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21話 希望と絶望

 今回から少々1話1話が短くなります。




 魔物と戦う決意をして町を出て待ち構えていると、リリーナを先頭にした魔物の集団が僕達の目の前まで来てその進軍を止めた。



「さっきは油断していたとは言え、よくもやってくれたわね。この落し前はあんた等の命で償ってもらうよ!」



 どうやら先程のダメージは既に回復しているようで、ゼロに斬られた傷とルナの魔法によるダメージはすっかりと消えていた。その代わりと言っていいのか、カナミティーの頬が赤く腫れている。



「そっちの子の顔の怪我はどうしたんだ?」



 その事に気がついたアラドは、やや強い口調で問いかけた。



「あん!?そんなの罰に決まっているでしょ?こいつがしっかりとお前達を足止めしてれば、私は怪我を負う事もなく作戦は上手く行ったんだからね」


「……………」



 そんな理不尽な事を言われても何も言い返さないカナミティーを見て、ルナは悲しそうな表情で2人の関係を理解した。



(前に彼女が言っていた、死ぬ命令も出来る主人と奴隷の関係か……)


「…カナミティーはなぜそうまでされて、リリーナと共に行動するんだ?嫌なら嫌とハッキリ言わなと、いつまでもその連鎖は続くぞ」



 相手に同情したのは僕達だけではなく、アラドもまた、カナミティーがそんなに悪い子ではないと思ったようだ。



「ハハ、馬鹿ねー。これは私の奴隷だから従う物なのよ。つまり私がこれをどういう風に扱っても自由って事なの」



 そんなアラドの言葉にリリーナは笑いながら物扱いにしたのだ。その言葉を聞いたここにいる全員は、目に怒りの色を隠せないでいる。



「そんな奴の言う事なんて聞く必要はない!君は戦う事を嫌がっているようだから、こっちに来てケリが着くまで隠れているんだ!」


「フフフ、ほんと馬鹿ね。あんた達だけでこの集団に勝てると思っているの?それに……本当に魔物の群れをこれだけと考えているのかしら」


「どういう…事だ…」



 リリーナが何を言いたいか、なんとなくだが悪い予想が頭に浮かぶ。だが考えたくはない内容。唯でさえ人数が少ないこの状況で、これ以上対応しないといけない場所が増えるのは拙いのだ。



「魔物の群れはこれだけではないってことよ。…ほーら、町の方から悲鳴が聞こえてこない?」



 しかし事態はより悪い方向に動いてしまう。リリーナの言葉通り、町の方から先程までは聞こえなかった人々の悲鳴と、所々から煙が上がっているのが見えた。



「まさか本当に魔物が?…この群れまでも囮だったって言うの」



 この煙でウェルダーも魔物の攻撃に伏兵が潜んでいた事に気がつくだろう。しかし、ここから見るだけでも既に被害は広範囲に広がりを見せているので、たとえ部隊を割って町の中に入り込んだ魔物を討伐しようとしても、沈静化には相当の時間が掛かってしまうのは明らかだ。



「……仕方がないわね。アラド達は町に戻って入りこんだ魔物を倒しに行って!。それとアリサは屋敷に戻ってカレンの護衛につきなさい。…ここまで用意周到な奴だと、一度や二度の失敗を取り戻す策ぐらいは用意しているかもしれないわ」


「だがそれではここの守りは?今の話では君とルナちゃんだけになってしまうじゃないか!」


「私だってルナをこんな危険な状況に置いて行くなんて出来ないぞ!」



 そんなゼロの言葉に対してアラドとアリサが同時に駄目だと言って来る。しかしここにいる全員がゼロの言った事は理解出来たし、この魔族ならありえるとも思っていた。だからと言って2人だけにこの魔物の群れを任せる事は、ルナ達の死を容易に想像させるのに十分な状況だった。



「皆さん落ち着いてください。現に今、町は魔物に襲われています。冒険者の方々もいるでしょうけど、そのほとんどはウェルダーさんの依頼を受けて、町の外で魔物と戦闘中だと思います。つまり、いち早く気がついた私達が動かないと被害は拡大し続けてしまい、取り返しのつかない状況まで追い込まれるかもしれません。

 それとゼロさんが言ったように、カレンちゃんを人質にでも取られたら私達はもちろん、ウェルダーさんの方も戦う事すら出来なくなってしまいます。

 ですのでここは私達が時間を稼ぎますので、お姉ちゃん達は急いで町に戻ってください。それに私もゼロさんも死ぬまで戦う事はしません。あくまで時間を稼ぐのが目的ですので、徐々に町に逃げるように戦いますから安心してください」



 ルナは皆を落ち着かせる為に、不安を感じさせない笑顔であえてゆっくり話した。その効果かアラドは渋々だが納得してくれたようだが、アリサはそうはいかなかった。



「だが………」


「大丈夫よ。私が前衛、ルナが後衛。迷宮でもこのフォーメーションで戦っていけたんだから、妹を信用してカレンを守りに行きなさい!」


「ルナ…大丈夫なんだな?無理はしないと約束出来るな?」



 それでも不安を拭えきれないアリサは、半分泣きそうな顔でルナに確認をとる。



「安心してください。絶対にお姉ちゃんの所に帰ってきますから」



 その笑顔を見て、アリサは信じる決意をした。



「全員納得したならさっさと町に戻りなさい!時間は待ってはくれないわよ!」



 ゼロの言葉でアラド達とアリサは町に向かって走り出した。



「絶対に無茶はするなよ!魔物を退治したら、すぐにでも戻って来るからな!」


「カレンは絶対に私が守るから、ルナ達は自分の命を大切にして戦うんだぞ!」



 それぞれがルナ達にエールを送りながら走って行く。その様子を見ていたカナミティーが「羨ましい…」と呟いた声が耳に届く。



「フフ、生贄はあんた達2人って訳ね。でもいいの?あいつ等はきっと戻って来ないわよ。誰だって自分の命は大事だから、他人のあんた達の為に命を張ってまで助けに来る人間はいないわ。つまり、あんた達は騙されて囮にされたのよ。フフフ、いい気味ね」



 そう言ってリリーナはクスクスと笑っている。しかしそんな言葉に動揺する2人ではなかった。



「ほんとあんたは馬鹿ね…確かにアラド達が戻って来る必要はないわ。だって……」


「私達は生贄にも囮にもなるつもりも、なる必要もありません。なぜなら……」



 2人はお互いを見て目で合図を送っていた。その意味を分かっている2人は頷いて合図を返した。



「あんた達はここで私達に敗れて全滅するんだからね!」

「あなた達はここで私達に破れて全滅するのですから!」



 その言葉合図になり、ゼロは右前方の魔物を目がけて駆けだしていった。そしてルナも杖を左前方に向けて魔法を放ち始める。


 ルナが放っている魔法は、カレンの教育係になる為に出されたテストで使った物と、練習で見せた物を混ぜた物だ。僕が杖に魔力を送ってルナが魔法を発動させる連携魔法で、放たれているのはアクアスラッシャーである。

 しかもテストの時とは違い、ちゃんとした杖を装備しているので、魔法の威力と連射速度がかなり上がっていた。



「何なんなのよ、その魔法は!?なんでそんなに連続で魔法が放てるのよ!」



 リリーナが驚くのも無理はない。ルナが連続で放っているのはアクアスラッシャーは、水を薄く円盤状に伸ばして高速回転させた切断魔法だ。ただでさえ一発で複数の魔物を倒してしまうのに、それが連射で放たれる。その貫通力と連射で、魔物はルナに近づく事はもちろん出来ず、むしろ向かって来ているはずの魔物の群れとの距離がどんどん開いて行くのだ。



「あら?やっぱり雑魚は群がっても雑魚のようね。せめてストーンゴーレムの群れを連れて来てれば話は変わったんだろうけど、あんたの実力を考えると到底無理でしょうね」



 そう言いながらゼロは魔物の群れの中を縦横無尽に駆けまわっている。そんなゼロのが駆け抜けた後には綺麗な道が出来ており、通り過ぎる際、その両手に持った短剣で全てなぎ倒している証拠でもあった。


 もちろん魔物の群れが最初の勢いのままで向かって来てれば、流石のゼロでも単身で突っ込む事は出来なかっただろう。だが戦力的に余裕だろうと考えたリリーナの油断とも言える部隊の停止で、戦いは決着が着いたとも言える。


 ゼロの言った通り魔物の数は多いが質は決して高くない。最前列にゴブリンがいるのは一緒で、少し後ろの方に見た事もない動物型の魔物がいたのだが、その強さは精々シャドーデビルと同じぐらいの強さだったので、2人にとって雑魚としか言えない魔物だったのだ。



「あいつもなんなのよ!なんでそんなに平気な顔をして魔物の群れに突っ込んで来れるのよ?」



 リリーナの動揺はかなり大きくなっていた。何しろ数百はいた魔物が次々と倒されているのに、平気な顔をして変わらず魔法をバンバン放っているルナのMPは、一向に切れる様子が見えない。そしてゼロには踊るように攻撃をかわされて、一撃も攻撃を当てる事が出来ずに自由に駆けまわられていたのだ。



「私ってこういうゲームが好きだったのよね。確か無双ゲーだったかしら?」



 戦闘中にも関わらず、ゼロは普通に話をしてくる。



「女神のくせに、人間のゲームにハマるな!まったく……そんなんでちゃんと仕事はしてたのかよ…」



 僕は聞かれて困る相手がいないので、ゼロの言葉に突っ込みを入れる。



「失礼ね!女神の仕事は人間を見守る事よ。ちゃんとゲームをしながら横目で見てたわよ!」


「そんなんでちゃんと仕事をしていると言えるかーーー!!!」



 そんな僕のツッコミが聞こえたリリーナ達は、突然喋り出したぬいぐるみの僕を見て驚いていた。



「な、なんなんのよ、それは!?」


「……あれ?まさか同族?」



 どうやらカナミティーには僕が魔族だと分かったみたいだ。やる気のない顔をしている割には、洞察力は結構な物を持っているようだ。



「同族って……あれが魔族!?……あんな不細工なぬいぐるみが魔族とは信じれないわ」


「……でも可愛いの…」



 その呟きが聞こえたルナは、同レベルの趣味の持ち主に出会えた喜びよりも、女の感とも言える未来予知にも匹敵する能力である予感が走る。



「あんたが魔族って言うなら何で人間と仲良くしてるのよ!魔族は人間を苦しめて強くなる生き物じゃない!そんな魔族のあんたが何で強さを求めないのよ!」



 可愛いと言ったカナミティーの呟きが聞こえないほど動揺していたリリーナは、僕に向かって怒鳴ってきた。



「そんな事を言われたって僕は人間を怨んでいないし、他人を蹴落として強くなろうとも考えていないからね。だから種族が魔族だからって、人を襲う気はこれっぽっちもないよ」


「私は襲ってもらって構いませんが……」



 サラリと聞こえたルナの言葉は無視して、僕は話を続ける。



「それにそんな事をして1人だけ強くなるより、ルナやゼロと共に強くなる方が楽しいし、嬉しい気持ちになれるんだよ」


「……そういう関係…ちょっと羨ましいの…」


「っ!?あんたは黙ってなさい!それよりあのちょこまか動くガキに闇魔法で霧を掛けなさい!」



 少し呟いたカナミティーの言葉が聞こえて癇に障ったようで、振り向きざまに頬を殴り、ゼロに向かって黒い霧を出せと命令していた。



「……今シャドーミストを使うと、周りの魔物も視界が潰されるから意味がないの」


「ならあっちの魔法を放っている奴にでもいいわ!」


「……それも意味がないの。……魔物が近づけないほどの弾膜を張っているから、前が見えないからって魔法を止める必要はないの」


「たく、使えない物を持って来ちゃったわね!もういいわ。魔法が駄目なら武器を持って突っ込んで行きなさい!」



 見た目はとても前衛職には思えないカナミティーに向かって、魔法が使えないから前衛に行けと言う。それはつまり、死んでこいと言う事と同義なのだ。

 その間にも魔物はどんどん数を減らしていき、既にその数は百体を切っている。その事態に気付いた事で、既にパニック一歩手前と言えるほど余裕がなくなっていた。



「……あの子達と戦うのは嫌なの。……素直に謝って帰る方がいい…」



 そこにカナミティーの本音とも言えるその言葉を聞いたリリーナの動きが一瞬で止まる。そして見ていた者が「プチッ」っという音が聞こえる気がするほど、その顔は豹変し怒気に塗れていた。

 ……が、次の瞬間リリーナの表情は何故か落ち着きを取り戻す。



「そう……あんたはあいつ等の所に行きたいのね。いいわよ、向こうに行って」


「え!?」



 その言葉聞き、信じられないものを見るようにカナミティーは驚いていた。



「だからあいつ等の所に行って良いと言ったのよ。あんた達もそれで満足なんでしょ?」



 既にリリーナが連れてきた魔物の数は数えるほどしかおらず、ルナやゼロもリリーナ達の方を見て驚いている。



「つまりカナミティーちゃんを自由にしてくれて、貴方は魔物を連れて引き下がってくれるのですね」


「ええそうよ。これは自由にしてあげるわ」


「……私が…自由に?」


「ほら、さっさと向こうに行きなさい」



 そう言ってリリーナはルナ達の方に指を指し、早く行くように促す。



「……ありがとうなの、リリーナ。貴女も元気で…」


「良かったですね。カナミティーちゃん」



 ルナも嬉しそうにする彼女を見て喜んだ。そしてカナミティーが僕達の方に振り向いて歩き始める。



「ええ、……これであんたは自由よ」



 そんな彼女の背中を見て、リリーナは口端を上げてその言葉を伝える。……そして突然、腰に装備していた剣を抜き、カナミティーの背中から胸を一突きにしてしまう。


 嬉しそうな表情のカナミティーの胸から生えた剣を見て、僕達は何が起こったか理解できないでいた…。


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