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63話 巨大な山、現る


「それで……私はどうなるんでしょう」



 今後の事。颯の人格は信用出来ると感じたが、奴隷となってしまった自分の今後が不安になるのは当然だった。



「ここに居ても危険だろうし、キルミライさえよければ一緒に来てほしい。僕が今いる町には奴隷がいないから、その奴隷紋を外す事が出来ないけど、今後別の町に行く予定があるからそこで自由にさせて上げれるはずだよ」


「一緒に連れてってくれるのは嬉しいです。でも奴隷紋は外さないでほしいです。これを外されると強制的にこの場所に戻されてしまうから……」



 その話を聞いて思い出す。彼女は奴隷にされるか死ぬ時で無いとここから出れないのだ。



「なら一緒に行こう」



 そう言って僕はキルミライに手を差し出す。しかし彼女は座ったまま顔を赤くしてモジモジするだけで、一向に手を出そうとしない。やっぱりまだ警戒しているんだろうな、と思っていると



「ハヤテさん。少し向こうに行って後ろを見ていてください」


「え?どうして?」


「はー、あんたにデリカシーを求めるのは無理だろうから、黙って言う事を聞いていなさい」



 振り向くと苦笑いをして僕を見つめている3人の姿があった。何故そんな顔で見られているか、僕が理解するのは言われた通り部屋の隅で後ろを見て、しばらく経った後だった。



「ごめんなさい。今はこの火トカゲのマントしかありません」


「それで十分です。気を使ってくれてありがとうございます」



 キルミライは恐怖のあまり、粗相をしてしまっていた。それが恥ずかしく、颯の前で立ち上がる事が出来なかった。そしてその事に気付いて気を使ってくれたルナ達にお礼を言い、羽織っていたローブ脱ぐと……そこには一糸纏わぬ少女の裸があった。



「「「 な!? 」」」



 ルナ達はまさかローブの下に何も着けていないとは思っておらず驚いた。しかし3人が声を出してしまった理由は別のものだった。全裸になったキルミライにそびえ立つ2つの山……その体型に不釣り合いな大きな山に驚いて、つい声を上げてしまったのだ。



「!?。どうしたんだ!」


「っ!?キャーーーーー!!!」



 僕はルナ達の声に何かあったのかと思い、振り返る。その視線の先にあった全裸のキルミライが目に入ってしまい、目が合うと悲鳴を上げて座り込んでしまった。彼女には悪いが、隠す前に確かに見る事が出来た。身長はルナ達より小さいのに、胸の大きさは3人分を足しても圧倒出来るほど立派なものだったのだ。だいぶ着痩せしていたんだな、と感心しながらも先程の映像を永久保存しようと心に決める。


 そんな事を考えていると、僕の考えに気付いたゼロが全力疾走で目の前に来て……



「ギャーーーーー!?」



 僕の両目に指を刺す。



「なに乙女の裸を見てるのよ。この変態!」



 ゼロは蹲って両目の痛みに転がり回っている僕を見下ろす。目を開けれず、ゼロの表情を見る事は出来ないが、明らかに怒っていると雰囲気から分かった。だがこの怒りの何割かはただの八つ当たりだ。



「すみません。私達が声を出してしまったせいで……」


「グスン……大丈夫、です」



 座り込んで恥ずかしさのあまり、泣いてしまったキルミライ。ルナの謝罪に対して大丈夫だと言ったが、その姿からとても大丈夫そうには見えない。だからと言ってそのまま全裸ではいろいろ拙いので、そっと火トカゲのマントをかけてあげる。








 キルミライが落ち着くのを待っていると、本人が大丈夫だと言ってくれたので皆で向き合って今後の話をする事にした。



「さて、突然で悪いけど、奴隷紋の効果を使ってキルミライに1つ命令する」


「え!?」



 自由だと言ってくれたはずの颯に突然命令すると言われ、キルミライは不安そうな表情で驚き息を飲む。



「今後、奴隷紋の効果は全て無効とする。僕の命令はもちろん、誰かから言われて行動するのではなく、自分の意思と考えで行動するように」


「あ……」



 奴隷紋の強制力は、昔カナが死ぬように命令されるとポーションが効かなくなるほど強力だった。物理効果も無効化するその力を使って、その強制力を無効に出来ると考えたのだ。


 命令の効果があったのか、キルミライは何かスッと軽くなったような気持ちになる。



「……本当にいいの?」


「言ったろ。僕は君を拘束するつもりはないんだ。これで君は好きな場所に自由に行けるようになったはずだよ」


「自由……」



 キルミライがこの洞窟を出れる条件である誰かの奴隷になり、その中で制限を掛けない事で自由に行動出来るようにする。狙った訳ではないが、こんな展開になった以上最大限に利用させてもらう。



「君が1人で生活出来るようになるまで時間がかかるだろうから、それまでは一緒にいると良いよ」


「……………」


「どうしたの?」



 突然黙り込んで考え事を始めるキルミライ。



「わ、私……ハヤテお兄ちゃんとずっと一緒にいたい」


「お、お兄ちゃん?」


「うん。ハヤテお兄ちゃん。前に本で読んだお兄ちゃんそのものだったから……駄目、ですか?」



 そのキルミライの表情は反則級に破壊力があった。目を潤ませ、上目使いで不安そうに聞いて来るその姿を見て、断る事なんて出来る訳がない。それに、



「別にそう呼んでもらって構わないよ。前世にもそう呼んでくれた子はいたからね。でも、本当に僕達と一緒に居て大丈夫かい?僕は一応神の代理人の1人だから、君の嫌いな神のゲームに巻き込まれる可能性が高いよ」



 前世の僕は孤児院生活だったので、他の身寄りの無い子供達にお兄ちゃんと呼ばれていた。なので少し昔を思い出し、懐かしい気持ちになっていた。



「それでも構いません。それに……ハヤテお兄ちゃんがきっと守ってくれますよね?」


「でも僕に戦う力は……」



 信用してくれるのは嬉しいが、攻撃力が低い僕が他の神の代理人から守りきれる自信はない。



「ハヤテさんは信用を裏切ったりしません。だから安心してくれて大丈夫ですよ」


「……ハヤテに頼るとは、見る目があるの」


「まあ、こいつはあんたを不幸にするような奴じゃないからね」



 僕の不安そうな気持ちを表に出したが、ルナ達は既に仲間として認めているようだ。



「ただし、ミライちゃんは4人目の妻ですからね」


「……順番は大事なの」


「相変わらず、私まで数に入っているのね……」



 前言撤回。彼女達は妻として受け入れたようだ。



「分かりました。ルナお姉ちゃん、カナお姉ちゃん、ゼロお姉ちゃん」


「君もそれでいいのかよ!?」



 ルナ達の言葉に、キルミライは反論する事無く素直に受け入れてしまう。僕はそれに驚いたが、別に嫌そうな顔をしている訳ではないので、強く否定してまた悲しませるような真似はしたくないと思った。


 それにキルミライはまだ子供、大人になったらちゃんとした人を好きになるだろう。子供が「お父さんのお嫁さんになる」と、言うのと同じだ。



「ハヤテお兄ちゃん。わ、私の事は……ミライって呼んでください……」



 彼女はまだ自己主張が苦手のようで、頼み事をする時は声が小さくなっていく。それがまた保護欲を駆りたてる。



「分かったよ、ミライ。これからよろしく」


「はい!」



 ミライと呼び、先程は返してくれなかった手をもう一度差し出すと、今度は満面の笑みで握り返してくれた。


 僕達はすぐに転移の魔導具で家に跳び、まずは食事をとる事にした。その席で今後どうするかを聞くと、一緒に迷宮などにもついて行きたい言うので、自己紹介を兼ねて僕達の職種と戦い方を説明する。ついでと言う訳ではないが、ミライのステータスも確認しておく。




キルミライ


HP    28 /  28

MP   319 / 319


スキル  付与術(中) ・ 魔王のカリスマ(微)

     


付与術     ・・・ 『自分や他の人に掛ける事で、その者の身体能力や魔法を強化出来る。使用範囲は5メートル。使用者の魔力の大きさによって効果が高くなるが、消費MPも増える』


魔王のカリスマ ・・・ 『魔族や人間、魔物を従わせれる素質。ステータスが上がるにつれて効果も上昇するが、(微)なのでほぼ無いと同じ』


 


 彼女は自分で言っていたように、戦う為のスキルを持っていなかった。せめて魔王のカリスマが高ければ、今までの悲惨な人生も少しはマシになっていたものを…と思ったが、そんな事を彼女に言っても仕方がないので言葉には出さない。


 今必要なのは彼女がどうすれば僕達と一緒に迷宮や旅に着いていけるようになるかだ。付与術があるので後列で強化するだけでも、十分効果があるだろう。だが不意を突かれて攻撃される危険や、仲間とはぐれる可能性も考えると、身を守るすべを用意しておく必要がある。



「……ここはハヤテの出番なの。妻のカリスマが足りないなら、夫の力で言う事を聞く魔物を用意すれば良いの」


「なるほど、つまりアラド達を鍛えた方法と同じ手段を使う訳だね」



 カナの言いたかった事を理解した僕の返事に、頷いて答えてくれる。つまりミライが僕にしようとしていた配下の確保を、僕が死霊術で魔物を用意してあげると言う事だ。



「そう言う事なら、グレートウルフ辺りが良いかもしれないわね。あれなら背中に乗って移動も出来るだろうし、その辺の冒険者が手を出そうとしても返り討ちに出来るわ」


「見た目も大きな犬で通るかもしれませんしね」


「「「 それは流石に無理! 」」」


「そうですか……」



 ルナの大きい犬扱いは、ミライを抜いた全員が声をハモらせて否定する。その反応をルナは見て、地味にショックを受けてしまった。



「でも見た目で思い出したけど、ミライの角……これを隠さないと町を歩くのも大変かもしれない」



 割と平和なこの町でも少し前に魔族の襲撃があったので、魔族に対する敵対心が強くなっている。その状況で何も起こらず生活が出来るはずがない。



「角を隠す……つまり姿を変える方法って事なら、田中に頼めば何とかなるんじゃない?」



 ゼロの言葉に自分の使っている魔導具の事を思い出す。大量のMPは使うが、ぬいぐるみの姿を人間として生活出来るレベルまで見事に変化させているので、角を隠す程度はすぐに出来るだろうと全員が納得する。


 次の目的が決まったがすでに深夜と呼べる時間の為、会いに行くのは翌日と決め今日は寝る事にする。ミライも僕と一緒に寝たいと言いだしたが、流石に4人プラス僕ではベットが狭すぎるので、僕は遠慮して、いつもの深夜の特訓を行う事にした。





 翌朝は人目の少ない日の昇る前に北の森に向かって移動を開始する。余談だが、ミライの服をいつまでも火トカゲのマントだけという訳にはいかないので、いつも通りルナの服を貸してあげる。しかし体の小さいミライには袖なのはダブダブだったのだが、一部……胸の所だけキツそうだった。その事を目のあたりした3人は、笑顔のままショックを受けていた……。



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