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31話 ココアの暴走



 昨日の揉め事から一夜明けて、朝から僕達はグラムの店に顔を出した。



「で、なんなのよこの行列は?」



 ゼロが驚くのも無理はない。いまだ開店前にも関わらず、店の前には数十人の人の列が出来てしまっていた。日本では大した事のない列かもしれないが、この町でここまでの行列が出来ている所を今まで見た事がなかったのだ。



「とりあえずグラムさんに教えてもらっていた裏口から入りますか」




 いつもの入口は人だかりが出来ているので入れそうにないと判断し、僕達は事前に説明があった店の裏口に回って中に入る。



「グラムさん、おはようございます」



 中に入って挨拶をすると、グラムが駆け寄って来てルナの姿を確認してきた。



「おお!ちゃんと来てくれたか!良かった……あんなに沢山の人が来ていて、ルナが来てくれなかったら大変な事になっていたからな」


「確かにあの人数を1人で捌くには厳しいわね…」


「それにしてもいったいどうしたんですか?今まではあそこまでの行列が出来た事なんてなかったのに…」



 いまだ開けていない入口の扉を見て、グラムに理由の説明を求めた。



「…いや、実はな。普段は武器を売るだけなんだが、今日はルナが来てくれる日だから武器相談を受けるサービスをする事にしたんだ。今の装備に疑問を持っている人に、新たなキッカケを与えれたらと思ってな。そんな告知をして、朝外を覗いたらこんな事になっていたって訳だ」



 そうグラムは説明したが、実際はお客のスキルを確認してルナがその人に合った武器を選んで渡していたら、運命の武器と出会える店として噂になってしまったので、ルナが手伝いに来る日限定で武器相談を受けるとしたらこうなってしまったのだ。その裏情報を知らない僕達にとってはいつもと変わらない仕事内容だし、サービスの告知が成功したとしか思っていなかった。



「とにかく店を開く準備をする。そっちの2人も手伝ってくれるんだろ?」


「まあね。私達はチームだから、ルナが働く以上一緒に行動するわ。ただし後で作って欲しい武器があるから、相談に乗ってもらうけどね」


「……ルナの手伝いをするの」


「なら頼むぞ。ルナとカナだったけ、2人は店の入り口で入場制限を掛けてくれ。一気に全員が入って来られると何も機能しなくなってしまうからな」



 確かに決して大きくなグラムの武器屋に、表で待っている数十人が詰めかければ身動きが出来なくなってしまうのは目に見えていた。



「分かったわ。とりあえず5人単位で入れて行くから、余裕があるようだったら教えてね。さあ、行くわよカナ!」


「……任せるの!」



 2人が出ていった後、ゼロの言った通り5人のお客さんが入ってきた。その1人1人のスキルを僕が確認し、ルナに教える事で次々とお客を捌いて行く。


 そして割と早く流れる列と、ゼロ達の見た目から来るほのぼのさで暴れたり騒いだりする人もなく、無事に行列を捌く事が出来た。行列がなくなったと同時に、店の武器の種類も少なくなってしまったので、今日は昼過ぎには店を閉める事になってしまった。

 この店を閉めると言う行為が希少価値を生んでしまい、次回の行列に拍車をかけてしまうのだが、……今のグラム達には想像もつかない事だったのだ。



「今日も助かったよ。それで、俺に頼みたいって武器はいったい何なんだ?」



 店を閉めたのでお客が入って来る事はないので、今は円形のテーブルに4人が座ってのんびりと水を飲んでいる。



「あ、そうそう。これを使って投擲用のナイフを作って欲しいのよ」



 そう言って僕がらこっそりキラービーの棘を受け取って、ゼロはテーブルの上に置いて見せた。



「これってまさか……キラービーの棘か?」


「ええそうよ。こないだ迷宮に潜った時に、運良く手に入れる事が出来たのよ」


「運良くって…キラービーは確か13階層以降の階層に行かないと現れない魔物だろ?お前達そんな階層まで行けるようになったのかよ」



 グラムはその棘を手にとって見て、興奮気味に話をしている。



「別にキラービーは強くないわよ。ちょっと空を飛んでいるから鬱陶しいだけだからね」



 そして下層の魔物相手に、強くないと言い切ったゼロに驚きを隠せないでいた。



「しかし話には聞いていたが、これが本物か……。これを使ったナイフなら<パラライズナイフ>が出来るな。だがおそらく1本しか作れないが良いか?…無理をすれば2本に出来るかもしれないが、効果が減ったら意味がないからな」


「確かに効果が落ちるなら無理に増やす必要はないわね。じゃあ1本でいいから頼むわ」


「分かった。今日中に作っておくから、明日以降ならいつでも取りに来ていいぞ。それとルナ。今から魔石を持って来るから鑑定もやっておいてくれな」



 そう言ってキラービーの棘を持って奥の工房に向かった後、箱に入った魔石を持って戻ってきた。それをさっさと選別し、グラムはゼロに頼まれた武器を作るのと、今日で一気に減ってしまった武器を作る為に工房に籠る事になったので、一言声をかけてから店を出ていく事にした。



「思ったより早く終わったから、この足でココアの防具屋に行ってルナの盾を受け取りに行きましょう」



 盾の改造を頼んだ時に1日あれば出来ると言っていたので、既に出来ていると判断してココアの店に向かう事にした。







「いらっしゃいませ~。今日2人目のお客さんのご案内~」



 店と扉を開けるとココアの元気な声と悲しい内容が聞こえて来た。そしてココアの言葉と見る限りあいかわらずの客のいなさに、「この店って経営が成り立っているのか?」と本気で思ってしまうほど不安になってしまったのだ。



「ココアさん、この前預けていた盾の改造は終わっていますか?」


「あら、お客さんはルナだったの。頼まれてた盾はもう出来ているわよ。今から持って来るから少し待っててちょうだいね」



 そして少し足取りが覚束ない様子で盾を運んできた。



「元々スペースにそこまでの余裕がなかったから限度はあるけど、薬草などそこまで大きくない物なら何個か入るようにしたわ」



 そう言ってルナの前に盾を置き、その内側にある棚の説明を受けていた。



「へー…これは結構便利かもしれないわね」


「……そのスペースを全て金属で埋めれば、更に防御力が上がるの」



 好印象を持ったゼロと、その分を更なる防御力アップに注ぎ込んだ方が良いのではと言う意見のカナ。



「流石にそこまでしたら重くて装備できる人が少な過ぎて売れないよ」



 しかしココアの言うとおり普通の人にとっては既に重量級の防具なのに、更なる重量のアップは持てたとしても動きに制限が掛かり過ぎてしまうと、笑って話してくれたのだ。



「それに私はそこまでの防御力は求めていませんから、便利な機能が付いていた方が良いんですよ」


「それでどうなの調子は?なんかいい魔物の素材なんか手に入らなかった?」



 こうしてのんびりと話をしているが、その間も他のお客は来なかった。しかもココア自信も来るとは思っていないらしく、ルナ達に椅子を持ってきてくれたので座って話をしていたのだ。



「そうね。この前キラービーの棘を手に入れれたけど、あれは防具には不向きだったから武器として加工に出しちゃったわ」


「そんな!?キラービーの棘なんて滅多にお目にかかれないレア素材じゃない!ああ、扱って見たかったわ……」



 ゼロの話を聞いてココアは激しく悶絶していた。



「でも麻痺を与える素材を防具には使えないのでは?」


「そうでもないのよ。鎧や盾などに棘を付けてその場所にキラービーの棘を混ぜ込めば、攻撃を防ぐと同時に相手を麻痺にさせれる防具が出来るのよ。それに下層の魔物のレア素材って全然出回らないから、扱えるチャンスを逃したのはとても痛いわ……」



 そう言ってココアは悔しくて泣きそうな顔をしている。もともとココアも見た目は子供のように見える為、泣かしてしまったようで気が引けてしまうのだ。



(そう言えば棘を渡した時のグラムも結構興奮状態だったのは、武器を作る者としてレア素材を扱えるチャンスが来た事に興奮していたんだな……見事な職人魂)


「ちょっと…そんな泣きそうな顔をしないでよ。次に何か手に入ったら一番に持って来て上げるから…」


「ほんと!?約束よ!絶対だからね!」



 さっきまで泣きそうだった顔は一気に消え去り、ココアはゼロの手を握り激しく振って約束だと何度も言ってきた。



「分かったから少し落ち着きなさい!ただし、明日は他の依頼があるから迷宮には入らないわ。だから手に入ったとしても数日後になる事は覚悟してなさいよ」



 ココアのこの勢いから明日にでも持ってくるのでは、と期待されていると不味いので先に念を押しておく。



「分かってるわ。そんなに簡単にレア素材が手に入るとは思っていないしね。それにしても貴女達って凄いのね。話からして下層の魔物と互角以上に戦えるって事でしょ?ほんと見た目と実力がここまで合ってない人達に出会ったのは初めてよ」


「それをあんたが言うの?あんただって似たような感じじゃない。その見た目で店長だなんて誰も思わないわよ」



 ゼロの意見に全員が頷いていた。



「それもそうなんだけどね。でも私はもう結婚してるけど、こういう見た目って結構相手を見付けるのが大変よ」


「ちょっと待ってよ!?あんた既婚者なの?相手は?相手はどんな奴なのよ?」



 ゼロの動揺は激しいものだった。もちろんその意見と気持ちは僕も一緒だった。なにしろ見た目は子供にしか見えないココアが結婚しているって事は、相手はその手の趣味の持ち主にしか思えないからだ。



「ちょっと落ち着いてよ。……相手はここから少し離れた所にある武器屋の店主よ」



 その言葉に1つの店が思い浮ぶ。………と言うより、この近くで思い当たる武器屋と言えば1つしかなかったのだ。



「名前はね…グラムって言うの。結構男前で仕事熱心で、まさに職人って人なのよ」


「やっぱりグラムか!!!なに!?あいつってロリコンだったっての?私達もそんな目で見てたって言うの!?」



 ゼロの絶叫が店内に響き渡った。



「なあに、夫の事を知ってるの?」


「知ってるの何もさっきまで店の手伝いをしてたのよ。……でもそんな趣味の持ち主なら、今後の付き合い方を考え直さなければならないわね…」



 そう本気で考え込んでしまっているゼロを見て、ココアは笑いながら話をしてくれた。



「大丈夫よ。あの人は貴女の心配するような趣味は持っていないから。だってあの人に結婚を申し込んだのも私だし、一度だってあの人から私に手を出した事はないわ」


「そうなの?でもそれなら一安心だわ」



 ココアの話を聞いて、ゼロは心の底から安堵していた。しかしその話に食い付いたのはルナとカナだった。



「一度も手を出してくれないのに、ココアさんは満足しているんですか?」


「確かにあの人から手を出してくる事はないから、ちゃんと私の方から襲ってるわよ」


(ちょっと何、襲ってるって?こんな見た目なのに肉食系なの?)


「……やっぱりこっちから攻めないと駄目なの」


「そうね…私もそうだけど、貴女達も好きな相手がいて結ばれたいと思ったなら、自分から動かないと駄目ね。男は私達の見た目からどうしても気が引けてしまっているから絶対手を出して来ないし、かと言って喜んで手を出してくるような、そんな趣味の持ち主を好きになる訳もないしね」


「なるほど……自分からですか…」


「……勉強になるの」



 ココアの話を聞いてルナとカナの目が僕に向いている気がするが、怖くて目を合わせる事が出来ない。それと同時にゼロの乾いた笑い声が聞こえて来た。せめてもの救いは今の僕は人ではないので、ココアとグラムのような関係にはならない事だけだろう。



「それにしても夫の店が急に忙しくなったけど、手伝いに来なくても大丈夫って言ってたのは貴女達を雇っていたからなのね。………ちょっと待って!?つまりさっき言っていたキラービーの棘の加工を依頼した武器屋って……」


「そうよ。グラムの武器屋よ」



 その回答を聞いたココアは、急にフラリと立ち上がりどこかに出かけようとしだす。



「ごめんなさい。ちょっと急用が出来ちゃったわ」



 そう笑顔で言っているが、その雰囲気はまるで戦闘に行くような空気を纏っていた。



「ちょっと待ちなさいよ!?まさかグラムの所に行ってレア素材を奪い取りに行く気じゃないでしょうね!」



 ゼロが只ならぬ気配を感じたので慌ててココアに問いかけた。そしてその質問を聞いたココアの肩がビクッと揺れて反応する。



「そ、そんな事をするはずないじゃない………ただ、夫は武器の加工に失敗し、私は珍しい防具を作れる……ただそれだけの事よ」



 まるで油の切れた機械が、ギイギイ鳴らしながら振り向くような硬い動きを見せるココア。



「明らかに奪い取る気満々じゃない!!!ちょっと落ち着きなさい!今から行っても間に合わないわ。何しろ私達が店を出る時には既に作業に入っていたもの」


「そんな~……私のレア素材が……」


「あんたの物じゃないけどね」



 ゼロに間に合わないと言われてガックリと膝を落とすココア。彼女の手元には、いつの間に用意したのか分からない木槌が落ちている。その様子を見て、ため息を出す事しか出来なかったゼロだった。



「さっきも言ったけど、次に手に入ったらちゃんと持って来るから。もし奪い取るような事をしてたら、二度とこの店には来ないからそのつもりでいなさいよ」


「いくら夫の所に羨ましい物が入ったからと言って、心底羨まし物が入ったからと言って…そんな事をする訳ないじゃないの」



 そう笑いながら言っているが、その笑顔はものすごく残念そうな顔をしていたのと、さっきまでの行動を見る限りとても信じ切れるものではなかった。



「ハァー……まあいいわ。私達は帰るから仕事を頑張りなさいよ」


「それでは失礼します。師匠」


「……また話を聞かせて欲しいの。師匠」


(ちょっと、師匠って何よ!なんでいつの間にココアが師匠になってるの?)


「それじゃ、またのおこしをお待ちしています」



 僕の疑問は誰も気に止める事なく流れていった。その事に一抹の不安を感じる事になったが、今の状況で僕が何かをやる事は出来なかった。



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