27話 防具屋ココア
冒険者ギルドで姉であるアリサと別れ、新たなメンバーとチーム結成を済ませたルナ達は、新たな仲間カナの為に武器を買いに来た。
「グラムさん。店の調子はどうですか?」
「おお、ルナか。おかげで火事で燃える事無く、無事に営業する事が出来てるよ」
「それは良かったです。それで今日はこの子、カナちゃんの為の武器とゼロさんの短剣を買いに来たんです」
そう言ってカナを前に出し、グラムに紹介する。
「なんだ、前に買った短剣はもう駄目になったのか?で、その子にはどんな武器を装備するんだ?」
「私は前と同じ鋼の短剣で良いわ」
「カナちゃんには、出来るだけ大きなハンマーが欲しいです」
カナのスキルに重鎚術があると、僕はここに来るまで間に全員に話してある。なのでルナは迷う事はなかった。
「…また珍しい武器の才能を持っているんだな……まあ、一応店にも置いてあるし、少しは需要があるんだけどな」
そんな話をした後、3人はハンマーを置いてあるスペースに歩いて行った。
「カナちゃんはどれがいいですか?ここにある武器なら、どれでも振り回されずに使いこなせると思います。重量的には……」
この店でバイトをしていたルナは、ここに来るとどうしても店員みたいに話してしまうようで、カナにあれこれ説明し始めていく。
「……急に色々言われても困るの。……私はこんな武器を使った事がないから」
ルナの勢いに押され気味のカナは、困ったような顔をして待ったをかける。
「そうでしたか。なら手始めに、柄が長くて先端が小さいですが重量のある、このハンマーにしてみますか?」
そう言ってルナは1本のハンマーを持ってカナに渡す。
「……ん、持ちやすくてブレも少なさそう……これにするの」
その受け取ったハンマーを軽く片手で振ってみて、カナはその使いやすさが気にいったようだ。
鉄の重鎚 ・・・ ランク6 『鉄で出来たハンマー。先端は小さいが重量が非常に重い分、攻撃力は高く出来ている』
「そうですか、ではこれを買いましょう」
2人は軽々とハンマーを持ち上げていたので錯覚しがちだが、選んだ物は先端だけでも50kgはあり、結構な重量の為普通は振り回すのは大変なのだ。その証拠にルナ達が移動した後、他の客が興味を持ち、似たようなハンマーを持ち上げようとして失敗し、驚いていた。
「グラムさん会計をお願いします。それと明後日は朝から仕事をしに来ますので、よろしくお願いします」
「ああ、むしろこっちこそよろしくだ。裏口を開けておくから、表がまだ閉まっていたら裏から入って来てくれ」
会計を済ませ、次のバイトの日取りを確認したルナは店を出て防具屋に向う。
「失礼します。防具を見させてもらって構いませんか?」
僕達が来た店は、前に散歩している時に偶然見付けた少し寂れた防具屋だ。見た目は少し古臭く、メイン通りから外れている為に客の目にも止まらず入りも悪い。しかも……
「いらっしゃいませ。どうぞどうぞ、本日初めてのお客さん入店でーす」
ここの店主はお客が少なくても元気な声と笑顔で、見た目は子供にしか見えない子が出迎えてくれる。しかし彼女は聞いた話では人間とドワーフのハーフらしく、立派な成人女性なのだが見た目は子供のお手伝いに思われてしまうのだ。なので事情を知らない客は、子供だけで対応していると不安を感じてしまい、客足が遠のく原因になっていた。
そして今日はもう夕方付近の時間なのに、僕達が最初の客となっている。
「実はこの子に合う防具が欲しいんですけど……」
「この子に?………重そうな武器を軽々と持っているから、見た目通りの力ではなさそうね。なら攻撃の邪魔になりそうにないこの篭手とか、あっちにある胸当てぐらいが良いかもしれないわね。それでランクはどれくらいのにするの?」
自分もそうだからか、彼女は見た目だけで実力を測ったりはしなかった。カナが持っているハンマーから力を見抜き、相応しい防具を進めてくれる。この少ない会話だけでも、彼女が一流の店主だと判断出来たのだ。
「そうね。とりあえずは中層ぐらいで戦う人が使うランクでいいわ。出来ればストーンゴーレムやミノタウロスの攻撃を受けても壊れない程度の物が欲しいけど……」
実際にルナとゼロだけでも12階層までは行っているので、そこにカナが加わり全員の装備が強化されている今なら、もっと下層まで行けるとゼロは考えていた。しかし、
「ミ、ミノタウロスってあの迷宮の!?」
「そうよ?あいつの攻撃って結構重そうだから、前衛で戦って私みたいに攻撃を避けれないカナには、頑丈な防具が欲しいのよ」
店主は迷宮で現れる魔物の種類は知識として持っている。しかし大の大人の、しかも熟練の冒険者でもそうそうはたどり着けないはずの下層の魔物と、まるで少し厄介な相手程度に言うゼロの言葉を聞いて驚いてしまったのだ。
確かにカナの装備から、見た目と反する実力を持っているとは予想出来たが、流石に下層まで行けるとは少しも考えなかったのである。
「そう…なの……。あ!?言い忘れていたわ。私は<ココア>、今後ともよろしくね!」
この3人はかなりの大物だと見込んだココアは、お得意様になってもらうべく自己紹介を済ませる。相手が名乗った以上、ルナ達も順に自己紹介を済ませた。
「へー、貴女達はまだチームを組んだばっかりだったんだ。そしてカナは冒険者に成りたてと言う事ね。それで装備を集めてたんだね」
「ま、そう言う事よ。でもこの店の常連になるかどうかは、品揃えと対応で決めさせてもらうけどね」
ココアの狙いを読んでいたゼロは、馴れ合いでは防具を買わないと釘を刺しておいたのだ。
「ハハ、やっぱり分かっちゃったか。でもそれぐらい出来ないと今後大物になれないだろうからね。あとはこの店を見て決めてもらえばいいよ。一応ギルド公認の店だから、ランクでの割引も対応しているからそれも評価してね」
そう言ってココアは要望に合いそうな防具を取りに行く。
「最初は皮の胸当てぐらいと考えていたけど、話しに聞く限り予想以上に力が強そうだから金属の胸当てでも大丈夫よね。あと篭手もそれに合わせてみたわ」
そう言って持ってきたのは重厚感のある防具だった。デザインはシンプルだが、普通の武器で斬られても体にはまず届かないであろう安心感を感じる事が出来た。
「流石にミノタウロスの攻撃を何度も受ける事は出来ないと思うけど、今ある防具の中では最高に硬い物を用意したわ」
「最高って事は、これ以上の物はこの店では期待出来ないって事?」
「そう言われるとキツイけど、普段手に入る素材を使ってって意味で言えばそうなっちゃうわね」
ゼロの質問に痛い所を突かれたと感じたココアは、少し困った顔をして質問に答えた。
「つまり良い素材を見付けて持ってくれば防具に加工してくれる、って事でいいのかしら?」
「そう言う事!迷宮の魔物はその死と共に消えてしまうけど、ごく稀に死んでも残る部位がある時があるの。それらの部位は強い力を持っている事が多いから、それを防具にする事で高い防御力を得る事が出来るのよ」
この話をするココアは、ウットリした顔でまだ見ぬ素材を想像して何もない空間を見ている。
(なるほどね。ゲームで言うレアアイテムみたいな物がこの世界でも存在するって事か)
「という事はココアさんは、オーダーメイドの防具を作る事が出来るって事ですか?」
何か頼みたい事があるようでルナはそう質問した。
「そうね。依頼をしてもらえれば好きなデザインの物を作ったり、少し改造したり出来るわよ」
その答えを聞いてルナは一歩前に出て、背負っている大盾を外しココアに見せる。
「この盾の内側に道具を収納出来るようにして欲しいんです。この辺りの空間が、少し勿体ない気がしまして…」
確かにルナの大盾は少し丸みが掛かっているので、内側に多少の空間があった。そこに収納スペースがあれば便利だと考えていたのだ。僕はその発想を聞いて、ルナが収納上手な主婦に見えた。
「…なるほどね…確かに面白い発想だわ。それぐらいならすぐに出来るから、今日預けてもらえれば明日の朝までには完成させてあげれるけど、どうする?」
「是非お願いします」
可能と聞き、ルナは嬉しそうに装備していた大盾を持ち上げてココアに渡す。
「おぉっと!?………ルナも見た目と違って力持ちなのね……」
ルナが軽く持つものだから重さを錯覚していたココアは、危うく人の装備を落としてしまいそうになって、慌てた後に呆れていた。それでもこの盾を持ってきた人は2人がかりで運んでいたので、1人で持ち上げたココアもかなりの力持ちのようだ。
「とにかく今日1日預かるね。あと代金だけど、改造分は後払いにする?」
「いえ、一緒に払います」
「信用してくれてありがと。じゃあ、一番ランクの高い子のギルドカードを一度見せてね。専用の魔導具に通さないと、割引出来ないから」
防具を預けて更にお金も先に払ってくれると言う事は、持ち逃げされないと信用していると言うようなものなので、ココアは嬉しそうにお礼を言ってきたのだ。
しかし割引をしてもらう為にギルドカードを渡して魔導具に通した時、突然ココアの動きがピタッと止まってしまったのをゼロは見逃さなかった。
「どうしたの?何かカードに異常でもあった?」
その言葉でルナ達も何かあったのかとココアの方を見る。
「……いや…何でもないわ。ちょっとチーム名を見て驚いたけど、納得したから安心して」
ココアの視線がルナ達を見廻した後、少し微妙そうな表情で苦笑いをしながらそう言う。
「ちょっと待ってください!もしかしてチーム名が見えるんですか!?…なんで?自分のステータスが表示されている所にはチーム名は書かれていなかったのに」
ルナはチーム名がばれた事が不思議で動揺していた。しかもそれはゼロとカナも一緒だった。
「基本割引額はランクが高ければ大きくなるから、チーム内で一番高いランクが対象になるの。だから専用の魔導具に通して本当にチームなのかと、ランクを確認するのよ。だからその時にチーム名が分かるの………それで何で幼女達の集いなんて名前にしたの?」
「違うの!これは事故なの!1人の馬鹿のせいでこんな名前で登録されちゃっただけで、私達の意思はそこにないのよ!」
気拙そうなココアに、ゼロは力一杯否定したのだ。だがその態度に、ココアは更に疑問が深まったような表情を見せる。
「でも3人のチームよね?普通は本人以外が名前を登録する事は出来ないのよ」
「それを可能にする奴がいるのよ!そいつには後で制裁を加える事を決めているけど、出来れば広めたくない名前なの」
そのゼロの言葉に、ルナとカナは何も言わずただ頷いている。
(え!?僕って後で制裁を加えられるの?ちょっと何でルナのカナも否定してくれないの?このメンバーにピッタリの名前じゃん!たぶんチーム名を聞いただけで、ルナ達を始めて見た人も分かる素晴らしい名前じゃないか!)
「…でもチーム名が知られるなら、今後ギルドカードでの割引は使えないわね…」
「そうですね…最低1年は名前を変えれないって話ですし、それまでは我慢ですね…」
「……幼女と呼ばれるぐらいなら我慢するの」
この時…3人の中で今後の割引を諦めた瞬間だった。
「ま、まあ、私は知っちゃったし、防具を買う時はここに来てくれれば大丈夫よ」
「…確かにそうね……なんか弱みを握られた気もするけど、オーダーメイド件も今の所高評価だからまた来るわ」
そうしてカナの装備分とルナの大盾の改造分のお金を払って店を後にする。
「さてと、これからどうします?」
元々予定していた事を終わらせた事で、やる事が無くなってしまったルナは意見を聞こうと話しかけた。
「……私、迷宮に行ってみたいの」
「これからだと少ししか潜れませんが…」
今は既に夕方なので、夜になるまでには余裕があまりなかったのだ。
「そうだ!どうせなら夜の迷宮を経験してみるのも良いかもしれないわよ。ほら、カレンの兄さんが凶暴化した魔物と戦って訓練をしているって言ってたし」
「そう言えばそんな事を言っていましたね。ではせっかくですし、カナちゃんの武器の慣らしと、夜の魔物との戦闘を経験しに行きましょう」
「……楽しみなの」
目的が決まった事で、3人は楽しそうに迷宮に向かう事にした。




