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38話 火トカゲのマント




「やっと地上に帰って来れたわね……」



 ゼロは少し疲れた顔をして空を眺めていた。



「少し長く15階層に居過ぎましたからね…」


「……帰りはずっと走りっぱなしだったの」



 今回はサラマンダーの鱗を出来るだけ手に入れたかったので、予定より長く粘ったので時間がなくなり、帰りはずっと走って帰ってきたので皆疲れている。



「これ以上下の階層に行くなら、日を跨ぐ覚悟と準備をしていった方がよさそうね」


「前に階段で休んでいた冒険者みたいにですか?」


「そうよ。あそこまで下の階層になると、行き帰りだけでも結構な時間が掛かるもの。最下層が20階層らしいけど、そこまで行くなら絶対に半日では無理よ」



 確かに下の階層に行くにつれて、籠れる時間がドンドン減っているのは事実である。今回はココアの店に今日中に行き、出来るだけ早く防具製作の依頼をしたいのもあって走って帰ってきたのだが、もしギリギリまで粘ったとしても12階層は凶暴化が始まる前に抜けておきたい。

 今はまだレッドミノタウロスへの対策が出来ていないので、出来れば出会いたくない魔物なのだ。



「……それよりもココアの所に行くの」


「確かにそうね。時間もないし先にココアの店に行きましょう!」



 まだ日が落ちたばっかりではあったが、客がほとんどいないココアの防具屋なら早めに店を閉める可能性がある。なのでまた3人は走る事になるのだった。






「良かった……まだ開いているようね」



 迷宮から続いてここまで走って来たので3人は息が荒れており、真っ直ぐ立てないほど疲れていた。



「いらっしゃいませ………って!?どうしたのそんなに疲れた顔をして!」



 相変わらず誰もいない店で暇そうにしていたココアは、僕達が店に入って来るとその疲れきった様子に驚く。



「ここが何時閉めるか聞いていなかったから、迷宮からずっと走り続けて来たのよ」


「そんなに慌てなくても、もう少し店は開けてるわよ。まったく、基本冒険者はギルドに寄って魔石を換金してから店に来るんだから、それに合わせて店を開けておかないとお客さんが来ないでしょ」


「……どっちにしろ客はいないの」


「いるわよ!?現に貴女達が来たじゃない!」



 基本に忠実に店を開けているココアに、カナは確信をグッサリと深く刺す。そんな事実を突き付けられたので、彼女は激しく動揺する。



「落ち着いてください師匠。カナちゃんも本当の事でも、それは言っては駄目ですよ」


「うう…」


「……トドメを差したのはルナなの」


「え?」



 カナの言葉を聞いて後ろを振り向くと、ルナの言葉にショックを受けたココアが項垂れていた。それを見て慌てて謝って励ましたが立ち直ってくれなかった。

 ちなみにルナとカナは、ココアの事を師匠と呼んでいる。似たような体形で結婚しているココアは、今後のアドバイスなどを貰えるので師匠として尊敬しているのだ。



「いいわよ、いいわよ……そんな事言われなくても分かってるもん。この店にお客さんが来ないのは分かってるもん」



 ついに膝を抱えて泣き出してしまったココアを見て、ルナはオロオロするしか出来なかった。ちなみにカナはまるで気にしていないようで、表情を変えずにただ見ているだけだ。



「……まったく…そんな調子なら仕事を任せれないじゃない。せっかく魔物の素材が手に入ったのに…」


「!?」



 ゼロのボソッと行った魔物の素材という言葉にココアは、膝を抱えて座り込んだ状態から一気に飛びかかりゼロの肩を押さえつける。



「魔物の素材って、レア素材を手に入れたのね!何を手に入れたの!?キラービーの棘?それともグレートウルフの牙?いったい何、何を手に入れたの!!!」


「ちょ、ちょ、や、やめ………ウプ」



 捕まったゼロの肩を前後に激しく揺らして答えを聞こうとしていた。その激しい興奮具合と激しい行動にただやられっぱなしで、上手く言葉が言えないゼロの顔色がドンドン悪くなっていく。その行動は呆気に取られていたルナとカナが正気を取り戻すまで続けられてしまったのだ。







「………まったく…酷い目に遭ったわ…」



 顔色がどうにか戻り、落ち着きを取り戻したゼロの前にココアは正座して反省していた。



「まことにすみません。つい我を忘れてしまいました」


「まあまあ、ゼロさんも何事もなかった事ですし、もう立ち上がってください師匠」



 このまま床に正座を続けられると話難いので、ルナは困った顔をして立ち上がるように言う。



「でも……」



 しかし被害者であるゼロの許しがないと気拙いようで、チラリとゼロの方を見る。



「…ハー…もういいから立ち上がりなさい。そんなんじゃ、話が全然進まないわ」


「ほんとごめんね。……それで素材は何?何?」


「ゴホン」


「はい!落ち着きました!」



 また少し興奮しだしたので、ゼロが咳込む事で落ち着かせた。



「…素材はサラマンダーの鱗よ。これを使って…」


「サラマンダーの鱗!?サラマンダーって火トカゲのサラマンダーよね!本当に手に入ったの!」


「いいから落ち着きなさい!」



 興奮状態に一気に戻ってしまったココアに、ゼロは手刀をお見舞いして落ち着かせる。



「あんたの言ってるサラマンダーに間違いないわ。これで火の耐性を持つマントを3人分作って欲しいのよ」


「痛たた…サラマンダーの鱗を使うなら、火トカゲのマントが出来るわね。でも3人分のマントを作るならそれなりの量が必要よ?薄くし過ぎると効果が減っちゃうからお勧め出来ないし……」



 いまだ痛みで頭を抱えていたココアは涙目だったが、伝えないといけない事はしっかりと告げる。



「一応5匹分の素材を集めて来たけど足りるかしら?」


「ご、5匹分って、レア素材をそんなに集めたの?それに今更だけどサラマンダーって15階層より下で現れるのよね?」


「そうよ。そこから走ってここまで来たから疲れたのよ。今後は迷宮で1泊するつもりで行くから、ここまで疲れはしないだろうけどね。……あ!?手を抜かずマントを作ってくれれば、余った素材は自由に使っていいから。

 あと代金は後払いでもいい?」



 今日はまだ魔石の換金をしていないし、頼んでいる武器の代金も払わないといけないので、お金に余裕がないのだ。



「3人分のマントを普通に作ると3匹分の鱗で済むけど、こんなに素材があるんだから少し厚めに作って4匹分ね。余った分で何を作ろうかしら!鎧1つにまとめるのも良いけど、篭手や手袋に使って複数作ろうかしら!ああ、いろいろやりたい事があり過ぎて迷っちゃうわ!」



 真面目な話から自由に使える素材の使い道を想像しだしたココアは、また興奮してトリップしだす。



「余った分の話はいいから、何日で出来るかと代金を教えなさい!これからあんたの夫の所に行って頼んでいた武器を取りにいかないといけないし、ギルドで換金もしないといけないの」



 これ以上進行するとまた手刀をお見舞いする必要が出てしまうので、ゼロは強めに声をかけて冷静さを取り戻させる。



「あ、ごめんなさい。…そうね、糸に加工し終われば後は店の中でも作業は出来るから、2日後には出来てると思うわ。代金は素材を持ち込んでくれてるし、余った分を買い取る形として全部で10万ゼニーってところね」


「了解。なら今度来る時までに用意しておくわ」


「また珍しい素材が手に入ったらよろしくね」






 そうしてまた浮かれ始めたココアの店を出て、今度はグラムの武器屋に顔を出した。



「頼んでいた武器は出来てるかしら?」


「おお、お前達か。ちゃんと出来てるぞ。…それよりお前達、俺の嫁さんの防具屋とも顔見知りだったんだな。キラービーの棘を預かった夜に、ずっと羨ましそうな顔をされて大変だったぞ……」


「何言ってるの。私達がココアを止めなかったら、あんたはハンマーで殴られてキラービーの棘を持ち去られていたかもしれないのよ」


「マジかよ!?……いや、あいつならやりかねんか。何しろあいつは俺以上の生産職に命を掛けているからな」



 そう言ってグラムはため息を吐く。



「ま、今日手に入った魔物の素材を渡して加工を依頼して来たから、たぶん機嫌が良くなってるんじゃないかしら?ちなみに渡した素材はサラマンダーの鱗だから武器には不向きな素材よ」


「サラマンダーの鱗か……確かに武器には不向きな素材だな。だが、もうそこまで行けるようになっているのかよ。ちょっと前に13階層に行ったばっかりだろ?」


「まあね。確かにそうだけど、14階層の魔物は13階層までの魔物がまとめて襲ってくるだけだったし、ちょっと様子見でサラマンダーと戦って来たのよ」


「……サラマンダーはちょっとですまない相手のはずなんだがな……。下層の壁って言われるぐらい危険なんだぞ。……ま、ルナは水属性の魔法使いだから相性が良かったのかもな」



 グラムもだいぶルナ達の異常っぷりに慣れて来たようで、少し遠い目をしただけですぐにいつものグラムに戻っていた。


 そうして頼んでいたパラライズナイフを受け取り、その加工代を払って冒険者ギルドに向かい魔石の換金を行った。もちろんリーザには3等級の魔石の量に呆れられたが、いつもの事として流される。






 ココアに頼んだ防具が出来るまでの2日間は迷宮に入る事を控えて、木材運搬の依頼に力を注ぐ。その2日間は森と町を2往復し、運んだ木材は40本とリーザを驚かせた。

 なにしろこの依頼の為に収納の腕輪の中身を全部家に置いて行ったので、一回に10本の木を運ぶ事が出来たのだ。




「……この依頼はギルドを通していますが、ここまで目立つ成果を出しますと有名になっちゃいますから気を付けてくださいね……。現に何人かルナちゃん達の事を聞きにきましたよ」


「………しまったーーー!!!」



 あまりに飛び抜けた成果を出している事に、リーザはため息混じりに話してくれた。そしてチームで活躍している以上、チーム名が気になる人が出るのは当然だ。そしてその事を思いだしたゼロの絶叫が響いた。




 

「…やっぱりチームで活動するのは危険ね」


「受けるにしても、もう少し周りを見て合わせないと駄目ですね」


「……手加減は難しいの…」


(迷宮内と違って周りの目がある事に、今後はもう少し気を付けないといけないな…)



 僕達は今後の事も考え、反省会と称してギルドで休憩をする事にするのであった。


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