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59話 ルナのトラウマ




 その様子をしばらく茫然として見つめていたが、視界が良くなるまで時間が掛かりそうだ。そんな中、下から何かが近づいてくる音が聞こえて来る。今まで経験した事がない事態が起こった後なので、全員が緊張して武器を抜き、身を構える。



「皆、大丈夫だった?」



 そんな緊張感もない僕の声を聞いた事で緊張が解け、息を吐いて肩に入っていた力も抜けていく。



「こっちはカナが頑張ってくれたから無事よ」


「……頑張ったの」



 ゼロの言葉にカナが胸を張って答える。



「よくやってくれたね。カナ、お疲れ様」



 平然としているようで、実は余裕がないカナの痩せ我慢が分かったので、僕は頭を撫でてあげて労う。



「……ん。嬉しいの」



 カナは満足そうに目を閉じて、僕の手の感触を喜んでくれた。



「さてと、いったい地上で何があったか説明してちょうだい」



 そんなゼロの方を見ると、ルナが座り込んでまだブツブツ何かを言っている。



「理由は分からないけど、カレンの家から帰る途中で急に暗殺者っぽい男達に襲われたんだ。そして2人を庇って僕が刺されたのをルナが見たら異常に怯えて泣きだしたんだよ。僕が何とか暗殺者達を拘束したんだけど、急にルナが過剰に反撃を始めたんだ」



「…それで、その暗殺者は?」


「全員の足が焼き焦げていたからポーションでも治らないかもしれないけど、血が出ていた訳ではないからすぐに処置すれば命は助かると思うよ。結構騒いじゃったから、すぐに町の人が集まると思うし」



 ポーションを怪我を治す事が出来るが、体の欠損部分を再生するまでの力はない。なので焼き焦げて再起不能になった足はきっと治らない。相手はこっちを殺そうとしてきたので、同情する気はまったくないが。

 


「アリサ、ルナがこうなってしまう心当たりを何か知らないかい?」


「………たぶん、父親が殺された時を思い出したんだと思う。ルナが子供の頃、目の前で父親が刺し殺されてしまったんだ。その時もルナを庇って……」



 この話はアリサにとっても思い出したくない事で、とても悲しそうな顔をして話してくれる。


 しかし、アリサの話で合点がいく。自分を庇った父親が目の前で死んでいくのを見てしまい、きっとルナの中ではトラウマになっていたに違いない。

 そして同じ状況になってしまった事で記憶が重なり、暗殺者を排除しないといけないと考えたのだろう。その実力があるルナは最後に行動に出たという訳だ。



「……アリサ…」



 辛い話をしてくれたアリサを心配して、ブランが抱きしめて慰めてあげている。



「…ルナ、僕は大丈夫だから。あんな攻撃で死んだりしないから、僕の姿を落ち着いて見るんだ」



 僕はルナの前で膝をつき、視線を合わせて話しかける。いまだ虚ろな表情で謝り続けているので、安心させてあげないといけないと感じた。



「ルナがお父さんを殺した奴を許せないという気持ちは、僕は本当の意味では分からない。なにしろ生前の僕は両親の顔も名前も知らないし、この世界では存在すらしないからね。だから気安く気持ちが分かるなんて言わない。

 ……でも、今の僕は家族とも言える存在が3人も出来たんだ。だからそんなルナを何度でも守る。そして僕は死なないと約束する。だからルナも信じて見てほしい」



 僕の声が聞こえていたのか、ルナの目から一筋の涙が流れ落ちる。



「それにゼロやカナも心配してるよ。だから早く帰っておいで」


「……ハヤテさん……ハヤテさん………」



 ルナは僕に抱きついて泣き出してしまった。



「今は好きなだけ泣くといいよ」



 僕はそのまま体を貸してあげて、ルナも人目を気にしないで泣き続けた。








 しばらく泣き続けたルナも、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。



「ルナ、落ち着いて聞いてほしい。君は暗殺者を攻撃した事を覚えているかい?」



 僕はこの事を言うかどうかを迷ったが、ここで誤魔化しても問題を先送りするだけと思った。そして今後も僕が攻撃される事はあるだろうし、ルナ自身もトラウマを乗り越える必要がある。



「………全て覚えています。私があの3人に過剰な攻撃をした事も……」



 ルナは俯いて震えながら落ち込んでいる。



「話は聞いたけど、今回のルナは殺されそうになったんだから、別に気にする必要はないわよ。ただ、今後の事を考えると、自分で乗り越えないと危険なのは分かるわね」


「それは…理解しています」



 冷静な行動が出来ないと、自分だけではなく、仲間にも被害が出るかも知れない事を理解している。実際ルナが使った魔法の範囲に僕も入っていたし、庇わなければカレンも攻撃を受けていたのだ。


 そしてルナは申し訳なくて、皆の顔を見れないでいる。



「本人が分かっているなら問題ないわ。それにここは迷宮の下層だから、周りに被害を与えないで練習出来るからちょうど良いわ」


「……特訓なの」


「僕も協力を惜しまないよ」



 落ち込んでいるルナを励ます意味の含めて、2人はあえて明るく話をする。そのおかげで少し表情が柔らかくなったようだ。


 ちなみにゼロが言う練習というのは、僕が故意にダメージを受け、それを見て冷静さを保つと言うものだ。これには僕が傷を負った時の体を維持する練習にもなるので、一石二鳥だ。



「………ところで私からも色々聞きたいんだけど、いい?」



 僕の暴発やらルナの錯乱を目のあたりにしたなど、いろいろあって何も言えなかったカレンが声を上げる。



「んー………僕が答えれる範囲なら」



 カレンが質問してくるのは想像がついていた。あれだけいろいろあったのだから、当然と言えば当然なので答えてあげる。


 だが質問してきた内容で答えてあげれたのは、ルナが使っていた不可視の魔法だけだった。僕が剣に刺されて無事だった理由と爆発の理由、漆黒の右腕とカレンを持ち上げたゴーストハンドの事、それと魔法が封じられていたのにルナが魔法を使えた事に対する質問には答える事が出来なかった。



(ルナが魔法を使えたのは僕の傷口から大量の魔力が漏れ出したせいで、魔法封じの魔導具の効果を押さえ込めただけだけどね)



 暗殺者が使っていた魔法封じの魔導具は、使用者の魔力を飛ばして魔法を発動させないようにする物だった。つまり僕がカレンの魔法を押さえこんだ方法と同じなのだ。だからそれ以上の魔力を浴びせる事で効果を失い、魔力の波長が同じルナだけが魔法を使えたと言う訳だ。





「……ほとんど秘密じゃないの。これじゃ答えた事にならないわ!」



 カレンはほとんどが「答えられない」という回答に不満そうで、僕を睨んで怒鳴って来た。



「そうは言われても、冒険者が自分の手の内を晒す物じゃないでしょ?悪いけど、いくらカレンの頼みでもこれ以上は答えれないよ」



 しかし僕の言った正論に、カレンは睨んだまま何も言えなくなってしまう。



「さ、話はこれで終わりでいいわね。今日はいろいろあったし、さっさと寝ましょう」


「いや、まだ聞きたい事がある」



 ゼロが話を切り上げて全員に寝るように勧めたが、それに待ったをかけたのはアリサだった。アリサが聞きたい事、それに心当たりがある僕はすぐに行動にでる。



「ハヤテ、お前は……」


「ルナ!ちょっと地上に用事があった事を思い出した!一度外に出るよ」


「な!?ちょっと待て!」



 僕はアリサの話を切り、すぐさまルナを連れて転移する。アリサは突然の事に反応出来ずに、悔しそうな顔をしていた。



(これは…次に会った時には覚悟をする必要があるな)











「とりあえず家に着いたけど……なんか外が騒がしいな」



 慌てて家に戻って来たが、既に深夜なのに家の外が騒がしい。日本と違って街灯などはほとんどないので、日が落ちると同時に町は静かになるのだ。

 しかし家の外から複数人の声が聞こえて来るので、不思議に思った。



「……おそらく私が起こした事が騒ぎになっているのかと…」


「あー、あの暗殺者達か。ま、僕達はそんなに気にしないで良いんじゃないかな。なにしろ被害者で正当防衛をしたにすぎないからね。でも、あの連中がどうなったかを確認しとく必要はあるな」

 


 暗殺者がとぼけて無罪放免になり、逆恨みで攻撃されるのは御免だ。なので状況を確認し、場合によっては手を汚す覚悟もする。


 ルナはやや気が進まないようだが、僕は説得し状況を確認するべく家を出た。








 家の出て少し歩くと人だかりが出来ている。その場所はやはり僕が刺された所で、何故かルドルとリーザがいた。少々不思議に感じたが、声をかける事にする。



「どうしてギルドマスターとリーザがここにいるんですか?」


「あれ、ハヤテさんと……ルナちゃん?」



 僕の背中に隠れてルナが顔を押し付けるようにしていたので、少し心配そうに聞いて来た。



「ちょっと事情があってね。それよりリーザ達はどうしてここに?」


「私は帰る途中だったんですけど、ここで女の子の叫び声が聞こえたので駆けつけたんです。そしたら怪しい男達が大怪我をしていて、その周りに人が集まっていたので、とりあえずルドルさんを呼んだんですよ」


「まあ俺がここに来たからって何も起こっていないんだがな。なにしろ男達の両足は普通の治療薬では再生不能で動けない状況、ポーションを使ってやっと話が聞ける状態になったばっかりだ」



 そう話したルドルの後ろには、手を縛られ目を隠されている男達がいた。自分達の足では移動が出来ないので、木材を運搬した時に使っていた台車に乗せられて。



「……やっぱり両足は駄目でしたか。それで何か話は出来たんですか?」


「やっぱり?。………ふー、そう言う事か。今はまだ落ち着きを取り戻したばかりだから何も聞いていない。ギルドに連れて行ってから詳しい話を聞くつもりだ」



 ルドルはある程度事情を把握したようで、ため息を吐きながら現状を説明してくれた。僕も隠すつもりはないので、とくに気にしないで話を続ける。



「そいつ等は今後どうなる予定なんですか?」


「軽く調べた結果、こいつ等は暗殺集団のグループ員だ。だが両足を失ったこいつ等はもう使い物にならないだろうから、再度狙われる心配はないだろうがな」


「そうですか。僕達は数日間迷宮に籠るので、帰ってきたらギルドに顔を出します」


「出来ればそのまま一緒に来てほしいんだがな。ま、被害者が分かっただけでも十分か」



 そう言ってルドルは男達を連れて、ギルドに向かって歩いていく。



「それでは私も失礼しますね。でも、あまり無理はしないでくださいね」



 そうしてリーザも家に帰り町の人達もいなくなって、町に静寂が戻る。



「それじゃあの連中の今後も分かったし、僕達も迷宮に戻ろうか」


「そうですね。あまり遅くなるとお姉ちゃんが心配するといけませんので」

 


 そうして僕は人化を解き、ルナに抱かれて迷宮に帰っていく。



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