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48話 脱出

 本日4話目の投稿です。そしてこれで第三章は終わりです。



「痛たた……酷い目に遭いましたよ」


「大丈夫?あんたも師匠のせいで酷い目に遭ったわね」



 今はポーションが切れているので、リーザのダメージも自然回復を待つしかない。少々歩く時にフラフラしていたが、カナのダメージの方が酷いので弱音を吐く事はなかった。



「私のダメージは大した事ありません。それよりゼロさんの方が…………そうですよ!ゼロさんの傷の方が酷かったじゃないですか!?大丈夫だったんですか!」


「大丈夫よ。ちょっと一度死んだだけだから」


「そうですか。ちょっと死んだだけで済みましたか。……………え!?」



 リーザは驚きのあまり、両目を大きく上げて言葉を失ってしまう。



「そんなに驚かないでもいいでしょ?あんたはハヤテのスキルの説明を受けたんだから、私が一度死んだくらいで驚かないでよ」


「そりゃ確かに聞きましたけど……だからって死んだと言われて驚かない方が変ですよ」



 平然と話をするゼロに、リーザは呆れるような顔をする事しか出来なかった。



「ま、終わった事はどうでもいいわ。それより今後の話をしましょう」


「今後の話……ですか?」


「ええ、この迷宮の攻略も済んだけど、探している魔導具も見つからなかったのよ。だから他の迷宮も視野に入れないといけないかなー、って考えたのよ」



 ゼロの話を聞いて、リーザはダラダラと汗を流して僕に視線で助けを求めて来る。



「その事なんだけど、今後の事を考えて僕達の新しいの家を作ろうと思うんだ」


「家…ですか?家なら私の家がありますが?」



 ルナは僕の考えが分からないで首を傾げた。



「この町での家ではなく、他の町に行った時にも使える移動用の家を…いや、将来の事も考えて、ルナの治療所としても使える家を今の内に建てたいんだよ」


「私の治療所と私達の新居…」


「……私達の愛の巣なの」


「新しい拠点か……面白いわね。移動用って事は、あんたの魔導具で運べる家を作るって事でしょ?」



 僕の話を聞いて、ルナは目標の第一歩を進める事に喜び、カナは愛の巣と言って頬を赤く染め、カナは旅をする為の拠点が出来る事を面白がっていたのだ。



「そう言う事。それで皆の意見を集めた家をこの町で作ってから、他の迷宮がある町を目指そうと思うんだ。もちろんその為にはお金が掛かるから、この迷宮で稼ぐか、依頼をこなしてお金を稼ごうと思う」


「依頼を受けるのは駄目ね。チーム名が広まる可能性があるもの」


「そうですね。迷宮で稼ぐのが一番ですね」


「……張り切って魔物を狩るの」



 3人のやる気を見て、僕はリーザに合図を送る。彼女もその合図に気付き、皆に分からないように軽く頭を下げてお礼をしていた。



「ただそれらは今後の話だ。今は皆疲れているし、ポーションも無くなっているから無茶は出来ない。だから安全に地上に帰れる方法を考えよう」



 僕が言った通り、ゼロとルナはほとんどダメージは無いのだが、カナとリーザはダメージが大きい。だがガーゴイルオーガとの戦闘でポーションが尽きていて、すぐの回復は見込めない。今の2人は戦闘はもちろん歩くのも辛い状態なのだ。



「……そう言えばあの男は、どうやってここに来たの?」


「確かに……特定の魔力を使った魔導具の反応を知ってからここに来たなら、何か移動手段があったのかもしれない。一先ずそれらしい物がないか、もう一度周辺を探してみよう」



 そう言って僕達はベルフレアが現れた周辺を中心にして、全員這いつくばって何か無いかくまなく探す。







「!?。これはなんでしょう?ハヤテさん、何か魔導具らしき物を見付けました」


「……私も2つ同時に見付けたの」



 しばらく無言の作業が続いたが、その中でルナとカナが何かを発見して僕を呼んだ。




送還の魔導石(送) ・・・ 『対で効果を発揮する魔導石の送り側。魔導石に魔力を流すと相方である還の魔導石の場所に転移する事が出来る帰還用の魔導具。使用MPは1人につき200で、同時に10人まで転移が可能』


送還の魔導石(還) ・・・ 『対で効果を発揮する魔導石の目的地側。送の魔導石で転移してくる場所となる魔導具』




 僕は魔導具を鑑定して皆に説明する。



「つまりこれを使って行ったり来たり出来る訳ね。ただ……」


「これを使って帰れる場所がどこか……それが問題ですね」



 これを使って転移出来る場所は、間違いなくベルフレアの拠点となる場所なのだ。本人は既にいないが、転移出来る場所がどこなのかが分からないので、それが不安の種である。


 それでもチームの半分が怪我人の状態なので、普通に迷宮を歩いて帰るのは厳しいのも事実。なので一か八かでこの魔導具を使うしかなかったのだ。




「安全を確認する為に、最初は僕だけ転移する。それで危険が無いのを確認出来たらまた戻って来るよ」


「駄目よ。それはそれで別の危険があるわ」



 HPに余裕がある僕が最初に行けば、例え罠があったとしても死ぬ事は無いだろうと考えて提案したのだが、それをゼロに止められてしまう。



「でもどんな罠があるか分からないんだよ?」


「そう、どんな罠があるか分からないわ。例えばあの男の拠点がかなり遠い場所にあり、本人以外が戻って来た時には魔導具が壊れる仕掛けになっていたら?」



 ゼロが言った可能性は確かにあり、僕は自分の考えの甘さに震えた。



「確かに……大した移動手段を持っていないし地理にも詳しくない僕が、再びこの場所に帰ってくるにはかなりの時間が掛かってしまう。その間、君達が僕から魔力を受け取られずに耐えれる保証はない……」



 詳しい時間は分からないが、死霊術で蘇った者は僕から定期的に魔力を受け取らないと元の死体に戻ってしまう。つまり僕達は引き離されただけで命に関わる危険があるのだ。



「それなら全員一緒に転移しましょう」


「……どうせ死ぬならハヤテと一緒がいいの」


「私1人がここに残されても、絶対に帰れませんのでお付き合いします」


「皆覚悟はあるんだから、そんなに気を使わずに一緒に行けばいいのよ」



 ルナは悩んでいる僕に変わって全員で行く事を進言してくれた。その話を聞いて、全員の覚悟は決まったようだ。ただ皆怖がる事もなく笑ってすらいて、それはとても頼もしく感じた。



「ハハ、皆いろいろ経験し過ぎて、感覚がおかしくなったのかもね。そう言う僕も全然怖くなくなったよ」


「それでいいのよ。冒険者は自己責任で自由。なら、どんなに危険な事でも楽しみましょう」


「分かったよ。……皆集まって。飛ぶぞ!」


「「「「 おー! 」」」」



 そう言って僕を中心に全員集まり、魔導具に魔力を流して転移する。僕達が消えた後のこの部屋は、まるで最初から誰もいなかったかのように静寂に包まれた。








 突然視界が歪んだと思ったら、次の瞬間、僕達は知らない景色の中にいた。



「……どうやら転移は成功したみたいだが……とりあえずその場から動かないで、周囲の確認からしよう」



 動く事で発動する罠があるかもしれないので、僕達は慎重に周りを確認する。


 見た感じ、どうやらここは建物の中だと分かった。



「それにしても、ずいぶん生活感がある部屋ですね……」



 この部屋は散らかっていたが食べかけの食料や水があり、今まで誰かが住んでいたと分かるのだった。



「それにこの音……まさかどこかの町中なの?」



 ゼロの言った通り、窓の外から確かに人の声が聞こえる。そして時々見える人影が笑っている以上、ここが安全な町中である事は明白だったのだ。



「ゼロもそうだったけど、神も飲食は必要だから町中で生活していた?」


「そりゃ神から人に落ちた以上、外部から栄養を取らないと体を維持出来ないからね。死なない為には食べる必要があるわよ」


「……とりあえずここで立っていても始まらないし、危険もなさそうだから外に出てみようか」



 ここはおそらくベルフレアの拠点だ。その事から考えても油断しては駄目なのは分かっているのだが、外から子供の笑い声が聞こえる中で緊張し続ける事は出来なかった。


 そして足元に落ちていた送還の魔導具を拾い、例えこの聞こえて来る声が油断を誘う罠だとしても、すぐに対応出来るように緊張の面持ちで家の外に出てみる。









「……見た事ある町なの」


「…そりゃあるでしょ。ルナの家の近所じゃない、ここって」



 カナは真剣に周囲を確認して言ったが、ゼロは完全に気が抜けてしまっている。何しろここは、ルナの家から徒歩5分も掛からない距離の近所だったのだ。



「まさか師匠を追っていた人が、こんな近くに住んでいるとは思いませんでした!」


「リーザも無理して真剣な顔をしないでもいいわよ。素直に呆れるか、無事に帰って来れた事を喜んだ方が自然だわ」


「…やっぱりこんなオチでシリアスに決めるのは無理ですよね。ならギルドに行って、ポーションを買いましょう。早くこの痛みから解放されたいですし」



 リーザも真剣にこの緩んだ空気を絞めようとしたのだが、ゼロに無理と言われてあっさり諦めてしまった。



「それでは一度ギルドに行きましょう。ハヤテさんは町中なので私の所へ」



 そう言って僕はルナに抱かれ、完全に出鼻を挫かれた状態で冒険者ギルドに向かうのであった。








 僕達は冒険者ギルドに行くと、リーザが受付のセルジに話をしてポーションを複数個持って来てくれた。それをリーザとカナが使って、僕達はようやく落ち着く事出来たのだ。



「おいおいリーザ。久しぶりに迷宮に行くとは聞いていたが、そんなメンバーで潜っていたのか?お前も面倒見がいい奴なんだな」



 今は受付に用事がある冒険者がいないので、仕事がないセルジがルナ達を見て、リーザが護衛か指導役として迷宮に一緒に行ったと勘違いをしていた。その話を聞いてリーザは苦笑いをしていたが、説明をするのと面倒な事になるので省こうと決めた。



「この子は親友のアリサの妹で、冒険者になりたての子達なの。だからその実力を確認する為に一緒について行ったんですよ」


「へー、アリサの妹か。病気だって聞いていたが、元気になったんだな。ま、命あっての冒険者だ。あまり無茶な事はするなよ」


「ハハ………そうですね…」



 リーザは嘘のない範囲で説明をした。そしてセルジの言っている事は理解出来たのだが、たった今、迷宮攻略と言う無茶をした後だと、ただ笑って誤魔化す事しか出来なかったのだ。



「それでギルドマスターは上にいますか?」


「ああ、二階にいるぞ」



 冒険者はわざわざ迷宮での成果を詳しく説明する必要はないのだが、最後に手に入れた1等級の魔石の存在が明るみに出たら、どうせギルドとして説明を求めて来る。なのでギルドに来たついでと言われ、リーザと一緒に今回の事の説明をする為にルドルの所に行く事にした。







「ルドルさん。只今帰りました」


「おお、結構ギリギリの時間まで粘ったんだな。どうだ、18階層ぐらいまで行けたか?」



 ギルドマスターの部屋に入り、軽く挨拶をして席に座る。リーザと冒険者ギルドを出て今日で2日目の夜なので、ルドルは冗談半分で笑いながらそう言ってきたのだ。



「それがですね………」


「そうだ!あんたに文句が言いたい事があったんだわ!」



 リーザが今回の迷宮探索で起こった事を、どうやって穏便に説明しようと苦笑しながら話し始める。しかしゼロが何かを思い出したように机に体を乗り出し、急に話に割り込んできた。



「なんだ?俺が何かしたか?」


「あんたの説明が足りなかったのよ。20階層の扉!、あれを開けたら中に吸い込まれるトラップがあるって、何で最初に言っておかないのよ!おかげで酷い目に遭ったわ!」



 ゼロはそう言っているが、そもそも入るなって言われた扉を開けなければ何事もなく済んでいたのだ。それを好奇心に負けて扉を開けたのは僕達の責任なので、一概にルドルのせいとは言えない。が、僕は何も言えないので、黙って話を聞く事しか出来なかった。



「ちょっと待て!20階層の扉の先に吸い込まれたって事は、お前達は中に入ったのか!?」



 ルドルもその内容を聞いて、笑顔が消え、勢い良く立ち上がって驚く。



「入ったんじゃなくて吸い込まれたの。そこに私達の意思はないわ。それに20階層の構造上、逃げるに逃げれない形になってから、仕方無くボスであるガーゴイルオーガを倒す羽目になったのよ!」


「いや、本当に少し待ってくれ。話を一度整理するから……」



 そしてルドルが席につき、目を閉じて少し考え込んでしまった。



「………リーザ。20階層に行ったのは事実なんだな」


「はい…」



 ルドルは興奮状態のゼロではなく、自分の常識に近い判断が出来るリーザに問いかける事にしたのだ。



「扉の中に入ったのも事実か?」


「20階層は真っ直ぐの道が続いていて、その先にある扉を開けたら中に吸い込まれ、部屋の中央まで運ばれました。おそらく逃げようと中から扉を開けても、またトラップが発動して逃げれないと思います」



 リーザももうバレてしまったので、諦めたような顔をして体験した事を淡々と報告しだした。



「それでガーゴイルオーガと言う魔物と戦かって………勝ったと」


「体長が4メートルぐらいで額に一本の角が特徴の石の魔物でした。ルナちゃん達が調べた結果、HPは5万ぐらいだと聞きました」


「5万!?………それをお前達4人で戦い、勝利を掴んだと?」



 あまりに驚きの連続で、話を聞いていても現実感を感じる事が出来なかったルドルだったが、5万ものHPを4人で削りとる事が可能だとは流石に信じられなかったのだ。



「私はほとんど手を出せませんでした。なにしろ防御力が高いだけでなく攻撃力も凄かったので、私は逃げに専念しろと言われ従っていました」


「実質3人で討伐か………」


「一応、これが討伐の証明になるかもしれません」



 そう言ってリーザは、分け前として貰った1等級の魔石をルドルの前に置いて見せる。



「これは1等級の魔石です。これを確認してもらえれば、迷宮のボスがいかに強力な魔物だったかの目安にはなると思います」


「………確かにもの凄い力を感じる……」



 目の前に置かれた魔石を手にとって見て、ルドルはその力強さに驚いている。それと同時に、今までの話が事実だと認めないといけない事に葛藤していた。



「ねえ、話はこれで終わりだと思うんだけど、まだ私達がいないと駄目なの?今回の探索で私のメイン武器が使い物にならなくなっちゃったから、新しいのを買いに行かないといけないのよ」


「……私も新しい武器の依頼があるの」



 迷宮攻略の話が終わったので、退屈そうなゼロとカナはさっさと武器屋に行きたいと言いだす。



「ああ、そうだな。迷宮攻略をしたならお前達も疲れただろう。もう帰って貰って構わん。リーザも今日は帰ってゆっくり休め。詳しい話は明日にでも聞く事にする」



 ルドルはルナ達の顔色を確認して、疲労がたまっている事に気付いたのだ。



「なら魔石の換金をここで済ませましょう。あの量の魔石を下で換金したら、下手に注目が集まり過ぎますからね」



 リーザの気使いで、このギルドマスターの部屋で魔石の換金をする事になった。ちなみに大量の魔石は僕の収納の腕輪に入れてある。

 1つ1つしまうと10個で満タンになってしまうので、あらかじめ大きな箱を用意して、そこに魔石を入れてからしまうので1個の扱いで済ませているのだ。


 ただほぼ丸々2日間下層に籠っていたので、その魔石の量はかなり大量になっており、金額も大金になっている。


 結果的に換金額は500万ゼニーぐらいまで行き、事前に話していた通りその4分の1をリーザに渡した。貰うつもりがなかったリーザは当然断ったが、半ば強引に押し付けられた大金に顔を引きつっていた。僕達はそれを無視して、僕達は逃げるようにギルドを後にした。


 リーザは突然年収以上のお金を貰い、更に1等級の魔石も貰っているので、その扱いに困って違う意味でまた苦労する事になったのだった。




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