32話 リーザの師匠
今日は予定通り朝から冒険者ギルドに顔を出し、詳しい依頼の内容を聞く為に話が始まるのを待っている。既に多くの冒険者が、各々のチームメンバーと雑談をして時間を潰しているようだ。
「今日も沢山の人が集まってくれて感謝する。初めての奴もいるだろうからそいつ等だけは残って、他の者は作業に取り掛かってくれ」
ギルドに入り10分程待っていると、ルドルが現れて感謝の言葉と人と振り分けの話をしだした。ざっと周囲を見渡してみても実力が高い者はおらず、リーザの言っていた通り、新人やまだ実力の低い冒険者がこの依頼を受けているみたいだった。
「なんだ。今日から参加するのはお前達だけだったか。お前達の実力ならこの依頼には参加しないと思っていたんだがな」
ルドルの話の後、ここに残った冒険者は僕達だけだった。どうやら他の人達は結構前からこの依頼を続けているようだ。
「私達の実力って……あんたの前で私は戦った覚えはないんだけど?」
「……私もないの」
養成所などで戦いを見られていたルナはともかく、一度も戦闘を見せた事がないゼロとカナは不思議そうな顔をする。もしかしてリーザが喋ったのでは……と、そっちに視線を送る。しかしその視線に気がついたリーザは慌てて首を振り、「私は何も言っていません」とアピールしていた。
「2人の実力は試験官をやってた奴から聞いるよ。なんでも新人とは思えない規格外の存在だってな。それとこの前の魔物の襲撃の際、大群が襲って来た反対側の門で2人の少女が全ての魔物を殲滅したって情報も入って来ている。この町でそんな事を可能にする少女って言ったら、チーム幼女…」
「ちょっと待った!!!その先は口にしないでちょうだい!」
ルドルがチーム名を口にしようとした所を、ゼロは慌てて止めに入った。
「なんだ?良く分からんが、つまりお前達らしい人物の情報は入って来ているから、その実力も同時に耳に入ってくるって訳だ」
流石はギルドマスターと言うべきか、情報収集もしっかり出来ているようでルナ達が戦った魔物の事や、3等級の魔石を換金した事、更には襲ってきた男達に過剰防衛をした事まで知られていた。
「それだけで私達と決め付けるには明確な証拠がないわね。想像するのは自由だけど、それを私達に押し付けるのはやめてもらえるかしら」
ゼロはチーム名を言われそうになった時に見せた慌てぶりは、今は見る影もない。そして堂々とした態度であくまでとぼける方針で行く気だ。
「…実力を隠したがる理由は分からんが、そこまで言うならそう言う事にしておこう」
ルドルもこれ以上追及する理由もないので、ゼロの言うとおり人違いで話を進める事にしてくれた。
「まあ話を依頼内容に戻すが、ここから北に行った所にある森に行き、木を切って持って帰って来るだけだ。持ってきた木材はギルドの裏に管理人と置けるスペースを用意しているから、そこに持って来てくれればいい。ただ森までの距離を考えると、運べるのは2回が限界だろうがな」
ここから森までの道を説明されたが、片道2時間は掛かる為にルドルの言うとおり運べて2回だろう。しかも切った木材を運ぶのだから、大きさによっては1回が限界なのかもしれない。
(もちろん普通に運んだら、だけどね)
ギルドから何台か荷車は用意されているらしいが、それらの使用は早い者勝ちらしいので、説明を受けないといけない今回初めての人はどうしても自力で運ぶしかないのだ。
そして冒険者に支払われる報酬だが、管理人が運んできた木材によって価格を決めているので、その価格分の報酬が手に入ると言う訳だ。冒険者は一度に大きな木材を運ぶか、それとも軽い物を選んで2回運ぶかの選択を求められる。
「依頼の内容は理解出来たわ。あとは魔物がいるから気を付けるぐらいね」
「お前達なら問題がないだろうが、まあ、そう言う事だ」
「他に聞く事もなさそうだし、さっそく行ってくるわ」
「あ!、ルナちゃん達ちょっと待って」
とくに聞く事はもう無いので北の森に向かおうをした時、突然リーザが声をかけて引き止める。
「リーザさん、どうしました?」
「実は依頼で北の森に行くついでに、1つお願いがあるんですけどいいですか?」
リーザの下に行くと、少々申し訳なさそうな顔で頼み事をしてきた。
「それは内容にもよるけど、そこまで手間が掛からないならいいわよ。それで何をしてほしいの?」
「あの森には私の魔法の師匠で恩人が住んでいるのですが、定期的に私が日用品を届けているのです。それでもうすぐ届ける日なのですが、この前の魔物の襲来で仕事が溜まっていて休みが取れそうにないんですよ」
「それで北の森に行く私達に、貴女の変わりに届けて欲しいって事ね。別にいいわよそれぐらいなら」
リーザがやけに申し訳なさそうな顔をしていたので、もっと大仕事かと想像していた為、少し拍子抜けを感じるゼロだった。
「引き受けてくれますか!とても助かります。ありがとうございます」
そうお礼を言っているリーザだったが、その表情にはまだ少し苦笑いが含まれているように見える。
「……リーザ、何か隠してるの」
カナの一言にビクッと揺れた後、リーザの動きは止まってしまう。まるで親に隠していた事がバレてしまった時のように……。
「リーザさん、日用品を届けるだけで何でそこまで気拙そうな顔をしているのですか?何か問題でもあるんですか?」
ルナも気付いたようで、リーザは観念したようにため息を漏らして白状しだす。
「騙す真似をしてすみません。実はですね……師匠は…………変人なのです」
「変人!?」
「…はい…変人です。魔法を使える女性は子供でなければいけないとか、魔法を使う時は大声で叫ばないといけないとか、服装はフリフリの可愛い服じゃないといけないとか、いろいろ変なこだわりを強要して来るんですよ……」
「それはまた……自分に正直な奴のようね…」
「それも私の歳になっても、今だそんな服を勧めて来るので困っているのです」
リーザは心底嫌そうだったが、恩人で師匠と言う立場の相手なので無下に出来ずに困っているようだ。
「……それでその変人の相手を私達にやれと?」
「う!?……仕事が忙しいのは本当ですよ。……ただ行くのに気が引けているのも本当ですが…」
「ハァー…分かったわよ。私が行ってビシッと言い聞かせてあげるわ。変な思い込みを周りに押し付けるなってね」
リーザの立場では言えない事を代わりに言ってやると、ゼロはため息混じりに約束する。
「ただイラついたからと言って、暴力に訴え出るのはやめてくださいね。師匠はもう結構な年齢で、本気で叩いたりしたら骨が簡単に折れてしまいますから……」
「なるほどね。リーザが私の事をどう思っているか分かった気がしたわ」
(つまりリーザの中でのゼロの印象は、気が短くてすぐに手が出る人って所か……まったくその通り!いやー、良い目をしてるよリーザは)
「いえ!?決して手が早いとか、短気だとか思っていませんから!」
リーザも自分の言った言葉がどういう風に聞きとれるか気付いたようで、慌てて訂正しようとしているが、より明確な言葉に言い直しただけに終わっていた。だが「間違いない」と僕は心の中で同意する。
「まったく失礼しちゃうわね。私だって物事の分別は付けてるつもりよ?私が手を出すのは失礼な事を言って来た無礼者で、その中でもHPに余裕がある奴限定よ。もちろん、HPが6ケタほどあるムカつく奴には遠慮なんかしないけどね!」
そう言って最後は僕の方に顔を向けて睨んできた。
(またやってしまったのか?いや違う!僕はリーザの言葉に同意しただけだ。けっして僕から失礼な事を言った訳ではないはずだ!)
しかし僕の言い訳に近い思いは無駄な抵抗に終わり、町の外に出た途端、いつも通りアイアンクローを喰らう事になるのだった。
「とにかく!リーザもそんな言い訳はいいから、運ぶ荷物をまとめるのとその変人の家までの地図を書きなさい」
「は、はい。すぐに用意しますから少々お待ちください」
これ以上リーザの言い訳を聞いても何も変わりそうにないので、早々に切り上げさせて物を持ってくるように指示をする。
しばらくして運ぶ道具が入った袋と、簡単だが分かりやすい地図を受け取りギルドを後にした。
「それでどうする?依頼を先に終わらせるか、それとも先に変人に会いに行くのか?」
ギルドで説明があった森に向かって歩き始めそろそろ2時間経つので、既に僕達の視界には目的地が見えている。
「やっぱり変人に荷物を渡す方が先じゃないかな。聞く限りじゃ長居はしたくないし、さっさと渡す物を渡して仕事に戻ろう」
「……荷物を投げつけて帰ればいいの」
「流石にそこまではしたくありませんので、出来れば穏便にお願いしますね」
話通りの人だと間違いなく2人が手を出しそうなので、ルナは半分諦めた顔でとりあえず注意だけはしておく。
北の森に入って指定された伐採ポイントの手前を曲がり、更に奥深くに入った所が地図にあったリーザの師匠が住んでいる場所だ。目印が木しかなかったが、リーザの分かりやすい地図のおかげで迷うことなく進め、その場所には一軒の古い木造の家が建っていた。
「いかにも魔法使いが住んでいそうな家ね……」
「確かにそうだね………これ以上ないほど妖しさ抜群の家だな…」
家の表面にはコケが生えており、木のツタも巻きついている。雨は何とか防げるが所々に穴が開いている為、隙間風が酷そうだった。そして木々に囲まれている場所なんで日の光が当たらず、周囲の薄暗さが更に家を妖しく見せている。
「ほんとにこんな家に人が住んでようには見えないんだけどね……」
「少し怖いですが、とりあえず入ってみますか」
そう言ってルナはドアをノックする。
「なんじゃ?リーザか?わざわざノックなどしないでさっさと入ってくればよかろう」
どうやらリーザの師匠の家で間違いないようだが、本当に人が住んでいる事に僕達はビックリしていた。
「あのー…私達はリーザさん本人ではなく荷物を届けるように頼まれた代理人ですが、それでも構いませんか?」
「ん?リーザの代理?……まあいい、本人に教えてもらわなければここには辿り着けないだろうからな。さっさと入って来い」
そう言うと家の扉は自動的に開いた。
「……凄いの……扉が自動で開くなんて初めて見たの」
カナやルナはその機能に驚愕し立ち尽くしている。
「家の外観に似合わない設備ね」
「まったくだ。こういう自動ドアの機能を付けるぐらいなら、家の外を綺麗にすればいいのに……ま、とりあえずリーザの師匠なら危険はないだろうし、中に入ろうか」
そして僕達は家の中に入り、中の様子を見て今度はゼロと僕がが目を見開いて驚いてしまった。
「なによこの内装は!?なんでこんなに汚い見た目なのに、ホコリ1つ落ちていないの?」
ゼロの驚きの言葉も仕方がない。外から見えた穴などが確かにあるのだが、そこには透明な壁があり隙間風などが入る事はない。それに明りもパッと見は蝋燭の火だが、そこに火の揺らぎが全くない所から何か別の物だとすぐに分かった。そして壁も古くて汚れているように見えるが、触れても変化がない所を見ると、あえてそう作っていると分かる。
「何を言う?魔法使いの家とはこういう物だろうが?」
「……なるほどね。リーザの言っていた通りの人物って訳か」
リーザの師匠は黒いローブを頭からすっぽり被り、腰が曲がった状態で杖を突いて妖しい鍋の前で立っている。その姿と家のわざと妖しく見せるこだわりから、リーザの言った通り変な価値観の持ち主だと理解出来た。
「フン、そんな事を言いに来た訳ではあるまい。この時期に来たと言う事は頼んでおいた日用品を届けに来たんじゃろ?…それで、リーザとはどういう関係なんじゃ?」
「私達は冒険者の依頼としてこの近くで木を取りに来ました。そのついでにリーザさんにここに寄って欲しいと頼まれまして……あ、申し遅れました。私はリーザさんに魔法を教わったルナと申します。それと同じチームのゼロさんとカナちゃんです」
ルナが丁寧に自分達を紹介すると、リーザの師匠は突然驚いたようにルナの事を見つめて小刻みに震え始めた。
「ど、どうしました?何か私の顔に付いていますか?」
そう言ってルナは見つめられている自分の顔を触って確認していると、
「ま、ま、ま、ま、ま」
「ま?」
「魔法少女が来たーーーーーーー!!!!!」
「きゃ!?」
突然大声で叫び出したリーザの師匠にルナは声を上げて驚いてしまう。
「マジで魔法少女がきおった!この時を、長い時間待ったかいがあったわい!」
「少女って……私はこれでも15歳です。もう少女ではありません大人です!」
興奮して少女と何度も言ってくる事に、ルナは少し怒った声で反論した。しかし、
「なに?…その見た目で15歳だと?………ついに…ついに来たぞ永遠の魔法少女が!15歳でこの見た目ならこれ以上の成長はそんなにないだろう。それでいて魔法使い。まさに魔法少女に相応しい人物じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ルナの話を聞いた事で更に興奮させてしまう結果になってしまった。しかしその叫びの中で成長しないなどと言われて、ルナは少し……いや、かなり怒っている。
「はっ!?まさか見た目が同種のチームって事は、全員魔法少女か?」
しかしその言葉が発せられた瞬間、ゼロとカナの冷たい視線がリーザの師匠に向かって突き刺す。
「誰がこれ以上成長しない子供よ!私だってまだ成長する余地が残っているはずよ!」
「……失礼な奴なの……このまま埋めるの」
しかしその視線も言葉に込められた怒気も、リーザの師匠はまるで気付いていないように平然な顔をしている。
「なんじゃ?成長するって事は本当に子供か?」
「違うわよ!でも成長はするわよ!」
対面して話しているはずなのに互いの温度差は激しい物で、関わらないように見に徹している僕の方が気拙い気持ちになってしまう。
「ハッハッハッ、まあそういう微か希望にすがる事は悪くはないが、…成長するのはわしが許さん!ペッタンコはステータスじゃ、長所なんじゃ。そんな素晴らしい物を捨てようなど、どうにかしておるぞ!」
「あんたの許しなんて必要ないわ!それに微か希望なんかじゃないわよ!そしてあんたの価値観を私に押し付けるな!!!」
ゼロは顔を赤くして怒った表情で再度家の中に怒号が響き、リーザの師匠の頭にチョップをお見舞いする。だが怒っていると言っても相手は老人なので、手加減をしているのは分かった。
「……それでお主達は全員魔法少女なのか?」
しかし手加減をしているとはいえ、それなりの力の持ち主であるゼロの攻撃を受けて、何事もなかったように普通に質問を続けて来たのだ。
「…ったく、いったい何なのよあんたは……見た目と違ってえらくしっかりした体をしてるわね。でも、私は魔法使いではないわ」
「……私は魔法を使えるの」
「なんと!?してそっちの子の年齢は?」
魔法使いではないと分かった途端リーザの師匠の興味はゼロから外れ、今度はカナに抱きつかん勢いでジリジリ迫って来る。
「……15、なの」
その異様な雰囲気に恐怖を感じ、正直に答えながら少し後ずさるカナ。
「キタキタキタキタキターーーーー!!!永遠にその体型を維持する事が出来る、リアル魔法少女が2人もキターーーーー!!!」
そしてまた興奮のあまり叫び出す。その様子を見て、僕達は冷めた視線を送る事しか出来なかったのだった。




