53話 冒険者ハヤテ
「それではそろそろ試験を開始しましょう。ハヤテさんは武器をお持ちでは無いので、そこにある武器を選んで使ってください」
「分かりました」
そう言って僕は武器を選びに行く。一応、ベルフレアの残した剣を持っている。ただこれは…
神剣ベルフレア ・・・ ランク 30『神の力が宿った聖剣。神ベルフレアが、自分の選んだ神の代理人を元の世界に送り返す為の力を使って作った剣で、聖属性が宿っているので魔の者は握るだけでダメージを負う』
つまり斬れ味も良く攻撃力も高いのだが、魔族で悪魔の力も持つ僕は装備が出来なかったのだ。ただ剣のシロートの僕が高い攻撃力の武器を持っても周りが危険になるだけなので、とくに残念と思う事はなかった。
なので立て掛けられている武器を選ぶ……と言っても、僕は前世も含めてまともに武器を持った経験はない。なので一度だけ使った事のある剣を選ぶ。
(僕って武器を扱うスキルが無いからな。どれを選んでも似たような結果しか出せないだろうな…)
「さて、今回の試験ですけど、貴方の攻撃は絶対に寸止めにしてください」
僕が武器を選びに行っている間に、リーザは試験官に話しだす。
「は?なぜそんな事をする必要があるんだ?死なない限りポーションも用意しているから大丈夫だぞ?」
試験用の武器は刃を殺しているから、頭に当たらない限り骨は折れても死ぬ事はない。なので寸止めを要求してきたリーザの真意が分からなかった。
「駄目なんです!普通の攻撃ならハヤテさんでも止めれると思いますけど、もし間違って攻撃が当たると死んでしまうんです」
「なんだよそれは……あいつはそんなに貧弱な奴ないのか?」
「…違います。死んでしまうのは私達を含めた、………この町の住人です」
「は?」
試験官は何を言っているか分からず余計に混乱していたが、リーザの真剣な表情から冗談を言っていると思えなかった。だからこそ余計に訳が分からなくなってしまったのだが……。
「理由は言えませんが、とにかく寸止めでお願いします。この町の為にも!」
「全然訳が分からんが……お前がそこまで言うからには、本当の事だろうな。とりあえず気を付ける事にするよ」
「それじゃあそろそろ始めるが、覚悟はいいか?」
武器を持ち、僕と試験官は部屋の中心に立っている。ステータスの上昇で、剣を持っても振り回される感じはなかったが、それでもシロートなので構えなどは不自然さを隠せない。
「僕の方はいつでもいいです」
「なら今回の内容を説明する。これは試験なので、死に至る頭部への攻撃は禁止だ。あと、お前は俺を倒さなくても、ある程度戦えれば合格にしてやる。だから全力で挑んでこい」
「分かりました」
しかし平然と言っている試験官だったが、内心は緊張しまくっている。何しろ平凡以下の男にしか見えないが、圧倒的な素早さで一瞬でやられたゼロと、信じられない力の持ち主であるカナが同行しているのだ。見た目だけで言うならあの3人よりもまともだから、いったいどんな力を持っているか怖いのだ。
それに加えてリーザの言葉だ。攻撃が当てると自分だけじゃなく町の住人も死ぬ?ハッキリ言ってまともな話じゃない。だが、何故か嘘だと言いきれない緊張感がある。なにしろ見学者である4人が、いつでも魔法を使えるように集まって待機しているからだ。
「………それでは……初め!」
その掛け声と共に僕は剣を持って斬り掛かる。しかし軌道が分かりやすいのか簡単に受けとめられる。しかしそんなのは想定の範囲なので、僕は気にせず攻撃を続ける。
アリサやカイの剣の扱い方をイメージして、ドンドン攻撃を繰り出しているが全然当たる気がしない。もちろんイメージ通りの攻撃が出来ていないので、滅茶苦茶に剣を振っているようにしかなっていなかった。
「なんだ?あの3人の仲間なら凄い力があるのかと思ったが、全然普通じゃないか?」
僕の攻撃を苦もなく受け流している試験官は、まるで拍子抜けのように驚いていた。
「そりゃそうだよ。僕はまともに剣を握った事なんてないからね。だから少しでも練習になればと思って、今は攻撃をしている」
「試験なのに練習か……つまり合格しようと思えばいつでも出来る手段を、お前は持っているって事だな」
「…油断してくれてる今なら」
「なら今の内に使っておけ。お前の剣は基礎からやらないと上達しない。だからこの練習は無意味だ」
何度か僕の剣を受けてくれた試験官は、このまま正攻法で戦っても上達しないとハッキリ言ってくれた。その事は僕も何となく分かっていたので、試験官の言葉は怒りもなく素直に受け止める事が出来た。
「分かりました。それでは奥の手を使わせてもらいます」
そう言って僕は次に斬りかかるタイミングでゴーストハンドを使う。
「なに!?」
試験官は事態を呑み込めなかった。突然剣を握っている腕を押さえられたように動かなくなったのだ。だがそこには何もない。それなのに握られている感覚だけあるから訳が分からないのだ。
「ちょっとズルイけど、これが僕の奥の手ですよ」
そうして僕は試験官の首筋に剣を当てる。
「…まったく、前言撤回だ。お前も十分変な奴だよ」
そう言って僕に合格を伝えた。
「無事合格したようね。まあ、見えない手を持っているあんたなら、大丈夫だと思っていたけどね」
僕の合格が決まったのを確認出来たら、さっきまでの不機嫌さは少しも残っておらず、とても機嫌が良さそうだった。
「僕は剣の腕がシロートだからね。合格する為にはこれしかないんだよ」
僕達は笑いながら受付に戻った。
「それではこれが貴方のギルドカードです。これに血を一滴……………血、出せます?」
リーザはギルドカードを用意してから重大な事に気が付く。今の状態だと傷を負う訳にはいかないのだ。
「あー、ちょっと受付の裏に隠れさせてくれない?そこで一度人化を解くから」
「…そうですね。一度こちらに隠れてください」
そうして僕は隠れてからギルドカードに血を流して、再び人化して表に出た。
ヤハギ ハヤテ ランク 1
HP 231990 / 231990
MP 182899 / 231990
力 44
耐久力 72
素早さ 52
魔力 100
「はぅ……」
リーザは僕のステータスを見て天を仰ぎ見た。
「あ、やっぱり驚いた?」
「そりゃそうよ。リーザは私達のステータスが200オーバーだっただけで驚いていたのよ」
「ハヤテさんのステータスは極端ですからね」
「……そこがハヤテの良い所なの」
いまだ驚いたショックで天を見ているリーザをほかって置いて、僕達はこの状況を笑って過ごした。
「………ハヤテさんのHPやMPが多いのは、最下層での戦いで分かっていましたが……まさかここまで桁が違うとは思いませんでしたよ」
ようやく落ち着きを取り戻したリーザは、かなり呆れて表情で僕を見ている。
「まあこの人化もMPを5万使っているからね」
「それであの爆発ですか……納得しました。それに変身の魔導具が非常識なMPを消費する事も分かりました」
「それでも僕には戦う手段がないからね。魔力撃は練習中だからもう少し時間が掛かるし、かと言って人化で戦うのはリスクが高過ぎる」
「別にそれで構わないのではありませんか?貴方という切り札があるからこそ、ルナちゃん達は思いきって戦う事が出来ています。なので貴方はそのままでいいと思いますよ。
…ただ、町中で爆発だけはしないでほしいので、出来るだけ人化の練習はしておいてください。本気で」
町中での爆発は僕も望む事ではないので、リーザの話に素直に頷く。
(とりあえず魔力漏れが見つかったらすぐに操作術で修復をして、最低でも全身を絶えず覆えるようにしないと)
最終的には部分的に切り離して攻撃に使えたらいいな、とは考えていたが、それは道のりが遠過ぎるので無茶をしないように心掛けるようにした。
(……ロケットパンチが目標なんて言ったら、ゼロ辺りから馬鹿にされるだろうな)
「さて、これでハヤテさんも冒険者の一員ですけど、このカードを使うのはやめてください。今は作ったばっかりなので問題はありませんが、一度でも更新または店で使用すると冒険者ギルド協会にステータスが登録されます。そうなると間違いなく大事になりますので、気をつけてくださいね」
「それはそうだね。依頼を受ける時なんかは僕は顔を出さないように気を付けるよ」
「ちょっと待って。それなら私達のチームにこいつが加入する事も出来ないって事?」
当初の目的であるチーム名とメンバーの不一致。これが達成出来なかったら、僕が冒険者になる意味はないのだ。
「それは大丈夫です。……これは裏技みたいな方法ですが、ギルドカードにハヤテさんの血で登録する前段階でチーム登録をしましたので、もうハヤテさんもチーム幼女達の集いの一員です」
リーザの言う裏技は、未登録のカードを事前にルナのチームに登録させて、その後本人登録をカードにするのだ。これは登録の手順を間違えて本人が既にここにいないという状況が起き時、とりあえず名前だけでも登録するという方法なのだ。これは本来ギルド職員がミスをした時の応急処置で、次にカードを使用した時に自動的にその他のステータスなどが登録される事になっている。
そしてリーザの最後の言葉をわざとらしく音量を上げて話した。この事で男の僕がチームに入った事を広めようとしてくれたのだ。
「やりましたね。これでハヤテさんもチームの一員です」
「……これからも一緒に頑張るの」
「とくに何も変わらないけど、とりあえずよろしくね」
そして3人も僕を囲って歓迎してくれたので、今ギルドにいる人達には僕がチームに入った事を知ったと思う。
これで全て上手く行くといいなと考えていたが、1つ気懸りに気が付いてしまった。
「あれ?これってルナ達と仲良くなる為に加入した男…そんな風に周りから見えない?」
幼女のみのチームに男が1人加入する。これを世間がどう思うかを考えたら、嫌な汗が溢れ出て来た。
「当然変態に思われるわね」
「そんな!?…リーザはどう思う?」
僕はゼロの容赦ない言葉ではなく、客観的な意見が欲しくてリーザに問いかける。
「…………………頑張ってください」
かなり間が開いて、リーザは営業スマイルで答えてくれた。
「大丈夫ですよ。私達はハヤテさんを愛していますから、公衆の面前でベタベタしても問題ありません」
「……さっそく腕を組んで歩くの」
2人は更に僕を追い込むような事を、まったく悪気のない笑顔で言いだした。
「おめでとう。完全なロリコンの出来上がりよ」
ゼロは必至で笑いを堪えているのを見て、最初からこうなる事を知っていたと気が付いた。…しかし既にこの場で公表している。そして人の口に蓋は出来ない。つまり話が広がる事を避けれないのが目に見えて分かった。
現にギルド内での僕を見る目が何やら冷たい。そして聞こえないように何かヒソヒソ話をしている。
ここに幼女好きの永久にランク1の冒険者が誕生した瞬間だった。




