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45話 怒り狂った神


「………せっかくの見付けた手がかりなのに、勝手に帰られたら困るな」



 颯の魔力大爆発のせいもあって他に虫一匹もいなかったはずのこの部屋に、急に知らない者の気配と聞きなれない声が響き渡る。



「誰!」



 その声の主の方に全員振り向き緊張が走る中、ゼロが問いかけた。



「私かい?私は<ベルフレア>。君達に分かりやすく言えば、神様だよ」


「か、神がいったい何の用だ!」



 普通は神と言われても信じられないだろうが、僕達には1人だけ心当たりはある。50年以上この世界に閉じ込められ、その原因を探している神の存在を………。



「なーに、私はある男を探していてね。この周辺にいる事までは付き止めたんだけど、それから中々尻尾を出さないものだから、この迷宮に仕掛けを施していたんだよ。特定の魔力を秘めた魔導具を持つ者が、この迷宮をクリアすると分かるようにね。

 ……そこの娘が持っている魔導具。それを作った男がいったいどこにいるか教えてくれないかい?」



 そう言ってベルフレアと名乗った神は、リーザに指を差して質問してきた。その段階で僕達は確信を得る。



「え?え?」



 しかし事情を知らないリーザは突然の展開に着いていけず、目を泳がして戸惑う事しか出来ないでいる。



「お前が田中をこの世界に連れて来た神なんだな」



 この怪しい男の視線がリーザに集中していたので危険と感じ、僕が間に割って入るように声を掛けた。



「…田中………そう、田中だ。名前を聞くだけでも怒りに我を忘れそうだよ。………でも、君からその名前が出るって事は、ここにいる者は全員奴の居場所を知っていると言う事だね?」


「なら……どうだって言うんだ」



 田中の名前を出した途端、ベルフレアから怒気とも言えるような気配が強くなっていく。



「そう言う事なら……………………その忌々しい魔導具を持ってる奴を殺しても構わんな!!!!!」



 突然ベルフレアが剣を抜き、リーザに近づいて振り下ろして来た。僕は自分の回答の仕方に後悔し、リーザを守るべくすぐに行動に出たが、距離があったのでとても間に合いそうにない。



「!?。リーザ!!!」



 その行動に僕より早く反応出来たゼロがリーザを庇い、ベルフレアの剣を鋼の短剣で受け止めようと構えた。



「そんな武器で俺の怒りが止めれるかーーーーー!!!」


「くっ!」



 口調が変わり、怒りのままに振られた剣が短剣を切り裂いて、そのままゼロは肩から斬られてしまった。



「ゼロさん!ゼロさん!」



 目の前で崩れ落ちるゼロを見て、リーザは慌てて支えてあげる。しかしその深い傷を見たリーザは、明らかに致命傷と分かりパニックになってしまう。



「邪魔をしやがって……次こそ田中の番だ」


「させるか!」

「させません!」

「……させないの」



 リーザを田中と呼び、再び斬りつけようとしだしたので、僕達3人が攻撃を始める。



「田中がたくさん俺の目の前に!!!また隠れられる前に全員、斬り殺してやる!」



 既に怒りで我を失っているのだろう。この場にいる者が全員田中に見えているようで、明らかに殺す気で反撃してきた。


 ルナの放った魔法は当たる前に消え去り、ダメージが回復しておらず動きの悪いカナを蹴り飛ばし、そのまま僕は踏みつけられてしまった。



「くそ!放せ!」



 僕はゴーストハンドでベルフレアを殴りつけたら、鬱陶しそうに蹴り飛ばされてしまう。



「ハヤテさん!」


「邪魔をするなよ田中……俺が田中を殺せないだろ?」



 言ってる事が滅茶苦茶なっているベルフレアは、再びリーザの方に振り向く。



「次こそ死んでくれよ。田中ーーー」



 そして再び振り下ろされた剣が途中で止まる。



「やらせないって言ったでしょ」



 リーザに抱えられているゼロが、苦しそうに左手を上げていた。さっき手に入れた魔導具を使い、振り下ろされた腕の位置に空気の壁を生み出して攻撃を止めたのだ。



「……………邪魔をするなと言っただろ!!!」



 攻撃を止められたベルフレアは怒りのボルテージが更に上がったようで、剣を持つ手を変えてそのままゼロに突き刺す。



「「 ゼロさん! 」」


「痛っ……リーザ………私の事はいいから…速く…ルナの所に……いきなさい」



 肩から斬られた傷と、たった今腹を刺された傷口から大量の血を流しながら、リーザに逃げるように呟いた。



「そんな…こんな状態のゼロさんを置いてそんな事出来ません!」


「もう逃がす訳がないだろう!」



 そう言ってルナと反対の方にリーザは蹴り飛ばされ、そのまま気を失ってしまった。ゼロも支えが無くなった事で、その場に倒れ込んでしまう。



「リーザ!?……あんた…神の癖に、何してんのよ」



 ベルフレアが持っている剣はゼロに刺さったままだったが、何とか顔を動かしてリーザが胸が上下に動いているのを見て、死んではいないと確認する。痛みで言葉を喋るのもキツイはずなのに、文句を言わないと気が済まなかったのだ。



「うるさい!何が神だ!俺はもう神じゃないんだ。この世界に縛り付けられた時、神の力のほとんどを奪われたんだ!ただでさえ見付ける事が出来ない男を、神の力が無くなって見つかる訳がないだろ!俺は天界から見捨てられたんだよ」



 長年隠れ続けたプロの田中を、力を失くした状態で探せる訳がないのは当然だ。その状態で長年彷徨っていれば、そのような考え方になってしまっても不思議ではない。



「だからって……」


「うるさい、うるさい、うるさい!!!!!。お前のせいこうなったんだ!お前さえ、お前さえいなければ!」


「ゼロさん!」


「ゼロ!」



 ベルフレアは怒りのままに刺さった剣を動かし、ゼロは苦痛に懸命に耐え続ける。僕はゼロを助ける為に駆け出している。ルナもすぐに変身の魔導具を使って攻撃力の上がった魔法を放つが、全てベルフレアに当たる直前に消え去ってしまった。



「そんな!?なんで」



 ルナはひたすら魔法を放つが、全て当たる直前に消え去ってしまう。ゼロを助けたいのに何も出来ない事に焦り、激しく動揺していた。



「いくら力を大幅に失ったとしても、神が与えたスキルが神に通じる訳がないだろ!どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!」



 そんなルナをみる事無く、ベルフレアは田中への怒りを全てゼロにぶつけるように、剣を何度も何度も突き刺してた。剣に刺される痛みに、弱音も泣き言も言わずに必死に耐えていたゼロは……………ついに動かなくなってしまう。



「ゼローーーーー!!!」


「何で……何でそんな事をするんですか…」


「フン。こいつのせいで俺がこんな目に遭ったんだ。当然の報いだ」



 そしてそのまま動かなくなったゼロを蹴り、ルナの足元に飛ばされてきた。



「あ!あああああああああああ!!!!!」



 その様子を見たルナは涙を流し叫び声をあげ、見た事もないような怒りの表情でベルフレアを睨みつけ、再度魔法を放とうと杖を向ける。

 その瞬間ルナは既に変身しているにも関わらず、もう一度足元に魔法陣が浮かび上がる。それと同時に颯はそんな事を気にする余裕が無くなっていた。前にルナが斬られた時の気持ち……その時と同じ黒い感情が爆発したのだ。



「……ルナの服がいつもと違うの……それにハヤテの姿も」



 カナもルナの所に向かっている。だが積もり積もったダメージのせいで、立ち上がったは良いが足を引きずっている状態だ。そんな彼女は颯の人化の姿と、ルナの服装が元の服でも変身中の服でもない事の異変に気がついた。


 ルナの服はいつもの白い水着みたいな物ではなく、まるで全ての光を吸い込むような漆黒のドレス。そして髪を纏めていたリボンも消えてしまい、後ろでなびいている。いつも感じているイメージと全然違ったのだ。


 そして颯は真っ赤な目で黒い人型になり、ベルフレアの所に向けて走っている。ただ前回とは違い、颯の右手だけが一回り大きくなっており、まるで獣のような鋭い爪が伸びていた。






「それも田中の魔導具か?まったく見るだけでも忌々…し……い……???」



 ルナの変身の魔導具を見て怒りの表情で睨みつけてきたが、そこまで話し自分の体の異常に気付く。足が急に動かなくなってしまったのだ。



「な…何で……魔法が……?」



 ベルフレアは自分の足を見て驚きを隠せないでいる。ルナの服装が変わってから放った氷の魔法が太ももに突き刺さり、膝まで凍りついて地面に張りつけられてしまったのだ。ちょっと前までは消え去っていたはずの魔法が、キャンセル出来なくなっていた。



「理由は分かりませんが、ゼロさんの仇は取らさせてもらいます!」



 まるで芯から凍らされたように足がまったく動かなくなったベルフレアに、ルナは怒りの表情のまま更に魔法を放つ。本人は自分の服装の変化に、気付いてはいなかった。



「ぐわぁぁあああああ!!!」



 ルナの杖から放たれた氷の槍を持っていた剣で何度か弾いていたが、複数同時に放たれた魔法を全て止める事は出来ず、左腕に刺さり、そのまま肩まで凍りついてしまう。凍りついた腕の感覚は痛みしか無く、握力もなくなってしまったので持っていた剣を落とす。


 腕と足が凍りつき、動けず苦しむベルフレアの苦痛に歪む表情を見ても、ルナは少しも同情する気もやめる気もなかった。



「ぐおぉぉぉぉぉ!何故だ!何故魔法が俺に届く!」



 腕を凍らせられた痛みで座り込みたいが、足は膝まで凍っている為に動く事も倒れる事も出来なくなっている。


 本来、神は人間のスキルが通じないように、魂から自然に発せられるオーラで全て消し去ってしまうのだ。これを<聖光気>と言い、ゼロはこの力まで封印されていたがベルフレアには残っていた。それなのに急に魔法をキャンセル出来なくなっている事に、驚き戸惑っている。


 今この聖光気を破る方法は1つしかない。神と対極の存在……悪魔の力を使った攻撃だけだ。だが、ここに悪魔はいない。目の前にいるルナの魔法は先程までは確かにキャンセル出来たのだ。だから余計に訳が分からないので混乱する。


 怒りと痛みで冷静な判断が出来ないベルフレアが出来るのは、この場で氷に蝕まれる痛みに耐えて叫ぶ事だけだった。



「田中!田中!田中!!!!!!!」


「黙れーーー!!よくもゼロをーーーー!」



 既に痛みと怒りでまともな考えも出来なくなった男は、ただ繰り返し田中の名前を叫び続ける。そんな男の所に颯が辿り着き、そのままの勢いを利用して殴りつけた。その後も殴り続け、小さな悲鳴と共にベルフレアの顔が右へ左へと弾け飛ぶ。



「ハ、ハヤテさん!?またその姿に!?」



 だが前と同じで颯の耳にルナの声は届いていない。体内から沸き続ける怒りのままに拳を振るい続けるだけの、殺意の塊になっていたのだ。



「グフッ、ガッ!?……この気は……ハハ………そうか、お前の力の……せいで……」



 すでに虚ろな表情で颯を見つめるベルフレア。彼は殴られ続けた事で意識が朦朧となり、その事で冷静さを取り戻す事が出来たのだ。そしてその目が颯を見て、聖光気が破られた理由を理解する。



「お前は許さない……ゼロが味わった痛みをお前も味わえ!」



 颯は怒りのままに右手を抜き手の状態で力を込める。復讐、ただその感情だけでベルフレアの胸を鈍い音と共に突き刺す。



「……最後は………悪魔に殺されるか……怨みで神の誇りを忘れた俺に………相応しい最後だ」


 

 彼はこのゴッドゲームに乗り気ではなかった為、人選は適当だった。そして適当に選んでしまった神の代理人によって狂わされた神生じんせい………最後の最後に冷静さを取り戻す事が出来た神は、自分の行動を反省しながら崩れるように倒れる。

 

 しかしこれで終わりにはならなかった。ゼロを殺した神が死んでも、颯の怒りは収まらないのだ。



「ベルフレアーーーーー!!どこに隠れたーーー!!出てこい!!」



 だがその呼びかけに答える者はいない。怒りの矛先を失った颯は、今度は落ちていた剣を拾い、闇雲に剣を振り回す危険な生物へと変わろうとしていた。



「ルナ!ハヤテはどうなったの!」



 ようやくルナの下に辿り着いたカナは、豹変した颯の姿と行動、言動に戸惑いを隠せないでいる。



「……ハヤテさんのあの姿は、親しい者を失った悲しみと怒りで我を忘れた時の姿です。その気持ちは私も分かりますが、このままではいけない気がします。なので………私が元に戻して見せます!」



 ルナは過去に行った行動をもう一度する覚悟を決める。


 そして颯に近づくが、そんなルナに向かって剣を振って来た。ルナは驚きと共に一歩下がる事で攻撃をかわせたが、前の時と違い、今は誰が近づいても振り回している剣を止める気配が感じられない。このままでは自分の身も危ないとは感じたが、ここで引き下がる訳にはいかないともう一度一歩を踏み出す。


 まるで間合いに入った者を全て斬り裂く勢いの颯は、ルナに向かって先程以上の力が込められた剣を振るう。いくら変身の魔導具でステータスが上がっていても、魔法使いであるルナではその剣を止める事も避ける事も出来ないと感じ、恐怖で目を閉じてしまう。



キーーーーーン!



 その剣は甲高い音を立てて止まる。ルナの手助けをする為に、変身の魔導具を使ったカナが颯の剣を受け止めたのだ。しかし剣を受けとめたハンマーの先端はポロっと斬れ落ちてしまう。シャドーウォールを纏わせて耐久力を上げたはずのハンマーですら、一撃を止める事しか出来なかった。



「ハヤテ!もう止めるの!」



 武器を失い、足を負傷しているカナはそのまま颯の腕にしがみつき、その行動に制限を掛ける。変身の魔導具の効果でステータスが倍になっているはずのカナの力をもってしても、その動きを完全に止める事は出来ない。それほどこの姿の颯は異常な力を纏っている証拠だった。



「ルナ……ハヤテを助ける方法があるなら急ぐの……今の私の力ではもちそうにないの」



 自分の声に何も反応がない事に、カナは悲しそうな表情をする。それでも元の颯に戻ってほしい気持ちに変わりはないので、明確な自信を持っているように見えるルナに全て任せる事にした。



「分かりました!ありがとうございます!」



 ルナはカナにお礼を言って、すぐに颯の首に手を回し口づけをする。2度目とはいえ、ルナの頬はほんのり赤くなっていた。







「…………ル……ナ?」


「そうですよ、ハヤテさん。おはようございます」



 ルナは僕が意識を取り戻した事を確認し、笑顔で挨拶をしてくれる。

 


「……僕はまた……」


「今は反省をしている時間はありません!ハヤテさんの力でゼロさんを!」


「そうだ!急いでゼロの所に行かないと!」



 僕は怒りに呑み込まれて我を忘れてしまっていた事を思い出し、握っていた剣を手放し恐怖する。今思い出してみると、あの時の僕はルナやカナまでも手に掛けようとしていたのだ。

 だが自分の変化に怖がっている僕に、ルナは今一番優先しなければならない事を思い出させてくれた。


 僕は急いで黒い人化を解きながら、ゼロの下に駆け出していく。



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