47話 魔神化
本日三話目です。
ゼロの怪我は治ったが切り裂かれた服はそのままなので、隙間からいろいろ見えそうで目のやり場に困る。なので火トカゲのマントを取り出し、それを羽織ってもらってから落ち着いて話を始める。
「さてと、それで私が死んでいる間に何があったのかを説明してちょうだい。あの男の姿が見えないって事は、どうにかして倒したのは分かるけど……」
「ああそうだね。僕も聞きたい事があるし、順を追って話すよ」
そう言って僕は出来るだけ詳しく説明する。
「そんな事があったのね……。それじゃあ、私に分かる所から話すわ。
まずあの男に最初に魔法が効かなかった理由は、基本神は聖光気というオーラで身を守っているの。これは下界の者のスキルを無効にする効果があって、人が神に反乱しても制圧出来るようなスキルのような物よ」
「でも途中から私の魔法は効きましたよ?」
「聖光気を破る方法は2つあるわ。その神の力を大きく上回る魔法で強引に破る方法と、神の対極的な存在……悪魔の力を使った攻撃よ」
ゼロの表情は優れない。いくらルナの魔法の腕が良く変身の魔導具の力を借りたとしても、制限を受けたベルフレアの聖光気は破れるレベルではなかった。つまり……
「つまり僕の黒い魔力の正体が、悪魔の力って事だね…。それが変身の魔導具を通じてルナに流れ、その力を使った魔法だったから効いたと……」
「そう……推測するのが妥当ね。でも私はそんな力を与えた覚えはないし、今のこの世界に悪魔がそう簡単に来れるはずがないわ。前世でそんな力を持っているようには見えなかったから、転生してからあんたの体内に何かが入り込んだ……私はそう考えてるの」
颯が転生する時のゼロは今みたいに力を封印されてはいないので、生前は普通の人間だったのは間違いない。そうなると転生してから最初に黒い魔力を感じるまでの間……そう的を絞っても、思い当たる事は複数ある。
「……可能性があるとすると、人間の領土に来るまでに食べていた毒草の影響か、飲んでいた川の水……それかハピネスさんに貰った栄養剤ぐらいだな」
「栄養剤?」
「そう栄養剤。なんか錠剤みたいな黒い玉だったけど、魔族に転生したての僕に必要だからって有無を言わせずに飲ませて来たんだ。すぐに呑み込んでしまったから味は分からなかったけど、今思えばかなり強引に飲ませられたから……かなり怪しい」
「は~~~。普通そんな物、飲み込まずに吐きだすでしょ。それとも何かほかに気を取られるような物でもあったの?」
ゼロは呆れ顔でため息を吐いている。
(あの時に気を取られていた事って言えば……ハピネスさんの胸、だよな)
「あんたの言うハピネスって魔族って………女でしょ。そして直接飲まされる程の近距離で、あんたの意識が集中する物って言えば……胸ね」
「間違いなく胸ですね」
「……その女、きっと胸が大きいの」
「何故それを!?」
僕は何も答えていない……だが全てがバレていた。その事に驚き、うっかり声を出した僕に3人の厳しい視線が刺さる。
「その辺の詳しい話は、後でしっかり説明してくださいね。ハヤテさん」
「……はい」
ルナの冷たい笑顔。よく見るとカナとゼロも同じような笑顔をしているので、僕は覚悟を決めた。明日を無事に向かえれるように祈りながら……。
「話を戻すわ。あんたが飲んだ物はきっと、昔この地にいた悪魔の核ね」
「悪魔の核?」
「そう、この地では昔、神と悪魔が争いを起こしているの。そしてその時の兵士として神は人間族を作り、悪魔は魔族を作った。どちらの種族の土地にも迷宮があるのは兵士を鍛える為の訓練施設で、互いが今でも争いを起こしているのはその時の影響だと思うわ。……ただ私はまだ生まれていなかったから、資料を見た知識でしかないけどね」
ゼロから聞いたこの世界の秘密。この話を聞いて、僕達は驚きのあまり声も出せずに聞き入っていた。
「それであんたが飲んだ黒い塊はその時代の悪魔が作った物か、死にそうな悪魔が最後に自分の魂を切り離した物でしょうね。話を聞いた限りでは、あんたの激しい憎悪にのみ反応している。そこに意思を感じないから、きっと魔族を元にした進化アイテム……人工的に悪魔を作る魔導具のようなものだと思うわ」
「つまり僕はドンドン悪魔になりかかっているって事か……どおりで僕の右手が変化していた訳だ」
「私は見ていないからハッキリとは言えないけど……あんたの中で一体化しているのは間違いないわね。そしてもう1つ、悪い知らせがあるの」
正直魔族に転生してそんなに時間が経っていないので、悪魔に変化していると言われても事の重大さを理解出来ないので、どこか他人事のように感じていた。
「………ベルフレア、つまり神を殺して光の玉があんたに入ったって言ったわよね?」
「ああ、なんか分からないけど、死体が光の塊になって僕に当たって消えたんだ」
「それはきっとベルフレアの力の一部を取り込んだんだと思うわ。神の敵対者……そう思われてもおかしくない状況よ」
「そんな馬鹿な!?僕達は襲われたから対抗しただけじゃないか!」
僕は慌ててステータスを確認してみる。ゼロの話が本当の事なら、スキルか何かに変化が生じているはずだからだ。
矢矧 颯 (ブサイクベア)
HP 93799 / 231990
MP 83249 / 231990
力 44
耐久力 72
素早さ 52
魔力 100
スキル HP自動回復 ・ MP自動回復
死霊術(3) ・ 操作術
鑑定眼 ・ 女神の信頼
魔神化 ・ 神喰い(2)
魔神化 ・・・ 『悪魔の力と神の力を備えた存在へ変化出来る。肉体を闇魔力によって再構成し、その時の感情によって姿が決まり、ステータスは格段に上昇する』
神喰い ・・・ 『神を殺した者が得られる。神のスキルに対する抵抗力が上がり、神に攻撃するとダメージが上がる』
「ギャーーー!よりにも寄って神喰いってスキルが増えてる!」
「あちゃー……やっぱりそうなっちゃったわね」
神に喧嘩を売っているようなスキルを手に入れてしまった事に、僕が驚き叫んでいると、ゼロは「やっぱり」と言って額に手を当てて困ったような表情をする。
「このスキルって持ってるだけでやばそうなんだけど……しかも2人殺している事になってるよ…」
僕が記憶にあるのは倒した神はベルフレア1人のはずだ。だがこれが2人になっていると言う事は、ベルフレアがゼロを殺したのまで僕がやった事になっているのだろう。
「あー……たぶん他の神から見れば、かなりの危険人物に思われてるわよ」
「ですよねー……それに魔神化ってスキルまで増えているよ。てっきり悪魔化だと思ったけど……」
今までほったらかしにされていた神を倒しただけだから、直接僕に報復攻撃をしてこないだろうけど、神のきまぐれでどうなるか分からないから怖い。ここまで来るとすきにしてくれと思うが、先の事を考えるとやはり落ち込む事しか出来なかった。
「魔神化……ね。たぶん私が与えたスキルが神の力で、悪魔の核と合わさってそんな名前になったんだわ。でもそうなると、あんたでもその力を制御出来るようになるかも知れないわ」
ゼロの話に僕は理解が出来ずに首を傾げる。
「つまり悪魔の核によって人格を乗っ取られ悪魔になるんじゃなくて、神の力によって魔神化というスキルになって管理出来ているのよ」
「ちょっと待ってよ!?僕の人格が乗っ取られるかもしれないほどの重大な話だったの!?」
僕は今更ながら事の重大さに気が付き、驚いた。ルナとカナは何となくだが、黒い姿は危険だと感じていたようで驚きは少ない。
「まったく…悪魔は神の対極的な存在って言ったでしょ?もしその悪魔の魂の欠片だったら、その残留思念を普通の人が対抗出来る訳がないじゃない。ま、今回は危険な意思もなさそうだけど、私の力のおかげって言っても過言じゃないわね」
そう言ってゼロは小さい胸を張っている。
「確かにそうだ。ありがとうゼロ!君のおかげで安心出来るよ」
僕はゼロの手を握って感謝の言葉を告げると、突然の行動にゼロは驚き、頬を少し赤くしていた。その様子にルナとカナは何か気が付いたように、ゼロをジッと見つめている。
「でも今後は神が襲ってくる事も想定しないといけないのか……」
「それに関しては私にも責任があるわね」
自分が不甲斐無くやられてしまった事を魔神化の起こった原因と感じ、その責任で表情が暗くなっていた。
「ゼロは被害者だし、そんなに気にしないでいいよ。でもよく考えると神と出会う事なんてまずありえないし、出会ったとしても戦うとは限らないよね?」
「まーね。確かにそんな確率の低い事を悩んでいても仕方がないわ」
だがそんな確率の低い事を2度も体験しているという事には、誰も触れなかった。
「それにしても僕のステータスがずいぶん上がっていたな……カナが仲間になった時はルナの時と一緒で、大して上がらなかったのに」
僕はステータスの急上昇について疑問に思い、原因となっているスキルを確認してみる。
「ちょっと待って!?それは見ないで!」
なぜかゼロが慌てた様子で止めようと声を掛けて来たが、既に手遅れだった。
女神の信頼 ・・・ 『女神ゼロの信頼を得られた事によって手に入ったスキル。すでに怒りは収まり、むしろ好印象を持っている為にプラス効果が出初めている』
「………ゼロが僕に好印象を持っている?あんなにいつも怒っているのに?それにスキルの名前が変わっている」
「やはり……」
僕はスキルの説明に納得がいかなかったが、何故かルナは心当たりがあるようでゼロの方を見ている。
「…………きっと私が隷属化されたから、呪いの効果が落ちているのね。そうよ!そうに違いないわ!」
ゼロが顔を赤くしてそう説明したのを聞いて、僕は「なるほど」と納得出来た。しかしルナの視線を一身に受けているゼロは、なぜか冷や汗を流して視線を泳がせている。
「隷属化で思い出したけど、ゼロのステータスに異常はないかな?」
僕は早速ゼロのステータスを確認してみる。
ゼロ
HP 193 / 193
MP 5 / 85
スキル 短剣術(極) ・ 剣舞踊(極)
隷属者(死) ・ 癇癪玉
癇癪玉 ・・・ 『気の短いゼロがその手で触れた物を、任意のタイミングで爆発させれる爆弾に出来る。………
「あれ?そこまでステータスに変化がないな?でも………プッ!癇癪玉だって!しかも説明文に気の短いゼロって名指しされてるよ。ハハハハハ、駄目だ笑いを抑えきれない。ククク」
何故か増えていたゼロのスキル説明を読んでる途中だが、僕は笑いを抑えきれずに腹を押さえて大笑いをしながら伝える。
「誰の気が短いって言うのよ!」
自分の事を馬鹿にされたとすぐに分かったゼロは、流れるような動作で颯の顔を掴み持ち上げた。
「いだだだだだ……そのすぐに手が出る所が証拠じゃないか!」
「あんたが喧嘩を売っているんでしょうが!私のステータスに変化が少ないのは、神の恩恵からあんたの身体強化に変わっただけだからよ。だいたい神でも無いくせに他人にスキルを与えるなんてありえないわ。例え本当にあんたがそのスキルを私に与えたなら、その説明文の作成者はあんたよ!」
「僕にスキルを与える事が出来る訳がないだろ」
ゼロは今までと同じ力を込めて顔を絞めつけているが、ステータスが上がったおかげか痛みは前より軽く、颯には余裕があった。
「それより、この面白い説明文の続きはなんて書いてるかな?」
いまだゼロに顔を握られているが、指の隙間から続きの説明文を読み上げる。
癇癪玉 ・・・ 『気の短いゼロがその手で触れた物を、任意のタイミングで爆発させれる爆弾に出来る。威力は流した黒魔力によって変化し、設置出来る数は1つのみ。対神に対して効果が上がる悪魔のスキル』
その説明文を全て読み終えた僕は笑い続ける事が出来ず、体の力も一気に抜けていく感覚に襲われた。神であるゼロによりにも寄って悪魔の力が得ていたのだ。悪魔の力、つまり僕が死霊術を使った事が原因である事を確定させる。
「………ぼ、僕は……また……」
ルナを魔族のような存在にして人から追われる可能性を持たせ、魔族なのに人と仲良くする事で同族から非難される可能性を持たせてしまったカナ、そして同じ神に敵対するスキルを与えた事で襲われる可能性が出たゼロ……その全てに僕が関係しており、死ぬより辛い未来が待っているかもと再び思い知らされてしまう。
僕は皆の目を見る事が出来なかった。
「どうやらあんたがスキルを与える事が出来るのは確定的なようね」
「……………」
「……ハヤテがスキルを与える事が出来るのは知っていたの。……私の重鎚術は元々持っていなかったし、力も弱かったの」
「つまりカナの力は、生き返った時に授かったスキルの影響って事?」
カナは何も言わずに静かに頷く。
「そう言えば、私が生き返った時は全体的にステータスが上がりましたね。カナちゃんみたいに一部だけが極端に成長する事はありませんでした」
「そうなると何でルナだけスキルが増えていないのかしら?」
死霊術の使い方は全員一緒だった。なのにルナだけスキルが増えていない事に、ゼロを含めカナとルナも不思議そうに首を傾げている。そんな会話の声に暗さは感じられない。颯だけが話に入れる気分ではなく、黙って下を見たまま表情を暗くしている。
「だーーーーー!いい加減にしなさい!」
「 !? 」
そんな颯の様子に、ゼロが我慢出来ずに叫んだ。その行動にびっくりして目を見開く。
「ちゃんとその目で私達を見なさい!誰があんたを怨んでいるように見えるの?ルナやカナだってあんたに感謝こそしろ、怒りや怨みの気持ちは全然ないわ!もちろん私もね」
「でも僕のせいで!」
「それなら今度神を見付けたら、私の意思で殴ってやるわ」
「……私もハヤテの為なら親兄弟でも叩き潰すの」
「ハヤテさんの苦しみを取り除けるなら、私も町で暴れても構いません。これらの事をすれば私達の行動でそれぞれ追われるだけですから、ハヤテさんが思い悩む必要がなくなりますね」
颯の思い悩んでいる態度に、3人は真剣な表情で滅茶苦茶な事を言いだした。ここにいる全員が颯の為に追われる立場になっても構わないと、本気で言っているのが分かる。
「そんな事は止めてくれ!全部僕のせいにして僕を差し出して………逃げてくれよ」
小学生の時友達と思っていた人に仲間外れにされ、一人ぼっちになった経験が僕にはある。家族に捨てられた子供がいじめの対象になるのはよくある事だと今なら分かるが、その当時は苦しく寂しくとても怖かった。
そんな経験をルナ達に味わってほしくない。僕は泣きそうな表情で訴えた。
「……ハヤテは馬鹿なの」
「は~~、本当に馬鹿ね」
「…ハヤテさん。ハヤテさんが私達の事を大切に思ってくれるのと同じように、私達も貴方を何者にも変えれない存在と思っているのですよ」
3人が3人とも呆れたような笑顔で生温かく僕を見つめてくれる。その笑顔には嫌な感じがまったくせず、むしろ心が落ち着くような慈愛の優しさがあった。
「ですからそんな顔をして、悲しい事を言わないでください」
「……私は何があってもハヤテを捨てないの」
「私も言ったでしょ?あんたと一緒にいるのは楽しいって。だから私達に気を使い過ぎないで、もう少し気楽に考えなさい。それでも今後の事を考えると気が落ち着かないって言うなら、あんたが最強になりなさい。例え神や悪魔が相手でも、私達を守れるような存在にね」
3人の優しさを感じた。こんな事を言われて、いまだに悲しい表情をしていたら彼女達に失礼だ。僕は自分の両頬を手で叩き、気持ちを切り替える。それと同時に、何が何でも皆を守るという気持ちが大きくなっていた。なので僕は皆の顔を見つめて宣言する。
「ありがとう皆。僕が間違っていた。最強って言うのがどれくらいの強さかは分からないけど、絶対に強くなって見せる。だから僕について来てくれ」
「期待してるわ」
「……ハヤテなら大丈夫なの」
「私も信じています」
「ハハ、まったく僕はすぐにネガティブに物事を考えてしまうね」
そう言って僕達は見つめ合っていると、不思議と笑いが噴き出してきた。自分でも何度落ち込めば気が済むんだよ、と、考えるとおかしくなったのだ。それでも誰もが笑う事をやめなかった。大なり小なり皆不安を抱えているので、笑ってその気持ちを吹き飛ばしたかったのだ。
そんな時間はしばらく続いた。
「……そう言えば、リーザをいつまでほかっておくの?」
「「「 あ!? 」」」
そしてカナの一言で今更ながら僕達は、気を失って床に寝ているリーザの存在を思い出したのだった。




