34話 変身とは恥ずかしいものだった
遅くなりましたが本日の投稿分です。
「まったく……もうちょっと使用MPを減らす事は出来ないの?」
見栄も恥も気にせず、ついに泣き始めてしまったリーザの師匠。その見ている誰もが分かるほどの絶望っぷりに、流石のゼロも内心は呆れていたが優しい声で打開策を提案してあげている。
「……無理じゃ…そんな事をしたらここまでの性能は出せん」
「なら空を飛ぶ機能をなくすとか、いろいろ機能に制限を掛ければ?」
「空も飛べぬ魔法少女がいる訳がなかろう!そんな妥協を認める事など出来ぬわ!」
急に怒鳴りだしたが、爺さんのこだわりがここに来てまた足を引っ張りだす。
「まったく……1人で使えない魔導具なんて何になるって言うのよ。
………なら、仕方がないわね。ハヤテ!あんたの魔力を使って魔導具を起動させなさい。あんたの馬鹿みたいな魔力を使えば何とかなるでしょ」
「そうですね!ハヤテさんが私を通して魔力を流してくれれば、変身に必要な魔力を確保出来ます」
「なん、じゃと……。マスコットの力を借りれば変身出来ると言うのか?本当に変身を見れると言うのか?」
まるで地獄に光が差したように、顔だけを上げて縋るようにこっちを見て来る。
「そこの馬鹿は魔法は使えないけどMPだけは大量に持っているの。それにちょっとした事情で、ルナとカナの魔力の質はそいつの魔力の質とまったく一緒だから、魔導具もルナが魔力を流したと思うはずよ」
そうなのだ。もし仮に僕が直接魔力を流してしまったら、魔導具で変身するのはルナではなく僕になってしまうだろう。それは僕も嫌だし、まさに誰得の状況になる。
「なら早く変身をしてくれ!わしの、わしの生涯の集大成を見せてくれ!」
膝をついたまま右手を上げて懇願してくる爺さんを見て、ルナはさっそく魔導具を使う事にした。
「それでは行きましょう。ハヤテさんお願いします」
その掛け声に合わせて僕はルナの手を通して魔導具に魔力を流す。その膨大な魔力を流した瞬間、持っていた魔導具が強烈な光を放ちだす。その光に驚いているルナの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり、服や装備品が煙のように消えたと思ったら、次の瞬間には新しい服を身に纏っていた。
「!?。キャーーーーー!!!!!なんで服が消えるんですか!?それになんですかこの服は!」
変身が終わった直後、ルナは悲鳴と共に恥ずかしがってしゃがみ込んでしまう。
「……うわーーー…これは恥ずかしいわね………光で見にくかったけど服が消えて一瞬全裸になるし、変身後の姿も…ねぇ?」
「……他人には見れたくないの」
「ちょっと!?僕の位置からだと良く分からなかったんだけど、どうなったの?」
混乱中のルナに抱きかかえられているので状況を理解出来ない僕を、カナが抱き上げてルナの姿が見える位置に持って行ってくれる。
ルナの今の姿は体のラインがハッキリ分かる白い競泳水着のような物に、薄い青色の半透明なスカートと胸の中心に宝飾品が付いていて、手には同じく白い手袋を着けている。そして使っていた杖が形を変えて装備されていた。
この町で女性はロングスカートかスウェットなどの為、露出の多い服装をしている人がいない。ハッキリ言って突然水着姿にされたのだから、ルナが恥ずかしがってしゃがんでしまうのも無理はなかったのだ。
「おお!これぞ魔法少女じゃ!この変身があってこそ真の魔法少女じゃ!」
爺さんはルナの変身を見て立ち上がって興奮していた。
「そんなに見ないでください!」
そう言ってルナの振った杖が爺さんにヒットする。
「ゲフッ!?」
「え!?」
そこまで力を込めたつもりがなかったルナの驚きと共に、爺さんは派手に吹き飛んでしまった。
「い、良い一撃じゃ……魔法少女に殴られる時が来るとは……こんな幸せな事はないぞ!」
「きゃっ」
まるでゾンビのように這い寄って来る爺さんの顔は、血を流しながらも幸せそうにしていた。その様子にルナは怖くなって勢い良く後ろに下がる。そのスピードはかなり早くなっており、その場にいた全員が驚いて見ていた。
「だからそんなに見ないでください!うう……恥ずかしいです~…」
「それにしてもステータスが倍になるって話は本当のようね。今の一撃もそうだけど、その後の動きもかなり早かったわよ」
「だからってこんな恥ずかしい姿を他人に見せたくありません!………もちろんハヤテさんに見せるだけなら構いませんが……」
急に動きが良くなったので皆の視線が集まってしまい、余計恥ずかしくなってまたしゃがみ込んでいるが、ルナはチラリと僕の方を見つめている。
「安心せい。その変身には認識阻害の効果も含まれておる。変身している所を見た事がない者は、例え親兄弟であっても誰か分かるまい。正体を隠すのは魔法少女なら常識じゃ」
「それは良いのですが、もう少し見た目をどうにか出来なかったのですか?こんな姿で誰かの前に出るなんて恥ずかしくて出来ませんよ!」
「何を言う?未成熟な体に色気のある服。その組み合わせこそ最強じゃ!それにもう使用者登録が終わっておるから変更はきかんぞ」
「使用者登録って……なんでそんな機能まで付けるのよ。その分魔力の消費を抑える事に回しなさいよ…」
その無駄な機能を聞いて、ゼロは呆れたような顔をしてため息を吐いていた。
「そんな事より早く元に戻してください!どうすれば良いのですか!」
「戻るのは簡単じゃ。MPがなくなるか、変身を解こうと考えれば必要な魔力が流れるぞ。今度は解除じゃから1000ぐらいの魔力で大丈夫じゃ」
「だから消費MPが多過ぎますよ!カナちゃん、ハヤテさんをこちらにお願いします!」
そう言って僕はルナの所に行くと魔力が流れ、変身が解け始める。そして変身した時と同じように魔法陣が浮かび出た後、服が消え変身前の服装に戻る事が出来た。しかし……
「……ハヤテさん…見ましたね?」
今度は変身前と違いルナの前に立っていたので、何が起こったのか至近距離で見る事になってしまったのだ。ルナは無理をしてニッコリと表情を作っているが、僕は固まっている。
「見ましたね?」
「……はい。ハッキリと見えました…」
「「……………」」
いくらルナが子供っぽいと言っても、前世を含めて生で女性の裸なんて見た事がなかった。正直に話したは良いがその後に何を言えば良いのか分かず、ただ黙ってルナを見つめる事しか出来ない。どうやらそれは僕の回答を聞いて顔が一気に赤くなったルナも一緒のようで、僕達は互いに見つめ合って微笑するしか出来なかった。
「どうじゃ凄いじゃろ。一度使用者登録が終わるとペンダントの形になるし、次から変身しようと考えれば自動で魔力を吸収出来るんじゃよ」
爺さんの言うとおり、ルナの首にはペンダントが掛かっている。そして魔力の供給ラインも登録されているようで、ルナの意思で僕から自動的に魔力を吸収出来るようだ。
「また無駄機能を……」
「さて、次はお主の番じゃな」
そう言って爺さんは新たな球状の魔導具を取り出して、カナにジリジリ近寄っていく。
「……私は遠慮するの」
カナは身の危険を感じて後ずさる。
「カナちゃん。これは切り札になりえる力ですから、貰えるなら貰っておいた方が良いですよ」
「!?。ルナが裏切ったの!」
どうやら恥ずかしい仲間を増やしたいルナは止める気がないようだ。しかしルナの言っている事も事実なので、僕も止める事が出来なかった。
「…まあルナの言ってる事も事実だし、恥じは一時の事だから我慢しようよ」
そう言って僕はカナの所に歩いて行く。
「……恥ずかしいけど……ハヤテがそう言うなら我慢するの」
半ば諦めた様子でカナも魔導具を受け取り変身したが、服が消える所は爺さんに見られたくないようで、クルリと反転して僕の方に振り向いてから行っていたのだ。だが魔力を流すのは僕なので、変身の瞬間は目を閉じる。
カナの変身後の姿はルナと違い、黒がメインでスカートは短めだが透けてはいなかった。そして手袋と腕が金属が交じった篭手になっている。何より変身前に背負っていたハンマーが一回り大きくなっていた。服の作りは大体一緒だが、ルナと比べて透けていないスカートと色が黒という事で、少し落ち着いた見た目に収まっている。
ルナと違って明らかに前線向きの攻撃的な姿だった。
「…私もあっちの方が良かったです」
「全部で3つ作ったが、衣装はわしの趣味を元に使用者の性格に合わせて自動的に製作されるのじゃ。じゃから運命と思って諦めるんじゃな」
「そんな~~~」
ルナは運命なんて簡単な言葉で終わらせられて、ガッカリと落ち込んでしまう。
「こんな馬鹿みたいな物を3つも作るなんてね……」
「……私の姿はまだマシだったの……これなら変身する所を見られなければ平気なの。…………でも」
変身を終わらせたカナは自分の姿を見てホッとしていたが、何か気懸りがあるようだ。
「カナちゃんが羨ましいです」
「……ハヤテの前でしか変身しないからルナも大丈夫なの」
「それはそうですけど~………確かに迷宮内なら他の冒険者に出会わないでしょうけど~……」
そうしてカナは急に僕の目の前で変身を解き、ルナと同じように首元にはペンダントが掛かっていた。
「何で急に変身を解くの!?」
「……私もハヤテに裸を見てほしかったの」
不意に変身を解いたから、僕はバッチリとカナの裸を見てしまう。どうやらカナが不満そうにしていたのは、変身する時に僕が目を瞑っていた事だったようだ。そうは言ってもカナは少し頬を赤くしている。平気そうに言っても、やはり恥ずかしさはあったのだ。
「もういいです!それでは要件も済みましたし、さっさと依頼に戻りましょう」
こんな恥ずかしい事があった場所からは逃げたい気持ちのルナは、さっさと帰る事を提案する。
「そうね。もう用事はないし、依頼もあるから戻らないとね」
「……さっさと帰るの」
2人もこれ以上ここに残る気はないようだ。
「もう帰るのか?まあ、待望の魔法少女も見れたしわしは満足じゃがな。それともう1つ余っている変身アイテムを持っていくが良い」
爺さんは余った魔導具を僕に投げ渡す。
「あ、そうだ。爺さんなら僕が人の姿になる魔導具って作れないかな?」
僕は受け取った魔導具を収納の腕輪にしまった後、探していた魔導具が手に入るかもしれないと思い付いたのだ。
「なぜワシがそのような魔導具を作らねばならんのじゃ?魔法少女でもあるまいし」
「本気で魔導具を作る基準は趣味の範囲だけか………ならマスコットが人間に変身して、魔法少女をサポートするのはありなんじゃないかな?」
まるっきりやる気の見せないこの爺さんの行動原理は、己の趣味の現実化だけだ。ならばその趣味の範囲内で誘導すれば動かせるのではないかと考えたのだ。
「………確かにありじゃ…。じゃが主役は魔法少女じゃからけっして戦力にはならぬがのぅ」
「なら!」
「うむ。お主は大量のMPを持っておるから、人の姿になる魔導具は簡単に作れる。少し待っておれ」
そう言って爺さんは家の奥に行き、1つの魔石を持って来て魔力を集中させ始める。まるっきり加工していない歪な形の魔石が、爺さんが魔力を流し続けると光り輝きながら綺麗な球体に変わっていく。
「……ほれ出来たぞ」
「え、もう!?」
爺さんが魔石に魔力を流していた時間は10秒ほどだった。まさかそんな短時間で魔導具が出来るとは思っておらず、僕は驚いてしまう。そんな僕の様子をまるで気にしていない爺さんは、出来あがった魔導具を投げ渡してきた。
「別に本当に人間になる魔導具を作った訳ではないからのう。それが欲しいなら自分で探すんじゃな。
その魔導具は魔力を流せば魔力が他人の目に見えるようになり、お主のイメージしやすい姿……つまり前世の姿にまとまるのじゃ。簡単に言えばハリボテじゃから、身体能力が強化されたりはまったくせんがのう」
「いや、それでも十分凄いよ。これがあれば僕も町の中で自由に歩けるし話も出来るしね」
「ハヤテさん!早速使ってみてはどうですか?」
ルナ達も興味があるようで、目を輝かせてこっちを見ている。
「そうだね。さっそく使ってみよう!」
「家の中でその魔導具を使おうとするでない!失敗したら家が吹き飛んでしまうでないか!」
「「「「 え!? 」」」」
僕が魔導具を使ってみようとしたら、爺さんは慌ててその行動を止めに入って物騒な事を言いだした。
「じゃから、ここで爆発されたら困るから外で使えと言ったのじゃ」
「…爆発って、こいつが人の姿になるだけで、なんでそんな危険があるのよ?」
ゼロも意味が分からず爺さんに問いかける。
「これだから魔法少女じゃない者は……魔力で偽物でも体を作るのじゃぞ?それ相当のMPを使うのじゃから、それが漏れだしたら大爆発するじゃろ」
「魔法少女は関係ないでしょ……それで今度はどれぐらいのMPを使うっていうのよ……」
「ざっと5万じゃ」
「……こいつは………なんでそんなに燃費が悪いのよ」
「今回は仕方がないじゃろ…魔力をその魔導具で目に見えるまで圧縮しておるのじゃからな。それに燃費が悪いとは言わぬぞ。なにしろ魔力は拡散せずに体の周りを留まっておるから、最初に5万使うがそれ以降は解除しない限りはMPの消費はない。
しかも、人化を解除する際は時間がかかるが魔力は体内に戻るから、実質消費MPは0じゃ」
確かに本来目では見えないはずの魔力を目視出来るほど圧縮して、人型まで展開するのだから5万と言うのも納得出来る話だ。即ち人化中の魔力漏れだけが危険なのだ。
「……確かに5万もの圧縮された魔力が漏れだしたら大爆発もするわね……。良かったわね。これであんたは生物爆弾よ」
ゼロは笑顔で明るく言ってくれるが、とても喜べる内容ではなく、僕は苦笑いするしか出来そうにない。
「勘弁してくれよ。そんな危険な魔導具を使える訳がないだろ……」
「ま、あんたの場合、操作術の膜を使えれば魔力漏れの危険も減るだろうから、その辺は訓練次第なんじゃない?」
「そりゃそうだけど………ハー…町中では練習も出来ないな…」
希望は確かにあるが、魔力漏れの時にどれだけの規模の爆発が起こるか分からない以上、迷宮内でも練習は出来ないだろう。そんな事で希望はあるが先は遠い、僕はため息を吐いて遠い目をするしか出来なかった。
「まあ、お主の事はどうでもよい。今後は必要な届け物がある時はお主達に指名依頼を出すから、魔法少女が増えたら必ず連れて来るのじゃぞ」
「私は構わないけど……」
「キッパリお断りします!」
「……変人の相手は嫌なの」
ゼロは被害が少なかったので平気だったが、ルナ達はハッキリと断って僕を抱えて出ていく。
「ま、そんな感じだから諦めるのね」
「それでも依頼は出すがのう。もちろん断ったらこちらから会いに行くぞ。どうじゃ?神をも出し抜くわしの穏行術をお主達は見抜けるかのぅ」
「だからそういう犯罪行為はやめなさいって言ってるのよ!」
ゼロの別れ際の手刀が爺さんを叩き倒し、まるで汚い物を見るような目で見ながら出ていく。しかし魔法少女を見るという長年の目的を達成出来た男の顔は、それはそれはとても幸せそうな顔だった。
どうやら爺さんは全然懲りていないようだ。




