33話 魔法戦闘衣(マジックバトルドレス)
「……確かにリーザの言った通り変人なの」
「その上、失礼な方です」
「何を言ってもその行為が止まらないなんて……想像以上の変人ね」
いまだ「魔法少女じゃー!」と叫びながら小躍りをしているリーザの師匠を横目に、3人は呆れながらも少し怒っていた。
(だからってゼロは暴力で何とかしようとするなよ………。それにしても異常な耐久力だな…いったいこの人は何者なんだ?)
いくら武器を使っていないと言っても、下層で戦えるゼロの攻撃を受けて平気でいられるのだ。そしてこの男が持っている魔法使いのイメージと魔法少女への異常な興奮。この種類の人を見た事がある僕は、1つの仮説を証明する為にステータスを確認する。
田中 正志 (タナカ マサシ)
HP 613 / 629
MP 831 / 831
スキル 魔導錬成 ・ 穏行術
魔導錬成 ・・・ 『魔力を魔石に込める事で様々な魔導具を作る事が出来る。しかし魔導具を作る為にはかなり明確なイメージと、完成の確信を持てる自信が必要になる』
穏行術 ・・・ 『気配を隠す事が出来るようになり、敵に索敵され難くなる。経験が上がるとその範囲は周囲の物にまで広がる』
「な!?。田中正志って、あんた日本人かよ!!!」
僕はステータスを見た事で得た情報で、我慢出来ずに叫んでしまった。
「ちょ、ちょっと何を急に叫び出すのよ!人前であんたが喋ったら駄目でしょ!」
僕が急に叫んだ事で全員が驚いている。
「あ!しまったつい。……いやそんな事より、リーザの師匠って日本人だよ。名前は田中正志。魔法使いのイメージがやけに僕と近いと思ったら、やっぱり異世界人だったんだよ」
「……ぬ、ぬいぐるみが言葉を話しておる?」
僕が話をしている事を、口を開けて驚いている様子のリーザの師匠。
「だからって急に喋り出さないでもいいでしょ!ほら、あいつも驚いてまともに話せなくなってるでしょ」
確かにゼロの言うとおりただのぬいぐるみにしか見えない僕が、突然話をして動き出せばそれは恐怖以外の何物でもない。その証拠に今でもプルプルと僕の方に指を差して驚いていたのだが……
「魔法少女にマスコット!まさに最強の組み合わせじゃ!これじゃ、これを見たくてわしはこの世界に来たと言っても過言じゃない!」
どうやら日本人だと見破られて事への驚きや興味はまったくないようだ。
「………そう言えば、まともに話せなかったのは最初からだったわね。こんな変人があんたが話をしたぐらいで、その行動がブレるはずがなかったわ」
「…確かにそうだったな……でも地球から来たと見破られた事が、そんなに低い扱いになるなんて思いもよらなかったな…」
そう言って僕とゼロは、疲れたようにため息を吐いて乾いた視線を向けていた。そして散々叫び終わってしばらくしたら少し落ち着いたようで、ようやく普通に会話が出来る状態になったのだ。
「それでわしの事を日本人と言ったからには、お主も地球生まれと言う事なんじゃろ?しかし何でお主はそんな姿になっておるのじゃ?この世界に呼ばれた人間はそのままの姿のはずじゃが?」
急にまともな事を話し始めたので驚いたが、会話が出来ているので突っ込みを入れて話の腰を折りたくはなかったので、そのまま普通に話す事にする。
「僕の場合は呼ばれる時に死んじゃったんだよ。そのまま死ぬしかなかった所を、そこの元女神のゼロが僕をこの世界に転生って形で救ってくれたんだ。……この姿はロリ女神の悪意だ!」
「私をロリ女神と呼ぶな!」
そう言って僕はいつも通り顔を握り潰される。
「ん?そっちの子がロリ女神って事は、わし達をこの世界に送った神の1人って事じゃろ?なんで人の世界で普通に一緒にいるんじゃ?」
「あんたまで私をロリ女神って呼ぶな!」
そして彼にはゼロの容赦ない手刀が振り下ろされる。
「ああ、どうやら僕が死んだ責任を取らされたみたいなんだよ。なにしろゼロが書いたふざけた異世界への招待状を読んでいて、僕は車に跳ねられて死んじゃったらしいからね」
僕の顔には現在進行形でゼロの指が食いこんでいるが、気にせず会話を続ける。
「なるほどのう。どうやら神の遊びはまだ続いているようじゃな」
リーザの師匠も再度の攻撃を受けたが、やっぱり普通に会話を続ける。
「………もういや、なんなのこの変態達は……既に攻撃されてる事を苦にも感じてないようだし…」
散々攻撃をしているゼロだったが、まるで気にしない様子にルナに泣き言を言いだしたのだった。
「まだって事は、あんたも神にスキルを貰ってこの世界に?」
「そうじゃ。剣と魔法の世界だと聞いて二つ返事で即決したのじゃ。なにしろ生で魔法少女に出会える世界だからのう。……じゃがこの世界での魔法使いの数は少なく、魔法が使える事が発覚するのも大人になってからがほとんどと言う事で、絶望しておったのじゃ……」
「それならなんで魔導錬成と穏行術なんてスキルを選んだんだ?魔法に憧れていたのなら、魔法を使えるスキルを貰った方が良かったんじゃないの?」
「何を言っとる?わしは魔法少女を見る為にこの世界に来たんじゃぞ?ならその魔法少女の為に魔導具を作ってあげるのがわしの役目じゃろ?だいたい男のわしが魔法を使って戦っても誰得じゃぞ」
どうやら最初から本気で魔法少女を見る為だけに来たようで、近くに居続けれるようにサポートに徹するスキルを選んだみたいだ。その目には嘘や冗談がなかった。
「誰得って……良くそんな調子で生き残る事が出来たわね…他の神の代理人との戦いに巻き込まれたりしなかったの?」
少し復活したゼロが半分呆れた様子で話に混ざる。
「フフフ、それは一緒に貰った穏行術で何とかなったわい。元々は魔法少女の近くにいても目立たないようにする為に選んだスキルじゃったが、変な形で役にたったと言う訳じゃな」
「まさかずっと逃げ続けたの!?確か代理人がこの世界に居続けれるのは5年と決められていたはずよ。それを過ぎると選んだ神が責任もって連れ帰るはずなのに………まさかあんたはその神の目からも隠れ抜いたと言うのか?」
5年の制限……その話は初めて僕も初めて聞いた。
「ちょっと待ってください!それではハヤテさんも5年経ったらこの世界から帰っちゃうんですか?」
「……別れるのは嫌なの」
ゼロの5年と言う話を聞いて、颯と別れないといけないと思い、ルナとカナは慌てた様子で問いかけてくる。
「そいつは大丈夫よ。なにしろ転生しているから、もうこの世界の住人でもあると言えるのよ。それよりどうなの?本当に隠れ続けれたの?」
「まあその通りじゃな。5年間練習し続けた穏行術は既に神をも欺けるレベルになり、魔導錬成でこの家や装備も見つかり難くくしているからのう。この世界に来て早60年、その気になれば隣を歩いていても誰も気付く事は出来ないレベルじゃ」
その話が本当かどうかは確認が出来ないが、50年以上神の目から逃れている事実を考えると本当の話だろう。
「…でもその話が本当なら大変な事になってるかもしれないわね……」
ゼロが険しい顔をして不安そうな事を言いだした。
「何が大変なんだ?」
「こいつが逃げ続けているって事は、選んだ神もこの世界に囚われ続けているって事なの。しかも60年って……もしかしたらこいつを怨み過ぎて堕ちてるかもしれないのよ…」
「堕ちるって…天使が堕天使になるようなものだよね。それってこの世界にとって厄介な事なんじゃない?」
「そうね。おそらく怨みの対象はこいつに限られているだろうけど、下手すると全ての神の代理人に危害を加える存在になっているかもしれないわ」
「そうだよな……戦いもしないで60年も逃げ続けられれば怨みは溜まる一方だよな……どうする?念願の魔法少女も見れた事だし、穏行術を解いて自首でもするか?」
叶えたかった願いも叶った事だし、自首をしてくれれば厄介事に巻き込まれる事もないかもと考えた。
「何を言う?わしはもう80歳を超えておる。この年までこの世界にいたんじゃから、死ぬまでここにおるぞ。それに魔法少女と言っても、まだ変身を見せてもらってはおらんしのぅ」
「「変身って……」」
また変な事を言いだしたと僕とゼロはため息を吐いた。
「そりゃそうじゃろ?魔法少女は変身をするものじゃ」
「そんな事を言っても普通の魔法使いは変身なんて出来ないわよ。あれはアニメだから出来る演出でしょ」
あまりに当たり前の事を言うように言って来たが、ゼロは呆れた顔で返す事しか出来なかった。
「これだから魔法少女じゃないロリ女神はいかん!何の為にわしが魔導錬成のスキルと選んだと思っておるのじゃ。この世界にもない物は自ら造るだけじゃ!」
そう言って拳を握りしめ熱く語る。その様子から既に80越えの爺さんとは思えない迫力がそこにはあった。
「つまり爺さんには、ルナ達が変身できるような魔導具を用意しているって事か?」
「……いつの間にかにわしの呼び方が爺さんになっておるがまあいい。このわし特製の魔導具を使えば可能じゃ。なにしろこれに魔力を流して変身すれば、全てのステータスは2倍になり魔力制御が5倍、更に魔法の空中待機と、飛行も可能になるのじゃからのぅ!」
「ちょっと待ってよ、なんなのよそのチートアイテムは!?そんな凄い魔導具が簡単に出来る訳がないでしょ!」
確かに変身しただけでステータスが2倍になるような魔導具があったら、それはチート以外の何物でもない破格の効果だ。ゼロだけではなくその効果には全員が驚いていた。
「これはわしの生涯を懸けた造った魔導具<戦闘魔法衣>じゃ。それぐらいの効果があっても不思議ではあるまい」
「でも魔導錬成にはかなり明確なイメージと自信が必要だろ?よくそんな物を作る事が出来たな」
僕はスキルの説明文を読んでいるので、魔導錬成の難しさを理解している。魔法のない世界から来て、自信を持って魔導具にイメージを込める事は、僕には出来る気はしなかったのだ。
「何を言っとる?魔法があるなら変身アイテムがあるのは当然ではないか」
しかし田中は当然とばかりに言いきった。
「なるほどね。こういう奴だから製作が可能だった訳ね」
魔法に対する他人をも巻き込むこだわり、この執念にも似たこだわりを持っているからこそ、存在しないとは少しも考える事がなかったのだと分かる。
「まあいいわ。ステータスが2倍になる事は興味があるし、さっそく使わせてもらうわ」
そう言ってゼロは爺さんの手にある魔導具を奪い取った。
「後は魔力を流すだけね。……………あれ?」
しかし魔力を流しているゼロに変化が訪れる事はなかった。
「フン!魔法少女でないお前が変身出来る訳がなかろうが。魔法を使えぬ者では単純に魔力が全然足りないんじゃ」
ゼロが変身出来なかった事を当然と言わんばかりに、爺さんはつまらない物を見るように見下す。
「なによそれ!……じゃあ、ちょっとルナが使って見せてよ」
そう言ってルナに魔導具を投げ渡した。
「それでは……………あれ?私も何も起こりませんよ?」
ルナも魔力を流したが、とくに変化が起こらなかったので首を傾げて不思議がっている。
「じゃから流す魔力が足りんのじゃ。もっと全力で魔力を流さんか」
「そうでしたか。……………何も起こりませんね……」
爺さんに魔力が足りないと言われたので、集中して全力に近い魔力を魔導具に流したが何も起こらない。
「何をしておる……全然足らんぞ」
「いったいどれだけの魔力を流せばいいのよ……」
ルナのMPはこの3人の中では一番多い。それでも足りないとなると、具体的にどれだけのMPが必要か聞いたのだ。
「変身に2000、その維持に毎秒100のMPが必要じゃ。あと空を飛ぶには更に毎秒300のMPを使うだけじゃ」
「馬鹿かーーーーー!!!!!そんなアホみたいにMPが必要な魔導具なんて誰も使える訳がないでしょうが!」
あまりにシレッと言ったが、その馬鹿みたいな燃費の悪さにゼロの激しい突っ込みが放たれた。
「な、なぜじゃ!?魔法使いでないわしですら800以上持っておるのじゃぞ。なら魔法少女ならたかだか数千ぐらいのMPを持っていても不思議ではあるまい」
顔面を殴られて吹き飛んだ爺さんが、不思議そうな顔をしながら戻って来てそう言った。
「だから馬鹿と言ったのよ!魔法使いとは言わないでも、あんたも魔法職なんだからそこまでMPは低くはないのよ。それに60年も鍛えたMPはこの世界でも上位と言っても過言じゃないわ。
……だいたいルナのMPだって400越えで、この年齢では異常と言えるほど高い方なの。つまりもっと燃費を良くしないと誰も使用出来ないのよ」
「そ、そんな………わしの生涯を懸けた魔導具が誰も使えんとわ………」
ゼロに世界の常識という事実を聞き、爺さんは膝を地につけて落ち込んでしまった。
昨日で休みも終了です。のんびりした生活が終わると思うと、ちょっと憂鬱な気持ちになってます……。




