61話 強制転移
18階層で行なったスパルタ特訓の締めとして、アラド達の実力だけで潜ってもらう事にした。
最近姿をあまり見なかった弱者の盾のメンバーを見た他の冒険者達は、その装備を見て息を飲む。彼等の装備は下層の魔物の素材で出来た物で統一されていたからだ。
そんな周囲の視線に気を回す余裕はアラド達になかった。
元々10階層まで潜れる実力を持っていたアラド達は、今まで以上に簡単に中層を抜ける事が出来た。18階層で戦える実力がついたかは半信半疑でも、装備が良くなり、多少なりとも実力が上がっている実感はあったので、ここまでで驚く事はなかった。
11階層に入り、アラド達の緊張感が高まる。アラド達がグレートウルフと前に戦かった時は苦戦していた。だが最初の1戦目で自分達の実力の上昇を実感する。
カレンの魔法攻撃であっさり機動力を減らし、カリーナの矢が視界を奪い、それでも向かって来る魔物の攻撃をガルが受けとめ、アラド達がトドメを差す。流れるような連携に、グレートウルフは何も出来ずに消滅してしまった。
その後も何体か倒すも、苦戦するどころか余裕すら感じる戦いを見せて12階層への階段に辿り着く。
「あれがミノタウロス……か」
12階層に着くと、さっそくミノタウロスを見付けた。リーダーのアラドは1度だけ見た事があるが、他のメンバーは初顔合わせの為、緊張が走る。
「ヴォォォオオオオオ!!!」
ミノタウロスもアラド達を見付けたようで、こちらに向かって咆哮を発する。この咆哮でアリサ、カレン、リリカの筋肉が硬直したように動けなくなった。魔物の迫力に呑まれてしまったのだ。
「しっかりしなさい!今のあんた達の実力なら勝てるはずよ」
「痛っ!?」
「っ!?」
「な、何するのよ!」
ゼロは声を掛けると同時に呑まれてしまった3人のお尻を叩き、喝を入れた。だがそのおかげで緊張がほぐれ、魔物に対して武器を構える事が出来るようになる。
「皆、落ち着くんだ。僕達の実力は確実に上がっている。なので落ち着いて対応すれば勝てるはずだ!」
全員が浮足立っていたが、アラドの言葉で冷静さを取り戻す。衝撃に強いミノタウロスにはカレンのファイヤーボールをまともに当てても効果が薄い。なので体重を乗せようとする直前の前足に当て、見事に転ばす事に成功する。
アラド達も起き上がろうと力を入れる腕に攻撃したりと、一度崩した体勢を整える時間を与えない。そして最後はグラムの斧が脳天を割り、初のミノタウロス戦が終了する。
「どお?少しは自分達の実力が確かな物だと実感できたかしら?」
「……確かに強くなったと実感出来たが……」
「そうよね……あれを見ると、素直に自分達は強くなったと喜べないわよね……」
ゼロの言葉にアラド達は迷宮の先を見ながら、どこか遠い目をして呟く。今まで戦う事すら恐れていた魔物を相手に、圧倒できるほどの実力がついたのだから嬉しい気持ちは確かにあった。あったのだが…
「……なぜ素直に喜ばないの?」
「そりゃーねー………」
カナも素直に喜ばないアラド達を不思議そうに見る。見ながらハンマーを振り回していた。
「あの2人……ますます化物のような強さになっているわね」
カリーナがそう呟く先には、一撃必殺でミノタウロスを倒していくカナと、次々と魔法で斬り裂いていくルナの姿があった。
チームで圧倒出来る実力をつけたアラド達と、まるで雑魚を相手にするように単独で撃破していく2人、そんな彼女等の実力を見せつけられると自分等の成長が遅いように感じてしまうのだ。
「ルナ達も素材を集める為に散々戦闘を繰り返していたからね。彼女達も実力が上がっているのは仕方がないわよ。だからって自分達を低く見積らないで、正確に実力を見極められるようになりなさい」
「……そうよね。ルナ達が凄い勢いで成長しているのは知っていた事だし。それより自分の腕を磨く方に集中しなくっちゃ」
ゼロの言葉に納得したリリカは、自分の装備を見てそう言う。リリカの武器はヒートランス。ココアが前に話していた発熱する金属と熱を制御する為に火の魔石を利用した燃える槍だ。この槍は少量の魔力を流すと水を蒸発させる程の熱を発して、更に丈夫で鋭い切れ味も備えており、ミノタウロスの肉ですら斬り裂ける業物。魔石を利用する事を思い付いたのはグラムなので、夫婦の共同作品だ。
それ程の武器をリリカはまだ使いこなせているとは感じていなかった。他人の実力を羨ましがるより、今出来る自分の実力を高める方法に全力を向けようとしている。
その様子を見てゼロは満足そうに微笑み、高らかに宣言する。
「その気持ちがあるなら、もうあんた達は大丈夫ね。今日、この時をもって特訓を終了するわ!」
「「「「「「 お、終わったーーーーー! 」」」」」
ゼロの特訓終了の言葉を聞いて、アラド達は地獄の特訓を終えた事を喜んで笑みがこぼれる。そんな光景を見守った後、全員一緒に地上に向かって転移を行う。
最後の締めとして、貯まっていた魔石の換金を行ないにギルドに向かった。
「……暫く見ない内に、弱者の盾の皆さんの装備が凄い事になっていますね」
ギルドに着いたアラド達の姿を見て、リーザは感心する。前に見た時も十分良い装備をつけていたが、今は見る人が見れば分かる下層の装備、赤がメインの防具を全員がつけていた。
「ああ、ちょっと過酷な特訓をさせられていてね。その時に前払いみたいな感じで装備を揃える事が出来たんだよ」
「あれはちょっと過酷ではきかないだろ。地獄の特訓……これぐらい言っても足りないぐらいだ」
アラドの言葉に、グラムは訂正を加える。その話に、アラドを含めた全員が乾いた笑いを漏らしながら否定しない。
「ちょっと……安全性も兼ね備えた健全な特訓だったじゃない。あんなの組み手と変わらないわよ」
そんなメンバーに、ゼロはまるで悪い事をしたと思っていないように、呆れたような表情をする。
「……いったい何をしていたんですか?ルナちゃんは時々魔石の換金に顔を出してくれましたが、他の方は見かけていません。まあ、貴女達が絡んだ段階で、常識から一歩以上離れた事をしたに違いないのですが……」
「……分かってくれるのかリーザ。そうなんだよ。ゼロさん達の素材集めに協力するだけのはずが、何故かそのまま18階層で特訓する事になってな。フレイムゴーレムを私達だけで戦わせられたんだよ。いやー、まったく何度死ぬかと思った事か……」
アリサはシミジミと話しているが、すでに済んだ事で特訓の成果が確かにあったので、他のメンバーも苦笑いで済んでいる。
「まさか本気で下層に放り込んで戦わせるなんて……………貴女達!もう少し常識ってものを覚えてください!」
最初は額に手を当てて話を聞いていたリーザだったが、ついに我慢が出来なくなり、立ち上がって僕達に指を差して怒りだした。
「……ハヤテの考えた特訓は理に適ってるの」
「ハヤテさん、貴方はまともな人だと思っていましたのに、どうやら私の勘違いだったようですね」
(カナ……僕の名前を出すなら、その方法を誤魔化して説明してからにしてくれ……)
その後、ルナがリーザに耳打ちをして方法を説明してくれた。その内容を聞いて驚いたように感心したが、死霊術の事を知らないアラド達のその時の心境を考えると、素直に褒める事が出来なかった。
だが真剣味を上げるという意味と、スキルを秘密にしないといけないと考えると仕方がないと納得するしか出来ない。
「チーム弱者の盾の皆さん、すみませんでした。実は……」
方法はともかく颯達がアラド達を鍛えた理由は自分の頼みが原因である為、突然頭を下げて謝り、この特訓に巻き込まれた理由を説明する。
「そうか……ゼロさん達がこの町を出ても下層で戦える冒険者を残す為だったのか。だがリーザ君、確かに死にそうな目には遭ったが、ステータスもかなり上昇したし装備も良くなった。今となっては感謝こそしろ、恨んでなんかいないよ」
「そう……ですか?」
アラドの言葉を聞き、頭を上げて周りを見てみると、誰1人として暗い表情をしていないどころが、自信に溢れ、やりきった自分達を誇りに思っているような冒険者の顔を見せている。その表情を見てリーザはホッと安心した。
「私達に掛かれば、常識なんてあって無いようなものよ」
「だからって調子に乗り過ぎないでください。ハー、誰かが見よう見まねで真似したらどうするんですか……」
「……そんなの自己責任なの」
「それはそうですけど……。アラドさん、この特訓方法は内緒でお願いします」
「分かってるよ。それにこんな事を話したら、僕達の方が笑われてしまうよ」
「確かに。………それでは皆さんのギルドカードの更新をしましょうか。成長したステータスを見たいと思いますし」
それはアラド達がギルドに来る際の楽しみにしていた事の1つだった。各自その急成長したステータスに、最初は驚いていたが時間が経つにつれて満足そうに眺めている。そんな中、ルナ達の番が回って来ると、
ルナ ランク 5
HP 355 / 355
MP 812 / 812
力 181
耐久力 156
素早さ 150
魔力 451
ゼロ ランク 3
HP 411 / 411
MP 186 / 186
力 254
耐久力 223
素早さ 431
魔力 180
カナミティー ランク 3
HP 528 / 528
MP 292 / 292
力 436
耐久力 321
素早さ 136
魔力 244
リーザは机に額から倒れ込んだ。
「貴女達は………」
アラド達のステータスの上昇率も高かったが、それを鼻で笑う程の急成長に驚愕した。だがそれを言葉にしようと喉まで言いかけて止める。ここにはアラド達もいるのにステータスの内容を口にするのは、ギルド職員としてやってはいけないと気付いたのだ。
「ゴホン、ギルドカードの更新も終わりましたので、魔石の換金を行います。少々お待ちください」
落ち着きを取り戻したリーザは、僕が出した大量の魔石の鑑定を始める。その間、周りの憧れるような視線が下層の防具を装備しているアラド達に集まってしまい、少々居心地が悪そうだった。だが時間が掛かるのは換金を小まめにしなかったこちらが悪いので、仕方がなく受け止める。
「それではこれが換金分となります」
受け取ったお金は全部で1000万ゼニーになり、これはアラド達が倒した魔物の分もあるので、均等割りにする事にした。アラド達が特訓中に倒した魔物の分は既に換金済みで、彼等の武器と防具の製作費と、家の新築代の前金に使ってもう残っていない。今回の報酬も家の代金に回さないといけないので、実質ルナ達にお金はほとんど残らないのだ。
「今回は本当に世話になったね。この恩はこの町で依頼をこなし続ける事で返すよ」
「そこまで深く考えなくても良いわよ。……でも見所がありそうな冒険者がいたら、今後の為にも目を掛けてあげてね」
アラドを先頭にし、アリサを含めた全員が僕達に頭を下げる。知らない人が見れば子供に頭を下げる一流の防具を装備した集団だが、チーム幼女達の集いはこの町では知らない者がいないほど有名になっているので、ギルド内で変な目で見る者はいない。
「皆さんがこの町の事をそんなにも考えてくれているなんて……って!?急にどこに行くつもりですか!?」
「 はい? 」
突然リーザが騒ぎ出したが、その理由を僕達は理解出来ないでいる。
「ゼロさん達の足元が光っていますよ!それって転移の光ですよね!」
その言葉通り、ルナを中心に足元が光っている。これは僕達が転移する時の光にそっくりなのだ。だが今は転移の魔導具を使っていないので、この光の理由が分からない。
「ま、どこに跳んでもすぐに帰って来れるし、慌てる必要はないわね」
「よく分かりませんが、皆さんいってきます」
「……ちょっと楽しみなの」
「だからなんでそんなに落ち着いていられるんですかーーー!」
リーザのツッコミを残し、危機感のまったくない僕達は姿を消す。残された者達にどうする事も出来ないので、ただ茫然と消えた位置を眺めるしか出来なかった。




