57話 カレンVSハヤテ
本日3回目の投稿です。
「つまり最初から2日間の予定で来たと?」
アラド達は今回の探索を日帰りだと思っていたようだ。
「そりゃそうよ。ここまで来るのに日帰りなんて………不可能じゃないけど面倒でしょ?」
「面倒って………確かにここまで来るだけで一日経っているから、素材集めの事を考えるなら日を跨ぐのも理解できる。だが…」
アラドはチームのリーダーとして、仲間を危険に晒していると考えてどうするか悩んでいる。だからと言って、こんな下層から凶暴化した迷宮を抜けて地上に帰る事は出来ないのだ。
「どうします?一度地上に帰るなら送りますけど?」
「送るって………さっきの転移の魔導具か!?」
ルナが困っているアラドの内容に気付いたのでどうするか質問すると、帰る手段に心当たりがあったのを思いだし、ハッと顔を上げた。
「はい。なんなら今日は帰ってもらい、また明日の朝にでもギルドに迎えに行く事も出来ますが」
アラド達にもし帰らないといけない理由があり、それでも立ち行った事のない階層を経験したいなら迎えに行くと打診してあげたのだ。
「それならリリカとカレンだけでも……」
「ちょっと待ってくださいお兄様。私も冒険者として、迷宮の下層を見てみたいと思います。それに野宿の経験も必要だと思います」
「私にもそんな気使いは必要ないわ。冒険者に必要な経験は早いうちにしておいた方が良いに決まっているもの」
アラドは年齢の低い2人を帰そうと考えたのだが、リリカとカレンはきっぱりと断る。そんな2人は確かに冒険者の顔をしていた。その表情を見たアラドは自分の考えの浅はかさを恥じた。
「君達の気持ちは分かった。…だがカレン、君はウェルダーさんに今日は帰らないと伝えていないだろ?だからせめて一言伝えに戻った方がいい」
「確かにそうね。無駄に親を心配させる事は感心しないわ」
アラドの言葉にゼロも同意する。
「なら私が一緒についていきましょう」
親に伝えていないのは確かで、心配させたくない気持ちもあるので3人の言葉にカレンは素直に頷いた。
そして僕を抱いたルナとカレンは一瞬のうちに転移して消えてしまった。
「転移するとこうやって消えていたのね。確かにこれは知らない人が見れば驚くわ」
「……町中で使ったのは軽率だったの」
リリカの言葉と落ち着いて転移する所を見た2人は、今更ながら町中で使った事を反省している。しかしそんな2人を見る周りの目は、「何をいまさら」と訴えていた。
「さて、ここは私の家ですので、急いでカレンちゃんの家に帰りましょう」
「…別にそこまで急ぐ必要がある時間じゃないわよ」
ルナの言葉にカレンはそっけない返事を返したが、実は地上に一瞬で帰って来た転移に驚いていて、落ち着く時間が欲しかっただけだった。
「それにしても転移の魔導具は凄いわね」
「もちろん魔導具も凄いですが、何度もこの魔導具を使えるのはハヤテさんのおかげですよ。あ、そうだ。すみませんがカレンちゃん、先に家の外で待っていてください」
「え?…別に構わないけど…」
突然の事で理由は分からなかったが、着替えでもするのかと思い素直に従い家を出る。
「それではせっかく町に帰って来たんですから、ハヤテさんは人化してください。一緒に歩きましょう」
「わざわざ人化する必要は…」
僕はルナがカレンを追い出した理由を理解した。
「駄目です。町を歩く時は人化しないと話が出来ません」
「でも…」
「駄目です」
ルナは笑顔のまま一歩も引かない。
「もう町は夜なんですから、頼りになる大人の男性が一緒にいた方が良いに決まってます」
ここに来て突然の正論で、僕はこれ以上否定出来なくなってしまった。
「……………分かったよ。僕の負けだ」
そう言って僕は諦めて人化を行い、ルナは当然のように腕に抱きついて家を出る。突然、僕を連れて家から出て来たのでカレンは驚いていたが、ルナが笑顔で腕に抱きついているのを見たら何も聞けなくなかった。
これはアリサとブランのピンク色の空気に当てられ続けた結果で、話掛けたらこっちに惚気話が来ると思い、避けるようにしているのだ。
「お父様。話があります」
「こんばんわ。夜分にお邪魔します」
ウェルダーの家に着いた僕達は、カレンを先頭にして家の中に入っていった。
「これはこれは、ルナ君も一緒にいったいどうしたんだ?それに彼は?」
ウェルダーは自室の机の上で書類をまとめている。そんな彼は見た事がない男の存在が気になった。
「その男の事はルナの彼氏だから気にしないでいいわ」
「彼氏じゃありません。夫です」
ルナはすぐにカレンの言葉が違うと訂正する。
「…それもどうでもいいわ。それより今日は冒険者として迷宮に泊るから心配をしないで、それを言いに戻ってきたのよ」
「ん?何を言っているんだ。現にお前はここにいるじゃないか?」
「説明しても信じてもらい難いんだけど、ルナが転移の魔導具を持っていて、特定の場所だけど一瞬で移動が出来るの。だから私の仲間もルナの仲間もまだ迷宮にいるわ」
「転移の魔導具を………」
流石はこの町の防衛隊長だ。魔導具の知識も多いのだろう、転移の魔導具と聞いても軽く驚く程度で平静を保っていた。
「……お前の話は分かった。ルナ君、私に心配させない為に大量のMPを使わせて悪かったね。これから戻るのにも大量のMPを使うだろうが、迷宮ではゆっくり休んでから探索の続きをしてくれ」
「?。お父様、大量のMPってどういう事なの?」
ウェルダーは他の転移の魔導具に心当たりがあるようで、その使用MPも想像がついているようだ。しかしカレンは何を言っているか分からないようで、首を傾げて聞いて来た。
「なんだ、ルナ君から聞いていないのか。転移の魔導具はその強力な効果から、1人転移するのに100以上のMPを消費するんだぞ。だから2人で往復するのに400以上のMPを使うんだ」
「そんなに!?じゃああの時は…」
話を聞いてカレンはその消費量に驚いていた。そして10階層から転移した時の人数……7人を一気に運んだ事を思い出して更に驚いてしまう。
「そう言う事だから、お前もルナ君にちゃんとお礼を言うんだぞ」
「え、ええ、ちゃんとお礼を言っておくわ」
言っておく、その言葉の使い方に少し引っ掛かっているようだったが、お礼は言うと言っているのでとくに気にするのをやめたようだ。
「まあ、伝える事も伝えたし、迷宮に帰る事にするわ」
「怪我をするな、と、無茶な事は言わないから、無事に帰ってこいよ」
「私は後ろで、しかもルナのそばにいるから大丈夫よ。明日には帰って来るから、詳しい話はその時にするわ。それじゃあ、行ってくるわ」
それだけを伝えて、カレンに連れられて僕達は家を出る。
「それでは戻りましょうか」
家を出て、外は月明かりしかない暗闇だったが、用心の為に人目のない事を確認してからルナがそう言った。
「ちょっとその前にルナに質問があるの」
「……ハヤテさんは譲りませんよ?」
「そう言う事じゃないから……。さっきのお父様の話で、転移の魔導具には大量のMPが必要と言っていたわよね。…私達が10階層から17階層まで転移した時の魔力は、どこから用意したの?」
「…その事ですか、それはいくらカレンちゃんでも秘密です」
家の前で話すのも変なので、とりあえず歩きながら会話をする事にする。だけど僕の事を話さないで説明するのは不可能なので、ルナは秘密で突き通すようだ。
「やっぱりそう言うと思っていたわ。それならそっちのハヤテさんはルナのチームメイトなんでしょ。何が特技なの?」
ルナが教えてくれないのは想定内のようで、次の質問をしだす。
「僕の特技?……なんだろう、魔法は使えないし武器も扱えないから……魔力操作ぐらいかな」
「魔力操作って、魔力撃を使えるって事?」
どうやら攻撃力の無さを魔力撃で補っていると思ったようだ。
「違うよ。魔力撃は練習中だけど今は使えない。体内の魔力を移動させるだけだよ」
「なにそれ?つまり今は何も出来ないって事?」
「まあ僕にはあまり攻撃力はないね」
そんな風にとくに気にしていないように普通に話す僕を、冷めた目でカレンは見て来る。
「………あんたは実力もないのにルナ達に寄生するつもりなの。ルナもこんな奴と付き合うのはやめた方が良いわ」
「それは……」
そう言われるのは覚悟していたとはいえ、面を向かって言われるとショックが大きかった。カレンはルナを尊敬している。なのでそんな彼女と実力もないのにつきあっている僕は、足を引っ張る悪い虫にしか見えなかったのだろう。気持ちは理解できるので、何も言えなくなってしまった。
そのせいで僕の表情が暗くなった事をルナは敏感に感じ取る。
「カレンちゃん。いくら貴女でも、ハヤテさんを侮辱するのは許しませんよ。彼は普通に戦える力がないだけで、例え私達3人が本気で挑んでも勝てない実力者なんです。そして優し過ぎるのでカレンちゃんに何を言われても、黙って受け止めてしまう。
ですのでハヤテさんを馬鹿にする人は私が許しません!」
ルナは叱るように怒っていた。しかしルナがどんなに評価していても、見た目が平凡で戦っている所も見た事がないカレンにとっては、とてもじゃないが信じらる話ではない。
「いくらなんでもルナ達3人より強いなんて、とてもじゃないけど信じられないわよ!」
「そりゃそうだ。僕が周りに被害を出さないで戦うなんて出来ないからね。でもルナ達がピンチの時は何があっても助けるよ。例えその相手が神だとしてもね」
僕はカレンに強さの証明をするつもりはなかったし、弱いと思われても別に構わなかった。ただ普通に戦える力が必要になる時、ゼロが殺された時のような無力感を感じるのは嫌だと思っているので、前以上に魔力の使い方を鍛えてはいる。
「そんなカッコいい事を言っても、出来ない物は出来ないのよ。それに今は寄生している事に変わらないじゃない!だいたい冒険者になら、何で一緒に迷宮に潜らないのよ」
「それは……」
「ならカレンちゃんがハヤテさんと戦って見てはどうですか?カレンちゃん程度なら、無傷で制圧する事が可能です。それでハヤテさんの実力を体感してみれば、寄生なんて言葉は言えないはずですね」
「私程度!?……確かに私の実力はまだまだだけど、ルナに教えてもらった魔法を使えば怪我じゃ済まないわよ!」
突然のルナの挑発とも言える提案に、カレンも怒った表情で過剰に反応する。経験は少ないとはいえ、自分の鍛えている魔法に自信を持ち始めていたのだ。
「それなら早速始めましょうか。ここはちょうど広いですし、カレンちゃんが距離をとるのに十分でしょう」
「こんな町中で魔法を使える訳がないじゃない!せっかく復興が進んでいるのに、また火事になったらどうするのよ!」
カレンの魔法は火属性。そして広範囲に影響を出すファイヤーボールが得意なので、町に被害が出る事を心配するのは当然だった。しかしルナはまるでその事を心配する様子も見せず、話を続ける。
「町への被害なら心配しないでいいです。カレンちゃんが故意に町に向かって魔法を放たない限り、周りに被害が出る事はありませんから」
「な!?良いわ。ルナもいる事だし、火事になってもすぐにどうにか出来るでしょうから、全力でやってあげるわよ!」
「あのーー…別に僕は弱いと思われても構わなんですけど……」
完全に僕を置いて話が進んでいる。
「さあ戦うわよ。火傷をして死んでも、恨まないでよ!」
僕の言葉は無視されて、カレンは距離をとる為に離れて行く。
「ハヤテさん、ちゃんと手加減してくださいね」
ルナも乗り気になっているようで、止める気はなかった。そうして本人の望まない戦いが始まってしまった。
「それじゃ、行くわよ。ファイヤーボール!」
何の合図もなく、突然カレンの魔法が僕に向かって放たれる。まだルナが隣にいるのにも関わらずにだ。
「っ!?ルナがまだいるのに!」
僕は慌ててゴーストハンドの準備を始める。そんな横でルナは何の準備をしないで、まったく怯える事も無く、僕を信じて見つめている。
(信じてくれるのは嬉しいけど、そこまで無警戒はどうかと思うよ)
そんなルナを横目に僕は、向かって来るファイヤーボールをゴーストハンドで覆い尽し、空中で受け止める。
「うそ!?」
その様子を見ていたカレンは、目を見開いて驚く。カレンの目には、僕の手の先で火の玉が破裂もしないで動きを止めてしまったからだ。
僕の操作術はイメージがメインなので触りたい物を触り、通したい物を通す使い勝手の良い物だ。そしてゴーストハンドの中身は魔力で出来ている。なので火の玉をゴーストハンドの中に閉じ込めると、僕の魔力に包まれカレンの魔法は抵抗もなく止まってしまう。そして僕の高濃度魔力に覆われた事で、火の玉はしばらくして消滅してしまう。
これを僕は魔力障壁と呼んでいる。強い魔法使いには弱い魔法によるダメージが減少する事をリーザに聞いていたので、それを参考にしたのだ。どうやら他人の魔力とは混ざらないが、物理的な反発も起こらないので僕みたいに魔力が大量にある人にとっては、魔法に対する強力な盾となる。
「…これで終わりでいいかい、カレン?」
「まだよ!」
そう言ってカレンはスピードの速い火の矢を放ってきたが、同じように受け止めて消し去ってしまう。その後も次々と魔法を放ってくるが、その全てを消し去り、僕は徐々にカレンに近づいて行く。
「何で!何で魔法が消えるのよ!」
「これで終わりだよ。もう降参してくれ」
僕はカレンの肩を優しく掴んた。
「何なのよ、あんたは!魔法が効かないなんて反則じゃない!」
完全敗北。一度も攻撃はされなかったが、全ての攻撃を完全に封殺されてしまったのだから、カレンも認めるしかなかった。
「言いましたよ。ハヤテさんにカレンちゃんは勝てないと。もちろん守りだけではありません、町の外に出来たクレーター…あれを作ったのはハヤテさんです。ただ手加減が出来ないので、優しい彼は人に使えないだけです」
「そんな……普通の冒険者がそんな事出来る訳ないでしょ」
ルナの話を信じられないカレンは戸惑ってしまう。実際のクレーターを見ているのでその破壊力を知っているのだ。
「方法は秘密ですが全て事実です。さて、カレンちゃんはハヤテさんに謝ってくださいね」
「く!?……ハヤテさん、馬鹿にしてすみませんでした」
ここまで完全にやられた以上、僕の実力を認めない訳にはいかないのでカレンは素直に謝ってくれる。そして相当悔しかったのか、目には涙を貯めていた。
「それではカレンちゃんもハヤテさんを認めてくれた事ですし、そろそろ迷宮に戻りましょうか」
「そうだね。あまり遅くなると、ゼロ達が心配するといけないからね」
「私も迷宮に戻って明日に備えるわ。そして腕を磨いて、次こそはあんたをギャフンと言わせてやるわ」
どうやらカレンはまだ戦う気力があるようで、リベンジ宣言してきた。分かっていたが、相当負けず嫌いだ。
そんなカレンの話を笑いながら聞いていと、また怒ったような反応をしたので面白いなと思ってしまう。
しかしそんなほのぼのした時間は突然終わりを告げる。




