使って帰る事にする。



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