28話 新チームで迷宮へ
「……ここが人間の町の迷宮……なかなか変わった瘴気を感じるの」
始めて迷宮に入ったカナは周りをキョロキョロ眺めながら、その中に溢れている瘴気に違和感を感じている。
「変ったって何か違うの?」
「……言葉で説明するのは難しいの……でも…瘴気にムラを感じない…これは異様なの」
「つまり安定した量の瘴気が出続けているって事?」
「確かに階層ごとに出る魔物がだいたい決まっているし、その辺は機械的にコントロールしている何かがあるって事なのかな…」
今は周りに人はおらず、僕の存在を知っている人以外はいないので普通に会話に参加出来る。
「……機械って言葉の意味は分からないの……でも安定しているのは確かなの」
「きっと最下層に何かがあるのかもしれませんね」
「ま、最下層に行けば分かる事だし、どうせその内行く事になるでしょうから、今は気にしても仕方がないわ」
そんな会話を続けながら迷宮内を歩いて行き、6階層に着いた頃、魔物の動きに変化が表れ始める。
「どうやら夜になったみたいね。少し気合いを入れていきましょう」
目の前のシャドーデビルの動きが急に乱暴で力強くなり、動きの癖などが変わったので少し戦い難くなった。
しかしルナ達にとって所詮は中層の魔物。ルナの魔法に掛かれば結局は近づく事も出来ないし、ゼロには攻撃が当たる事もなく、カナの一撃に耐える事も出来ないので、あくまで多少戦い難くなった程度だった。
「……夜の魔物は危険って聞いていたけど大した事がなかったわね」
「……拍子抜けなの」
もっと劇的な変化があると思っていたので、この程度の変化に落胆している。勝てる相手なので安心するならまだしも、命懸けの迷宮で落胆するのはどうかと僕は思った。
「そう言えば、カナは闇の魔法を使えるんだったわよね?いったいどんなのが使えるの?」
ゼロはここまでハンマーのみで戦っていたカナを見て、闇の魔法に興味が湧いてきたのだ。
「……私が使うのは…」
カナの説明によると、
シャドーミスト ・・・ 任意の場所に黒い霧を発生させて視界を遮る事が出来る。
シャドーエッジ ・・・ 黒い刃を地面から出して相手を斬り裂いたり出来る。ただしあまり遠くには出す事が出来ない。
シャドーウォール ・・・ 硬化させた黒い壁で攻撃を防ぐ事が出来る。これを体に纏わせる事で、防御力を上げる事も出来る。
「なかなか面白い魔法だよね。しかもバランスがいい」
阻害魔法に攻撃魔法、防御魔法とバランスが取れている事を僕が褒めていると。
「……ハヤテに褒めてもらって嬉しいの」
そう言っているカナの顔は少し赤くなっている気がした。
「…私にも壁を作る事は出来ます」
魔法を褒めてもらっているカナを見て、少しやきもちを焼いたルナは対抗するようにそう言った。
「ルナの場合、そのまま出した壁で敵を押し潰してしまうでしょ?大丈夫よ。攻撃は最大の防御って言葉があるんだから、やられる前に倒してしまえば良いのよ」
「ルナの魔法だって十分凄いのは知っているから、別に対抗しなくても大丈夫だよ」
「はい!」
僕の言葉に嬉しそうに反応してくれる。
その後も6階層を歩いていると、別のチームの戦闘音が聞こえてきた。
「どうやら他のチームも頑張っているみたいね」
「もしかしたらカレンちゃんのお兄さんかもしれませんよ」
そう言われ、カレンに兄が夜の迷宮で訓練していると聞いた事を思い出した。その事もあり少し興味が湧たので、邪魔にならないようにこっそり覗きに行く事にする。
「坊ちゃん、昼間と違って力は上がっているが動きが大振りになっている。落ち着いて攻撃をかわしてから反撃をするんだ!」
「分かった。……くそ!昼間以上に迫力が凄いな!上の階層なら大丈夫だったのに」
そう言って何とか攻撃をかわしているが、反撃に行くまでの余裕はないようだ。
「あれって……カイ君ではありませんか」
「カイって誰?」
遠くから見ていたルナが戦っている冒険者の顔を見て、カイのチームだと気が着いた。
「カイ君は私やリリカさんが冒険者になる時に一緒にいた人です」
「へー、それにしては腕が悪いわね」
「……うん、雑魚なの」
ルナの同期と聞いた2人は、間違いなく比較対象がルナであった為にかなりの辛口評価だった。
「…たぶんあれが普通レベルだと思うから、あまり本人の前ではそんな事を言うなよ」
そう喋っていると僕達の後ろからシャドーデビルが近寄って来て、攻撃態勢に入っている。
「……邪魔なの」
しかし、覗いている行為の邪魔をされたと感じたカナの、少々苛立ちが混ざった一撃で倒されてしまう。だが、明らかにオーバーキルでハンマーを振り下ろしてしまったので激しく地面も殴ってしまい、その衝撃音でカイが振り向き、存在がばれてしまったのだ。
「坊ちゃん!よそ見をしては駄目だ!」
そう言って隙だらけになったカイを庇ってオレンが手を出し、シャドーデビルにトドメをさしてを倒す。
「悪かった。助かったよ。……それにしてもなんでルナがまたここにいるんだよ!しかもこんな時間帯に!」
助けてもらったお礼を素直に言ったカイは、そのまま僕達の方ね歩み寄って来て文句を言って来た。
「……私達が何時どこにいようと、私達の自由なの。……雑魚の癖に偉そうな事を言うななの」
「カ、カナちゃん!?そんな事を言っては駄目ですよ」
「そうよ。いくら本当の事だからって、言って良い事と悪い事があるの。そういう事を考えないと敵ばっかり増えて大変よ」
突然の暴言を吐くカナに、同じように失礼な事を言って駄目だと教えるゼロには、説得力がまったくなかった。
「……すみません。彼女達は思った事がすぐに口に出てしまうもので…」
そしてトドメの一撃をルナが与える。
「…つまり、今のは本気で言っているって事か。なるほど、ルナも同意見って事なんだな?」
言葉に出した事に対しては謝ったルナだったが、発言内容に対しては否定しなかったのでそう捉えられても仕方がなかったのだ。
「え!?、いえ…その……」
突然核心を突く一言に、ルナは上手く否定する言葉が見つからなかったので慌てていると、
「……悔しかったら更なる精進をするの」
カナの言葉が更に続く。
「つまりそこまで言う以上、お前達の実力は俺以上って事なんだろうな?いくらルナに連れられて来たからって、ここは子供の遊び場じゃあないんだぞ!」
「…子供?いったい子供がどこにいるのかしらね~」
(ゼロの言葉使いが変わった!?まずいぞカイ!これ以上言葉を続けると身が危険だぞ!)
ゼロから感じる雰囲気が変わった事を感じた僕は、心の声による強い警告をしたが当然カイには届く事は無かった。
「お前達に決まっているだろ!」
カイの怒鳴り声ともとれる声を聞いて、僕は諦め、すぐにポーションを取り出せる用意をする。
「……達?……つまり私も子供扱いなの?」
ゼロよりは少しだけ背が高いカナは、子供と言われたのは自分ではないと思っていたが、お前達と言われた事で自分も子供扱いされていたと気付く。
「ちょ、ちょっとカナちゃんまで…」
カイの言葉にもう1人も反応してしまったので、ルナはすかさず止めに入ろうとした。
「他に誰がいる!確かにルナだって似たような見た目だが、あれでも一応は大人なんだ。……まったく、子供っぽいルナが行けるからって、迷宮に子供が入り込むなんて危険過ぎるぞ!ルナだってちゃんとその辺は言い聞かせろ!」
しかし更なるカイの言葉に、ルナもなだめようとしていた行為が止まってしまった。
「子供、子供と…カイ君……一番年下の人が失礼過ぎるのではありませんか?」
「一番年下って何を言っているんだ?」
ルナとカナが15歳、ゼロは年齢不詳だが20歳を超えている。つまり14歳のカイが一番年下なのだ。だが事実を知らないカイは、ルナの怒りも言っている意味も理解する事は出来なかった。
「ルナ、もういいわ。こんな失礼な雑魚に気を使う必要はないのよ」
「……その意見に賛成なの。……こういうのには体で教えるのが一番なの」
そして、ゼロとカナは既にやる気だった。
「坊ちゃん…何だか嫌な予感がするんだが…」
「俺もそう思う……まるで下層の魔物と出会ってしまった時と同じか、それ以上の危険を感じるぞ…。坊ちゃん、ここは素直に謝った方が懸命だ」
経験豊富な2人は何となくだがゼロ達の実力を把握出来たようで、額に汗を流しながら謝る事を進言する。
「今更謝って済むと本気で思っているのかしら?」
「……あの世で反省するの」
「殺しては駄目です。それでは反省する事が出来ませんから」
「……分かったの……半分で我慢するの」
「なんだ?子供がやる気になってるか?……仕方がない、ちゃんとした冒険者の力を見せてやるから、かかって来い!オレンとアッシュも行くぞ!」
「「俺達もかよ!?」」
いまだ相手から発せられる怒気にカイは気付く事も出来ていないようだが、動物の防衛本能とも言える感覚で1人では危険と判断する事だけは何とか出来たようだ。しかし仲間で護衛の2人まで巻き込んでしまったので、巻き込まれた方は災難としか言いようがない。
「ルナは周りに邪魔が入らないようにしてちょうだい。安心して、貴女の怒りもちゃんとぶつけてあげるわよ」
「……手加減は難しいけど頑張るの」
そう言って2人は歩き始める。それを止める事なく送り出す所を見ると、ルナの怒りが収まっていない事が分かった。
ゆっくりと歩み寄るゼロ達とは違い、カイ達は一気に駆け寄ってきた。この状況だけを見るなら子供に襲いかかる冒険者にしか見えないのだが、その後しばらくした時にはそんな事を思う事も出来ない状況になる。
「いくら子供が相手だからって油断はするなよ!フォーメーションはいつもやつで囲むように戦うぞ!」
ちゃんとした指示を出している事から、前回とは違いチームプレイの練習をしっかりこなしているのが分かった。そして剣を鞘にしまったままにしているので、冷静な判断も出来ている。
本来なら人数が多い相手に囲まれる事は危険なので、避けるように動くものなのだ。しかし実力の差をハッキリと示したいゼロ達は、あえてカイを有利な状況にさせてあげる事にしたのだ。
カイ達の作戦はアッシュとオレンが斬り掛かり、少し遅れる形でカイが攻撃を行う。大概の魔物はそれでケリが着いていたのだろうが…
「そんな遅い攻撃で私を捉えれると思っているの?」
2人を囲って外から斬りかかっていたはずのアッシュは、攻撃した瞬間ゼロの姿が消え、背後を取られて短剣を首元に当てられていたのだ。
「……嘘だろ…さっきまでそこにいただろ……」
(あ、ファントムナイフまで使ってよ……ゼロは大人げないな…)
魔導具の効果でまるで幻を見ていたようにスッと消えてしまったゼロに、アッシュは動く事すら出来ずに武器を手放し降参した。
「アッシュ!?……お嬢ちゃん、少し痛いかもしれないが我慢してくれよ」
そう言いながらアッシュを助けに行く為にカナに剣を振り下ろしたのだが、その斬撃は左腕の篭手に難なく受け止められてしまった。
「ば、馬鹿な!」
その後何度が斬りかかったが、その全てを一歩も動いていないカナの篭手に止められてしまった。しかも鞘にしまっているとはいえ、2発目からは全力で斬りつけているのに、その篭手は傷一つ付く事がなかった。
その事に驚きを隠せないオレンだったが、それにはちゃんと秘密がある。カナは攻撃を受ける瞬間だけシャドーウォールで篭手を覆っていたのだ。
(あれがシャドーウォールの効果か…パッと見ただけでは篭手の性能が良いようにしか見えないな)
「……貴方に恨みはないの……邪魔だからどくの」
そう言ったカナは今度は傷付かないように手を魔法で保護し、オレンの武器を素手で掴んでそのまま放り投げてしまった。その事に呆気に取られてしまい、次は動きも止まっていたオレン本人も軽々と持ち上げられてアッシュの方に投げてしまった。
「ちょっと!、こっちに投げたら危ないでしょ!」
短剣をアッシュに当てていたゼロが、オレンが飛んできた事で慌てて避けてカナに文句を言う。もちろん避けたのはゼロだけだったので、アッシュはオレンとぶつかってしまい転がっている。
「……大丈夫、ゼロなら当たるはずがないの」
「それもそうだけど…まあいいわ、メインが残っているんだから、あまり待たせては失礼にあたるわよね」
「……そう、これからが本番なの」
そんな怖い笑顔のゼロと無表情のカナに見られたカイは、その恐怖から動くに動けなくなってしまった。
「ちょっと待てよ……何なんだよお前達は…ルナといいお前達といい、なんでそんな異常な奴等が集まるんだよ……」
「あんた……レディーに向かって異常な奴はないんじゃない?」
「……失礼な奴なの」
散々カイの事は雑魚扱いしておきながら、自分達の事を言われると怒るようで僕は少し呆れていた。
そして恐怖から単調になった剣による攻撃はカナによって素手で止められた。そのまま力の差からアッサリと武器を奪われてしまい、オレンと同じく遠くに放り投げられてしまった。
その後……そんな彼が抵抗出来る手段などあるはずもなく、2人にボコボコにされてしまったカイは只今土下座で反省中だ。
「もう一度言いいなさい!私達は何?」
「貴女達は素敵な大人の女性です。その事に気付けなかった僕の目が狂っていました。僕の言葉で不快な気持にさせてしまいすみませんでした」
(……ああ、これが家に帰った後の僕の姿なのかもしれないな……)
既に完全に心が折れてしまっているカイを見て、僕は近い将来の自分を見ているようで他人事には思えなかった…。
「……私達の名前を言ってみるの」
「はい、ゼロお姉様とカナお姉様です」
「あら?ルナが抜けてるわね…」
「すみませんでした!ルナお姉様です!」
少し低い声で呟くゼロの声にカイは慌てて謝ってしまった。
「私は別に……」
確かに年上ではあるが、自分の事をそう呼ばれるのは少し恥ずかしいようで、少し困った顔をしていた。
本来なら護衛対象であるカイの身を守る為に動かないといけないアッシュとオレンなのだが、ゼロ達が見た目通りの年齢ではないと知った。なので失礼な事を言ったのはこちらだと分かったので、謝罪は必要と判断したのだ。
ただ「護衛ならボコボコにされる前に動けよ!」、と話だけを聞いた人は思うだろうが、触れる事すら出来ないゼロと、剣で斬りつけても傷一つ負わせれない力持ちのカナ、それと夜の凶暴化している魔物が視界に入った瞬間に魔法の一撃で仕留めるルナ。そんなチームを怒らせて無傷では終わる事を望むのは不可能と判断し、死なない程度のダメージを受けた所で止めに入ったのだ。
その判断はこの場にいればベストと言えるほどのものだった。そのおかげでカイはまだ喋る事もでき、土下座での反省と言う行為で終わらせてもらえるのだ。
「カイ君、今後は女性に対して優しくしないといけませんよ。とりあえずポーションを置いていきますので、後で使ってくださいね」
「まったくルナはお人好しなんだから……まあいいわ、それよりさっさと下に行きましょう。早くしないと夜のミノタウロスを見逃しちゃうわ」
お人好しならここまでボコボコにする前に止めてくれよ、と言うカイの心の声が聞こえた気がしたが、それを言う気力は残っていないようだ。その代わり、ミノタウロスと言う単語を聞いたアッシュ達が驚いて聞き返してきた。
「ちょっと待ってくれ!いくらなんでもミノタウロスと戦うのは危険だ。それに今は凶暴化しているんだぞ?」
「分かってるわよ。ただ昼間の時との差を見てみたいじゃない。ここの魔物と一緒なら、動きが単調になる分だけ楽に倒せるかもしれないわ」
「差を見るって事は、お前はミノタウロスと戦った事があるのか?」
「正確には戦ったのはルナだけどね。あの時の私の装備は初心者用の短剣だけだったから、攻撃はかわせても刃が通らないから倒す手段がなかったのよ」
攻撃はかわせた。しかも短剣1つで防具無しの状態で、攻撃を受ける距離までは近づいて戦ったと言う事に声を失う。
「ま、今なら武器も新調してるし、ダメージも与えれるだろうから倒せると思うけどね」
「……私もいるから余裕なの」
「駄目ですよ。油断していい相手ではありませんので」
3人には恐怖とか緊張感はまったく見えなかった。それどころか余裕すら感じてしまうほどリラックスしていたのだ。
「ハハ、下層で戦える冒険者が相手なら俺達が敵う訳がないよな…」
「ああ、まさか少し前に新人だったのに、もう下層を行き来出来るようになってるなんてな。前も思ったが、天才っているもんなんだな…」
アッシュ達は普通に会話しているルナ達を見て、憧れに近い感情で眺めていた。
「さて、そろそろ行くわ。あんた達も無理はするんじゃないわよ」
そう言って先に進もうとしたのだが、
「君たちはチームなんだろ?ならその名を教えてくれないか。今後の目標として知っておきたいんだ」
そのオレンの言葉に3人の動きがビクッとして固まる。その様子を不思議そうに見ていると、
「私達のチーム名は秘密です!教える事は出来ません!では失礼します」
「そうね!先を急がないといけないわね!それじゃ」
「……さっさと行くの」
それだけを言って慌てて先に進んでしまった。そのまるで逃げるような動きに、残された者達は呆気に取られてしまい見ている事しか出来なかったのだ。
その後は寄り道はとらず順調に先に進み、苦手としていたストーンゴーレムもカナのおかげで楽に倒せるようになったので、既に中層では昼夜を問わず敵なしの状態だった。
そして夜の11階層に足を踏み入れる時を向かえる。




