30話 12階層の秘密
無事に迷宮での腕試しを終わらせたルナ達は、魔石を持ってリーザの所に向かう。
「………えーーーと…ちょっと待ってね……」
冒険者ギルドに着いたルナ達は、リーザに今回の成果である魔石をカウンターに並べて置いた。そしてその異常な数と、鑑定する前から分かる等級の高そうな魔石を見て、額に手を当てて何から言うべきかを考えているようだった。
「…まず、これだけの数の魔石を朝から集めた訳ではないわよね?」
「流石に朝から迷宮に行っていたらここまで集められないわよ。昨日の夕方から潜って夜の魔物の強さを体験していたのよ」
何となく分かっていたが確認の為に聞いたリーザに、ゼロはとくに何も気にしていない様子で予想通りの回答を返してきた。
「…夜は魔物が凶暴化するって分かっているのに、なんでそんな危険な真似をしたの」
「……危険?何も危険な事はなかったの。……余裕だったの」
元々表情の変化が少ないカナだったが、その言葉からまるで危険意識を感じなかったリーザは、額から手が離せない状況が続いている。
「それとパッと見たかんじ、3等級の魔石もありそうなんだけど……まさか下層には行っていないわよね?」
リーザはお願いだから中層で運良く3等級の魔石が手に入ったと言って欲しくて、願うような気持ちで質問した。
「そうよ!1つ聞きたかったのよ。夜の内に12階層でミノタウロスの凶暴化を見たかったのに、なぜか一体の魔物もいなかったのよ。11階層にはちゃんといたのに、どうして12階層には出ないの?朝になったっぽい頃から次々現れ始めたから、何か秘密があるんでしょ?」
質問を質問で返された形になったが、その中に答えも含まれていた。……しかも普通の考えからは信じられない事に、魔物の凶暴化の時間内に下層に突入したと言われたからには、驚きを通り過ぎてただ呆れる事しか出来なかった。
「ねえどうなの?」
そのリーザの気持ちを欠片も理解していないゼロは、質問の答えを求めていた。
「…ハッキリとした条件はまだ出ていませんが、ごく稀に夜の12階層には<レッドミノタウロス>と呼ばれている全身が燃えるような真っ赤な色の魔物が徘徊するらしいのです。その魔物が徘徊する時は、他の魔物は恐れて姿を隠してしまうらしいです。
つまり情報が本当なら、出会わなかっただけ運が良いと言えますね」
このチームの非常識っぷりに諦めたように話を流す事に決めたリーザは、ゼロの質問に噂話程度だが情報を与えた。
「……運が良い?違うの、運が悪いの」
「そうよねー…せっかくあそこまで行ったなら、レッドミノタウロスと戦ってみたかったわよね…」
しかし2人の反応はリーザの考えの上を行くものだった。
「お二人さん、レッドミノタウロスは普通のミノタウロスが逃げるほどの強さなのよ?それに体が赤いのはただの色ではなくて、鉄をも溶かす熱を秘めているからなんです。そんな相手にどうやって戦うつもりなんですか!」
危険とされている魔物を気楽に戦いたかったと言う2人に、少し怒ったようにリーザは忠告した。
「熱いならルナの水の魔法で冷やしてから、殴るなり斬るなりすれば良いじゃない。そんなに熱を秘めた体をしているなら、攻撃される事に慣れていないだろうからカナのハンマーは効くんじゃない?」
「ハァー…冷やしてから殴るって……鉄をも溶かす程の物にどれだけの水が必要だと思っているのですか。だいたい水をかけたら水蒸気の熱で貴女達が持ちませんよ」
ゼロの安直な考えにリーザはため息をつきながら、出された案の駄目な所を説明してあげた。
「そっか…外ならともかく、空間が限られている迷宮内ではその危険があるわよね」
「分かってくれましたか。だけどレッドミノタウロスの件もですが、チームを組んでいきなり下層に行くような無謀な事はしないでください。確かに3人のステータスは十分下層でも戦えるレベルです。それでもチームワークや連携が拙い内に、強敵と出会ってしまったら命の危険があるのです。
……お願いですからもう少しゆっくりと迷宮探索を進めてください」
「分かったわ。無茶をするのはやめましょう。だから今後は1日に1階層づつ先に進む量を増やす事にするわ!」
「ぜんぜん分かっていません!!!!!それを世間では無茶と言うんです!」
懇願に近い形で説得をしたリーザだったが、その思いはゼロにはまったく届いていなかった。
「……どうしてなの?……ミノタウロスもキラービーも余裕だったの」
カナにもどうやら思いは伝わっていない事が分かり、リーザは半分泣きそうな気持ちになってしまう。
「…お願いします……せめて3日毎に1階層増やす事にしてください。出来れば更に延ばしてほしいのですが、これ以上延ばせと言っても聞かないですよね……」
「別に無茶と感じたら素直に引き返すわよ。私達は引き際も分からないような愚か者ではないし、今日だってルナのバイトがあるから、明日に備えて引き返す事にしたんだからね」
「バイト?」
「つまり手伝いみたいなものよ。明日は武器屋のグラムの所で店員の仕事が入っているのよ」
「そうなんですか……なら今後は町の依頼も少しは受けてみるのはいかがですか?いろいろな経験が出来て、将来に役立つ事があると思いますよ」
そう話したリーザには別の考えがあった。つまり他の仕事が入っているのなら、迷宮探索を休むのは構わないと思っていると気がついたのだ。なら他の仕事を入れてしまえば、無茶な探索をする前に戦闘の経験を得られるかもしれないと考えたのだ。
「……無理ね…」
「……無理ですね…」
「……無理なの」
しかし帰って来た答えは3人揃って苦い顔をしながらの無理との返事だった。
「な、なぜですか?たまには良いと思いますよ。そんな即答で返事をしなくても考えてみてください」
リーザもルナ達の事を考えると、1分1秒でも迷宮から離して連携を深めて欲しいと思っているので、すぐに引き下がるような事はなかった。
「…だって…依頼を受けるって事はチーム名をさらさないといけないんでしょ……」
ゼロのその答えで全てを把握する。
「なんであんなチーム名にしたんですか!普通ありえませんよ、自分達のチーム名に苦しめられる冒険者なんて!」
つまりチームで依頼を受ける以上、依頼人にチーム名…幼女達の集いと名乗らなければならないのだ。それを自分達で名乗る事など、意味もなく自ら泥を被るようなもの。その事を理解している3人は即答で返事をし、理由に気がついたリーザもまたルナ達がそんなチーム名にした意味が分からないでいた。
「とにかくチーム名を晒す訳にはいきません!」
「なら採取や討伐系の依頼はどうです?その手の依頼は冒険者ギルドが仲介に入る事がありますので、私の所に来てくれれば他の人にバレる心配はありませんよ」
リーザの説明の通りこの手の以来はギルドが物を確認したり、討伐を確認したりして依頼人に報告する事があるので、直接冒険者が依頼人に出会う必要のないものもあるのだ。
「確かにそうかもしれないけど、なんか私達に合いそうな依頼でもあるの?」
依頼の中にはギルドランクが一定以上必要な物も存在する。実力はこの町でもトップクラスだが、冒険者になったばかりで経験の少なさからランクは決して高くないのだ。そんなルナ達に似合う仕事があるとは思えないでいたのだ。
「そうですね…例えばこれなんかどうですか。近くの森に行っての木材の運搬です。こないだの魔物の襲来で結構な家が火事によってダメージを受けています。その修復の為に木材が絶対的に足りないのです。この依頼は経験の少ない冒険者が結構集まって作業しますから、ギルドカードを見せるだけでわざわざチーム名を言う必要はありません。
ですが森の中にはあの時に逃げだした魔物が出るようになってしまったので、自分の身は自分で守らなければなりません。まあ、下層に行ける3人にはいらぬ心配事ではありますけどね」
依頼の内容的には物足りないのが目に見えて分かったのだが、木材が必要な理由の方に少し引っ掛かった。つまり主犯は魔族のリリーナだったが、奴隷紋で強要されていたとは言えカナもその事に関わっていた以上、他人事として聞く事は出来なかったのだ。
その証拠にカナの変化の少ない表情が少し暗くなって、俯き気味になってしまっている。
「その依頼は明後日も募集しているんですか?」
カナのその表情に気がついたルナは、依頼を受ける事にしようと決めた。もちろんそれを受けたからと言って、魔物が襲って来た事実が消える事はないのだが、その事で少しでもカナの気持ちが楽になればとルナは考えていたのだ。
「もちろん受け付けているわよ。朝一に一度ギルドに集まってもらって、その後、現地に向かってもらっています。採取した木材はギルド指定の場所が用意されており、朝に説明がありますのでそこに運んでもらう形になります」
「なら明後日の朝にもう一度来ます」
「受けてくれるの!ありがとう、助かるわ。最近行き先の森で、少し凶暴な魔物が出たって話を聞いていたものだから、貴女達みたいな実力の持ち主が同伴してくれると安心出来るのよ。それじゃあ、明後日の朝に待っているわ」
そう言って嬉しそうに魔石の鑑定に戻るリーザを横目に、カナがルナに近づいて来て、
「……ありがとうなの」
気持ちを分かってくれたルナに、少し照れ気味に小さくお礼を言いに来たのだった。
そして大量の魔石の鑑定が終わり、結構な大金を受け取ってギルドを後にした。その出ていく姿を確認した後、数人の男達も後を追うようにギルドを出ていった。
ルナ達が家に向かっている最中、少し人通りが減ってしまう場所に辿り着いた時に突然声を掛けられる。
「やあ、お嬢さん達。少し話があるんだけど時間良いかな?」
「!?……何でしょうか?」
普段から人通りも少なく声も掛けられる事もない場所だったので、ルナは少し驚いて後ろを振り返る。
「いやー大した用事じゃないんだけどね。実は……お嬢ちゃん達が持っているその袋の中身を分けて貰おうと思っただけだよ」
「……なに、つまりお金をよこせって言いたい訳なの?」
男達はルナ達が立ち止まった事を確認した後、急いで囲むようにして他の通行人に見えないように壁を作る。そしてそんな状況なのにとくに警戒している様子もないゼロは、つまらない物を見るようにため息を吐きながら呆れて質問をしていた。
「君達が誰のお使いでそんな大金を持ち歩いているかは知らないが、その頼んだ人に教えてあげようと思ってね……子供に持たせるお金にしては、あまりに大金過ぎるからこんな事になるんだってね」
そう言ってニヤニヤ笑う男達。それを見てルナは困った顔をしている。だが決して身の危険を感じて困っているのではない。見る限りに絡んで来た男達の実力は大した事がないと分かったのだ。
「……雑魚はさっさと帰るの」
ゼロと同様に、カナもまるでゴミを見るような冷めた視線を男達に浴びせる。
「お2人共……ここは穏便に話し合いで解決した方が……」
ルナが困った顔をしている理由……それは…
「こんなのをほかって置くと、調子に乗ってまた馬鹿な事をするに違いないわ。ならここでお灸をすえてやるのが町の為になるってものよ」
「……さっさと叩き潰して帰るの」
それは完全に臨戦態勢に入っている2人が、やり過ぎないかをルナは心配していたのだった。
「おいおい、お嬢ちゃん達がえらくやる気になってるな。いかんね…大人を舐めてると痛い目に会ってもらう事になるぞ」
互いにやる気になっている為、既に小さいキッカケでもあれば戦いは避けられない状況になってしまっている。なので出来れば争い事をやめさせたいルナは一芝居する事に決め「スゥーー」と息を吸い、
「キャーーーー!誰かーーー!助けてくださーーーーい!」
突然悲鳴のような大声を上げたのだ。人目を避けて行動してきた男達なので、大声を出して注目を集めれば何とかなると考えたのだ。
「くそ!急に大声なんか出しやがって!」
そんなルナの声に、予想通り男達は慌てだして周りをキョロキョロしだす。その様子を見ていたゼロは少々不満そうな顔をする。
「…ちょっとルナ…争いは避けれるかもしれないけど、周りの視線で少し恥ずかしいわよ…」
だが、ルナの声を聞き予定通り人が来てくれたのは良いが、男達は逃げるまで行かなかった。かと言って集まってきた人達も、武装している男達に向かって助けに来る勇気までは持ち合わせてないようで、ただ動けずに事の成り行きを見守る事しか出来ないでいる。
その様子を確認した男達は、「仕方がない…さっさと終わらせて逃げるぞ」と話し、こっちに向かって来てしまったのだ。
「あれ?…少し予定と違いますね」
人目が集まれば逃げてくれると思っていたルナだったが、逃げずに襲ってくる男達を見て苦笑いをしていた。しかし、ここで逃げると言う選択を男達が出来ていたらどんなに幸せだったであろう……。そう言えるほどの事が、この後わが身に襲ってくるとは本人達は欠片も思ってはいない。
「でもどうなんだろう?この場合、正当防衛って通じるのかしら?」
相手の男は5人、対してルナ達は3人。このような人数差でも、全然ピンチと思っていないほど落ち着いた表情の3人に気付けたら……そしてその違和感に気付いて手を出してはいけない相手と分かる事が出来れば………
「周りから見ても襲われているのはこっちだから大丈夫じゃない?……もちろんやり過ぎなければの話だけどね」
ゼロの質問に僕が答えてあげる。もちろんやり過ぎなければとも言っておいたが、その忠告は2人の耳には入っていないようだった。
「……ハヤテの許可をもらえたの。……死なない程度に存分にやれるの」
「女は弱いと思っているような輩には、しっかりと罰を与えてあげましょう」
「おーーい、話をちゃんと聞いてたかい?」
しかしその声も聞こえていないようで、ルナを残して2人は駆け出してしまう。相手はナイフをチラつかせ、こちらは多少の常識があったようで無手……そんな状況でも戦いとも呼べないような、一方的な殲滅作業はすぐに終わりを告げる。
もちろんゼロ達の勝利でだったが……
「さーーてと…さっきまでの態度から考えて、常習犯ぽいから念入りにお灸を据えてやりたけど罰は何が良いかしら…」
既にボコボコにされて、意識はあるが動けない状況の男達を見下ろし、ゼロはニヤっと怖い笑顔を見せて罰を考えている。
「……こそこそ襲う事しか出来ない奴は男じゃないの」
「そうね……なら襲われる女の気持ちにでもなってもらいましょう」
カナの呟きを聞いたゼロは刑を決定した。……それは男なら誰しも股間を手で覆いたくなるような、残酷な決定だった。
ゼロのとった行動は思い切って男達の股間を蹴り飛ばす事だった。それを見ていたカナも真似をして同じ事をやっていたが、力が倍近く高い蹴りを受けた男はその衝撃で数メートル飛ばされてしまう。
「おぅ……あれは男にはキツイよ………」
そう言って僕も男で人間だったので気持ちが分かるので、つい自分の股間を守るように手を当てていた。ルナの声で集まっていた周囲の人達を見回すと、自分達がやられた事を想像したのか、男は例外なく僕と同じ行動を取っていた。
それと同時に笑顔で股間を蹴り飛ばすゼロと、まるでやる気の感じられない表情で手加減なしで蹴っているように見えるカナに恐怖を感じていた。そしてこの光景を見ていた者達が、のちに<ピンク色の悪魔>と<無気力鬼>と呼ぶようになるのだが、その事がゼロ達の耳に入るのは先の話であった。
「これに懲りたら、今後はこんな事をしないように。…さ、これ以上人が集まる前にさっさと帰りましょ」
そうして全ての男達に刑を執行したゼロ達は、逃げるようにこの場を後にする。その後、残された男達の中には男として再起不能になり違う性別に目覚めた者もいたが、その事をゼロ達が知る事も知ろうとも思った事はなかったのだった。




