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35話 人化は危険な物だった……


 リーザのお使いに少し時間を取られたので、ギルドの依頼の方に復帰した時には、他の冒険者が台車に木材を乗せて運びだそうとする段階まで進んでいた。



「まったく…あのお爺さんの趣味には困ります」



 いまだ変身後の服装に対して怒りが収まっていないルナは、僕に愚痴をこぼす。



「あんなのこいつの世界では普通の水着レベルよ?まあこの世界では少し露出が多いように見えるかもしれないけど、終わった事を言っても仕方がないわ。それよりさっさと木を伐って運びましょ」


「……そうなの?……なら照れないでじっくり見てほしいの」



 ゼロの言葉に反応したカナは、僕の目の前に歩いて来てそう言ってきた。



「無茶を言わないでよ……いくら子供の水着姿でも目の前で見せ付けられたら照れちゃうよ」


「……私達は子供じゃないの……でも、照れたって事は、興奮したの?」



 その質問の答えにルナは少し……いやかなり興味があるようで、背中から僕の方をじっと見ている気配をヒシヒシ感じる。正直、回答に困る……



(この状況でなんて答えれば正解なんだ!?何も感じなかったと言えば失礼だし、興奮したなんて答えたらロリコンだと言われてしまう………どっちだ、どっちが正解なんだ!?)



 変身後の水着姿を見て、2人共まだ小さいが確かに胸のふくらみがあったのは分かった。それを見て何も感じなかったと言えば嘘になる。それに2人の服が消えた所も見せられていたのだから尚の事だ。僕は冷や汗をダラダラ流しながら考えて考え抜いた結果、中途半端な回答を選んだ。



「………ちょっとだけ…」



 散々悩んだが正直に答える。その答えを聞いてルナとカナは頬を赤く染めていたが嬉しそうにしており、ゼロは予想通り変態を見るような顔をしてこっちを見ている。



「さ、さあ、この話は終わりにして作業に入ろうよ!」



 これ以上この話が続いてしまうと、僕の印象がドンドン悪い方向に行ってしまいそうなので、木材の伐採に行くように話を変えようとする。



「確かにその変態の言う通りよ。完全に出遅れてしまったから急ぎましょう」


「……変態って……」



 散々悩んだ結果に対してゼロが変態と言って来たので、僕は地味にダメージを受けていた。



「嬉しい話も聞けましたし、作業に入りましょう」



 すでに作業が早いチームは運搬に入っており、台車を確保出来なかったチームは全員の肩に乗せて運び始めている。別に急ぐ仕事ではないが、僕達は完全に出遅れていたのだ。



「じゃあ、ルナが木を伐ってそれをカナがゆっくりと横にして。余分な枝は私が切り落とすから、……そうね、5本も持ち帰れば十分じゃないかしら」



 伐採ポイントに着いた僕達は現地の人に伐る木を教えてもらい、遅れながらに作業に入る。その様子を見ていた現地の人や、出遅れている冒険者は驚きのあまり動きが止まってしまうのだった。


 なにしろ斧を何度も振ってやっと倒す木を、ルナのアクアスラッシャーの一撃で根元から切ってしまい、あまりの切れ味に倒れる事がなかった木は、カナが重そうにはしていたが1人で持ち上げて横にしたのだから、驚かない方が変なのだ。そして無駄な枝を切り落とした後に、次の切り倒す木を聞き始めたので更に驚かせた。


 それもそのはず、今切り倒した木の1本の長さは10メートル以上あるのだ。なのでまだ力が付いていない他の新人冒険者のチームでは、1本の木を運ぶのが精一杯。それを2本目となると、いくらなんでも無茶し過ぎだと思われてしまったのだろう。


 もちろん現地の人も止めようとしていたが、ゼロが「一気に5本まで簡単に運べるから、黙って次の木を教えなさい!」と言いきり、その迫力に負けていた。そして次々と木を指定してくれては、すぐに切っていったのだ。



「さて、これだけ運べば十分でしょ。さあ変態の出番よ」



 5本もの材木をどうやって運ぶのかと周りが見ている中、ゼロは変態と言ってこっちを見る。



「…ハヤテさんは変態ではありませんよ」



 ルナが僕を弁解するように言ってくれた後、積み重なった木材の近くに歩き出す。


 そして周りの人にとっては何度目になるか分からない、驚愕の光景が目の前で展開する。



「ハヤテさんお願いしますね」



 人目があるので僕から動く訳にはいかない。なのでルナに木材に近づけてもらい、収納の腕輪に入れていく。理由を知っている僕達にとっては当たり前の光景だったが、何も知らない人達にとっては突然木材が消えていくのだから驚かない訳がない。



「さあ目的も達成したしさっさと町に帰りましょう。あ!あそこに魔物が一匹いるから、ルナよろしく」



 指定された木も持ったし、帰ろうとした時にゼロが離れた所に魔物を見付けた。まだ距離があるのでルナに退治を頼み、ゼロが指を差した先にいる魔物を確認したルナは、杖を向けて魔法を放ち、あっさり倒してしまう。

 もはや誰も何も言えない状況になったが、僕達は気にしないで町に向かって歩み始める。


 手ぶらの僕達は足取りも軽いので、帰り道で木材を一生懸命運ぶ冒険者を次々と追い抜いて行った。









「そうだ。今なら周囲に誰もいませんし、ハヤテさんの人化の魔導具を使ってみてはどうですか?」



 既に先頭を歩いていた冒険者を追い抜いてだいぶ経ち、姿が見えない訳ではないが、距離が結構離れているのでルナは安全と判断したのだ。



「面白そうね。一度わざと魔力漏れを起こして、被害の大きさも見ておいて方がいいしね」



 実際に5万もの圧縮魔力の爆発規模は、一度見ておかないと想像も出来ず対策も何もとれない。その事は理解できるので、さっそく僕は魔導具を使ってみる事にする。


 流石に一気に5万もの魔力が抜け出ると脱力感を感じたが、どうやら無事に作動してくれたようで僕にとっては懐かしの姿、ルナ達にとっては初めての姿になる。



「おお。あんたが死んだ時の姿ね」


「せめて死ぬ前の姿と言ってくれよ。それよりちゃんと人間の姿になってるの?確かに視線は高くなっているけど、自分じゃよく見えないから分からないよ」


「その姿がハヤテさんの前世なのですね。とても優しそうなお顔ですよ」


「……ハヤテカッコいいの」



 生前はそんなに身長が高い訳ではなかったが、170センチと平均ぐらいだったのでルナ達より背は高い。なので3人は少し上目使いでこっちを見ている。



「……あんたの本体って、今どうなってるの?」


「一応、顔が重なっている形だよ。ただ体の感覚はないな……魔力の塊だから仕方がないけど、手以外は慣れないといけないな」



 手の感覚はゴーストハンドで慣れているので、すぐにコツは掴めた。元々人間だった時も、そこまで体の細かい所まで気を使って生活はしていなかったので、意識するのに苦労しそうだと感じたのだ。

 あと、ぬいぐるみの時に比べて人化の時の顔は小さい筈なのに、痛みも何もなく自然に収まっている。爺さんは魔力を見えるようにするだけだと言っていたが、細かい所のフォローは魔導具の効果のようだ。



「それでもハヤテさんの言葉や視線に合わせて顔も動いていますし、町で歩いても不自然さは感じませんよ」


「……とっても自然に動いているの」


「あの爺さん、そういう所は地味に良い仕事をするなー。…………MPの消費量は規格外過ぎるけど」



 2人の話を聞く限り、どうやら僕の動きに合わせて魔力の体も動いてくれているみたいだ。ただ爺さんが言っていたように、この姿でも力などはステータスに依存しているようで、強くなった気はまったくしない。




「…それじゃあ、早速魔力漏れの実験をしてみましょうか」



 そう言ってゼロは、後ろから突然短剣で軽く刺してきたのだ。



「もう!?それに短剣で刺すって、流石にやり過ぎでしょ!」



 この体の動きは人と変わらないので、背中を見る事は当然不可能。おそらく刺される瞬間を見せない事で、少しの恐怖も感じないように気を使ってくれたのだろう。


 そしてと言うかやはりと言うか、魔力の体なので僕は痛みを感じる事はなかった。



「あ、煙が出始めたわ」


「……それが魔力漏れなの?」


「ちょ!?それって爆発する前兆じゃないか!危ないからさっさと離れないと!」



 すぐに爆発する事はなかったが、痛みもなく、あまりに簡単に魔力漏れが始まったので、ルナ達を巻き込まない為にも慌てて遠くに走って行く。ルナ達も僕とは逆の方向に全力で走ってもらい、互いの距離が500メートル以上離れた時……………僕を中心に大爆発を起こったのだ。



ドォーーーーーーーーン!!!!!

「ギャーーーーーーーー!!!!!」



 

 大地を抉り、空気を揺らし、上空の雲にも波が出来るほどの巨大な円形の爆発と爆音。その中に僕の悲鳴も混ざっていたのだが………それを認識出来る人は誰もいなかった。






「………痛たたた…なんなのよ、この爆発の規模は……見事にクレーターが出来ちゃってるわよ…」



 爆心地(僕)から結構な距離が離れていたはずだったが、ルナ達は爆風に巻き込まれて吹き飛ばされていた。全員土煙で髪はボサボサ、服や顔も汚れた状態で立ち上がり、その爆発の跡を見て唖然とする。


 爆発する瞬間に僕は小さな窪みを見付けたので、そこに入り込んで少しは被害が減ったのだが、それでも直径400メートルぐらいの大きなクレーターが出来あがってしまった。



「ハヤテさんは無事でしょうか!?」


「大丈夫よ。あいつのHPなら何とか耐えれるだろうから、さっさと回収しに行きましょう」



 そしてルナ達は急いでクレーターの中心に僕を探しに来てくれる。幸い僕は元のぬいぐるみの姿に戻っていたが、体の半分ぐらいしか埋まる事がなかったのですぐに発見された。

 そしてこれだけの爆発が起こってしまった以上、森から町に帰って来る冒険者や、町で異常に気付いた人達が集まって来てしまうので、慌ててこの場から立ち去らないといけない。



「ご、ごめんよ皆……怪我はなかったかい?」



 僕は衣服が土や埃で汚れてしまっているルナ達を見て、爆発に巻き込まれたと思い怪我の有無を心配する。



「私達は少し吹き飛ばされただけですから大丈夫です。それより爆心地にいたハヤテさんの方こそ大丈夫だったのですか?」


「ああ、死ぬほど痛かったけど、馬鹿げたHPのおかげで耐えれたよ」



 町からクレーターを見に来る人とすれ違うのを恐れ、やや遠回りにはなるが迂回して町に向かっている。おかげで遠くの方で人が歩いて行くのは見えたが、僕達とすれ違う人はいなかった。

 その後この爆発の原因に、魔族の攻撃や古代遺産の暴発やら魔導具の暴走など色々な噂が出たが、真相を知っているのは僕達だけなので、一部を除き謎のままで終わってしまう。



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