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23話 螺旋の黒弾



 ルナに死霊術を使った時のように、カナミティーの体が黒い光に覆われて吸い込まれるように消える。全身の色が灰色になってひび割れを起こし始めていた体は元の艶のある肌に戻り、刺されたはずの怪我も治っていく。

 そして先程の状態が嘘と思えるような完全な状態で、今は目を覚ますのを静かに待つ。



「……んん………あれ?ここが死後の世界なの?」



 カナミティーは視界に入って来た死ぬ前と同じ青空を見て、不思議そうに呟いた。



「いいや。ここはまだ生きる者の世界だよ。おはよう、カナミティー」



 そう言って僕は寝ていた彼女の肩を優しく触れてあげる。



「……どうしてなの?私は奴隷紋に死の指示を受けたはずなのに…」



 自分は死の運命が約束されたはずだったのに生きる者の世界と言われ、周りをキョロキョロ確認しながら戸惑っていた。



「君は一度死んだんだ。だけど僕がスキルを使って君を生き返らせたんだよ。ただ……」



 僕は今後のリスクのなど、説明しないといけない事を全てを話した。その信じられない話をキョトンとした表情で聞き入り、その内容にカナミティーは驚きながらも全てを理解してくれたようだ。



「……つまり貴方が次の私のご主人様なのね」



 結局は主が変わっただけ。そう思ったカナミティーの目には覇気を感じられない。



「そんな風に思わなくて良いよ。ただ僕から長い時間離れれなくなったから、付き添ってもらう事になるけどね」


「……わかったの、ご主人様」


「ご主人様と呼ぶのもやめてくれ。僕は君のご主人様になるつもりはない。この呪いを解ける魔導具が見つかるまでは近くに居てもらう事になるけど……それ以外は君の自由だ。もう誰にも縛られる事無く、君の意思で自由に行動してくれて構わない」


「……自由…」



 そんな事を言う僕の方を見て、変化の少ない表情で驚いている。自分の命を握っておきながら、何も強要しないで自由を与えるという言葉をすぐに信じられなかったのだ。

 今までの主は皆自分を人として見てくれる事はなく、いつでも上から目線で気にいらなくなると別の誰かに売られる人生を過ごして来た。そんな彼女には僕が未知の生き物に見えたのかもしれない。



「そう自由だ。……ほんとはルナと一緒のチームに入ってほしいけど、もう戦うのが嫌ならそれも構わないよ」


「……貴方みたいな魔族がいるなんてビックリしたの………それで私は貴方の事はなんて呼べばいいの?」


「僕の名前は矢矧 颯。ヤハギでもハヤテでも好きに呼べばいいさ」



 そう僕が言うと少し考える素振りを見せる。そのタイミングでルナが魔法を放ちながらこっちに合流した。



「カナミティーちゃん、良かったで…」


「……なら、アナタ、って呼ぶの」


「ちょ!?このタイミングでそんな呼び方を選ぶ!」



 ルナが無事を喜んで声を掛けてる時、カナミティーがそう呼んだのを聞いて表情が固まる。その状態でも魔法を放つのをやめないのは凄いと思ったが、その表情に僕もプレッシャーを感じた。



「今の呼び方にはいささか気になる感じがしましたが……その呼び方の理由を教えてください」


「……妻が夫の事を呼ぶ時にはアナタと呼ぶの。彼は凄い力を持ってる……なので私は彼との子供を産みたいと思ったの。だから彼と結婚するの」



 その瞬間、青空なのに雷が落ちた気がした。



「ハヤテさんの妻は私です!いくらカナミティーちゃんが自由になったと言っても、これだけは譲る事が出来ません!」



 少々気になる事を言っている気がするが、ルナが必死の表情で訴える。



「……そうなの?なら私は愛人でも妾でも何でもいいの。でも彼との子供は欲しいの。強い男を求めるのは女なら当然の事なの」


「ならいいです。正妻の座だけは誰にも渡しません!」


「いいのかよ!?それより何なんだよ2人共。僕の姿を見て、何でそんな風に考えれるんだよ!」



 突然の言い争いが始まったと思ったら、急に終結してしまい。しかも本気かどうかは別として、重婚OKって軽く言える事から、別にこの世界では不思議な事ではないようだ。



「ハヤテさんの見た目ですか?とても可愛くて、行動は男らしくて優しいです」


「……その感想は私も同意するの。愛くるしい見た目と強さ。私の好みに合致したの」



 どうやら2人共同じような感覚の持ち主だったようだ。しかもべた褒めしてくれるものだから、僕は照れるしか出来なくなった。

 そして僕の呼び方はハヤテにしてもらう。



「それよりカナミティー、今は…」



 今はまだ戦闘中。なので今は安全な場所に避難してもらう事を伝えようとすると、カナミティーの小さくて白く可愛い指が僕の唇に押し当てられ、続きの言葉を遮る。



「……私の事は<カナ>って呼ぶの。夫婦なら愛称で呼んで欲しいの」



 僕はカナのその仕草にドキッとした。



「…とりあえず呼び方は了解したよ。カナ」



 出来るだけ冷静そうにしてそう愛称で呼ぶと、カナは表情を変えずに少しだけ赤くなる。どうやら自分で頼んだが、嬉しさと照れが混ざったような感情になっているようだ。



「うー、私の名前は短いから変える事が出来ません……」



 今はそんな事を言っている状況ではないが、ルナは愛称で呼ばれるカナを羨ましそうにしていた。



「……それでハヤテはルナ達と一緒に戦うの?」


「僕は君も含めて死霊術の呪いを解く魔導具を探さないといけない。だから今後も僕は戦う」



 さっきまでのルナとの会話とは違い、カナは真剣な表情で僕に問いかけて来る。なので僕もしっかりと目を合わせて話す。



「……なら私も戦うの。……夫の手伝いをするのは妻なら当然なの」


「そうですよね!私もそう思います!」



 そんなカナの言葉に、ルナも微笑みながら共感する。



「……妻の話は置いとくとして、カナ、本当にいいんだね?」


「……私の気持ちは固まっているの」


「カナ…ありがとう」



 僕はカナに頭を下げてお礼を言う。


 しかしそんな会話をしていた事で、魔物が攻撃の隙をついて僕達の方に走り寄って来た。

 その事にすぐに気が付いたが、勢いに乗った硬い魔物の動きをルナの水弾でも止める事は出来ず、厳しいと思いながらも受けとめる覚悟で僕が前に出る。



「……夫に攻撃するのは許さないの」



 そう言って立ち上がったカナは右手を前に出す。すると魔物の目の前に黒い壁が現れ、激しい衝撃音と共にその進行を止めた。



「今のは?」


「……私の闇魔法……硬化させた壁を出す魔法なの」



 僕が「助かったよ」と微笑んで振り向くと、カナは嬉しそうに頬を赤く染める。


 その後、僕はルナに卵から生まれた魔物との戦闘の状況を簡単に説明したもらう。絶えず攻撃をしているので、動きを制限させて割と安全に戦えているのだが、その硬い甲羅によって決定打が出ないで困っていた。



「ならば……」



 僕は1つの打開策を思い付く。カナの魔法は堅い魔物の体当たりにも耐えれる強度があった。

 なので2人に伝えるその方法とは、ルナのアクアライフルとカナの闇魔法を合わせて、硬く破壊力のある黒い弾丸を放つ作戦だ。



「……他人の魔法と混ぜるのは不可能なの」



 カナも魔法使いなので、他人の魔力と合わせる事の危険性を知っているようだ。



「大丈夫です。私もカナちゃんと一緒でハヤテさんの魔力で生き返っています。なので私達3人の魔力の質は、完全に一致しているはずです。……感じませんか?」



 そう言ってルナは手を握って少し魔力を流す。その感覚に驚いていた。ルナから流れて来る魔力に、カナはまったく違和感を感じず受け入れる事が出来た。そして僕が説明した合体魔法が可能だと理解する。



「……私達は魔力の相性もバッチリになったの。……これなら子供も期待できるの」


「その話は後にして。今はあの魔物をどうにかしないと。…ゼロ!いまからルナとカナで、合体魔法を使う。その間、そいつを足止めするぞ」



 僕はカナの話を切って、攻撃を再開したゼロの下に駆け寄る。この魔物は自分にダメージを与えれる者にしか注意が向かない。生まれたばかりなので、本能に従って行動をするだけなのだろう。

 なので僕に対しては完全に無視されている。そんな状況はチャンス以外の何物でもない。完全無視をいい事にゴーストハンドを使って魔物の肩に登り、魔重石で押し潰す。



「2人共準備はいいかい?」



 前にミノタウロスを倒した時と同じぐらいの重量を掛けているが、この魔物は苦しむだけで魔重石の重さに何とか耐えている。これで倒せればと少し考えていたが、それが不可能と判明したので2人の魔法に任せる事にしたのだ。



「大丈夫です。いつでも行けます」


「……任せるの」



 2人は1つの杖を握って、魔物の方に向けて構えている。



「それじゃあ……あとは任せた!」



 そう言って僕は魔重石を軽くして回収する。今まで拘束された物が無くなったので、すぐに立ち上がり敵を探す。だがルナ達を見付けた瞬間、その短い命は終わりを告げる。



「行きます!」


「……行くの」



 2人は目でも合図し、息を合わせて魔法を放つ。



「「 螺旋の黒弾! 」」



 杖から放たれる黒色の弾丸。その弾丸に気付いた魔物は避けれないと判断しハサミで防ごうとするが、手首ごと粉砕して進み胸に当たったる。それでもその弾丸の勢いは止まらず、体を覆う甲羅をも砕いて貫いた。


 そしてその立ち姿のまま絶命して、砕けるように灰になり消えてしまう。





「やっと終わったわね。……参ったわ、見てよこの短剣の刃。ボロボロで使い物にならないわよ…」



 その短剣の消耗具合から、ゼロに多大な負担を掛けてしまったと感じた。



「ごめんな。危険な事を押し付けて……。大丈夫だったか?怪我はないか?」



 すぐに僕はゼロの体に怪我がないかを見る。



「ちょ!?そんなに心配しなくて、私は怪我の1つもないわよ」


「本当か?痩せ我慢しなくても良いんだぞ」


「……あんた…ルナとカナの死を見て、心配性になり過ぎてない?」



 僕の少し異常と思われる心配のしようを見て、ゼロが逆に心配するような表情で僕を見て来る。



「そう……かも。でも、ゼロの事も大切だから心配なんだよ」



 僕がそう言うと、ゼロは一気に顔を赤くする。



「た、大切って……私はあんたに恨まれていてもおかしくないのよ?」


「確かにそうだけど…謝ってくれたし、人間になる魔導具探しも協力してくれてるから、もう僕はゼロも大切な仲間だと思っているよ。だから君にも死ぬような怪我をしないで欲しいんだ…」



 ゼロの言う通り僕は仲間の死に臆病になっているのかもしれない。その事を言われて僕は素直に納得してしまう。だが、だからと言ってこの気持ちを抑える事は出来そうにない。僕は表情を暗くして考え込んでしまう。



「あんたの気持ちは嬉しいわ。でも皆あんたに守られるだけでは納得しない。あんたが守りたいと思うと同じぐらい、皆もあんたを守りたいの。だから一緒に強くなっていけばいいのよ。自分でもそう言ってたでしょ」



 そんな僕を優しく抱き絞めてゼロは励ましてくれる。いつもの強気なゼロとは違い、この雰囲気を見せられたら女神と納得してしまうほどの包容力を感じ、僕の心がスーと楽になっていくのが分かった。 



「……ゼロさん…やっぱり貴女もハヤテさんの魅力に気付いていたのですね」


「……私は妾1号?2号?」



 僕を抱き締めて優しい微笑みを見せているゼロを見て、ルナはやっぱりという顔をし、カナは自分の立場がどこなのかを問いかける。



「そんなんじゃないわ!わ、私はこんなのに何にも感じたりしないわよ!」



 その2人の言葉を聞いた途端、ゼロは僕を放り投げて、手を顔の横で左右に激しく振って否定する。



「…そんなに顔を赤くする所を見ると……」


「……私は2号でも構わないの」


「だから違うって!!!」



 ここからゼロの弁解タイムの始まりだったが、それは僕が強制的に止める。


「なんかゼロが困っているから、これ以上その話はやめよう。それでカナに

今後の事で1つ気をつけてほしい事があるんだ。

 カナは見た目が人間と変わらないから普通に町で生活が出来ると思うけど、僕はこの見た目から人前では動かないし言葉も話さない。だからカナもそのつもりで、ここにいる人以外の前では僕に話しかけないようにしてほしい」



 これから先行動を共にする以上、最低限の事だけでも伝えておかないと困る事になるのは明白なので、僕の事を秘密にしてもらう事にした。



「……分かったの。町に着いたら気をつけるの。………それより、町が酷い事になっているけど…いいの?」



 カナの言葉を聞き、思い出したように町の方を見ると火の手が酷くなっており、このままほかっておいたら町が焼け野原になってしまうかもしれないほどだった。



「大変だ!アラド達が魔物の退治を手こずっているのかもしれない。急いで町に戻ろう!」



 僕達は急いで町に戻って行く。







 町に入るとそこは地獄絵図だった。この町の建物は木造作りなので、火の回りがとても早い。

 人々はそんな火の手から逃れる為に逃げまどい、恐怖が恐怖を呼ぶようにそこら中から悲鳴が響き渡っていた。茫然と我が家が燃えているのを見てる者、親に何かあったのか虚ろな目で座り込んでいる子供、1人で火を消す事が出来ずに必死で周りに助けを求める者、そんな者達に周りから降り注ぐ火の粉と熱が更に苦しめる。



「酷い……民家についた火の消火がまったく追い付いていない。このまま消火が出来ずに時間が経ってしまうと、その内火災旋風が起こり今以上の被害が出てしまうかもしれないぞ!」



 ルナも身近な燃えている民家に向かって水の魔法を使って消火に当たっているが、とてもじゃないが間に合いそうもなかった。



「このペースで消火をしていては間に合いません……いったいどうすれば……」



 ゼロとカナは逃げ遅れた人がいないか、一軒一軒確認して回っている。しかしこのままでは被害の拡大を抑える事は出来ないと気付いており、悔しそうな顔をしていたが決して動きは止めない。



「……暑い…どうせなら雨でも降ってほしいの」



 ゼロと一緒に一生懸命に動いているのは分かるが、そのやる気の感じられない顔をしたカナがポツリと願望をこぼす。



「!?。それよ!!!」


「え?」



 そのカナの言葉で解決策を思い付いたゼロは、急いでルナの下に駆け寄ってきた。



「ルナ、よく聞きなさい!今から急いで被害の中心付近で空が見える場所に行きなさい!そこで上空に巨大な水弾を連続で放ち、上空でぶつける事で水を拡散させるの。上手く行けば雨が降ったようになるはずだから、今の消火活動よりは効果が期待出来るわ!」


「それは良い考えだ。この感じから見て火事の中心は、グラムの武器屋らへんっぽいから急ごう!」


「分かりました!」



 ゼロの名案に全員が希望を持ち、急いでグラムの所に走って行く。その時、ルナとゼロのスピードに何とかカナも着いて来ている事から、彼女の身体能力も強化されている事が分かった。



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