60話 スパルタ指導
人化の状態でアリサの前に出て厳しい質問責めが来そうだったで、一度迷宮の外に逃げていた。ついでに暗殺者達の様子も見て来て、無事ギルドに連行された事を確認出来たのでぬいぐるみ状態に戻り、迷宮に帰ってきた。
皆と合流した途端、アリサから僕はどうしたかと問いかけられたが、別の依頼があるという事で誤魔化す。時間も遅くなっている事もあり、明日に備えて寝ないといけないのですぐに質問はやんだ。
翌朝、朝食をとると僕達は先行して18階層に足を踏み込む。その間、アラド達には階段で待機してもらっているが、その理由は説明していない。
「さあ皆、特訓の時間よ!」
ようやく帰って来たゼロは、突然そう言って皆を18階層に入れさせる。アラド達は待たされた事も疑問だったが、この階層に入って最も不思議だった事に意識が集中していた。昨日起こった凄い爆発の跡がまるでなく、迷宮は綺麗な形を維持していたのだ。
その事は僕達もビックリしたが、前にルナが魔法で破壊した跡も綺麗に消えていた事を思い出し、こういう物だと納得していた。
「それで特訓とはなんなんだい?今回の迷宮探索の目的は、君達が必要な素材の採取じゃなかったかい?」
アラド達にとっては未知の領域、18階層に入って全員が異常なほど周りをキョロキョロ警戒して緊張している。他のメンバーに警戒以上に気を回す余裕はないので、リーダーとしてゼロの言葉の意味を聞かなければならないと質問する。
「もちろん素材集めもするわよ。でも私達が別の町に行く為には、やっておかないといけない事があるのよ」
「それはいったい?」
「それはね……」
先行しているゼロは振り返り、口端を上げてニヤリと怪しい笑顔を見せる。その笑顔を見て、アラド達は嫌な予感が全開でしていた。
しかしゼロの事に意識を向け続ける事が出来ない状況になる。前方に1体のフレイムゴーレムが待ち構えていたのだ。
「お、おい!前に魔物が現れたぞ!」
いまだ後ろを向いたまま歩いているゼロに魔物の存在を教え、アラド達も陣形を整えて武器を構える。だが一向にゼロはもちろん、ルナとカナも武器を構える様子が見えない。
「3人共油断し過ぎだ!もう魔物の警戒範囲に入っているだろ!」
「まあそうね。……それじゃあ、特訓を始めましょうか」
ゼロも魔物の存在に気付いているのは確かだ。だがそんな彼女が起こした行動は、両手を広げ、アラド達に特訓開始の合図だった。その行動の意味をすぐには理解出来ず、全員が同時に「 は!? 」と声を上げる。
「聞こえなかった?あの魔物とは、あんた達だけで戦うの。安心して、ピンチになったら助けてあげるし、ポーションも多目に用意しているからね」
「ま、待ってくれ。僕達の実力で下層の、しかも18階層の魔物なんかと戦える訳が……」
「特訓開始ーーーーー!!!」
そんなゼロの言葉を合図に、フレイムゴーレムが横に避けたルナ達3人を横切ってアラド達に向かって行く。
「う、嘘でしょ!」
「マジかよ」
フレイムゴーレムの圧倒的な迫力に、アラド達は事実を受け止めれずに呆けてしまう。
「皆!とにかく落ち着くんだ!陣形はいつも通り、まずは相手の勢いを止める為にカレンが魔法を、ガルは攻撃を受け流すんだ!」
呆けている仲間に、アラドの言葉が響く。その言葉で我に帰り、表情は暗かったがこのまま死ぬわけにはいかないと、指示通り動き始める。
「そうよ。最低でもいつも通り動かないと、大怪我を負っちゃうからね」
「お姉ちゃんも頑張ってください」
「……さっさと強くなるの」
「なんでルナ達はそんなに気楽なのよーーーー!!!」
まるで試合を観戦するような軽さの声に、カレンは泣き言を言う。それでもファイヤーボールをしっかり放っているので、一安心だと感じる。
「それでは他の魔物がここに来ないように、向こうに行きますね」
「……あとは任せるの」
この階層での攻撃の要であるルナとカナは、ゼロ1人を残して迷宮の奥に向かって行く。そんな2人の表情にアラド達への心配は微塵もなかった。
「しっかし……あいつも面白い事を考えたわよね」
そう言ってゼロはルナ達を送りだして、この特訓方法に感心していた。
この特訓を提案したのはハヤテだ。この町でルナ達の次に実力を持っているチーム、弱者の盾の強化をどうするか考えた結果、この迷宮で最強のフレイムゴーレムと戦うのが一番経験を得られるだろうと行き着いた。
ただそのまま戦ってもらうと、前にリーザに注意されたように死んでしまう危険があった。なのであるスキルを利用したのだ。
スキル死霊術。死体にこのスキルを掛ける事で使用者の隷属者になり、命令に従わせる事が出来るのだ。僕達が18階層に先行したのは、まさにこの隷属者を作る為だった。倒したら消える魔物を隷属者に出来る保証はなかったが、試してみると無事成功したので予定通り事を進める。
颯が命令した内容は、僕達の合図でアラド達に襲いかかる、致命傷になる攻撃はしない、僕達の誰かが目の前に立つ事が合図で攻撃を中断し初期位置に戻る。この命令により、極力安全で実戦経験を積ませる事が可能となった。
「私の魔法じゃ、属性が一緒だから爆発の衝撃でしかダメージを与えられないわ!」
「攻撃が重すぎる!ストーンゴーレムの攻撃が可愛過ぎると感じる程だ!」
火の魔物に火の魔法では効果が薄いの分かっている。それでもファイヤーボールの爆発による衝撃で魔物の動きは少し鈍り、ガルの盾に掛かる負担は減らしているが、中層と下層の力の違いを体感する。
「カレン。馬鹿正直に正面に魔法を放っても、効果が薄いわよ。もっと攻撃する場所とタイミングを見極めなさい。それとガル。あんたも攻撃を正面から受けずに、盾の曲面上手く使って力を逃がしなさい」
「だからなんでゼロはそんなに気楽に見ていられるの!!!」
「ほらほら、よそ見しない。あ、カリーナも矢を無駄撃ちしないで、関節や目など弱そうな所をしっかり狙いなさい。アリサとリリカも固まっていないで、相手は1体なんだから隙を見付けて攻撃に出る。ブランは攻撃するのに隙が大きいから、アラドが隙を作るように動くか動かして、確実に当てれるように調整するように」
ゼロはのんびりその場に座り込み、水筒の水を飲みながらアドバイスをしている。だがそんなアドバイス通りにすぐ動ける訳もなく、暫くするとアラド達は陣形を崩され死を覚悟する。
「とりあえずはここまでね」
そう言ってゼロがアラド達の前に立ち、庇うように武器を構える。アラド達にはゼロの迫力に負けて魔物が後ろに引いたと感じただろうが、これは最初から命令していた内容だ。これによりやらせの訓練に真剣見が増し、特訓の成果も上がるのだ。
「大丈夫?皆、早くポーションで怪我を治しなさい。相手はまだ逃げていないわよ」
「ありがとう、助かったよ」
そうお礼を言いながら、全員立ち上がって怪我をした者はポーションを使って怪我を治す。
「だがやはり今の僕達ではこの魔物は……」
「怪我も治ったようだし、特訓を再開するわよ。特訓開始!」
怪我が治ったのを確認すると、アラドが弱音を吐いている言葉を遮って、ゼロは通路の端に移動し特訓開始の言葉を言う。それが合図となり、下がっていた魔物がまた襲いかかって来る。
「な!?」
アラド達は再度向かって来る魔物に対し、驚きながらも陣形を整える。流石に2度目となると少し硬さがとれていたが、急に強くなれる訳がなく、また全滅寸前まで追い込まれてしまった。
この特訓は朝から昼過ぎまで繰り返され、昼食の時間になったのかルナ達が戻って来たタイミングで階段に行き、休憩をとる事にする。
「流石は命懸けの特訓ね。あんた達の実力がかなり上がっているのが横から見てても分かるわよ」
ゼロは昼食を食べながらアラド達の成長具合を僕達に報告してくれる。その内容を僕達は笑顔で話しているが、肝心のアラド達は食欲が湧かない程疲れきっていた。
「ほら、ちゃんと食事を取らないと、今後の特訓に力が出ないわよ」
「ちょっと待ってくれ!? まだ続けるって言うのか?この訓練はいくらなんでも無茶過ぎる?」
今後の特訓、その言葉にアラドが代表して待ったをかける。どうやら全員同意見のようで、皆してこっちをジッと見つめている。
「何言ってるの。まだ魔物の数は1体よ。これから複数の魔物との戦闘訓練もあるんだから、さっさと慣れてくれないといつまで経っても地上に帰れないわよ」
「ふ、複数同時に相手をするって言うの?あんな強力な魔物相手に!?」
今後の予定を聞き、カレンは驚きを隠そうともせず、立ち上がって両目を大きく見開いていた。
「当たり前でしょ。絶対に1体しか出ない事なんて、ドラ〇エの一作目じゃあるまいし」
(おいおい、事実だけどゲームを対象に出すなよ……)
ゼロの例えは当然僕以外には通じなかった。だが止める気がない事だけは通じたようで、全員が肩が落ちるのが見えた。
休憩はカレンのMPが回復するまでで、どうせやらないといけないのならと、強引に食事を胃に流し込み、出来るだけ体力の回復に努める。
「今日の特訓はこれまでにしましょうか」
そろそろ日が落ちる時間と感じたゼロは、アラド達を連れて階段に戻る。昼からも特訓を続けた事で、勝つ事は出来なかったが、ゼロが割り込んで戦いを止める回数はだいぶ減っていた。
「最初はどうなるかと思ったけど、この調子なら明日には手を出す必要がなくなるかも知れないわね」
「ハーーー、やっぱり明日も続けるんだね」
アラド達はゼロがそう簡単に帰してくれない事は理解していた。なので深いため息を吐きながら諦めた表情をする。だが確かにこの訓練は効果が高く、無茶な方法の割に何故か全員無事という結果に、このチャンスを逃してはいけないと少し感じていた。
「ねえ、あのフレイムゴーレムに、何かしているの?他の魔物と違ってやけにゼロさんの言葉に従っているように見えるんだけど……」
「ふふ、何か私がやったように見えた?油断しないようにしなさい。私は何もしてないから、気を抜いていると怪我じゃ済まないわよ」
確かにゼロはないもしていないので、嘘はついていない。種をばらしても特訓の効果はあるだろうが、そうすると安心して真剣味が減るので内緒にした方が良いと判断した。
この特訓は終わりを見せずに続けられた。途中でアラド達の武器の消耗が激しかったのでグラムの店に何度か行き、ココアの所にも手に入れた素材を届けに行ったり、家の依頼などもしに迷宮を抜けだしたが、大半は迷宮に籠り続ける。
特訓の途中で何度か例の爆発に襲われたが、ゼロを含め、ルナ達もとくに気にしないで続きを再開していた。
そして3週間程過ぎた時には、アラド達の武器から防具までも一新されていた。実力も1体ならフレイムゴーレムに勝てるようになり、勝てはしないが2体までなら同時に相手を出来るようになっていた。
「これから地上に向かって帰るけど、あんた達に一言言っておく事があるわ。確かにあんた達はフレイムゴーレムを相手出来る程の実力がついた。けどそれは安全な戦いの中であって、死に物狂いに襲ってくる魔物との戦いではないの」
「いったいどういう事だい?」
ゼロの言葉の意味が分からず、アラド達は互いの顔を見てざわめき出す。
「簡単に言うと、あのフレイムゴーレムはあんた達に致命傷を与えるような攻撃が出来なくしていたの。方法は秘密だけど、薄々気づいていたでしょ?この魔物は何か変だと」
「た、確かに違和感には気付いていたが……」
アラド達に動揺が走る。今までの特訓で下層の魔物とも戦える実力がついた自信がついていた。それがまやかしだったかもしれないと、考えてしまったのだ。
「あ、でも勘違いしないでね。トドメを差さない以外の制限は掛けていないから、今のあんた達が戦ってもきっと勝てるわ。あくまで強くなるまで安全に戦ってほしかっただけだからね」
「だが……」
ゼロはつけた実力は本物だと言うが、アラド達は半信半疑に陥ってしまった。ルナはこの動揺している状態で戦うのは危険だと思い、18階層から地上を目指すのではなく、1階層から行ける所まで潜ってもらう方が良いと進言する。
その意見にゼロも納得し、僕達は一度地上に戻る事にした。




