52話 逆鱗
これで休日を使った執筆も終了です。
「皆さん、いい加減にしてください!ゼロさんも何を怖い事を言いだすんですか!」
各自混乱している僕達を怒鳴り、リーザは持っていた書類を丸めて暴走まで始めたゼロの頭を叩いて落ち着かせる。
「く!なら仕方がないわ。さっさとこの町を出て、ほとぼりが冷めるのを待つわよ」
しかしゼロは諦めない。
「ちょっと待ってください。それは困ります。せめてもう少し迷宮探索を行なってからにしてください」
突然のゼロの決断に、リーザは慌てて止めに入る。
「大丈夫よ。リーザの事情はこいつから聞いているからね。他の迷宮に潜っても、魔石の換金はこの町でやってあげるわよ」
「事情を理解してくれているのは助かりますが、ルールで魔石は迷宮がある町で換金する事になっているのです。確かに多少の魔石なら構わないのですが、貴女達は多少では済みませんから問題になります」
この辺は冒険者ギルドとしての決め事になっており、最悪は密猟扱いで除名処分に加えて拘束されてしまう。
「そんなルールがあるの?……なら仕方がないわね。私達で人を探してチームを組ませ、下層で戦えるように鍛えてやるしかないわ」
「……なら、14階層に放り込めばいいの。生き残った奴を鍛えるの」
「そんな方法で生き残れる人がいる訳ないでしょうがーーー!」
14階層はミノタウロスやグレートウルフなど多数現れる危険な階層だ。そこに実力が足りない者を連れて行って放置すれば、リーザの言うとおり全滅するのは確実だ。そんな暴走している2人に、リーザは声を荒げて止める事しか出来なかった。
「………君はもう少し落ち着きがある人かと思っていたのだが、どうやら私の勘違いだったようですね」
完全にツッコミ役になっていたリーザを見て、ゼクイクスは冷めた目で呟く。
「そんな!?違います!いつもの私はこんなに声を荒げたりしません!…ただこの子達と一緒にいると止める人がいないので、私が止めないと歯止めが効かないんですよ……」
そんなリーザは、疲れたような顔をして否定した。最近自分でもキャラが壊れ掛けているのを自覚していたので、強く否定できないのが悲しかった。
「それは何となく分かる気がしますね。確かに今日一日でだいぶ驚かされましたから…」
その辺はゼクイクスも心当たりがあるようで、リーザに同情するように納得する。同じような認識を持って慰めてくれるその優しさに、リーザは少し救われた気がした。
「なんか失礼な事を言われている気がするけど……まあいいわ。それより今後の対策をしましょう。ルナもいつまでも落ち込んでいないで、話に入ってきなさい」
ルナはいまだ僕を抱いて落ち込んでいた。
「うう……でも対策のしようがありませんよ?」
「いえ、まだ名前が広がるのを止める方法はあるわ!」
「そ、それはいったい」
自信満々に別の方法を思い付いたと言ったゼロに、ルナだけでなくカナも期待の眼差しで見つめる。
「名前が一気に広がる原因は、チーム名と私達の容姿が当てはまっている事よ。だから、新しい仲間を取り込むわ」
「……足手まといは必要ないの」
「大丈夫よ。皆も知ってる奴だからね」
カナの心配ももっともの物で、実力が足りないと命に関わるので避けるべきなのだ。しかし、そんなカナに心配無いと断言出来る自信があるようだ。
「それってまさか!」
ルナはその人物に心当たりが浮かんだ。
「まあ、チームの新メンバーは後で登録しに行くとして、とりあえず近くのお勧めの迷宮を教えてちょうだい」
「ああ、その話でしたね。……私の知っている限りでこの町の近くの迷宮町は、<キャルビ>がよろしいかと」
「キャルビ…ですか。確かこの町から南に馬車で5日ほどの距離にある迷宮町ですが、ここよりレベルの低い迷宮と聞いていますが…」
リーザもその町の事は知っていたようで、難易度の低い迷宮でゼロが満足するか微妙だと思ったのだ。
「ええ、ここの迷宮に行き詰まっったのなら、一度違う迷宮に挑むのも気分転換にはいいでしょう。それにいろいろな迷宮を経験しながら王都に行くのもいいかもしれませんね」
「別に行き詰まってはいないけど、なるほど…王都にね。確かにそれも面白そうだわ。それじゃあ王都に向かいながら、それまでにある迷宮を楽しんで行きましょう」
ゼクイクスが少し勘違いをしていると分かったが、ゼロもとくに訂正するつもりもなかった。そしてその話を聞いて、ゼロは目的地を決める。勝手に決めた目的地だったが、とくに反対する理由がなかった僕達は何も言わずに頷いて答えた。
「それでは私は失礼しますね。復興拠点に行って、明日の予定を立てないといけませんので」
「あんたの意見は参考になったわ。ありがとね」
ゼクイクスは王国の剣士という事を口外しないように頼もうかと思ったが、興味がないと言いきったゼロの言葉を思い出し、その必要はないと判断する。そうして軽く頭を下げて、ゼクイクスは去っていった。
「それじゃあ、リーザ。新規冒険者登録に行くわよ」
「そう言えば新メンバーがどうとか言っていましたね。あれって誰なんですか?」
リーザが誰の事かと問いかけると、ゼロはニヤリと笑ってルナの方を見た。いや、どちらかと言うと…
「そんなの決まっているじゃない。ハヤテ、さっさと人化しなさい」
そう言って、ゼロは僕に向かって指を差したのだった。
「僕!?なんで僕が冒険者になるの?」
突然の事で僕は驚いて声を出してしまう。だが、周りには他に人がいなかったので、声を聞かれないで済んだ。
「そうよ。迷宮内であんたが人化するのは、爆発の危険があるから駄目だけど、町中なら油断をしなければ大丈夫でしょ?」
ゼロの話だと、町中では人化して迷宮など魔物が出る場所では元の姿に戻るとの事だ。そうする事で、幼女達の集いは決して幼女だけと言う訳ではないと見せ、名前を広がり難くするという作戦だった。
「ハヤテさんも私達と一緒の冒険者……いいですね。夫婦で同じ仕事。お姉ちゃんの事を羨ましいと思っていましたから、私は嬉しいです」
「……ハヤテと一緒の仕事は嬉しいの」
そして僕が冒険者になる事を2人は大歓迎のようで、将来一緒に戦う姿をイメージして幸せそうな顔をしていた。
「反対意見が無いようだから、さっそく登録しに行きましょう」
「ちょっと待ってよ!僕は冒険者になるなんて……」
「うるさい!あんたの意見は聞いていないのよ。……だいたい誰のせいでこんなチーム名になったと思っているの」
僕の反対意見をバッサリ切り捨てたゼロは、これ以上の反論を許さないようなとても怖い顔をしている。
「はい、すみませんでした!。冒険者になって頑張ります!」
僕はすぐに反論する気がなくなり、素早く敬礼をして異論がない事をアピールした。
「分かればいいのよ。さ、ギルドに行くわよ」
そうして有無を言わせない態度のまま、僕はギルドに連れていかれてしまった。
「それでは一応決まりなので、地下に下りて試験を受けて来てください。……ただし、絶対に一撃も攻撃を受けないでください!こんな所で爆発されたら一大事ですからね」
前半は周りにも聞こえるように話していたが、後半は僕達にしか聞こえないように小声で話してくれた。
「そう言えばそんな試験があったわね。………大丈夫…よね?」
リーザの話を聞いて、ゼロはもちろんここにいる全員が試験の事を失念していた事に気が付いた。そして不安そうなゼロが、僕に聞いて来たのだ。
「今更何を言ってるんだよ。とりあえず今の僕のステータスは普通の新人より少し上のはずだし、ゴーストハンドもあるから直撃は受けないように頑張るよ」
そう言ってゼロを安心させ、僕達は地下に下りて行く。
「またかよ!」
階段を下りて姿を見せたのは、もはやおなじみの試験官だった。
「…このギルドってあんた以外の試験官がいないの?」
「いや、ちゃんといる。いるんだが、なぜかお前達が来るのが俺の担当の時なんだよ!」
ゼロは呆れているような顔をして、試験官は誰が見ても分かるほど嫌な顔をしていた。
「ま、いいわ。今日の主役はこいつだからね」
そう言ってゼロは僕を前に押し出した。
「ん?試験を受けるのはこいつ…なのか?今までと違って、普通の男にしか見えんが……。いや、体格は普通以下の一般人のようだし、覇気も感じられず弱そうだ。何より服のセンスがダサす…」
ズン!
僕の姿は前世のひ弱そうな体格に無地のシャツとジーンズと、全然強そうには見えなかったので拍子抜けを受けたようだ。そして最後に服のセンスがダサ過ぎるだろ、と言おうとした途中で試験官の頬をかすりながら水弾が通り抜け、小さな音を出して訓練場の壁を破壊する。
「ひゃ!?」
突然の事に悲鳴を上げて後ろに倒れ、頬から垂れる一筋の血を手で拭う。それを見て顔から血の気が一気に引き、原因となった水弾が飛んできた方を見ると…
「………貴方は何を言っているのですか?」
そこには冷たい笑顔のまま杖を向けているルナが立っていた。
「貴方はこの前も同じような事を言いましたよね?いくら私でも2度も夫を馬鹿にする人を見逃すほど、温厚ではありませんよ」
「……死ぬ覚悟は出来たの」
ルナは笑顔のままで、カナはいつもと変わらない表情だったが、2人は明らかに敵意を出して武器を構え試験官を見つめている。ただ当の本人には見つめられているという生温い感じはまったくなく、その視線だけで殺されそうと思えるほど、強く睨まれていると感じていた。
その様子をゼロはため息をついて見ていたが、決して止めようとはしない。
「ちょ!?ちょっと待ってくれ。僕は気にしてないから、2人共落ち着いて!」
尻もちをついて立ち上がれないでいる試験官に、ゆっくりと歩み寄って来る2人を止める為、僕は間に入る。………正直怖いです。
「ハヤテさん。ここは怒ってもいい場面ですよ」
「……夫を侮辱した奴には死なの」
2人は全然止まる気がない。ここはいつものようにゼロが止めに入ってくれるのを期待して見てみると、
「別に二度目だし、多少の事はいいんじゃない?」
そこにはいつもの、「仕方がないわね」と言うゼロはおらず、微妙に不機嫌そうだった。
「ゼロまで何を言ってるんだよ。僕が良いって言ってるんだから、手を出すのはやめてくれ」
全然止まる気がない3人に僕は焦る。なにしろこの3人の攻撃力なら、手加減したつもりでも致命傷になるかもしれないと思ったからだ。
「ちょっと、貴方も呆けていないですぐに謝ってください!」
普段だったら受付で待っているリーザだったが、今回は流石に様子が気になって着いて来ていた。そしてこの様子を見て、慌てて謝るように促している。
「あ、ああ。あんた、服の事を馬鹿にしてすまなかった。この通りだ!許してくれ!」
恐怖にのみ込まれていた試験官は、リーザに言われて我に帰り土下座までして謝り出す。
「ほら、向こうも謝ってくれてるし、3人も落ち着いて!」
「………ハヤテさんがそこまで言うのであれば…」
「……我慢するの」
「あんたもお人好しね」
相手が土下座までしてくれたので、どうにか落ち着いてくれた3人は、渋々だったが武器を納めて壁沿いまで下がってくれた。
「…大丈夫ですか?すみません。あの3人はたまにああなるんですよ」
僕はいまだ土下座をしている試験官に手を差しだして謝る。
「いや、人の逆鱗は何処にあるか分からんからな。それに触れてしまった俺が悪かったんだろう」
その手を握って立ち上がった試験官は、自分も悪かったと謝ってくれた。僕も出来るだけあの3人を怒らせないようにしようと、心に決める。




