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29話 夜の下層で腕試し

ようやくゴールデンウィークに入ったので、今日も投稿します。

 11階層に足を踏み込んだ僕達一行。まず小手調べとして下層で最初に出会ったグレートウルフの様子を見る事にする。攻撃をせず、相手の攻撃をかわしながら様子を見ていると、少し疑問に浮かぶ事が出て来た。



「あれ?……あまり凶暴化をしているようには見えないわね」


「…そうですが、こっちに向かって来るスピードは速くなっていますよ」



 ゼロの疑問はグレートウルフの動きにあった。今までの魔物はまるでバーサーカー化したように、身体能力は上がっているのだが知性が落ちているようで、動きが単調になっていたのだ。しかしグレートウルフには身体能力の上昇は見えたのだが、昼間と変わらない行動パターンで攻撃を仕掛けて来るのだ。



「やっぱ、下層ともなると魔物の質も上がるのかしらね」


「……普通の魔物は夜になったからといっても凶暴化なんてしないの。……この迷宮の特徴かもしれないの」


「そういえば僕が魔族の領土にいた時も、魔物が凶暴化した所なんて見た事がなかったな」



 そうのんびり話している間にゼロが右前足を斬り、ルナがアクアスラッシャーで左前足も斬り落とす。そして動きが止まった所にカナの一撃が入ってトドメを差した。



「ま、この程度の強さだったら脅威にはならないわね」


「前回に比べて装備も良くなってカナちゃんもいますので、今回はハヤテさんに囮をやってもらう必要がありませんね」


「確かにそれは助かるよ。死なないだろうとは言え、丸飲みされてしまいそうな恐怖はあったからね…」


「……でもここの魔物はリリーナが従えていた魔物よりも数段強いの……ルナ達はこんな所で訓練をしていたのなら、あれだけ強かったのも納得なの」



 消えていくグレートウルフを見つめながら、迷宮に現れる魔物のそのレベルの高さに感心していた。



「それより急がないとそろそろ夜が明けてしまうわ」



 とくにそこまでの理由はないのだが、一度凶暴化したミノタウロスを見たいと思ってしまった以上、その目的を達成しないと気が済まないゼロは慌て始めていた。



「分かりました。それでは少し早足で先に進みましょう」



 ルナも今後の迷宮探索の事を考えて、凶暴化した魔物の実力がどれほどのものかを体験して見たいと考えていた。


 しかし流石は獣の魔物と言うべきか、その鼻でルナ達の存在を探し当てているようで次々と襲って来たのだ。その為にどうしても進行は遅くなってしまい、おそらく夜が明けるまで残り時間が30分を切ったであろうと思える中、ようやく12階層への階段に辿り着く事が出来た。



「急ぐわよ!おそらく出会えて1度が限界だと思うわ!」



 そう言ってゼロは全速力で階段を下りて行く。そしてその途中で、僕にとっては見た事がある揃いの鎧を装備した集団が階段で休憩をしていた。



「ん?…まあいいわ。時間もないしほかって置きましょう」



 しかし先を急いでいるゼロは、その存在には気がついたが無視をする事にする。そんな僕達の様子を見ていた集団は、「なぜ子供がここに?」と言わんばかりの驚いた顔でこっちを見てきたが、ルナとカナは遅れないように必死で追いかけていたのでやっぱり無視をしていた。



「12階層に到着ー!さーて、お目当てのミノタウロスちゃんはどこにいるかしら?」



 12階層に飛び出すように着いたゼロは、期待に胸を膨らませて周囲を確認していた。しかしこの階層に着いてすぐの所にお目当ての魔物はいなかった。



「さっきの連中は夜は行動しないようだったし、この階層は手付かずのはず!なら今の内に狩りに出かけるわよ!」


「ちょっと待ってくださいゼロさん。着いて行くのが大変です」



 すぐにでも駆け出そうとしていたゼロを止めたのは、少し遅れて12階層に入る事になったルナだった。そして更に遅れてカナもようやく到着できた。



「……ゼロ、急ぎ過ぎなの!」



 完全に置いて行かれたカナは、少し怒っているような口調になっている。



「あ、ごめんごめん。目の前が目的地だと思ったら嬉しくなっちゃって、ちょっと張り切り過ぎたわ」



 どうやら本人は置いて行くつもりはなかったようで、気持ちの高ぶりを抑えられなかったと説明して謝る。そうは言っていても見る限りにウズウズしているので、反省の色はまったく見えなかったのだ。



「でもこの辺りには魔物がいないみたいなのよ。悪いけど時間もないし、ペースは落とすけどちょっと急ぐわよ」



 そう言ってゼロは走り始め、それにルナ達はため息をついて追い始める。






 しかし探せど探せど、ミノタウロスどころか他の魔物すら一体も出会わない。ゼロの焦りと苛立ちが募っていく中、余裕で朝を迎えている時刻になってしまっていた。



「……なんでよ…なんで魔物が一体もいないのよ?前に来た時は結構いたじゃない!」



 ゼロもとっくに朝を迎えている事には気付いており、時間内に迷宮で魔物に出会わなかった事を不思議がっている。



「おかしいですね…何かがいる気配はしていると思ったのですが……」



 ルナもこの階層が無人ではないと感じていたから、魔物に出会わなかった事を疑問に思っていた。



「……さっきまでと瘴気の濃さが変わったの……何だか変な所なの」



 カナは周りの様子を見回し、ガラリと変わった瘴気を不思議そうに眺めている。瘴気の濃さの変化は分からないが、僕もこの階層の気温が急に下がった事は感じていた。理由は分からない、でもこの迷宮の存在自体が不自然な物なので、こういう事もあるだろうとすぐに気にする事をやめる。



「?。どういう事よ、瘴気の濃さが変わったって?」


「……理由は分からないの。……でも一瞬で変わったの」



 カナは上手く説明出来ない事に少し歯がゆい顔を見せたが、この迷宮自体がまるで人為的に作られた物のような感じがあるので、その理由を言葉にまとめれなくても仕方がない事だったのだ。


 そうこう話していると、今更ながらミノタウロスが視界に入って来た。



「……ハァー…遅いわよ………いったいどこに隠れていたって言うのよ…」



 本来なら強敵との遭遇に緊張が走るのが普通なのだが、ゼロがとった行動はあまりに遅い登場の為に、残念な物を見るような顔をしてため息で出迎えたのだった。



「さ、夜に出会えなかったのは残念でしたが、ここは気を引き締めていきましょう」



 全体的に気合いが抜けているチームにルナが声を掛けた。いくら勝てる相手でも、注意力が散漫な状態では危険だからだ。



「まあ、他の階層で凶暴化が大した事ないと分かってたから、そこまで期待していた訳じゃないしね」



 ゼロはそう言っているが、実際は5割増しぐらいの強化が発生していたので、大した事ないの一言で済ませれるレベルではなかった。



「……鬱憤は魔物に当たればいいの」


「それもそうね。じゃあ新チームでの初ミノタウロス戦。気合いを入れて頑張りましょう!」



 そうしてようやく戦闘態勢に入ったルナ達。対してミノタウロスは既に戦う気があったようで、こっちに頭の角を向けて突進を仕掛けて来ていた。



「まずは動きを止めます!」



 そう言って放たれたルナの水弾を頭に受けたミノタウロスは、その突進力が一気に弱まっただけだったが、続いて放たれた2発目で完全に動きが止まる。

 その瞬間を待っていたゼロが背後に回り、背中や足を連続で斬りつける。背中に走った痛みに慌てて反応したミノタウロスは、すぐに反転してゼロに向かって棍棒を振り回す。しかしゼロがその場に留まっているはずもなく、棍棒は虚しく空を切る事になった。

 その隙を見逃さず、カナの力一杯込めた一撃が鈍い音と共に脇腹に直撃し、鈍い音と共に壁まで吹き飛んでいってしまい絶命する。



「……なんだか…全然楽勝だったな…もしピンチになるようだったら、かっこよく助けに行くつもりだったのに…」



 僕はルナ達の一方的な戦いを見た事で、安心してそう呟いてしまった。実際にルナのアクアライフルも攻撃力が上がっており、ゼロの動きも良くなっていて新たに買い直した武器も問題なく通じたのだ。そこにカナの攻撃力が加わったのだから、楽勝なのは当然の結果だろう。



「ハヤテさんはいつでもかっこいいですよ」


「ハハ、お世辞でも嬉しいよ」



 そうほのぼの話しているが完全に僕の仕事はない。そして次の相手が登場する。



「…やっぱりおかしいわね…こんなにすぐに出会えるなら、何で夜中には遭遇しなかったのかしら?……ここまで違いがあるなら何か理由があるだろうから、ギルドに戻ったら一度リーザ辺りに聞いてみないといけないわね」



 そう言いながら二体目の相手をしたが、やはりワンサイドの戦いで終わる。しかし他事を考えながら戦っていたゼロ達には、遠くからその戦闘を見ている視線に気付く事は出来なかった。



「さてと、どうせなら13階層に顔を出してから帰りましょうか。明日はグラムの所で仕事がある事だしね」


「そうだな。徹夜で迷宮に籠っていたし、今日は早めに上がるつもりで次の階層を最後にしよう」



 この12階層で魔道具を探しながら戦っていたが、魔物の数も少なくなっていた事と明日の事を考えて、次の階層を少し回ったら帰る事にした。







 13階層……ここからは空を飛ぶ大きな蜂のような魔物、<キラービー>も現れる。そのお尻から出る棘には神経毒があり、少しでも傷を付けられるとすぐに動けなくなってしまうのだ。


 しかし素早い動きと空を飛ぶ事から防御力は低く、その蜂の動きにゼロは着いて行く事が出来たので、接近されても難なく倒す事が出来た。もちろんルナも魔法を当てる事が出来たので、そこまで苦労はしなかったのだが、ミノタウロスと同時に遭遇した時はちょこまか動く蜂に注意力を持って行かれがちになり、少々苦労していた。


 そして何体目かのキラービーを倒した時、消えるはずの死体からお尻の棘だけが残る。



「…これがココアさんが言っていた魔物の一部が残る現象ですか」


「でもこれって何に使えるのかしら?ちょっとあんた、これを鑑定してみなさいよ」



 そう言ってゼロは僕の目の前に棘を持ってきた。




キラービーの棘 ・・・ その棘には神経毒が含まれており、そのまま道具として使っても相手を麻痺に出来るが壊れやすい。また武器に加工すれば長く使えるが効果は弱まる。




「……と言う事だ。防具には出来そうにないが、武器に混ぜ込めば何パーセントかで麻痺にする事が出来る効果を持たせれそうだな。ただこのメンバーの武器で切り傷を付けられるのはゼロだけだから、その判断はゼロに任せるよ」


「そうね……ならこれで投擲用のナイフでも作ってもらおうかしら」



 そうして目的の決まったレアアイテムは僕が預かり、その後もしばらくは魔導具探しと魔物との戦闘をこなした。



「みんな、そろそろ引き返そうか。ここは13階層だから、帰るのにもそれなりに時間が掛かるだろうしね」



 体内時計が目安だが、だいたい昼前になったと思った僕は、探索を続けているルナ達に声を掛けて引き返すように打診する。



「そうですね。13階層の探索も粗方終わりましたし、今回の成果としては十分ではないでしょうか」


「そうね。ミノタウロスだけが心残りだけど、今後の楽しみが残ったと思えばいいわけだしね」


「……今回の目的は武器の慣らしなの。だから本格的な攻略は次回に持ち越すの」



 全員が納得したようで、僕達は地上に向かって進み始めた。





 帰りに傷をポーションで治して魔物と戦っていたカイ達と遭遇したが、一目散に逃げ出されてしまった。ルナは「挨拶が出来ませんでした…」と言い、ゼロは「何で逃げる必要があるのかしら?」と首を傾げていた。

 その事に僕は「本気で分からないのか?」とゼロに言いたかったが、しばらく首を傾げて悩んでいる姿から、自分がやった事を理解していないようだと確信した。




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