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54話 人化は姉の前では…


「……2人共、そろそろ離れて歩こうか?」



 冒険者登録を終えた僕達は、視線が厳しいギルドを出て町を歩いていた。しかしその町中でも僕は居心地が悪い。通り過ぎる人達が、僕をチラチラ見て来るからだ。


 僕を見ている視線の原因は分かっている。………それは両腕に抱きついている2人だ。しかも少し顔を赤く染めて満面の笑みをしている2人とは、顔や髪の色が全然違うので最後の望みであった兄妹にも見えず、周りからの視線が痛かったのだ。



「嫌です」

「……嫌なの」



 流石に気拙いので何度か2人に離れるように言ったが、答えは決まって「NO」と即答だった。



「はー…今日はもう帰ろうか…」



 僕はこれ以上何を言っても無駄たと悟り、離れて貰うのは諦めて人目のない家に帰ろうとする。



「その前に頼んでいた武器を取りに行きましょう。この初心者用のナイフは使い難いのよ」


「……私もハンマーが気になるの」


「私はもう少しこのまま歩きたいです」



 結果、僕は諦めてグラムの所に行く事にした。



(それにしても……やっぱりこの体には神経が通っていないな。2人の体温を全然感じないよ)



 周りの視線は痛いが、それでもせっかく腕を抱いてもらって歩いているのだからと思っても、感覚がまったくないので嬉しさが半減だった。








 

「グラムー、頼んでいた武器ってどうなってる?」


「おお、お前達か。ちゃんと出来てるぞ。それに会心の出来だ!」



 どうやらゼロの短剣と、カナのハンマーの製作に満足いく物が出来たようで凄く気分が良さそうだ。



「あれ、ルナじゃない。久しぶりね」


「師匠、お久しぶりです」



 ゼロの声に気付いたのか、商品の槍を持っていたリリカとそれを見ていたカレンが声をかけてきて、その奥にはアリサとブランもいた。



「カレンちゃんにリリカさん?それにお姉ちゃんとブランさんもどうしたんですか、こんな時間に?」


「私とブランは付き添いよ。アリサとリリカが新しい武器を買いたいと言ってたから、今後の為に様子を見に来たのよ」


「………それよりルナ。そいつは誰なんだ?なんでそんなに引っ付いているんだ!」



 カレンが声をかけた事で僕達の存在に気が付いたアリサがこっちを見たと思ったら、ルナ達がしている行動に怒って一直線に目の前まで来る。



「私の夫であるハヤテさんですよ?」


「ちょっとルナ!?その説明は拙いって!」



 ルナがアリサに何事もないように言うものだから、僕は慌てて止めに入る。ルナは何度も僕のお嫁さんと言っていたが、それはぬいぐるみの姿の時であって人化している状態では始めてなのだ。なのでアリサの表情は一気に怒りに染まっていく。



「……ハヤテの言うとおりなの。……ハヤテは私とゼロの夫でもあるの」


「ちょっと!?なんでこいつが私の夫なのよ!」


「ゼロさんは照れ屋さんですから…」


「なんでそんな考え方になるのよ!」



 ゼロは2人に攻められて完全に劣勢だ。だが今はその事を気にするより、もっと拙い状況になっている。



「………そんな事より、アリサが凄く怖い目で睨んでいるんだけど……」



 僕を中心にして3人が揉めているのを見て、悪い男に引っ掛かったと思っているようで、今にも殺されそうな気配を感じる。



「おい、お前!いったいどういうつもりでルナに近づいた!それにゼロ達にまで手を出したのか!」


「お、おい、少し落ち着けアリサ」


「これを見て落ち着いていられるか!ゼロも満更でもないようだし、きっとこいつに騙されているに違いないんだぞ!」



 明らかに興奮状態になったアリサをブランが止めようとしたが、とても落ち着くようには見えなかった。それもそうだ、大事な妹が複数の女を同時に相手をするような男に好印象を持つはずがないのだ。



「ちょっと待ってよアリサ!別に僕は手を出していないし、この状態もギルドからここまでの道のりだけだよ」



 そう言って手を前に出したかったが、両腕は僕より力が上の2人に固定されているので声だけで説得を試みる。もちろん、こんな状態で何を言っても説得力はないのだが……



「私の名前を気安く呼ぶな!だいたいお前は誰なんだ!なんであのぬいぐるみと同じ名前なんだ!

 !?。まさか…その名前だけで好きになったのか?」


「私達はそんなに安い女ではありません。それにハヤテさんはハヤテさんです。さっき冒険者になって、同じチームに入った大事な人です」



 流石に名前だけで好きになったと思われるのは侵害だったようで、ルナが一歩前に出て否定する。



「同じチームに………さてはルナ達の実力を利用しようとして…」


「いい加減にしてください!いくらお姉ちゃんでも、ハヤテさんを侮辱するなら怒りますよ。それにハヤテさんは私達の力を借りなくても、十分強いんです。なにしろ20階層の魔物も、ハヤテさんにかかれば一撃でしたし」


「ちょっと!?その事はあまり口外しない方がいいよ」



 2人の口喧嘩はヒートアップしていき、ルナが次々情報を出していくので止めに入った。しかし、20階層の魔物を倒したと聞いてしまったので、周りの人を含めてアリサ達も驚いて固まっている。



「20階層の魔物を倒した?そんな馬鹿な………前に話に聞いた限りでは、あの扉の奥に入った者は誰も帰って来なかったはずだぞ…」



 ブランはその話の確認を恐る恐るする。



「まあそうね。3日前までの情報ならそれで合ってるわ。ま、ボスとの戦闘は事故みたいなものだったけどね。なにしろ扉を開けると中に吸い込まれるトラップがあるなんて、リーザも知らなかったわ」


「おーい、頼まれていた武器を持って来たぞ。…って、何か揉め事があったのか?」



 ゼロが話をしていたら、店の奥から短剣とハンマーを持ってグラムが帰って来た。



「別に何でもないわ。それより、これが私の新しい短剣なのね。……ちょっと重いけど、丈夫そうだし良く切れそうね」



 ゼロは受け取った短剣を握って軽く振ってみて、その出来に満足していた。



「……私のハンマーも良い感じなの」



 カナも満足いったようで、早速魔力を流してハンマーを2メートルぐらい伸ばして見せる。



「……魔導具の効果も無事なの」



 その様子を見ていたアリサ達は驚いていたが、ゼロ達は全然気にしていない。



「やるじゃないグラム。新しい鋼材に魔導具、この融合を成功させるなんて……私は半分失敗すると思っていたんだけどね」


「おいおい、それは無いんじゃないか?20階層のボス素材と魔導具を渡されて、失敗しましたなんて言える訳がないだろ…」



 グラムは新素材を扱えるのは嬉しかったが、同時に高価な素材だったので緊張もしていたのだ。



「フフフ、悪かったわね。でも失敗しても恨まないのは本当よ?だから、ちゃんと仕上げてくれて嬉しいわ」


「……グラム、良い仕事をしたの」



 その様子を笑うように和まして、2人はグラムにお礼を言う。



「満足してくれたなら、俺も肩の荷が下りたよ。あと、ココアが防具を渡すから店に来てくれって言っていたぞ。もしこの後時間があれば、寄ってやってくれ」


「分かったわ。明日からまた迷宮に潜るから、ココアの所にも行くわ」



 そう言って店を出ようとすると、



「ちょっと待て!まだその男の話が終わっていないぞ!」



 アリサがやっと我に帰り、僕達を呼び止めた。



「そうは言ってもねぇ……」



 説明したくても説明出来ない部分が多い為、ゼロはこのまま有耶無耶にして店を後にしようとしたが、失敗してしまったので返答に困っていた。



「あ、僕はちょっと用事を思い出した。それじゃ皆、お元気で」



 このままここにいると誤魔化せる物も誤魔化せないと感じ、僕は一気にルナ達の拘束から抜けだして店の外に逃げ出した。



「あ!?待ってください」


「……逃げ出したの」



 そんな僕の行動に呆気に取られたアリサ達は当然追いかける事が出来なかったが、ルナだけがすぐに後を追って来たので店の外で人化を解いた僕を抱いて戻ってもらう。



「ルナ、さっきの男は何処に逃げたんだ!」



 ようやく我に帰ったアリサは、逃げだした僕がどうしたかを聞いて来る。



「あの方は、皆さんによろしくと言って走り去ってしまいました」


(あとはどうやって説明するかだけだな…)


「……夫は忙しいから仕方がないの」


「くそ!逃げられたか……今度会ったら、あいつがルナをどう思っているか聞きださないとな」



 アリサは獲物を逃がしたような顔をして、出口の方を睨みつけていた。



「とりあえずアイツが逃げちゃったからこの話はお終いで。それじゃ、私達はココアの店に行くからここでお別れね」


「ちょっと待って。…そのココアの店って、防具屋なのよね?しかもルナ達が贔屓にしている店なら、面白そうだから一緒に着いて行くわ。…皆はどうするの?」



 これ以上の説明は出来ないので逃げるように店を出ようとすると、カレンが今から向かうココアの店に興味が出たようで着いて行くと言いだした。

 その理由は分かる。何しろルナ達が贔屓にしてからグラムの店はかなり特異な事になっている。そんなルナ達が行く防具屋なら、何か面白い物があると想像したのだ。



「私達もその店に着いて行く。武器はまだ前のが使えるから急ぐ訳じゃないし、あの男の事を聞きたいしな」



 いまだ説明を求めてくるアリサを含め、結局全員ココアの店に行く事になってしまった。



「悪かったわねグラム。お客さんを連れ出すような真似をして」


「ココアの所に行くなら、俺は別に構わねえよ」



 ゼロは申し訳なさそうに言ったが、グラムは気にしている様子は見えない。確かにグラムとココアは夫婦なのだから、別に何とも思わないようだ。









 そうして中々諦めてくれないアリサの質問をノラリクラリとかわしながら歩き、ようやくココアの店に辿り着く事が出来た。



「ここがココアの店よ」


「こんな所に店があったのか……結構長い間冒険者をしているが、全然知らなかったな」



 店の前まで来たら、ブランも存在を知らなかったようで感心している。


「こんな場所に建っているから、あんたが知らなくても不思議じゃないわ。なにしろ店はいつも閑古鳥が鳴いているからね。………ココア、調子はどお?」


「いらっしゃいませ。今日初めてのお客さんのご来店!」



 店に入ると、ココアの悲しいセリフが聞こえて来た。なにしろすでに時刻は夜なのだ。それを聞いて、よくつぶれないで店を続けれるな、と、感心するルナ達だった。




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