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41話 新たな魔法の習得




 迷宮の空気が元に戻り、夜が明けて魔物の凶暴化が終わった事に気がついた。


 それから少ししたら、リーザが目を覚ましそうだったので僕は慌ててゼロを起こした。



「あ、おはようございます。…一度も交代しませんでしたけど、大丈夫ですか?」



 リーザは目を覚ますのと同時に、交代しなかった事でゼロが寝ていないと心配したのだ。



「私は全然平気よ。ルナ達も起きたようだし、食事をしたら先に進みましょう」



 そうリーザに答えたが、僕はゼロの口元に注目していた。



「…ゼロ、ヨダレ、ヨダレ」



 僕は周りに聞こえないような小声でゼロに教えた。僕の言葉でその事に気がついたゼロは、顔を真っ赤にして慌てて口元を拭きとっていた。そして僕の顔に指が食い込む。



「もう少しマシな言い方があるでしょに!まったく、あんたにはデリカシーって物がないの」


(教えてあげたのに、なんて理不尽な……)



 ゼロも一応女性なので、どうやら恥ずかしかったようだ。だが、僕にとっては理不尽な攻撃を受けたにすぎず、痛い所を押さえて耐えるだけだった。






 全員の準備が終わり、さっそく17階層の攻略が始まる。


 この階層ではフレイムドックとサラマンダー、それに加えて<レッドバタフライ>、火の粉を上から撒き散らすだけの魔物だ。攻撃力自体は大した事がないのだが、それでも地肌に当たれば火傷はする。火属性の魔物には影響がないが、こっちだけジワジワとダメージを受けるため、集中力も散漫になりうるのだ。


 しかし今回は他の冒険者とは違い、上空を攻撃出来る魔法使いが2人もいる。なのでレッドバタフライはルナとリーザが優先的に倒し、地上の敵はゼロとカナが相手をした。


 このフォーメーションが成功し、17階層も攻略を終える。





「この階層でも魔導具が見つからなかったわね。本当にこの迷宮では魔導具が生まれてるの?」



 15階層以降には最近誰も入っていないとのギルドマスターの話だったので、魔導具が見つかるかもと期待していた僕達だったが、ここまで1つも見つかっていないのでゼロから愚痴が出たのだ。



「そうは言いましても、この町のギルドで最強だったチーム<イーグルクロー>が下層に潜っていたのは、ルナちゃんが冒険者になる少し前の話ですのでそこまで時間が経っていません。なのでイーグルクローの皆さんが見逃した場所がない限りは、そう簡単には魔導具は発見出来ませんよ。

 なのでアリサが前に見付けた魔導具は、奇跡のような確率だったと言えますね」



 魔導具は迷宮の瘴気を長年吸った魔石や武器が変質して生まれる物なのだ。瘴気が濃い場所だったら生まれるのも早いだろうが、この迷宮はそこまで濃い瘴気が出ている訳ではないのだ。むしろ管理されている感じがあるので、魔導具も決まった周期で生まれると考えられる。



「なら最下層の扉の先以外では、魔導具が見つかる確率はほぼないって事ね……」


「残念ながらそうとしか言えませんね。もちろん魔物との戦いをしながらの探索なので、見逃しがない保証はありません。なのでまったくの可能性がないとは言えませんが」



 そうこう話をしていると、階段の終わりが見えて18階層に足を踏み入れた。



「ここは<フレイムゴーレム>だったわね。まったく、体が燃えている魔物は相手し難いのに…」


「……大丈夫、その為に私がいるの」



 燃える石の体を持つゴーレムなので、相性が悪いゼロの武器はまるで役に立たないのだ。もちろんリーザの魔法も役に立たないので、ここはルナとカナだけが頼りだ。



「私が出来るのはかく乱だけね」



 攻撃が出来ない以上、ゼロが出来るのは魔物の目の前でウロチョロして、気を引く事しか出来ないのだ。


 それでもその効果はあり、カナが楽に近づく事が出来て攻撃出来る。ルナも魔法で攻撃をしていたが、熱を持った体なので効果が薄いようだ。



「やっぱり魔法の効きが悪いです」



 ルナも自分の魔法の不甲斐無さに悔しそうにしている。



「おかしいわね…普通、火の魔物には水が弱点のはずなんだけど…」



 ゼロの言いたい事は僕も感じていた。火を消すのだから水は弱点のはずなのだが、実際には効果が薄い。考えられるのは相手の温度が高過ぎて、直撃する前に水が蒸発してしまい威力が半減しているのだろう。


 なら水の量を増やせば何とかなるかもと考えれるのだが、今回の相手は石の体を持っているので、ただ水量が増えただけでは結局ダメージは上がらない。



(温度が低く、更に硬度も上げるとなると、思い付く方法は1つなのだが………)



 前にカレンが火の魔法の火力を上げる努力をしていた以上、ルナの水の温度を下げる事も可能なはずなのだ。


 アドバイスをルナに言いたいが、今は隣にリーザがいるので声を出す事が出来ない。魔法はイメージだけでどうにかなるので、なんとなくでも理屈を教えて、それをイメージ出来れば発動してくれるはずなのだが……。


 結局ほどんどカナ1人が攻撃の要になっていたが、どうにか19階層への階段を見付ける事が出来た。





「……ちょっと休憩が欲しいの。残りMPが余裕ないの」



 カナは武器を守る為に攻撃の際、シャドーウォールを使ってハンマーと右腕を覆っていた。なのでMPの消費が激しかったのだ。



「そうね。カナにはかなり負担を掛けちゃったし、一度休憩にしましょう。私が下を見て来るから、ルナは上を見張っていて。リーザはカナと一緒に中心で待機よ。基本は魔物が階段には来ないと思うけど、ここまで下層に来たら法則が崩れてもおかしくないわ」


「…確かにそうですね。今までが大丈夫だったから、階段は安心だと油断していたら危険ですね」



 ゼロの話に納得したリーザは、階段部で別行動になる事に変だとは考えていなかった。



「ルナ、何かあったら無理をせずに合流するのよ」


「…分かりました」



 ゼロは二手に分かれる前にこっちに来て、そう声を掛けてきた。ルナはあまり力になれていない事から、少し表情が優れない。



「あと、ルナの悩みの答えをそいつが持っていそうだから、見張っている時間を利用して試してみなさい」



 そしてその後にリーザには聞こえないような小声でルナに呟く。どうやらルナの態度と僕の様子から、対応策があると読んでいたようだ。



(流石、元女神だな。ここまで読んで見張りの事を提案するなんて、だてに歳はとっていな…)


「だから失礼な事を考えるなって言うのよ!」



 僕の考えていた事が言い終る前に、ゼロのアッパーが僕の顎にヒットして言葉に遮られる。そして僕はルナの手から離れ、一足早く階段の上に飛んで行く事になった。







「それでハヤテさんには火の魔物対策があるのですか?」



 殴り飛ばされた僕を拾ってくれたルナが、階段の上部に辿りついてから聞いて来た。しかしルナの表情はすぐれないままだ。火の魔物が出始めてからルナの魔法は効果が薄いままだったので、足を引っ張っていると感じているのだろう。



「対策は単純だよ。おそらく火の魔物にルナの魔法が効き難いのは、直撃する前に水が蒸発して威力が半減しているせいだと思うんだ。だから水の魔法ではなく、温度の低い氷の魔法を使えばいいんだよ」


「氷、ですか?ですが水の温度を下げるにはどうすれば………私にはイメージが出来ません」



 ルナがイメージ出来ないと言っている以上、決して魔法で氷が現れる事はないだろう。温度を下げれないと思ってしまっているから、まずはそれを壊さないといけないのが新しい魔法を覚える時に難しいとされる理由だ。



「大丈夫だよ。水を氷にするのに水温を下げようと考える必要はないんだ」


「氷なのに温度を下げないで良いのですか?」



 僕の話にルナは、キョトンとした表情で僕を見ている。



「ああ、普通に氷を作るなら温度を下げて水を氷にしないといけないのは事実だ。しかし一度氷が出来たら周りの温度が高くてもすぐに水には戻らない。それは目には見えない水原子がしっかり繋がっているからで、その状態を維持しているのが氷で、バラバラなのが水、そして活発に動いているのが高温の水蒸気なんだよ」



 僕は地面に絵を描いて、前世に見た事がある水原子の説明をする。



「つまり氷も水蒸気も水の一種なのですね」


「そう、周りから冷やして氷を作るのではなく、水を原子レベルで氷にするんだ。前にカレンが火の魔法の火力を上げる練習をしていただろ。それも細かく言えば原子の動きを活発にした結果、火力が上がる事に繋がっているんだ。

 だから水の魔法が使えるルナは、水原子の動きを抑えるイメージをすればするだけ氷の温度は下がり、より硬い氷が出せるようになるんだよ」



 自分で言っておいてなんだけど、これを科学的に出来る方法を僕は知らないので適当な部分もある。ただイメージさえ固まれば発動する魔法なので、自信満々に言ってルナを信じさせなければならないのだ。



「…難しいですね…」


「そうだね……例えばだけど、気温が寒いと体は動き難くなるだろ。それと同じで、水原子を動き難くすれば温度が下がり氷になるんだよ」



 冷静に考えてみても、成功確率は3割程度。それも実戦で利用できるレベルにまで一気に持っていける可能性は、1割を切っていると思っている。



(例え氷にまでいかなくても、水温が下がれば十分効果は上がるはずだ)



 ルナは今、目を閉じて一生懸命に僕が書いた絵を元にしてイメージを纏めている。あと僕に出来る事は、ルナを信じて待つ事だけだ。


 そしてルナが動いた。杖の先にはバスケットボール大の水の玉。そしてその中心にあるのは……



「で、出来ました!本当に氷を出す事が出来ました!」



 形状や前方に飛ばすなどは考えていなかったようで、現れた水の玉はそのまま下に落ちる。落ちた事で水は散らばってしまったが、中心にあった氷の玉はしっかりと残っており、確かな成果としてルナの目の前に残っているのだ。


それを手に取って見たルナは、今までの優れなかった表情を一変して興奮して喜んでいる。



「凄いよルナ。まさか一発目で成功するとは思ってもいなかったよ」


「ありがとうございます。ハヤテさんが教えてくれる事は信じられますので、絶対に出来ると思いました」



 この後一度覚えた感覚は忘れないどころか精度が増していき、何度も練習を行った結果、氷を槍のように伸ばして放つ事が出来るまでになった。ひとまず攻撃に使えそうなレベルまでいったので、今はMPの回復の為に体を休める事にする。


 いまは僕達の周囲に氷の柱が何本も刺さった異常な状態で、ヒンヤリして気持ち良かった。氷の柱はその内融けるだろうとほかって置く。



「ハヤテさんはいつでも私が困っていると助けてくれますね」


「いつでもって訳ではないよ。僕には出来ない事や知らない事が多いぐらいなんだ。助けれたのは偶々だから、あまり過度の期待は持たないでね」



 僕達は今、階段の壁に背中を預けて座って休んでいる。ルナもさっきまでの表情の暗さがとれたので、今はリラックス出来ていると判断出来た。



「そんな事はありませんよ。私はハヤテさんに出会ってから助けてもらってばっかりです」


「ルナはそう言うけど、僕は今のこの雰囲気が好きなんだ。だからルナにも暗い顔をしてほしくないし、もちろんゼロやカナも笑っていてほしい。だから僕に出来る事なら手を貸すよ。なにしろ僕はルナ達がいないと何も出来ないからね」


「なら私達は一心同体ですね。もちろんゼロさんやカナちゃんも含めてですけどね」



 僕の苦笑に対して、ルナは眩しいほどの笑顔で答えてくれた。今のこの関係は気持ち良くて居心地もいい。この関係を続ける為なら、僕は全力を尽くすと心から思う事が出来る。





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