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40話 神の代理人は考える事が一緒なのか?



 翌朝、僕達が冒険者ギルドに顔を出すと既にリーザは待っていた。いつもの受付の時の服ではなく、緑のローブを着て手袋や靴なども耐久力のありそうな物をを装備しており、魔法使いらしく杖を持っている。



「すみません、お待たせしました」


「いいえ、私もさっき来たばっかりだったから、そんなに待っていないです」


「それは良かったわ。じゃあ、さっそく迷宮を目指しましょう!」


「……お手柔らかにお願いしますね」



 やる気満々のゼロを見て、リーザは苦笑いをしながら本気でお願いしていた。







 今回はリーザも一緒にいるが、僕達は上層や中層の魔物とはほとんど戦わず下に向かって行く。



「下層で戦っているって知っていましたが、本当に中層までの魔物だと相手になりませんね…」



 10階層に着いて、リーザが迷宮に潜っていた時に苦戦していたストーンゴーレムだったが、カナが一撃で倒してしまったのを見て呆れるような顔をしていた。



「……動きが遅い魔物とは相性がいいの」



 そう言いながらもカナのハンマーが次々と魔物を葬っている。



「ここまで一方的だと、私が手を出す暇がありませんね」



 上層を歩いている時はリーザも魔法で参戦していたのだが、9階層に入った所から一撃では倒せず、続くルナ達の攻撃でトドメを差していた。試しにリーザが魔法を使わずに様子を見ていると、ルナのアクアライフルやカナの一撃で倒してしまうので、数が多い時以外では魔法を使うのを控えるようにしたのだ。





「さあ、これからが下層よ。魔物の強さも一気に上がるから気をつけてね」



 ゼロが全員に声を掛けていたが、実質はリーザに対して言っていると本人も理解している。


 だが下層と言っても11階層のグレートウルフ相手なら、ルナ達は1人で何とかなるので緊張する事はない。しかしリーザにとっては普段通りにする事は出来なかった。







「ひぇっ!?」



 そして12階層のミノタウロスと対面した時はもっと酷かった。戦闘開始と同時に発せられた雄叫びに呑まれ、腰が引けてしまったのだ。



「安心しなさい。ルナの近くにいれば、リーザの所まで魔物が行く事はないわ」


「は、はい!」



 ゼロの言った通り、魔物がリーザの近くに来る事はなかった。例え魔物が2体同時に現れても、ルナの魔法で片方のミノタウロスの足が切り落とされてしまい、トドメが差されるまで動けないようになるのだ。



「ルナちゃんの魔法を実戦で初めて見ましたが………凄く強力な魔法を使えるようになっていますね」


「打撃に強いので水弾では効果が薄いんです。なのでこの魔法はミノタウロス用に練習したんですよ」


「そうなんですか。でもこんな形の魔法を思い付くなんて凄いですよ」


「そうです。ハヤテさんは凄いんですよ!」


「え?ハヤテさん?」



 ルナの魔法に感心したはずだったのに、なぜか返って来たのは颯を持ち上げる答えだったので、リーザは意味が分からず首を傾げる。


 そんな会話をしている間に、僕達は14階層への階段に到着した。





「さ、ここで一度休憩をしましょう。……ちょっとあんた、さっさと食事と水を出しなさいよ」


(はいはい、今出しますよ)



 ここまで休憩もしないで進んできたので、一度休むのは僕も賛成だった。そして収納の腕輪にしまっていた食事と水をルナに渡す。



「はい、皆さん受け取ってくださいね」


「……ありがとうなの」


「ありがとうございます」


「ありがとう、ルナ」



 そうして食事休憩が始まったのだが、リーザが何か不思議そうな顔をしながら水を飲んでいる。ゼロがルナの方を向いて声を掛ける時に、2種類の呼び方をしていたからだ。

 そのせいか視線が少し僕の方に向いている気がするが、昔ルナに正体がバレて以来、ぬいぐるみのフリをする技量が上がっていると自負している。もちろん声も出していないし動いてもいないので、バレるはずがないと気にしない事にした。






 しかしこのノンビリとした時間は突然終わりを告げる。



「おやおや、今日は1人多いようだね」



 ルナ達が食事を終えたのでのんびり話をしていると、突然階段の上の方から声を掛けれた。



「…誰よ」


「そう警戒をしないでもいいよ。今はまだ交渉しに来ているだけだからね」



 声の主の方を見てみると、そこには揃いの黒い全身鎧を来た5人組が立っている。



「今はって事は、その交渉とやらが成立しなかったら争うかもしれないって事ね」


「まあそうだけど、死にたくないなら言う事を聞く事をお勧めするよ」



 5人組の1人が自信満々に上から見下したような態度で話している。しかし僕の見立てでは不思議な事に、そこまで実力者の集まりのようには見えない。



「あんた達に私達をどうにか出来るようには見えないけど、とりあえず話だけは聞いてあげるわ」


「それは良かった。なーに、そんなに難しい話じゃないよ。僕達は最下層を目指しているんだけど、次の階層は魔物の数が多くてね。僕達だけじゃちょっと苦労しそうだから、君達に数を減らして来てほしいんだよ。君達の実力は度々見させてもらっているからね」



 その言葉でゼロは前に階段で休んでいた一行だと思い出した。



「つまり、実力が足りないから私達に手を貸してほしいと頼んできたのね」



 やはり見た目通りの実力かと、つまらない者を見るよう顔でゼロが答える。



「僕達の戦い方は大量の魔物との戦いに向かないだけだよ。それに1つ勘違いをしている」


「勘違い?」


「僕は頼んでいるんじゃない。命令しているんだよ」



 あくまでも自分達の方が上だという態度を変えずに話をして来る男。



「ちょっと待ってください!貴方達は冒険者登録をしているんですか?私は普段ギルドで受付をしていますが、貴方達を見た記憶はありませんよ」



 顔は兜のせいでハッキリとは分からないので、その仕草や声などをジッと観察していたリーザは、自分の記憶にない男達を無許可で迷宮に入っている違反者だと判断したのだ。



「ち、1人増えていると思ったらギルドの奴かよ。……まったく、これじゃあ君達を生かして帰す訳にはいかなくなったな」



 口惜しそうに男がそう言うと、それが合図になっていたようで、5人は一斉に僕達に短刀を投げつけて来た。


 突然の不意討ちだったが、実力的にはルナ達の方が上なので何とか凌げる攻撃だった。ただ…



「え?」



 ただ1人…リーザだけが数年のブランクを抱えている事もあり、即座に攻撃に反応する事が出来なかった。



「!?。危ない!」



 直撃コースだったが動けないでいるリーザを守るべく、近くにいたルナが突き飛ばして短刀のコースから外す。しかし、その為にルナは腕が軽く切られてしまった。



「すみません、ルナちゃん。私のせいで怪我をさせてしまいました」


「大丈夫です。ただのかすり傷ですから、気にしないでください」



 リーザもルナの傷を見て少しホッとする。



「かすり傷ねー。ククク、確かにかすり傷だろうけど君はもうアウトだよ」


「なんでもうアウトなのよ!…まさか、今の武器に毒が塗ってあったの!?」



 ルナもその可能性に気が付いて、すぐに傷口から毒を吸い出し始める。



「毒?そんな生温い訳がないだろ。君の右手の甲を良く見てみなよ」



 いまだ自信があるような態度を消えていない男は、勝ち誇ってルナの手の甲を見るように言ってきた。そして確認してみると、痣のような物が数字の165と浮かび上がっている。その痣は不思議な事に等間隔で変化していき、数字のような物は徐々に減っていたのだ。



「<3分間のカウントダウンデス>……このスキルをさっきの武器に付与させていたのさ。効果は単純。その数字が0になった時に君の命は尽きるのさ」


「そんな!?私を庇ったせいでルナちゃんが……」



 リーザは男の説明を聞いて責任を感じて顔色が青くなってしまう。その間もドンドン数字は減っている。



「……なるほど。敵を倒すのに3分間待たないといけないから、大量の魔物との戦闘に不向きって訳ね」


「へー、仲間の命が尽きようとしているのに結構冷静なんだね。それとも仲間ではなく、利益の一致か何かで一緒に行動している関係だったのかな」


「私達はちゃんとした仲間よ。それより貴方のスキルは<3分間の命>とその効果を武器に付与する物でよさそうね。解除の方法は貴方を倒す事で良いのかしら?………異世界から来た、神の代理人さん」


「な!?」



 自分の出身が見破られた事で今までの余裕が失われて、一気に余裕が無くなった男は動揺を隠せないでいた。



「……そういう事なら私が前衛で戦うの」



 そう言ってカナが階段を一気に駆け上がって攻撃を始める。



「ば、馬鹿か!このスキルは僕が死んでも消えない。解除の方法は1つ、僕がその数字に触れて解除しないといけないだぞ!」



 しかしカナの攻撃は止まる事がなかった。実力的に圧倒的なカナのハンマーが、次々と代理人の仲間を吹き飛ばす。その者達の黒い鎧がハンマーの形に陥没しており、鈍い音と共に壁に叩きつけられた衝撃から、とても普通の冒険者が耐えれるものではない。



「……貴方のスキルはつまらないの」


「!?。ふざけるなーーー!」



 4人目の男を吹き飛ばした隙を突かれ、カナの後ろから剣が向かって来る。その攻撃に反応するも、避けきれずカナの肩に軽い傷がつく。自分の仲間を囮に使った攻撃だったので、流石のカナも完全にかわす事は出来なかったのだ。

 そしてカナの手にも数字が浮かび上がる。



「これでお前も終わりだ。死にたくなかったら、武器を捨ててさっさと降参しろ!」



 しかしカナはその言葉を無視し、男の腹を拳で殴りつける。男はその重い攻撃に腹を押さえて蹲ってしまう。



「……うるさい奴なの」



 見た目は子供にしか見えないカナに上から見下ろされている事に、男は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしていた。しかしダメージが大きく、殴られてた一撃で立ち上がれないでいるのだ。



「馬鹿な奴らだ。信じていないのだろうが、僕のスキルは絶対だ。もうすぐ3分経つ。最初の奴が死ぬ所を見て、死の恐怖に震えるといいさ」


「だ、そうよ。ルナ、数字はあと何秒なの?」


「あと10秒ですね。9、8、7」



 男の態度とは裏腹に、ルナ達に恐怖の色はまったくない。もちろんリーザ以外だが。



「ル、ルナちゃん。あの人が言っている事がほんとだったらどうするんですか!」


「たぶんスキルは本物ですよ。あと5秒です」


「本物って!?ならなんでそんなに落ちついていられるんですか!」



 リーザはドンドン減っていく数字を見て、益々顔色が青くなっていく。



「ククク、さあ死ね!」



 リーザは恐怖から顔を手で覆ってしゃがみ込んでしまい、男は腹を押さえながら笑っている。



「3、2、1、0………ほ、よかったです。痣が残ったらどうしようかと心配しましたよ」



 ルナは数字が0になった後、綺麗に痣が消えた手を見てホッとしていた。



「……私もそれが心配だったの」


「ハハ、それは良かったわね。そんな目立つ所に痣が残ったら、女として嫌だもの」



 ゼロとカナも笑いながら痣の事を話している。



「ば、馬鹿な……なんで俺のスキルが発動しないんだ。なんで死なないんだよ!」



 男はルナが死なかった事に驚愕を隠せないでいる。今までどんな魔物に対しても一度も失敗した事がないスキルがまさかの不発。一撃必殺のスキルが効かなかったのだから、その動揺もしょうがないのだ。



「嘘、だったの…?」



 リーザは緊張と恐怖で腰が抜けて座り込んでいるが、ルナが生き残った事で男が嘘をついていたのか思ったのだ。



「あの反応から見ても、スキルの話は本当だったでしょうね。だからリーザが攻撃を受けていたら死んでいただろうけど、ルナやカナにはその手のスキルは通じないのよ」



 そうこう話している間に、カナの数字も0を迎えて跡形もなく消えてしまった。



「………まったく、今回選ばれた奴等はどうしてこんなに楽に勝てるスキルを選ぶのかしらね。聞いた話ではもっと夢を叶えるような物を選ぶ奴が多いと思っていたんだけど……時代の流れかしら」


(うわー…年寄りっぽい事を言ってるよ。ゼロってやっぱり結構な年齢なの………ぐぁ!?)



 僕がゼロの年齢の事を考えていると、飛びかかるようにルナから僕を奪い取り、勢い良く地面に投げつけられた。しかも階段の角に顔から落ちたのでかなり痛い。

 その様子にリーザは着いていけていなかったが、ゼロは気にしてはいなかった。



「まったくこの変態は……油断するとすぐ失礼な事を考えるんだから」


(相変わらず何で声にも出していない事がばれるんだ?もしかして声が漏れているのか?)



 しかしその可能性はリーザが何の反応も起こしていない事からありえない。疑問は解決しないまま悩んでいると、男は腹のダメージが抜けたのか、勢い良く立ち上がり逃げ出す。



「そう簡単には逃がさないわよ!」



 ゼロもその様子には気付いていたようで、素早くパラライズナイフを取り出て男の足に向かって投げる。

 そのナイフは狙い通りに足に刺さり、しかも麻痺の効果が出て体が動かなくなったようで、階段から転げ落ちてしまった。



「…馬鹿ねー。人を殺そうとして無事に逃げれると思っているの?それにあんたは死なない事も知っているだろうし、むしろ上で気絶している4人が可哀想になるわよ」


「う、るさい……俺の…おかげで…ここま…で来れた…んだ。…感謝…して…ほしい…ぐらい…だ」



 男は麻痺の為か言葉も上手く話せないでいたが、その言葉に反省の色はなかった。



「まあ良いわ。私達には関係がない事だもの。さあルナ、さっさとトドメを差しちゃいなさい」



 前に聞いた話では、人間にされたとしてもゼロは女神なので、神の代理人を倒す事をしてはいけないらしい。これが許されると自分が選んだ代理人以外を、神が直接手を出す事になりかねないとの話だからだ。



「くそ!…もう…終わりかよ…」



 最後に悔しそうにぼやいていたが、ルナの水弾を至近距離で受けるとあっさりHPがなくなったようで、その姿が消えてしまった。



「まさか一撃で終わるなんてね。まあ、あんな戦い方をしていたなら成長もする訳がないわ」



 おそらく基本的な戦い方は、スキルを込めた短刀を遠くから投げて3分待つ、と、そんな所だったのだろう。こんな戦い方を繰り返していたら成長するのは投擲の腕だけなので、安全な所に隠れて戦っていたツケが回って来たのだ。



(前にあの集団を見た時はグレートウルフと普通に戦っていたよな。たぶん逃げきれなかったから、仕方がなく戦いになったんだろうな)







「それでは落ち着いた所で状況の説明をお願いします。何故さっきの人は消えてしまったんですか?」



 戦闘が終了して張り詰めた空気が緩んだ事で、ようやく落ち着きを取り戻す事が出来たリーザ。今、目の前で起こった人が消えてしまう変な現象の説明を求めてきたのだ。



「……あの人は、ギルドで騒がれているユニークスキル使いの1人です。彼等はHPが無くなっても死なないで、代わりにさっきみたいに消えてしまうんですよ」


「じゃあ前にルナちゃんが倒した指名手配の危険人物も?」



 過去のユニークスキル使いの事件を思い出し、今の男との繋がりに気付いた。



「ええ、同じように消えてしまいました」


「そういえば、ゼロさんが神の代理人とか言っていましたが、それはどういう事ですか?」


「それはある男から聞いたのよ。私は又聞きしただけ」



 本当はゼロから説明を受けたのだが、その事はリーザには言えないので誤魔化している。



「……神の代理人ですか…。その神を名乗る人物を中心にして、何か大きな事が起こっているようですね。これは急いでギルドマスターに報告しないといけません!」


「でも今日は地上に帰らないわよ。なにしろ行ける所まで行くのが今回の目標だからね」


「え?」



 少しでも早く報告を、そう言って地上に向かって階段を上り始めようとしたリーザだったが、全然帰る気がなかったゼロの一言で固まった。

 ここがまだ中層だったのなら1人で帰る事も可能だったのだが、すでに14階層に繋がる階段の途中。とてもじゃないが、1人で戻る事が不可能な場所だったのだ。



「別にそんなに急いで報告しなくても、どうせ対応できないし事態も変わらないわよ」


「……当初の目的を進めるの」


「そうですね。ユニークスキル使いの人達が全員悪さをすれば問題になりますが、一部の人の行動に問題があるからと言って、それを理由に取り締まる事も出来ません。それならばせっかくここまで来た事ですし、もう少し下を目指しましょう」



 そしてリーザ以外の3人は、下に進む事に決めていたのだ。



「で、でも、なにか対策がとれるかもしれませんよ?」


「無理よ。神の代理人と言っても、誰かが指示を出している訳ではないわ。皆、個人の考えを持って動いているのよ。代理人の目的は最後の1人になるまで戦うか、生き残る事。その為に力をつけようと行動しているの結果にすぎないわ。

 ま、期限は5年間と決まっているから、それを過ぎれば落ち着くから安心しなさい」


「……どうしてそんなに詳しいんですか。まるで最初から知っていたみたいに」


「んー……リーザ、あんたは師匠の名前を知っているの?」



 突然話の内容が変わった事に意味が分からず、リーザは少し首を傾げている。



「名前、ですか?師匠の名前は<パラケルスス>ですよ。その事がいったい……」


「あの変人!そんな大層な偽名を名乗っていたの!」



 ゼロは変人のくせに使っていた偽名に驚き、ついつい怒鳴ってしまう。



「偽名って……師匠は本当の名前を名乗っていなかったと言うのですか?」


「そうよ。あいつの本名は<田中 正志>、今問題になっているユニークスキル使いと一緒で、異世界人なのよ!」


「ゼロさん。その事をリーザさんに話してしまって大丈夫なんですか?あまり事情を知ってると、危険な目に遭う確率が上がってしまう気がするのですが……」



 リーザはゼロの話を聞いて驚きのあまり何も喋れなくなっていたが、そんな彼女の心配をしてルナはゼロに問いかけたのだ。



「う!……確かに口外すると危険かもしれないかも………。リーザ、リーザ、帰って来なさい。

いい!田中が異世界人だとか、ユニークスキル使いだとか口外しない事。もし話が広がると、あんたにも被害が及ぶかもしれないわよ」


「え?、え?、ちょっと待ってください。なんで師匠の事を知っていると私が危険な目に遭うのですか?」



 リーザが混乱するのも無理はなかったので、ルナが順番に説明してあげる。その事でルナ達が事情に詳しい事も納得してくれた。






「ま、そういう事だから慌てる必要はないのよ。…納得したようだから、さっそく14階層に向かうわよ」


「…ハー……納得はしましたが、やっぱり下を目指すのですね」



 リーザは60年も問題を起こさなかった師匠の事を聞いたので、ユニークスキル使い=危険人物という認識はなくなった。しかし自分の力量以上の階層に行く事に、ため息をついて歩き始める足取りは重い。



「……気合いを入れて行くの」



 カナは表情を変える事無く言うので、とても気合いが入っているようには見えない。


 そして14階層に入った途端、大量の魔物の攻撃に遭う。しかし、前回経験しているので慌てる事もなく、順調に迷宮を進んで行く事が出来た。

 ただリーザだけは、その圧倒的な迫力に気押されていた。体格の良いミノタウロスが集団で突進してくるのだから、その威圧感に腰が引けるのも無理はない。


 しかしいくら数で攻めて来ても、ルナ達がリーザの所まで近づけさせなかったので、しばらくして落ち着きを取り戻したリーザも攻撃に加わった。

 彼女の魔法の威力ではミノタウロスに効率良くダメージを与えれない事は、既に上の階層で経験していたので、主に防御力の低いキラービーに向かって魔法を放つ。


 リーザの手伝いもあったので、前回よりかなり早い時間で14階層を抜ける事が出来たのだ。





「リーザさん、これが火トカゲのマントです」



 15階層から現れるサラマンダー対策に用意していた火トカゲのマント。ルナ達は3枚しか用意していなかったので、後衛で戦うルナの分をリーザに貸す事にする。



「…ルナちゃんはこれがなくて大丈夫なんですか?この階層以降は火の魔物が多いですから、今回は無理をしないでここら辺で引き返した方が……」


「私は水の魔法が使えますから、全然大丈夫ですよ」


(それに万が一の時は、僕が何とかするしね)



 僕はカナのシャドーウォールを見てから、深夜の練習でゴーストハンドを応用して魔力の壁を作る事を可能にした。もちろん今はまだ薄くて弱い壁なので物理攻撃にはほとんど役に立たないが、サラマンダーの火ぐらいなら遮る事が可能なレベルまでにはなっている。

 これを手から出せばルナ1人ぐらいなら覆えるので、例え逃げ場のない火に襲われても守る事が出来るのだ。



「……そうですか……」



 なのでリーザの引き返す説得は失敗に終わり、ガックリと頭を落としていた。



 前回苦労していた15階層のサラマンダーだったが、火トカゲのマントの影に隠れると火も熱も通さなかったので、ゼロが単独で魔物の群れをぬける事が出来るようになり、絶えず挟み打ち状態を作る事で楽に戦いをこなす事が出来た。







「呆気なかったわね。やっぱり相性が良い装備を持っていると、それだけで戦闘は楽になるわ」



 既に16階層への階段に辿りついた一行は、拍子抜けするほど楽に戦えた事を話していた。



「それは貴女達の実力があっての事です。いくら火を防げると分かっていても、普通の人は火の中に突っ込む事なんて出来ませんよ」



 リーザが呆れているのも仕方がない。何しろゼロはサラマンダーに勢い良く走っていき、吐かれた火に向かって全身をマントで包んだ状態で飛び込んで後ろに回っていたのだ。


 そしてカナもマントを盾にして魔物に近づいて行き、手と腕を魔法で保護してハンマーを振っていた。火トカゲのマントの存在を知らなければ、火をものともせずに攻撃を行っているように見えるだろう。


 そんな2人の戦い方は、リーザからすれば非常識の塊だったのだ。





 無事に16階層に着いた僕達は、ここから現れる<フレイムドッグ>と出会う。全身炎に包まれている犬型の魔物だったが、武器の損傷を防ぐ為に武器を魔法で保護出来るカナに担当してもらったら、とくに苦労もせずに戦闘を終える事が出来た。




 17階層への階段を探すのに少し手間取ったが、何とか見付ける事が出来た所で今日の迷宮攻略を終える事にした。


 この迷宮の不思議な事は、壁自体が薄く光っている事と階段には魔物が入って来ないだけではなく、階段の所は50度近かった各階層の熱も入って来ないで、適温を保って空気が無くなる事もない事だ。

 流石に階段の終わりら辺に行けば暑かったが、中間ぐらいの所は涼しいので休憩などが楽に出来るので助かっている。

 ただ異常な状況なので気味が悪いと言えばそうなのだが、この迷宮が変なのは今さらなので気にしない事にしていた。





 食事を終わらせた一行は、明日に備えてルナが水筒に水を補給する。



「さ、今夜はここで休みましょ。明日は最下層まで目指すんだからしっかり休息しないとね。お休み」


「……お休みなの」


「お休みなさい」


「あ、皆さんお休みなさい」



 そうして全員が横になって寝始める。






「……………って!いくら魔物が来ないからって、誰も見張りをしないで寝るなんて危険過ぎますよ!」



 あまりに自然な流れに一度は流されたリーザだったが、全員が寝ると言う危機感の無さに急に起き上がり怒鳴ってきた。



「…なによ、急に大声を出して。どこでも寝れるようになるのは冒険者の必須事項でしょ?」


「そんな事を言っているのではありません!1人ぐらい起きておかないと、魔物や他の悪意ある冒険者がここに来たらどうするんですか!」


「んーー…確かにそうだけど………まあ、いいわ。私が起きておくから皆は先に寝てちょうだい。あとルナはそいつを貸して」



 ゼロが僕を渡すように言った理由はすぐに気が付く。リーザが安心して眠れるように、ゼロが見張りをするフリを行うのだ。つまり寝ずの番をするのは僕の仕事と言う訳だ。

 元々そのつもりだったし、僕のこの体は寝ようと思わないと眠れないので、寝ずの番は苦にならない。



(皆が寝ている時間はスキルの練習をするから、暇でもないしね)


「ゼロさんが見張りをしてくれるなら寝ますけど、交代の時間になったら起こしてくださいね」


「その時は頼むから、寝れる時にしっかりと寝ときなさい」



 そうしてリーザが寝た後、僕を残して全員が眠りに着いた。



(さ、今日も魔力壁の練習をするとしますか)



 いつもの日課である、僕の深夜の練習。今日は少しでも火から身を守れるようにと、魔力壁の精度を上げる練習をする事にした。


 こうして周囲に気を張りながら、個人練習の時間が流れていく。


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