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55話 服従のココア



「いらっしゃいませ。今日初めてのお客さんのご来店!」



 頼んでいた防具を受け取りに、ココアの店に来たルナ達一向。開口一番の悲しい言葉を聞いて、本気で店の心配をしていた。



「相変わらず客がいないみたいね、ココア」


「なんだ、あんた達だったの。何?またレア素材を持って来てくれたの?」



 別にお客ではない事もないのだが、顔見知りでレア素材を持って来てくれる相手という事で、どちらかと言えば素材の提供者と思われているようだ。



「違うわ。私達の防具をくれる約束があったでしょ。それを貰いに来たのよ。…って言うか、あれだけあった素材をもう使ってしまったの?」


「もちろんすぐに使い切ってしまったわよ。あれから昼夜も問わずに作業したから、もう全部防具になっているわ。ほら」



 そう言って指を指された方を見てみると、赤色のいろいろな防具が並べられている。そして良く見ると、ココアの目の下に隈が出来ていたのだ。



「お、おい。あれって下層で手に入る魔物の素材で出来る装備じゃないか?」


「ええ……実物を見るのは初めてだけど…おそらく本物よ」


「あれが下層の装備……」



 その装備を見たブランとアリサ、リリカは、滅多に市場に出回らない装備を見て驚いていた。



「あれ?今日は連れが多いのね。同じチームなの?」


「1人は元だけど、今は弱者の盾ってチームのメンバーよ」



 いつもの3人に加えて4人多くいたのに気が付いたココアに、ゼロが順番に紹介してあげる。



「それよりあそこに置いてある装備は売り物なのか?」



 どうやら自己紹介よりも飾られている防具の方が興味を引いたらしく、ブランは防具の前で問いかけてきた。



「ええ売り物よ。ココア特製の出来たてホヤホヤの新作よ!」


「マジか!まさかこんな店で下層の防具が売ってるなんて、思いもよらなかったぞ」


「……こんな店って…」



 ブランの失礼な発言にココアは少しショックを受けていたが、客のいないのは自覚しているのでダメージは少なかったようだ。そして売り物と聞き、アリサ達3人が展示されている防具に釘づけになってしまった。


 

「だがブラン……下層の装備となるとお金が……」


「う!?…確かに手持ちのお金じゃ足りないよな…」


「私も………」



 しかしアリサの一言で現実に帰ってしまう。中層までを活動範囲としているチームなので、下層の装備を買うほどの手持ちはなかった。それを思い出したので、3人はガッカリして装備を羨望の眼差しで眺めるだけにしようとする。



「あんた達、この子達の知り合いみたいだし、そこに置いてある装備で欲しいのがあったら安くするわよ?」


「安くってどれだけですか!?」



 ココアの言葉にリリカが食い付いた。



「そうね……1つ10万ゼニーでいいわよ」


「1つ10万!?何でそんなに安くしてくれるんですか!」



 10万ゼニー、これは下層の素材を使った装備の値段にしては破格の安さだ。普通の中層で持つぐらいの装備がだいたい5万前後で、中層の魔物の素材を使った物で10万近くしてしまう。

 そしてそんな価格で売ってくれると言われて、リリカはビックリしていた。



「この防具の素材はあの子達が用意してくれた物だからね。だからあの子達の知り合いなら素材代はオマケしてあげるわ」


「流石師匠ですね。………では私はこの篭手を」



 理由を聞いたリリカは、早速展示されている篭手を持って来た。指先まで保護している篭手で、赤い鱗がビッシリと取りつけられている。



「火トカゲの篭手ね。それならサラマンダーの火が手に当たっても大丈夫よ」


「そんな状況にはなりたくないですけど………良い防具です」



 ココアの話に少し引いていたが、篭手の出来栄えに満足そうに触っている。



「なら俺はこれだ」


「私はこれね」



 ブランはヒートロックアーマー、アリサはフレイムバックラーを選んで持ってきた。



「2人はそれでいいのね。………どうやら全員、自分に合う装備を選んだようね。もし転売なんか考えた物を選んだら、話は無かった事にしてやったけどね」


「こんな装備を買えるチャンスなんて無いからな。そんな一時的な儲けより、命を守る装備の方が大事だ」


「よく言った!それこそが防具の役割よ!」



 ココアはブランの言葉に嬉しそうに頷いている。



「ところで、君が勝手に値引きして大丈夫なのか?ここの主に怒られたりしないかい?」


「………まあ、そういう反応が普通よね。安心しなさい、私がこの店の主で防具の製作者よ」


「「「 え!? 」」」



 堂々と胸を張って宣言したが、どうやら3人とも見た目が子供のココアがこの店の主だとは思っていなかったようで、新装備に目が行っていたのに同時に振り向いて驚いていた。



「貴方達がそこまで驚く事はないんじゃない?この子達の知り合いなんだから、こういう体型の大人がいても不思議じゃないでしょ?」


「それはそうだが……」


「それにココアはグラムの奥さんよ」


「な!?グラムの奴、ロリコンだったのか!ルナ、あの店は危険だ!」



 ゼロの追加情報を聞いて、アリサはルナの身の危険を訴えてきた。



「大丈夫です。私達はハヤテさん一筋ですから!」


「………それはそれで心配なんだが…」



 ルナは力一杯宣言したが、その事はアリサの心配事の1つなので、ガックリと肩を落とす。



「安心しなさい。グラムは別にロリコンじゃないわ。ココアが迫って半ば強引に夫婦になったみたいだからね」


「だからって仲が悪い事はないわよ。夫婦生活も含めて、円満なのよ」


「そ、そうか……。私達もそんな関係になりたいな」


「なりたいじゃないぞ。なるんだ」



 ココアの惚気話を聞いて、アリサとブランも仲良くやろうとピンク色の空気を出し始めていた。その空気にリリカとカレンは距離を置いて、乾いた目で眺めている。



「なんだ、貴方達はそんな関係だったのね。……ならこれをプレゼントしてあげるわ」



 そう言って持ってきたのは赤い腹巻だった。



「赤ちゃんが出来たらお腹を冷やしちゃ駄目だからね。これを着けるといいわ」


「流石にまだ早いが……ん?やけに温かい腹巻だな」



 アリサは受け取った腹巻の温かさに不思議がっていた。手に持った瞬間、不自然な温かさを感じたのだ。



「これはレットバタフライの羽とフレイムロックの鉱石を混ぜた物を、毛糸と一緒に編み込んだ腹巻よ。ほんとは自分用の予備だけど、私はまだできないからね」


「私もまだだけど………って言うか!?なんで下層の貴重な素材で腹巻を作ってるんだ!」


「あー…さっき言った2つを組み合わせるとね、その比率によって発熱する素材が出来たのよ。それを色々試した時のあまりを利用して作ったのよ。勿体ないでしょ?」



 さっきまで怒鳴っていたアリサも、実験のあまり素材ならと納得する。しかしその言葉に反応した者達もいた。



「ココア、今の話は本当なの?」


「今のって、発熱する素材の話?それなら本当よ。と言っても触って温かいから水が蒸発するぐらいまでの振り幅しかないけどね」



 その話を聞いて、ゼロ達以外にリリカも食い付いてきて……



「それを使ってお風呂を作って!」

「浴槽を作ってください!」

「……お風呂を作るの」

「グラムさんに素材を渡して槍を作るように頼んでください!」



 4人が同時にココアに頼み込んでいたが、その内容にかなりの開きがあった。



「ちょっと待ってください師匠。なんで貴重な素材を使ってお風呂なんですか。冒険者なら武器を作ってもらうべきでしょうに」


「いいえ、いつでも快適な温度を保てるお風呂こそ、今の私達が求めている物の1つよ!なにしろ……」



 リリカの正論に対して、ゼロはお風呂の大切さを力説する。その説明にルナとカナも同じ意見のようで、頷いて同意していた。



「ちょっと待ちなさいよ。私はお風呂屋ではないし、いくら夫が武器屋だからって、貴重な素材を分けるなんて私は嫌よ」


「そんな~……」



 リリカは燃えるような熱い槍が出来るかもと期待していただけに、かなり落ち込んでしまう。しかしゼロがそんな事で諦める訳がなかった。



「風呂を作れとは言わないわ。こちらの希望する温度の素材を作って渡してくれるだけでいいの。あとは専門の人に頼むから」


「だから、私が他の人にレア素材を渡すのが嫌だって言っているのよ」


「なるほどね……なら仕方がないわね。今後手に入った素材は、別の店に持ち込んで研究してもらうしかないようね。残念だわ~、今後別の迷宮で手に入った素材もここに持ってこようと思っていたのに……別の人に渡さないといけないなんてね~」


「え?ちょ、ちょっと待って、別の迷宮のレア素材?」



 ゼロの話を聞いて、ココアに明らかな動揺が見える。



「いいのよ気にしないで。そうよね。手に入った素材を他人に任せるなんて出来ないものね。その気持ちはよ~く分かるわ」


「ゼロ様。このココア、貴女の要求する温度の素材を作り、希望の浴槽を作る事を約束します」



 ゼロの脅しとも言える話に、まるで服従したかのようにココアは膝をついて約束してくれる。



「なので、今後もココアの店にレア素材の提供をお願いします」


「フフ、分かればいいのよ。素直な子は好きよ」


(……それが女神のやる事かよ…ゼロ…)



 このやり取りを僕は呆れて見る事しか出来なかった。



「あんた達は相変わらずね…」



 カレンはそのやり取りを見て、変わらないルナ達の行動を呆れて眺めていた。






 浴槽を作って貰える話は着いたが、既に渡した素材は加工済みなので、新たに取りに行く必要があった。



「師匠、羨ましいです」



 ココアとの交渉を成功させたゼロを、リリカは羨ましそうに眺めている。



「そうね……別に余分に素材を取って来ても良いんだけど、冒険者として甘やかす訳にはいかないわね。………よし!。リリカ、あんたは明日私達と一緒に迷宮に潜って、素材集めを協力しなさい!」


「師匠と一緒に迷宮ですか!…良いのですか?私では足手まといになりますよ」



 少し前にゼロが鍛えたと言っても、リリカはまだ実力が低い。その事は自分が一番理解しているので、嬉しいは思っていても素直にこの話を受ける事が出来ないでいるのだ。



「あんたのそういう慎重な所は長所であり短所ね。冒険者なら少しぐらいは我儘にならないと駄目よ」


「でも…」


「なら俺達も協力しよう」


「そうだな。ルナ達のおかげで良い防具が買えたんだ。少しぐらい手伝っても問題ないだろ」



 いまだ踏ん切りがつかないリリカに、ブランとアリサも協力すると言ってくれた。



「なら私も参加するわ。ルナ達と迷宮に行くなら、危険もないだろうしね。護衛対象の仲間が迷宮に潜れば、リリカも悩む必要がないでしょ?」


「カレンちゃん……ありがとうございます。師匠、明日の素材集めに協力させてもらいます」


「なら明日はギルドに集合ね」


「分かりました。早速戻って準備をします」



 リリカはそのままの勢いで店を出て帰って行ってしまった。



「あーあ、張り切っちゃって。ま、私達も準備が必要だから帰るとするか。ルナ、あの男がまた顔を出したら、私の所に来るように伝えるんだぞ。あいつの気持ちを聞きださないといけないからな」



そう言って僕に釘を刺す為の伝言を頼み、アリサ達も帰って行く。



(……アリサの前では、今後、人化するのを控えよう…)


「それじゃあ、私達も帰りましょうか?」


「……まだ防具を貰ってないの」


「あ!そうだったわね。ここに来た理由を忘れてたわ」


「私も渡すのを忘れていたわ。ちょっと取って来るから待ってて」



 防具の事はココアも忘れていたようで、店の奥に入って行き胸当てを持って帰ってきた。



「これが2人の新しい胸当てよ。両方ともフレイムロックの素材を使っていて、ゼロには赤のままでカナには黒が似合うと思って色を染めておいたわ」


「……見た目より軽いの。……それでいて前より硬そうなの」


「確かに動きの邪魔にならない作りだし、軽いわね」



 カナはその胸当てを軽く叩いて強度を確認して、ゼロも早速装備して動きやすさを確認する。



「フレイムロックの素材は熱に強いだけじゃなくて、強度も鉄よりあるからね。防御力も上がっているわよ」


「……満足なの。ココア、良い仕事をしたの」


「その言葉は職人にとって最高に嬉しいわね」



 2人の満足そうな顔を見て、ココアも嬉しそうにしていた。



「じゃあ、また素材が手に入ったら持って来るから、お風呂の製作を忘れないでね」


「浴槽のサイズにもよるけど、結構な量が必要になるだろうから、多目に持ち帰ってきてね。余った分は私が有効活用してあげれるわ!」


「あんたも相変わらずね。まあ良いわ。それじゃ、またね」



 ココアの言葉に笑って答えたあと、預けていた素材箱を回収して店を出る。



 そして今日のやる事を終えた一行は、帰りに食事を済ませてから家に帰った。


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